・中国が自国の法律で台湾の国会議員を犯罪者に―民主主義の正当性を否定(Bitter Winter )

(2025.12.11 Bitter Winter    )

 中国当局がこのほど、台湾の立法委員(国会議員)、沈保陽氏に対する捜査を開始したとする発表は、共産党政権が国境を越えて異論を弾圧するため、国内法制度を国際的な”武器”として活用する意思を浮き彫りにしている。実際の捜査は、中央直轄の重慶市公安局によるもので、”台湾独立分離主義者”を対象にした新たな国内規制を域外で適用する初のケースだ。”有罪”となれば、終身刑や死刑に相当する厳しい刑罰が科される。

 中華民国立法院(一院制議会)の現職議員で民主進歩党所属の沈氏は、台湾の非営利市民防衛・安全保障教育団体「クマアカデミー(Kuma Academy)」の共同創設者でもある。同団体は偽情報とハイブリッド戦争への対策として、市民向けに様々なテーマの訓練を提供している。沈氏は、台湾の民主制度—独自の憲法、司法、市民的自由を有する制度—の枠内で活動している。

 にもかかわらず、中国当局は、彼を自国の法律の対象として扱うことで、自らの権限が台湾海峡を越え、自らが統治しない領域にまで及ぶと主張している。これは中国による台湾への政治的戦争を急激にエスカレートさせるものであり、中国政府・共産党への批判や学術活動、市民教育を、拡大解釈した「国家安全保障」の名の下に”犯罪行為”と再定義する動きだ。

 中国による沈氏への追及は、国内法執行と地政学的強制の境界線を曖昧にすることを目的とした法的威嚇のパターンに沿っている。このため、国際人権団体、Human Rights Watchは声明で、この動きを「基本的人権の明白な侵害」と断じている。こうした反応は、中国共産党が海外での言論を監視するために裁判所や警察を利用することに対する、国際世論の懸念の高まりを反映している。

 沈氏の容疑はクマ・アカデミーでの活動に起因しており、この問題は台湾が中国の影響工作にますます脆弱になっている状況と直接結びついている。中国政府・共産党にとって、こうした動きは「台湾島は自国領土の一部だ」とする「一つの中国原則」への思想的反対を意味する。したがって、沈氏の市民活動は「分離主義活動」と再定義され、中国当局はクマ・アカデミーを「台湾独立分離主義組織」と決めつけた。

 こうした捜査手法は、中国政府・共産党が単発的な制裁や威嚇的発言に頼るのではなく、”正式”な司法措置を通じて弾圧を制度化している実態を示す点で重大だ。法的に規定することで、台湾人に対する域外捜査を常態化させ、単発的な政治的報復ではなく国家政策の手段として位置付けようとしている。

 近年、複数の台湾市民が沈氏と同様の容疑で中国本土で厳しい判決を受けている。2024年8月、活動家の楊志遠氏が「分離主義」の罪で懲役9年の判決を受けた。そのわずか数か月後、2025年2月には、台北に拠点を置き中国の政治に関する書籍を出版していた出版社経営者の李彦和氏が「分裂扇動罪」で3年の刑を宣告された。両者とも中国本土を旅行中に拘束されており、台湾人が本土に足を踏み入れる際のリスクを如実に示している。

 この二件と比べて沈氏の事件が特異なのは、中国の国内法が純粋に域外適用された点だ。楊氏や李氏と異なり、沈氏は中国本土に足を踏み入れたことがない。にもかかわらず、中国の検察当局は中華民国国(台湾)における彼の政治的・市民的活動に対して管轄権を主張している。法律専門家によれば、このような行為は、国際規範に違反し、主権的管轄権の境界を侵食するものだ。だが、中国政府・共産党の論理によれば、台湾の政治家、活動家、一般有権者であれ、台湾の民主主義を支持する発言をした者は理論上、中国法に基づく刑事訴追の対象となり得る。

 中国当局が刑事法規を海峡両岸の威嚇手段として用いるのは、法廷戦術(法制度を政治的目的達成に利用する戦略)という広範な戦略の一環だ。独立性を欠くと長年批判されてきた中国共産党の司法機構は、今や国家のプロパガンダと強制の延長として機能している。この文脈において「分離主義」は、「刑事訴追」というより「政治的レッテル」として機能し、体制が異議や国民的アイデンティティを「犯罪行為」と分類することを可能にするものだ。

 中国の最新の司法ガイドラインは象徴的脅威を超えている。資産凍結、家族制裁、渡航禁止を認可し、処罰を「頑固な台湾独立分子」と指定された者の親族や関係者にまで拡大している。申氏の父親の事業は、息子が制裁リストに載った後に標的とされた、と報じられており、報復の集団的性質を浮き彫りにしている。これは連座制による罪が相手に「恐怖」を与えることで、服従を強制する権威主義(専制独裁主義)的慣行を想起させる戦術だ。

