(評論)中国の一方的な決定から3か月遅れで教皇が上海司教任命―誰が勝ち、誰が負けたのか(BW)

Bishop Shen Bin. From Weibo.

 第三に、パロリン長官は「中国のカトリック教徒は、たとえ『秘密主義(地下教会の信徒)』と定義されている者であっても信頼に値するし、彼らの良心と信仰は尊重されるべきだ」と語った。

 「良心」という言葉が使われたのは決して偶然ではない。 2018年のバチカンと中国が暫定合意を結んだ時、「秘密のカトリック教会(地下教会)はなくなり、(中国共産党が管理・指導する)中国天主愛国協会に合併された(ことを意味する)」と大騒ぎされた。これが事実ではなく、愛国協会への参加を拒否するカトリックの”良心的兵役拒否者”が多数いる、と訴える人々は、親中派の自称「バチカン専門家」らから攻撃を受け、そうした事実を伝えるBitter Winterなどのマスコミも非難された。

  パロリン国務長官は「秘密教会」が健在であることを認めている。 彼は、この「秘密教会」の会員、つまり愛国教会への参加を拒否するカトリックの”良心的兵役拒否者”は「尊重されるべきである」という、2019年のバチカンのガイドライン(もう効力を失っていると主張する者もいる)の主張を繰り返し述べている。

 私たちは、「尊重」されていないことを知っている。カトリックの”良心的兵役拒否者”が受ける唯一の”敬意”は、嫌がらせを受け、刑務所に入れられることだ。そして、上海やその他の地域での司教人事で、バチカンそのものも、あまり”敬意”ある扱いを受けなかった。中国共産党は、このような繰り返しの暫定合意破りさえも、バチカンが受け入れたことを、自分たちにとっての”勝利”と見なすかもしれない。

 だが、パロリン長官のインタビューでの発言の中に隠されているのは、「秘密教会」が依然として中国に存在している、という重大な告白、それに、バチカンは彼らを”反逆者”とは見なしておらず、何らかの形で協力する、というやや漠然とした約束である。もしも、バチカンが、真剣に”良心的兵役拒否者”を守ろうとし、彼らを「尊重」することを本気で主張するなら、バチカンは中国共産党から「尊重」されることはない。

 国務長官は2018年のバチカンと中国の暫定合意に基づいて”時限爆弾”を仕掛けたばかりであり、いつか、その爆発で暫定合意が吹き飛ぶ可能性がある。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

*Bitter Winter(https://jp.bitterwinter.org )は、中国における信教の自由 と人権 について報道するオンライン・メディアとして2018年5月に創刊。イタリアのトリノを拠点とする新興宗教研究センター(CESNUR)が、毎日4か国語でニュースを発信中。世界各国の研究者、ジャーナリスト、人権活動家が連携し、中国における、あらゆる宗教に対する迫害に関するニュース、公的文書、証言を公表し、弱者の声を伝えている。中国全土の数百人の記者ネットワークにより生の声を届け, 中国の現状や、宗教の状況を毎日報告しており、多くの場合、他では目にしないような写真や動画も送信している。中国で迫害を受けている宗教的マイノリティや宗教団体から直接報告を受けることもある。編集長のマッシモ・イントロヴィーニャ(Massimo Introvigne)は教皇庁立グレゴリアン大学で学んだ宗教研究で著名な学者。ー「カトリック・あい」はBitterWinterの承認を受けて記事を転載します。

 

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2023年7月18日