(2020.8.6 Crux ROME BUREAU CHIEF Inés San Martín)
Pope Francis and Father Daniel Portillo of CEPROME. (Credit: screen caption.)
アルゼンチン・ロサリオ発ー教皇フランシスコは、8月下旬に出版予定の中南米諸国やアイルランドの神学者や司祭、信徒たちの論考をまとめた「教会における性的虐待に関する神学と防止、研究(Theology and Prevention, Studies on Sexual Abuses in the Church)」(メキシコの出版社 SalTerrae刊)に巻頭言を寄せた。
注目されるのは、教皇が従来から深く認識するよう指摘されている「聖職者による性的虐待と戦う明白な諸理由、性的虐待が被害者たちに与えたあらゆる損傷」に加えて、「性的虐待を防ぐ努力が、全ての命は神聖で、尊敬に値するものだということを、より深く認識するように促す」という新たな視点を加えられたことだ。
巻頭言で教皇はまず、「性的虐待と戦うことは、諸共同体を育成し、力を持たせ、それによって見張りを続け、『全ての命、とくに自分たちの声を聞いてもらう手立てのない、最も無防備な人たちに尊敬され、大事にされる価値がある』と知らせることを可能にします」と語られた。
そして、「私たちには課題が突き付けられています-この問題を直視し、それを取り上げ、被害者、家族、そして共同体全体と共に苦しみ、『虐待の文化』に二度と戻りません、と私たちが約束する方法を見つけるーという課題です… この現実は、私たちの共同体や一般社会におけるこうした問題の認識、防止、そして『ケアと保護の文化』の促進に取り組むことで、誰もが清廉さと尊厳を侵害されたり、酷く扱われないようにすることを、私たちに求めているのです」と強調された。
教皇は「神学の観点から、カトリック教会で起きている性的虐待のこの憎むべき悪を掘り下げるように勧めてくださった著者の皆さんの貢献に感謝します」と謝意を述べ、さらに 虐待を非難することは「必要」である、としたうえで、マタイの福音書の言葉を引用して、未成年保護の分野で働くように人々に呼びかけたー「まことに私はあなた方に言う。私の兄弟たちの最も小さな者にあなたがしたことは、私にしたことである」と。
教皇が巻頭言を載せられたこの本の編者は、メキシコ・カトリック大学の「未成年者保護のための学際的調査研究センター」(CEPROME)の創設者、ダニエル・ポルティージョ神父。ベネズエラ、ブラジル、チリ、アイルランド、コロンビア、メキシコの神学者による考察が含まれている。チリのサンドラ・アレナスは「非聖職主義化-教会における人権侵害の”解毒剤”」と題して論じている。
チリにおける聖職者による性的虐待の深刻さ-2018年以来、同国の全司教の3割が性的虐待か、その隠ぺいの責任を負い、教皇によって更迭されたーから、同国について一つの章が立てられているのは不思議なことではない。その章には、カルロス・シクエンダンツの「エリートのメンタリティーと構造的聖職者主義ーチリの事件からのいくつかの教会論的な教訓」も登場する。ベネズエラの神学者ラファエル・ルチア―二は位階制度の刷新が必ずしも教会の変革につながるとは限らない、と主張している。
コロンビアのボゴタ補佐司教で、教皇の未成年者保護委員会のメンバーであるルイス・マヌエル・アリエレーラは「司祭の独身制の”生態系”」について書いているが、登場する人々のほぼぼ全員が主張しているのは、性的虐待が引き起こした危機への対応は教会内部の変革だけでなく、その根源と衝撃をよりよく理解するための神学的な省察が必要、ということだ。
シクエンダンツは、昨年末にチリの教皇立大学の神学研究誌「Teologia y Vida (神学と命))に論文を掲載し、教会の神学・文化的モデルの制度的失敗と性的虐待危機の制度的要因について論じている。そこで彼は「未成年者に対する性的虐待は、現代におけるカトリック教会の最も重要な危機の1つ」とし、オーストラリアとドイツを中心にいくつかの報告を分析し、虐待の制度的側面、特にさまざまな議論で示されているように、教会における神学的改革に関する考察を集める形で、特に制度的な機能障害に教会が陥っていることを強調している。
(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)
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