・神さまからの贈り物 ⑦「心臓がドキドキしてる!」

 カトリックの世界に馴染みのなかった私は「修道女は、物静かでおっとりしている」というステレオタイプな見方を持っていた。でも私が出会ったシスターYさんは、明るくパワフルで、お茶目な一面を見せてくれることもあった。

 彼女とは、今から約20年前に、カレン族の村で共に過ごした。心身ともに頑丈で、腕相撲勝負では男子大学生にも負けなかった彼女とは、長年、航空郵便で繋がっていた。

 海を越えて届く手紙には、色とりどりの切手が貼ってあり、手書きの文字で住所が書かれていた。彼女は、波乱万丈な毎日を送る私のことを『一番ちっちゃな妹』として、祈り続けてくれていた。

 今から数年前、私の心臓がいつもバクバクしていた時期があった。小さな物音にも敏感に怯え、悪夢を見て睡眠がとれなくなった。食も細くなり、外出すると涙が出る始末だった。

 「何かがおかしい」と思い、病院で診察してもらったところ、「PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状が出ていますね」と医師から言われた。自分には関係ない、と思っていた診断に、私はとても混乱した。事情を知ったシスターYが「日本に帰ったら飛んでいくわ!」と約束してくれた。

 シスターYが帰省のため日本に来られた翌日、彼女は本当に、私のところに、飛んできてくれた。見慣れた彼女の青色をしたベールがひらりと見えただけで、私は思わず、ほろりとしてしまった。シスターは大きく腕を広げ、満面の笑みでまっすぐ歩み寄り、ぎゅっと私を抱きしめた。

 彼女はこう言った。「ああ、よかった!麻衣ちゃんの心臓がドキドキしてる!生きてる!!」。気が付くと、私はシスターYにしがみついて、赤ちゃんみたいに泣いていた。

 ひとしきり泣いた後、私の中に今までとは違う考えが浮かんだ-私の心臓は、恐怖でバクバクしているのではなく、「生きたい!」と私に訴えるためにドキドキしていたのだ、と。それは、私が生きていることを心の底から喜んでくれる人が目の前にいたからこそ、気付けたことだった。

今年は2024年、幼い二十歳だった私も、あと少しで四十路に手が届く。中年の入り口にふさわしく、体はふくよかになり、一丁前に白髪も生えてきた。いまの私は、「心臓がバクバクしている」と思っていた頃の過去の私に、こんな言葉をかけてあげたい。

 「今の私は、将来の夢を描いてワクワクしているよ。だから、安心して未来に歩いておいで」と。

(東京教区信徒・三品麻衣)

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2024年1月31日