☩「平和は私たち全員に課せられた責任」在バチカン外交官との新年の集いで

 また教皇は、ピオ12世教皇が1944年の降誕祭前夜のラジオメッセージで、5年以上続いた第二次世界大戦の後、「人類は、この世界大戦、この世界規模の動乱を、深い刷新のための新しい時代の出発点にしたい、確固たる意思をもって痛感している」と述べたことを振り返られ、「それから80年経った今、『深い刷新』への意欲は失われ、世界で増え続ける戦争は、『散発的な第三次世界大戦』と呼ばれているものを、正真正銘の世界規模の戦争に少しずつ変えようとしています」と警告された。

*イスラエルとパレスチナ

 教皇は具体的にまず、イスラエルとハマスの間で続いている戦闘を挙げ、そのきっかけとなった昨年10月7日のハマスによるイスラエル国民に対する攻撃を非難。「私は、この行為と、あらゆるテロリズムや過激主義による行為を改めて非難します。 これは民族間の紛争を解決する方法ではありません。紛争を悪化するだけであり、すべての人に苦しみをもたらします」と語られた。

 そして、現時点で既に2万2000人以上が犠牲となり、数百万人が負傷、避難民となっているガザの悲惨な状況つながったハマスの行為が「ガザでの、イスラエル軍の過激な反応を引き起こした」という事実を指摘。

 双方の戦闘の激化が 「多くの若者や子供を含む主に民間人である数万人のパレスチナ人の死につながり、極めて深刻な人道危機と想像を絶する苦しみを引き起こしてます」とされ、 即時停戦、人質の解放、パレスチナ人への人道援助のルート確保を、イスラエル、ハマス双方に強く求めた。

 また、教皇は、「イスラエルとパレスチナの二国家による解決」と「永続的な平和と安全を目指すエルサレム市の特別な地位の国際的保証」を支持することを改めて確認された。

*シリア、レバノン、ミャンマー  

 教皇は、現在のガザ紛争の影響を明らかに受けている中東地域全体の不安定化を強く懸念され、特に、「昨年2月の地震でさらに悪化した経済的・政治的状況の中で暮らすシリア国民、近隣諸国に今も存在する数百万人のシリア難民にとって深い苦痛」に目を向け、国際社会に対し、「シリア国民が経済制裁の結果としてもたらされている苦しみを、これ以上、続けなくてもいいように、建設的かつ真剣な対話を進め、解決策を見つける」よう、訴えられた。

 ミャンマーのロヒンギャの人々の窮状が続いている事にも言及され、「彼らが希望をもてるように、あらゆる努力が払う必要があります。ロヒンギャの人々が苦しみ続けている人道的緊急事態を無視せず、若者たちに尊厳ある未来を示すことが求められています」と訴えられた。

*ロシアとウクライナ、アルメニアとアゼルバイジャン

 教皇は「”断片的”な第三次世界大戦が起きている、という自身の見方を繰り返され、「多数の犠牲者と大規模な破壊」をもたらした約2年に及ぶロシアによるウクライナに対する大規模軍事侵攻と、アルメニアとアゼルバイジャンの南コーカサス地域での紛争を思い起こされ、「国際法と宗教の多様性を尊重して交渉を進めること」を関係当事国などに、改めて強く求められた。

アフリカ

また、テロ、政情不安、気候変動の影響など、サハラ以南アフリカの人道危機について言及された教皇は、 エチオピア北部のティグレ州における紛争に対処する協定の履行に真剣に取り組むよう呼び掛け、エチオピアや「アフリカの角」での緊張緩和に努めるようにも求められた。

 スーダンでの戦争とそれが何百万人もの避難民に及ぼす広範囲にわたる影響や、カメルーン、モザンビーク、コンゴ民主共和国、南スーダンの難民の窮状に対しても、緊急の対応の必要を指摘された。

*南米における課題

 教皇は、ベネズエラやガイアナなど南米数カ国間の深刻な緊張についても言及。ペルーやニカラグアなどの民主主義制度に影響を与える政治的二極化に懸念を表明され、 「ニカラグアは依然として憂慮すべき状況にあります。危機の長期化は、ニカラグア社会全体、特にカトリック教会にとって痛ましい結果をもたらしています」として、「カトリック教徒、そして国民全体の利益のための敬意を持った外交対話」を促すバチカンの取り組みを再確認された。

*今起きている戦争では、軍も民間も区別がなくなっている

 教皇は、戦争によって何百万人もの人々が苦しみ、ますます引き裂かれていく世界の鮮明な姿、統計の裏にある人間の顔を詳細に思い起こされながら、これは戦争犯罪であり、国際人道法違反だとして非難された。

