(図右:さまざまな中国語の新聞を販売するキオスクでは、すべてが同じストーリーを伝えている=AI生成)
メディアが政府のコミュニケーションに対抗する批判的な声として活動する他の国々とは対照的に、中国のジャーナリズムは公式のプロパガンダを広めるためだけに存在している。
米国の中国研究者たちがまとめた調査分析報告「習近平下の中国における諸ニュースメディアの10年にわたる成長」が明らかにしたもので、 U.S. National Academy of Sciences(米国科学アカデミー)の紀要に掲載され、6月17日にスタンフォード大学中国経済・制度研究センターでの議論のテーマに取り上げられた。
この重要な研究は、習近平が権力を握った2012年から2022年にかけて、中国の新聞における政府制作のコンテンツ(「台本付きプロパガンダ」と呼ばれる)の体系的な成長を分析している。
調査・分析に当たって、研究者たちは、中国国内の700の共産党の新聞といわゆる商業新聞に掲載された1100万件以上の記事を含むデータ資料を用いて、中国共産党(CCP)が中央集権的に”スクリプト化”(一連の党の指令をプログラムとして記述すること)されたコンテンツを国内のメディアにどのように浸透させているかについて、実証している。
その分析結果によると、中国におけるメディア多元主義を否定し、専制独裁的な環境の中で(これに抵抗するような)”秘密のプロパガンダ”を検出するための、新しい枠組みを導入している、という。調査報告は、”台本化されたプロパガンダ”は、中国共産党宣伝部や国営通信社・新華社などによって、ほとんどそのまま、全国の新聞などメディアに提供される。そして、複数のメディアに同時に掲載されることがよくある、としている。
”スクリプト化”されたコンテンツを検出するために、研究者たちは、さまざまな新聞に同じ日に掲載された類似の記事のクラスターを見つける新しい計算方法を開発した。それによって、「China Digital Times」からリークされた1000件以上のプロパガンダ指令で検証され、国家が認めた記事の掲載を義務付けたことが確認された。
中国では、「台本通りのプロパガンダ」が、各種メディアを通して、ほぼ日常的に行われている。2012年から2022年にかけて、党の新聞は90%の日に少なくとも1つの台本記事を掲載した。台本付きの記事は、記念日、指導者の交代、危機など、政治的にデリケートな時期に、主要な新聞の全コンテンツの最大30%を占める可能性がある。
しかも、”スクリプト化”されたコンテンツの使用は著しく増加しています。2012年には、党の新聞の一面記事の約5〜7%しか台本化されていなかったが、2022年には、4倍の約20%に増えた。この台頭は、習近平政権下での「メディアの中央集権化」と「イデオロギーによる制約」という広範な傾向を浮き彫りにしている。
(写真左*ジャーナリストと会う習近平。出典:中華人民共和国大統領府)
中国国内の新聞には従来、”台本記事”をそれぞれの置かれた状況に合わせたり、〝現地化”したりする傾向があったが、今は薄れつつある。
2010年代の初めには、いくつかのメディアが見出しを変更したり、地元の文脈を追加したりしていましたが、今回の調査対象期間の終わりまでに、ほとんどの記事は〝台本記事”に手を加えず,〝複製″するようになっており、編集の独立性の低下と中国政府・党の発するメッセージの徹底を示している。
「プロパガンダは、政党が支配するメディアに限定されている」という西側の”常識”に反して、中国では、商業新聞でも記事の「台本化」が浸透していることを、この報告は明らかにしている。
共産党の出版物が主なチャネルであるが、商業新聞、特に読者数の多い新聞は、政府・党が作成した記事を特集することが多く、多くの場合、情報源の適切な開示が行われていない。
台本通りのプロパガンダは、イデオロギーや政治関係のテーマに留まらない。ナショナリズム、党の業績、習近平思想などのテーマが一般的であるものの、この報告では、台本のあるコンテンツには、公衆衛生、自然災害、犯罪、ライフスタイル問題などのトピックも及んでおり、この”多様な取り組み”によって、中国政府・党は、さまざまな日常の問題に関する”公の意見”を形成することが可能になっている。
この報告では、新型コロナの大感染の下での中国メディアの報道についても分析しており、「危機管理における台本化されたプロパガンダ」が中国政府・党によって使われたことを実証している。感染拡大が始まった際、中国政府・党は重要な最新情報の国民や世界への提供を先延ばしする一方で、国家権力を使って、”不確実性を最小限に抑える”ための台本付きの物語を、国内の新聞メディアに氾濫させた。政府・党の統制から離れた報道を制限し、危機に対する一般市民の理解に影響を与えた。
報告は、習近平政権下で中国におけるメディア統制が著しく増加したことを示す強力な証拠を示している。台本通りのプロパガンダの出現は、中央集権的なイデオロギー統治へのより大きな移行を意味しており、中国共産党はすべてのメディアチャネルで「一つの声で話す」ことを目指している。
中国共産党宣伝部が制作する台本コンテンツの量が増え、柔軟性に欠けていることは、独立したジャーナリズムの余地が縮小していることを示している。以前は比較的独立していると考えられていた商業新聞でさえ、今では主に国家のメッセージングのチャネルとして機能している。
(写真右:中国共産党の宣伝部(通称:広報部)の本部)
報告は、中国共産党が、プロパガンダの定義を非イデオロギー的な内容にまで広げることで、メディアを活用して自党の視点を浸透させ、情報の拡散を制御し、反対意見を抑圧している、と強く指摘。災害、公衆衛生、犯罪に関する台本のある記事は、物語を作り上げ、異なる解釈を防ぐために使用されている、としている。
中国政府・党が”デジタル・シルクロード”などのプロジェクトを通じてメディアモデルを国際的に推進する中で、国内プロパガンダの仕組みを政府・党が掌握するが一層重要になっている、と彼らは認識している。
報告は、専制独裁主義な政府・党が、舞台裏でコンテンツを細心の注意を払って管理しながら、「多様なメディア環境の幻想」を作り出す方法にも焦点を当てている。彼らは、広範で順応性があり、より洗練されつつある一種の秘密プロパガンダを発展させてきた。中国共産党は、台本のあるコンテンツを党紙と商業紙の両方に融合させることで、表面的には多様に見えるが、その核心は高度に制御されたメディア環境を作り上げた。
中国が海外で自己の”国民の統治モデル”を推進しようとする中で、中国の”メディア管理システム”がどのように機能しているかを把握することは、単なる学術的な課題ではなく、重要な地政学的必要性となっている。
(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)