 中国共産党の意図は明白である。台湾の合法的な民主的機関への参加さえもが厳しい報復を招きうることを示すことで、中華民国内の政治的多様性を阻害することだ。クマアカデミーのような市民団体への関与を犯罪化することで、台湾のアイデンティティ表現の全てが「自分たちの手の届く範囲にあること」を示している。

 台湾の2300万人の市民にとって、シェン氏への捜査は冷酷な警告だ。北京の「国家統一」概念が、いかなる管轄権・主権・個人の権利の概念をも凌駕することを示唆している。

 いわゆる分離主義者への弾圧は、香港における国家安全保障弾圧と類似している。香港では、広範な法律に基づき、平和的な政治活動を行った地元活動家やジャーナリストが起訴された。かつて特別な地位にあった香港では、包括的な安全保障法の導入―2020年6月30日の国家安全法と2024年3月23日の国家安全保障条例―により、市民社会は事実上解体された。台湾は今、遠隔からの同様の強制モデルに巻き込まれる脅威に直面している。

 中国の法律の適用範囲を中華民国(台湾)の個人にまで拡大することで、北京は実質的に「自治を犯罪化」している。台湾の民主主義システム全体―立法府、政党、市民団体―は、中華民国が中華人民共和国とは別個の存在であるという前提に立っている。その区別を違法扱いすることは、台湾の民主主義そのものを違法と宣言することに他ならない。その影響は法的象徴性を超え、公的生活に携わる者たちに絶え間ない監視と不安の雰囲気を生み出し、北京による台湾への心理戦を強化する。

 非本土市民に対する権限行使は、国際法上の管轄権の越境という重大な問題を提起する。法学者らは、「刑法は通常、国家の領域内または海外の自国民に適用される」とし、こうした戦術が「越境抑圧」という広範なパターンの一部だ、と強調する。独裁国家が批判者を黙らせるため、強制手段を国境を越えて拡大する現象だ。

 共産党政権による域外管轄権の行使は、ウイグル活動家、亡命香港活動家、海外華人反体制派をめぐる事例ですでに非難を浴びている。今回、台湾の政治家がこの枠組みに組み込まれたことは、北京の法的戦争が如何に世界的かつ体系的になったかを浮き彫りにする。さらに、これらの行動の影響は個別の事例をはるかに超える。軍事演習や外交的孤立化キャンペーンで既に緊張している両岸関係を不安定化させる恐れがある。

 台湾の民選代表を中国の法律で犯罪者として扱うことで、中国政府・共産党は事実上、台湾島の民主的政府の正当性を否定している。この姿勢は対立のリスクを高めると同時に、対話の展望を損なっている。プーマ・シェンに対する捜査は単なる国内法問題ではない。台湾の自治そのものを問う権威の政治的宣言だ。「分離主義」法を管轄外の個人に適用することで、台湾の民主主義を単なる政治的ライバルではなく、「自らの支配に対する存亡の脅威」と見なしていることを示している。

 そのメッセージは明白だ。台湾の民主的プロセスへの参加、国民的アイデンティティの表明、市民教育の提唱—これら全てが「中国に対する犯罪」と見なすことができる、ということだ。民主主義国家の市民を追及するために法制度を武器化することで、中国政府・共産党は”越境抑圧戦術”を深化させ、専制独裁主義的支配の限界を再定義している。起訴状一枚一枚が、その証左である。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

*Bitter Winter(https://jp.bitterwinter.org )は、中国における信教の自由 と人権 について報道するオンライン・メディアとして2018年5月に創刊。イタリアのトリノを拠点とする新興宗教研究センター(CESNUR)が、毎日4か国語でニュースを発信中。世界各国の研究者、ジャーナリスト、人権活動家が連携し、中国における、あらゆる宗教に対する迫害に関するニュース、公的文書、証言を公表し、弱者の声を伝えている。中国全土の数百人の記者ネットワークにより生の声を届け, 中国の現状や、宗教の状況を毎日報告しており、多くの場合、他では目にしないような写真や動画も送信している。中国で迫害を受けている宗教的マイノリティや宗教団体から直接報告を受けることもある。編集長のマッシモ・イントロヴィーニャ(Massimo Introvigne)は教皇庁立グレゴリアン大学で学んだ宗教研究で著名な学者。ー「カトリック・あい」はBitterWinterの承認を受けて記事を転載します。

このエントリーをはてなブックマークに追加
2025年12月13日