・中国がブータンの仏教聖地を占拠、対インドで優位に立つ狙いか(BW)

(2021.5.17 Bitter Winter Massimo Introvigne)

 (写真は、ブータンに”進出”した中国の村落、揭罗布(Gyalaphug ーTibet Daily TVより)

 中国、インドと国境を接するブータンの仏教聖地に中国が村落を建設することは、同国の対インド戦略の一環だ。Gyalaphug, a newly built Chinese village—in Bhutan. Screenshot from Tibet Daily TV.

 5月初め、中国政府が、「チベット自治区の南部地域に、チベット語で「揭罗布(Gyalaphug)」、中国語で「杰罗布(Jieluobu)」と呼ぶ新しい村落の建設が完了した」と発表した。だが、1つだけ問題があるーこの村落は、中国ではなくブータンにあるのだ。

 そして、さらに問題は、 5月7日発行の米外交誌Foreign Policy で、「中国が揭罗布を含む三つの村落を建設中」と伝えた。「新しい道路、小さな水力発電所、2つの共産党支部センター、通信基地、災害救援倉庫、そして5つの人民軍あるいは警察の前哨基地、および主要な信号塔、衛星受信ステーション、軍事基地、および最大6つの警備サイト」も全てブータンの領土内にある。

(写真は、揭罗布を訪問する中国チベット自治区の共産党書記ーTibet Daily TVより)

Wu Yingjie, Tibet’s CCP secretary, visits Gyalaphug. Screenshot from Tibet Daily TV. 中国が他国領土内で行っているこのようなは前例がない。この地域の名前「ベユル(Beyul)」は深い宗教的意味を持つ。チベット仏教では、西暦8世紀にチベット密教の開祖、パドマサンバヴァ(蓮華生)が精神的な避難地と定めた隠された谷ー精神的な世界と物質的な世界が互いに交わる地だ。

 パドマサンバヴァが定めたベユルの正確な数には議論があるが、現在中国人が住んでいる地域であるベユル・ケンパジョンは確かにそのひとつ。中国共産党は、チベット自治区に加えて、この地を占拠することは、チベット仏教を管理下に置こうとする強力なしるしだ。

 この動きには地政学的な意味もある。中国とブータンに外交関係はない。政府間の定期協議はされているが、賢明なことにブータン政府は巨大な隣国に歯向かうような姿勢を見せないようにしてきた。

 外交筋は次のようにコメントするー「ブータンの人々とチベット仏教徒にとっての、この地域の比類ない重要性を考えると、ブータン政府が中国に渡すことはありえない。英国がストーンヘンジを、イタリアがヴェネツィアを、他国に譲ることがないように」。中国の領土ではないし、領土だと主張する根拠もない。

 (共産党書記から揭罗布村への貴重な贈り物ー中国国旗と習近平主席の肖像写真ーTibet Daily TVより)Precious gifts to Gyalaphug villagers from Wu Yingjie, a Chinese flag and a portrait of Xi Jinping. Screenshot from Tibet Daily TV.

 伝えられるところによると、中国はブータンとの政府間交渉で、占拠中のベユル・ケンパジョンの一部を”返還”する代わりに、中国、ブータン、インドの3つの国境に近い係争地域の中国占有を求めている。これが実現すれは、中国はこの地域でインドに対して決定的な軍事的優位に立つ。 中国は、インドに対する憎悪キャンペーンを続けている。中国共産党公認のソーシャルメディアには、インドのコロナ感染死者の火葬の画像やインドの宗教をもとにした後進性を揶揄する書き込みがされている。

 書き込みはその後、削除され、多くの人から批判を受けたが、超国家主義的なコメントで中国のソーシャルメディアの英雄となった復旦大学の沈毅教授は、インドの「後進性」と中国の「進歩性」を比較し、「インドという”軽薄な娼婦”の気性も必要だ。聖なる愚痴(書き込みを批判する人々を指す)は、インドに行って燃焼させてもらいたい」。

 

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2021年5月18日