・聖座の中国における司牧指針は「実態を認識せず」と、陳枢機卿が教皇に直訴

(2019.7.25 カトリック・あい)

 バチカンと中国政府が中国国内の司教任命に関する暫定合意を結んで1年近く経つが、中国当局のカトリックとプロテスタントの”地下教会”と信徒たちへの弾圧の動きはむしろ以前より加速しているように伝えられてる。

 そうした中でバチカンが6月28日、「中国における聖座の司牧指針」を発表し、中国政府・共産党に対して(その指導・管理に従属することを拒否する)”地下教会”を”威圧”しないよう強く促しつつ、司教、司祭が当局に登録する際のガイドラインを示したが、それから1か月、登録によって管理下に入ることを強要する当局の動きに変化は見られず、”地下教会”の司祭、信徒の間にはかえってバチカンへの不信が強まっているようだ。

 17日付けのカトリック系のネット・ニュースucanews.comが香港発で伝えるところによると、かねてから中国当局に対するバチカンの姿勢に批判的な元香港教区長の陳日君・枢機卿は、「中国における聖座の司牧指針」が発表された直後の6月29日にローマに飛び、教皇フランシスコおよびピエトロ・パロリン国務長官と会見し、指針に関わる問題点を指摘。これに対して教皇は、陳枢機卿の指摘する懸念に「注意を払います」と何度も繰り返されたという。

 香港に帰国後の7月5日に、枢機卿は自身のブログで、この指針には教会法上の拘束力はない、と明言。さらに、中国の共産党政府は憲法で定めた信教の自由を守っておらず、指針が示す聖職者に対する登録のガイドラインは、カトリックの教義に反し「基本的な道徳神学に、明確に違反」する文書への署名を求めるものだ、と批判した。

 さらに枢機卿は、ucanews.comの質問に答えて、今回の指針が示したガイドラインの特定の内容は、当局への登録が宗教的活動の場所の登録も含むことになることに「疑惑と問題」を感じている聖職者を対象としている、とも指摘した。

 ucanews.comによると、また別の教会関係者は、「今回の指針は先月行われたバチカンと中国政府の協議が合意に至らなかったことを示すとともに、司教、司祭の当局への登録に関する話し合いを継続することも同時に示している」とみているものの、直近の両者の協議は満足のいく結果をもたらすことはなかった、と判断している。中国東北部の”地下教会”のある信徒は「指針は誤解を招く恐れがある」と不信をあらわにした。 そして、昨年秋の”暫定合意”以降、中国国内のカトリック教会、とくに”地下教会”の状況は一段と悪化しており、指針が示した「楽観的な見方」とは正反対だ、と批判、「中国国内のカトリック教会の中で”日和見主義”が広がっていることで、多くの重要な問題が無視されつつある」と、現状を直視するよう、バチカンを含む教会関係者に訴えている。

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 中国政府が2017年に発表、2018年2月に施行した改定教務規制には、国内の全聖職者に当局への登録義務の他、18歳以下の青少年が礼拝したり、青少年に礼拝するよう指示することの禁止など、宣教司牧活動を大幅に規制が盛り込まれている。

 さらに、聖職者は、当局が認めた5つの宗教組織-カトリックの場合は、その教義にそぐわない中国天主愛国協会ーに所属することも義務づけられている。このことは、教皇に忠誠を誓うカトリック信徒は当局に登録することができないことを意味し、1000万人なし1200万人と推定される中国のカトリック信徒はこれまで、”愛国教会”と”地下教会”に引き裂かれてきた。

 昨年9月、バチカンは中国と司教任命に関する暫定合意を交わし、それには中国政府の公認教会の司教たちをバチカンが承認することも含まれていたが、28日に出された声明では、聖座は「中国における複雑な現実と教務規制の適用に関して統一的な慣行があるようには見られない現実」が当局への登録に関して聖職者に統一的な指針を出すことを困難にしている、としたうえで、次の4点の見解を示し、「このような認識に立てば、司祭あるいは司教は中国の国内法に従って当局に登録することはできる」とし、”地下教会”の信徒たちが指摘する”楽観的”な見方が色濃く出ていた。

 ①中華人民共和国憲法が正式に信教の自由を保証している。②昨秋の暫定合意は、教皇の特別の役割を確認しており、このことは「論理的に、中国におけるカトリック教会の『独立性』が認められたものと、聖座に理解し、解釈される③中国と聖座との現在の関係の文脈は、中国天主愛国協会が1950年代に設立された当時とは異なっており、④過去何年かの間に、教皇の認可を得ずに叙階された多くの司教たちは、ローマとの和解を願い、受け入れ、現在では、中国の全司教がカトリックの普遍教会と交わりを持っている。

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2019年7月25日