・”シノドスの道”に思う ⑧シノドスをドイツの視点から考える (その2)

 昨年10月の「シノドスの道に思う⑤ドイツの視点から(その1)」の続きです。

 「カトリックあい」の「シノドスの道」の欄でもドイツ・シノドス批判の記事が少なくとも二つ紹介されました。一つは、「シノドスの進め方がエリート主義的であり、全信徒を含んでいない」というもの。もう一つは、「シノドス委員会や2026年春までに設立しようとしている『シノドス評議会』はこれまでのカトリックの教会観を壊すものであり、カトリック教会の秘跡的構造と一致しないので承認しがたい」というものです。

 シノダリティ(共働性)を、どのように教会にもたらすのか(回復するのか)という点から見て、重要だと思われる経過を簡単に見ていきたいと思いますが、その前に、ドイツの司教協議会と共に”シノドスの道”を歩んでいる一般信徒の組織、「ドイツカトリック者中央委員会」(ZdK)について少し紹介したいと思います。

 

*ドイツ・カトリック者中央委員会(ZdK)について

 ZdKの活動は、①ドイツ社会と教会において、公的にカトリック者の関心事を代表する②教会とカトリック者の使徒的行動に示唆を与え、さまざまな働きをコーディネートする③教区レベルを超えて教会の行政的事柄の決定に参画し、また司教協議会に助言する④「ドイツ・カトリックの日」などのカトリック者のイベントなどを共に主張する⑤カトリック者の関心と働きを海外でも、また国際レベルでも行ない、発信する-などです。

 メンバーはおよそ230人、そのうち97人はドイツ・カトリック組合の作業チームから選ばれ、84人は各教区の信徒連合から約3名ずつ選ばれ、45人は個人として選ばれた人たちです。

 

*「シノドスの道」と司教協議会の関係

 ドイツ司教協議会とZdKは、2019年に承認・採択した「シノドスの道の規約」に基づいて4つのテーマで審議と決議をしてきました。この規約によると、シノドス集会で議案が審議されたあと、第11条で「ドイツ司教協議会の参加メンバーの3分の2以上を含む参加メンバーの3分の2以上の賛成で決議となる(議案の通過)」とあり、さらに「シノドス集会で可決した決議案は、それ自体としては法的効果を持っていない。法的効力を持つためには、司教協議会と個別教区司教の権威が法的規範を公布し、それぞれの権限の範囲内で教導権を行使することが必要である。」と定められています。

 「シノドス集会」が「シノドスの道」の最高議決機関ではありますが、実際には司教協議会と個別の司教の権威、権限の下にあるのです。

 

*「シノドスの道」は第2段階へ:シノドス委員会の設立

 批判され、問題とされているのは、主に、以下のことです。

 2022年9月にシノドス集会で採択された実行文書「シノダリティ(共働性)の持続可能な強化:ドイツのカトリック教会のためのシノドス評議会」によると、これまでの「シノドスの道」の歩みをさらにシノダル(共働的)なものにするための審議と決議の場となる「シノドス評議会を2026年3月までに立ち上げること、そしてその準備をする「シノドス委員会」を新たに作ること、となっています。委員会は27人の教区司教、同数のZdKのメンバー、そしてシノドス集会から選ばれた20名で構成されます。

 委員会の目的は、まず、シノドス評議会を2026年3月までに準備することですが、同時にこれまでのシノドス集会で決議されたことを実践していくこと、また諸団体との関係を深めながらシノダリティの概念の理解を深めることにあります。

 

*「シノドス評議会」とは 

 「シノドス評議会」とは、先の実行文書によると「助言し決議する団体として、教会と社会の大きな発展のために助言し、司牧計画や将来の展望、一司教区だけで決めることのできない経済的、財政的事柄の決断をすることにある。評議会の委員構成はシノドス集会のメンバーの比率に合わせ、決議した事案はシノドス集会と同じ法的効力を持つ」とあり、バチカンなどから出されている批判は、「この評議会が、司教協議会の権限を上回る機関になるのではないか」、それゆえ、「司教たちと一般信徒の<共同統治>を含むシノドス評議会モデルはカトリックの教会観と一致しない、カトリック教会の秘跡的構造と一致しない」というものです。

 

*シノドス委員会で決議はされたが・・・

 2023年3月のシノドス集会で、シノドス委員会を設立することが決まり、11月に第一回の設立集会がエッセンで開かれ、シノドス委員会の規約と議事進行規定が決議され、その後のZdK総会で圧倒的多数の賛成で、規約が採択されました。ただ、最終的に効力を持つには司教協議会総会の決議が必要なため、2月にアウクスブルクで開かれる総会がどのような展開となるか注目されています。

 

*“一致”の乱れ、委員会の合法性、運営資金などの問題

 総会で問題とされそうなのは、シノドス委員会の規約で、投票・議決に関する条項に「この規約で何か他のことがない限り投票数の単純多数で議決される。シノドス委員会の最終投票(決選投票)では投票数の3分の2の多数で議決される」とある点です。

 これまでのシノドス集会の「ドイツ司教協議会の参加メンバーの3分の2以上を含む参加メンバーの3分の2以上の賛成で議決される」と比べると、司教優位から、司教も一般信徒も同等の投票に変わっており、4名の(保守的な)司教が委員会から外れてしまったため、司教たちとZdKとのパワーバランスが信徒優位になったと理解されています。

 保守派とされる4名の司教は、これまでのシノドス集会で、シノドス評議会やシノドス委員会の規約について反対票を投じただけでなく、自らシノドス委員会から手を引きました。司教団の“一致”が壊れた、とも言えるシノドス委員会や評議会に「合法性」はあるのか、という疑問も持たれているのです。

 司教4名の退出で、委員会の運営資金の調達にも支障が生じています。ドイツの全司教の承認がなければ、ドイツ司教区連盟(VDD)から運営資金が出せないことになっているからです。

 

*秘跡的構造とシノダリティのせめぎ合い・・・

 教会が「秘跡的な構造」であるというのは、『教会憲章』で、教会は救いの「目に見える秘跡」となるように神は望まれたが、その中で聖職者と一般信徒との間に区別を定め、司教たちの教導の下に司祭や一般信徒がいる、「共同統治」は「カトリック的でない」という見方でしょう。

 しかし2022年8月にドイツ司教協議会が出した、世界シノドスのための報告書の「権威と参加」の項に、「私たちは私たちについてだけ決議されることを望んでいない、私たちと共に決議されることを望んでいる」とあり、翌9月のシノドス文書にも、「人間の諸権利なしの人間の尊厳は、ただの要請にすぎない」とあります。一般信徒に一票を与えることなしに尊厳はあるのか、ということです。同年2月のシノドス文書には「教会のシノダリティ(共働性)は、司教たちの団体性以上のものだ」とあります。改めて、シノダリティの定義が問われていると言えるでしょう。

*ドイツ司教協議会www.dbk.de ドイツカトリック者中央委員会www.zdk.de
シノドスの道www.synodalerweg.de など参照      

(西方の一司祭)

 

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2024年1月31日