 そして、「 現代の戦争は、もはや明確に定義された戦場だけで行われているわけではありません。軍事と民間の区別がもはや尊重されないと思われる現在の状況…  民間人が無差別に攻撃されることを、ウクライナとガザでの出来事が明確に証明しています」とも語られた。

*世界の安全保障に資源を投資し、持続可能な地球のための「世界基金」の創設を

 教皇はさらに「武器には抑止力はなく、むしろ使用を促進してしまっている」とされ、軍縮の必要性を強調。 「兵器に誤って使われている資源を、他に回すことで何人の命が救われるでしょうか? 人類は紛争の根本原因に取り組むべきです。真の世界の安全保障の実現に、それらの資源を投資するべきです」と改めて訴えられた。

「今世紀の始まりを特徴づけた食料、環境、経済、医療などのさまざまな危機からも分かるように、現代の課題は国境を越えています」と述べ、「最終的に飢餓をなくし、地球全体の持続可能な発展を促進するための『世界基金』を設立するという提案を繰り返したいとおもいます」と語られた。

*気候変動危機に緊急の対応が必要、COP28協定に期待

 また教皇は、世界的な環境危機、気候変動危機についても取り上げ、「ますます緊急な対応と、国際社会全体を含む全員の全面的な関与が求められています」とされ、昨年12月のドバイでの国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で採択された協定が「生態学的移行の決定的な加速」につながることへの期待を表明された。

*移民・難民への対応と”地中海危機”

 紛争や自然環境の悪化、経済危機などを背景に移民・難民が増え続け、受け入れ側から反発が起きるなど、特に地中海を超えて欧州に向かおうとする人々の悲劇が後を絶たないが、教皇はこのような現状に対して、「個人の権利と尊厳に敬意を払いながら移民・難民をコントロールするバランスの取れたアプローチ」を関係国に訴えた。

 そして、地中海を「移民・難民の眠る墓」ではなく、移民・難民が歓迎され、守られ、現地社会で共に生活できる「平和の実験室」とするような、視点の転換を求め、同様に、「人々が母国に留まる権利と、それに応じてこの権利を効果的に行使するための条件を整える必要」も指摘された。

*教育、人権、対話

 教皇はまた、新しいテクノロジーの倫理的使用の問題も取り上げ、「未来への投資の手段としての教育」の重要性をを指摘された。そして、技術開発が倫理的かつ責任あるものである必要性について語られ、人権の重要視すべきことを

強調された。

 また、 新たなテクノロジーが、世界の一部地域で「イデオロギー的な植民地化」と「死の文化」の蔓延につなる傾向について警告され、胎児をはじめとする生命の尊重を強調されるとともに、代理出産などの慣行を「人間の尊厳の侵害」として批判された。

 「人間の生命は、その存在のあらゆる瞬間に保護されねばなりません。 私は、特に西洋において、偽りの『同情』の名の下に子供、老人、病人を切り捨てる『死の文化』が広がり続けていることを残念に思っています」と語られた。

 なお、教皇は、平和の追求における重要な要素として対話、特に宗教間対話の役割を重視され、 「平和への道は、宗教間対話を通じても成り立ちます。それには何よりもまず、信教の自由の保護と少数派の尊重が必要です」とされるともに、「信教の自由に対する『集中管理のモデル』を、新テクノロジーの”活用”とともに採用する国が増えている」ことを警告された。

 そして、少数派の信仰共同体を尊重するよう呼び掛け、「場合によっては、テロ、文化遺産への攻撃、そして改宗禁止法の蔓延や宗教操作などのより微妙な措置の組み合わせにより、絶滅の危険にさらされることがあります」と警告された。また、あらゆる反ユダヤ主義行為と世界中で増大するキリスト教徒に対する差別的な行為を改めて非難された。

*2025年の聖年について

 講話の最後に教皇は、教会が来年のクリスマスに始まる聖年に向けて準備を進めていることについて語られ、 「今日、おそらくこれまで以上に、私たちには聖年が必要です。聖年は、神の慈悲と神の平和の賜物を体験できる恵みの季節です」と強調。

 

 私たちの社会全体に絶望感をもたらす苦しみの原因が数多く存在し、若者たちが困難を経験している中で、「彼らはより良い未来を夢見る代わりに、無力感や挫折感を感じることが多く、 なくなるどころか広がっているように見えるこの世界の暗闇の中で、「聖年は、神が決してご自分の民を見捨てず、常に神の王国への扉を開き続けているという宣言です」と訴えられた。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2024年1月9日