・台湾制作の演劇上演中止を要求する”ストラスブールの戦い”で中国が敗北、だが海外での文化圧力は続く(Bitter Winter)

 (2026.3.13  Bitter Winter  )

(写真下:演劇『Ceci n’est pas une ambassade』の一場面=出典:台湾国立劇場)

A scene from the play “Ceci n’est pas une ambassade.” Source: Taiwan’s National Theater.

 今回は、北京が敗北した。しかし、神韻(シェンユン)の事例を含め、他のケースでは劇場側が中国の圧力に屈している…

 フランスと台湾のメディアによると、現地の中国総領事館は2月初旬、仏ストラスブール市の劇場「ル・マイヨン」の主要出資者である同市当局に対し、劇場が予定していた演劇『Ceci n’est pas une ambassade(これは大使館ではない)』の上演の中止を要求する書簡を送った。ジャンヌ・バルセギアン市長は、「このような他国の介入は、極めて重大な問題。芸術の自由はフランスの国法で保護されている」と要求を拒否。国の地域文化局に報告した。

 台湾の文化機関、香港の活動家、ウイグル系団体、あるいは法輪功の信者など、中国が「好ましくない」とレッテルを貼った集団を沈黙させたり疎外したりしようとする中国の試みは、国境を越えて広がっており、深刻な人権上の懸念を引き起こしている。こうした行動は、検閲を輸出しようとし、表現の自由を制限し、民主主義社会における公的な言説を形作ろうとするものだ。

 ”ストラスブールの戦い”は、文化外交がいかにして政治的影響力の争いの場となり得るかを示しており、民主主義機関が警戒を怠らないことの必要性を浮き彫りにしている。

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 ストラスブールで上演されるドキュメンタリー形式の作品は、2000年に独フランクフルトで結成された演劇家集団 Rimini Protokollと台湾国立劇場・コンサートホールが共同制作したもの。台湾大使館の開館を模し、台湾の不明確な国際的地位を探求する内容で、民主的統治への脅威に焦点を当てたフェスティバル「Démocraties en jeu」の開幕イベントとして選ばれていた。

 劇場のディレクターが中国領事館からの連絡に応じなかったため、副総領事は問題をエスカレートさせ、劇場の主要な資金提供者であるストラスブール市に直接書簡を送り、「この公演は、中仏関係に悪影響を及ぼす」として中止を要求した。

 今回の市長の中止要求拒否に対して、中国総領事館は、メディアの取材に応えず、駐仏中国大使館や中国外務省も同様だった。中国の国営メディアも沈黙している。

(写真右*ストラスブール市長のジャンヌ・バルセギアン)Strasbourg’s mayor, Jeanne Barseghian. Credits.

 台湾メディアはこのニュースを取り上げ、「自由時報」は駐仏の台湾代表処の声明を掲載し、政治的圧力に屈しなかったストラスブール市当局を称賛するとともに、「台湾の声が沈黙させられてはならない」と強調。「SETニュース」は、パリの台湾文化センターに、公演が予定通り行われることを確認し、「現地での支持も強い」と報じた。

 「リンガ・シニカ」の報道によると、出演者のクオ・チアヨ氏はソーシャルメディア上で、民主主義をテーマとしたフェスティバルでの公演を領事館が抑圧しようとしたことは、「反民主主義の側が誰であるか」を浮き彫りにしたに過ぎない、と指摘した。

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 ストラスブールでの中国領事館による演劇上演の中止要求は、中国の外交公館が外国政府、文化機関、大学、民間会場に対し、北京の政治的ナラティブに反するコンテンツを検閲するよう圧力をかけるという、より大きな傾向の一環だ。こうした動きは、台湾のアイデンティティの表現、ウイグル人やチベットへの言及、そして中国政府が好ましくないと見なす集団への言及などを標的とすることが多い。

 最も明白な例の一つが、法輪功と関連する舞台芸術団体「神韻(Shen Yun)」に対する、現在も続く圧力キャンペーンだ。中国の大使館や総領事館は、世界中の劇場に対し、神韻公演の中止を繰り返し求めており、その際、ストラスブールでの主張と同様の論理―公演の開催は二国間関係を損なう―を用いることが多い。また、「神韻が”カルト”を宣伝している」と主張している。いくつかの国では、現地メディアが北京の主張を鵜呑みにし、中国政府による法輪功や神韻へのレッテル貼り、あるいは反カルト団体から提供された情報を繰り返している。こうした海外メディアの報道と中国政府のプロパガンダとの一致は、文化的な検閲を正当化することを容易にしている。

(写真左*ローマでの「神韻」の公演)A Shen Yun show in Rome.

 ストラスブールでの出来事が重要なのは、中国の政治的圧力が各国政府にとどまらず、地方自治体、文化機関、そして個々のフェスティバル主催者にまで及んでいることを示しているからだ。これは、北京が外交問題だけでなく、欧州の文化プログラムにも直接影響を及ぼそうとしていることを示している。

 また、公的資金に依存し、物議を避けるよう圧力を感じる可能性のある芸術機関の脆弱性も浮き彫りにしている。さらに、表現の自由に対する法的保護が強力な民主主義社会においてさえ、台湾に関する物語を支配しようとする中国の試みが激化していることを明らかにしている。

 そうした中での、ストラスブールの市長と文化当局の対応は注目に値する。芸術の自由はフランス法の下で保護されていると表明し、公演の中止を拒否したことで、彼らは外国の政治的干渉に抵抗する先例を作った。

 彼らの立場は、権威主義的な影響力に対する欧州全体の懸念と一致しており、地方当局が法的保護を堅持し、外部からの圧力を拒絶することで、抵抗が可能であることを示している。しかし、神韻(Shen Yun)の場合のように「カルト」というカードが切られた場合、結果は異なるかもしれない。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

*Bitter Winter(https://jp.bitterwinter.org )は、中国における信教の自由 と人権 について報道するオンライン・メディアとして2018年5月に創刊。イタリアのトリノを拠点とする新興宗教研究センター(CESNUR)が、毎日4か国語でニュースを発信中。世界各国の研究者、ジャーナリスト、人権活動家が連携し、中国における、あらゆる宗教に対する迫害に関するニュース、公的文書、証言を公表し、弱者の声を伝えている。中国全土の数百人の記者ネットワークにより生の声を届け, 中国の現状や、宗教の状況を毎日報告しており、多くの場合、他では目にしないような写真や動画も送信している。中国で迫害を受けている宗教的マイノリティや宗教団体から直接報告を受けることもある。編集長のマッシモ・イントロヴィーニャ(Massimo Introvigne)は教皇庁立グレゴリアン大学で学んだ宗教研究で著名な学者。ー「カトリック・あい」はBitterWinterの承認を受けて記事を転載します。

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2026年3月14日