・アジア司教協議会連盟のボー会長らが、香港警察の残虐行為中止を求める共同書簡(Crux)

(2020.1.3 Crux Charles Collins)

 カトリックのアジア司教協議会連盟会長、チャールズ・ボー枢機卿(ミャンマー)など40人が12月31日付けで、香港政庁のキャリー・ラム長官に公開書簡を送り、クリスマス期間中に香港でなされた「警察の残虐行為」について強い遺憾を表明し、5か条にわたる申し入れを行った。

 公開書簡の署名者のうち12人以上がカトリック教徒。ボー枢機卿の他、全インドカトリック連盟のジョン・ダヤル前会長、英国のデイビッド・アルトン卿、政治家のマンタス・アドメナス(リトアニア)、ヤン・フィゲル、ミリアム・レックスマン(いずれもスロバキア)、米国のトーマス・ファー元国務省「国際宗教の自由局」課長などが名を連ねている。

 香港では、香港政庁が有罪と判断した市民を中国当局に引き渡すことを認める法案を議会に提出したのをきっかけに、昨年6月から大規模な抗議行動が続いている。市民たちは香港が英国から中国に返還されて以降も、「一国二制度」の約束のもとに、人権を保障された自由な社会生活を続けてきたが、年々、中国政府・共産党の圧力が強まり、同法案を機に一挙にその支配下に置かれるとの懸念が、抗議行動が続く背景にある。

 人権の保障などを約束するのを拒み続ける香港政庁に対する抗議活動の長期化とともに、警察当局の規制も強化され、負傷者も出す事態になっている。さらに、先のクリスマス期間中には、買い物客、平和的な抗議活動をしている人々など一般市民に、警官隊が催涙スプレー、ゴム弾を発射し、人々を恐怖に追い込んだ。

 このような事態を深刻に受け止めたアジア司教協議会連盟のチャールズ・ボー枢機卿(ミャンマー)はじめ世界の人権団体などの代表40人が公開書簡に署名、香港政庁のキャリー・ラム長官に対して、警官隊は行動を抑制し、「暴力的な行為に対してのみ、相応の措置をとる」ことに限るように要請した。この書簡は、香港における基本的な自由、法の支配、および「1国2制度」の下で約束された自治に対する脅威を監視する英国の民間組織「Hong Kong Watch」を通じて公表された。

 公開書簡は、香港政庁のラム長官に対して、抗議行動への対応を再考するよう、具体的に次のように求めている。

 ①暴力行為に対処する場合、抑制的に行動し、平和的な抗議を尊重し、抗議活動の程度に相応する措置にとどめるよう、警察当局に指示してもらいたい。

 ②抗議者の要求に耳を傾け、特にの残虐行為に関する独立した調査体制を確立してもらいたい。このような要請を拒否し続ける場合、私たちは国際的な独立した香港の現状についての調査体制を構築するよう、国際社会に呼びかける。

 ③不当に拘束され、平和的な抗議に関与したすべての抗議者の釈放を求める。一部の抗議者が暴力を振るったことを理由に、平和的な抗議活動を無視し、平和な抗議活動参加者を犯罪者にすることがあってはならない。

 ④2019年11月の香港区議会議員選挙の投票結果で明確になったメッセージに従い、政治改革を検討し、香港市民の選挙によってえらばれた区議会と有意義な対話を開始することを提案する。

 ⑤私たち、あるいは他の世界の人々が調停および和解の促進に役立つ場合、それを支援する用意がある。

 署名者の1人によると、クリスマスイブ、クリスマスの日、そして公的な祭日、12月28日に香港市内で、買い物客や平和的な抗議活動をしている人、そして一般市民に対して、警官隊が催涙弾を発射し、芥子のスプレーを振りまき、ゴム弾を発砲するのを見て、戦慄を覚えた、といい、「私たちは、子どもや若者たちがひどく殴られたり、ゴム弾が人々の顔に向けて撃たれたりしているのを極めて深刻に受け止めています。弾道学の専門家によれば、こうした行為は、殺害に至る危険がある」と、こうした警官隊の行為の中止を訴えた。

 だが、この書簡に回答した香港政庁は「抗議者の暴力がエスカレートし、危険な水準に達している」と反論。具体的に、覆面の暴徒が公共施設や商店を破壊し、放火し、ガソリン爆弾を投げつけ、警官や、彼らと違う見解を持つ人々を攻撃するなど、公の秩序を著しく損なっている、罪もない男性が抗議者によって白昼に銃で撃たれ、清掃業者がレンガを投げつけられて死亡している、警官隊に520人の負傷者が出ている、などを挙げた。そして「日常生活の深刻な混乱と個人の安全への恐怖に多くの市民が苦しんでおり、状況の深刻さがしばしば香港の日常生活を停止状態にした」と述べた。

 これに対して、公開書簡の署名者の1人は、「暴力的なのは、抗議活動をしているうちの『小集団』だが、暴力や破壊行為は私たちも容認できない」としたうえで、「2つの重要な点に留意する必要があります。第一に、抗議者の大多数は平和的に行動してきたが、それでも警察によって暴力的な攻撃を受けた。第二に、暴力を正当化するものは何もないが、暴力に訴えた抗議者たちは、(注:中国政府・共産党が香港政庁を介して、もたらそうとしている)本当の恐怖への訴えに、香港政庁が耳を貸さないために、絶望と欲求不満で行動しているのが明らかだ、ということです 」と再反論している。

 カトリック信徒は香港の人口の約5%しか占めていないが、宗教の自由を含む香港の政治・社会の自由を擁護する活動を活発にしている。カトリック教会は香港でいくつかの学校を運営しており、その多くは抗議活動の原点となっている。

 旧英国領の香港と旧ポルトガル領のマカオは、中国に返還されてからも、一国二制度のもとで、教皇が司教の任命権を維持している。香港の元司教、陳日君・枢機卿は、現在の抗議活動で際立った存在であり、一昨年9月にバチカンと中国が中国本土での司教任命に関して暫定合意した”秘密協定”にも「中国のカトリック教会を中国共産党に売り渡すもの」として、当初から批判的な立場をとっている。

 一方で、親北京の香港政庁でもカトリック信徒は重要な役割を果たしてきた。ラム長官はカトリック信徒であり、彼女の前任者のドナルド・ツァン氏も同様だった。

 

このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年1月4日