・中国が「民族統一と進歩促進法」を立法へ、少数民族や宗教団体への習近平思想と社会主義的価値観の徹底狙う(BitterWinter )

(2025.10.8 Bitter Winter  胡子墨

(写真右は、中国の民族団結を訴える古い宣伝ポスター。出典:Chineseposters.net。)

An old propaganda poster on the unity of all nationalities in China. Source: Chineseposters.net.

 2025年9月、中国の全国人民代表大会常務委員会は「民族団結促進法」草案を発表した。これは共産党の「民族調和構想」を法制化する包括的立法案であり、批判派によれば強制同化に危険なほど近づいている。また、宗教団体が「国家主義的な『一つの中国』神話を強制的に普及させるべき機関」として、はっきりと示されている。

 現在パブリックコメント募集中(形だけの手続きで、実質的な意味はほとんどない)のこの法案は、「強固な中華民族共同体意識を醸成する」手段として位置づけられている。しかし、統一をうたる言葉の裏には、幼稚園から宗教団体まで、地方政府から一般企業に至るまで、思想統制の緻密な構造が潜んでいる。

 草案は全7章61条で構成され、第2条は民族団結の指針として習近平思想と「社会主義中核的価値観」を明記。「偉大な祖国」「中華民族」「中華文化」「中国共産党」「中国特色社会主義」への認識強化を要求している。「民族団結は幼稚園を含む全教育段階で教えるべきだ。学校は党の民族統一論を反映した国家認定教科書を使用しなければならない」と。

 第20条は全民族の家庭に対し、子供に民族団結の精神を教育し「中国共産党を愛する」よう教えるよう促し、事実上家庭内への思想的監視を拡大している。

 第44条は宗教団体に対し、精神的な教義を党のイデオロギーに合わせる形で、「中国化された宗教と民族団結を推進する」よう要求する。

 第60条は「宗教的過激主義」が犯罪であることを、再確認する。

 第10条は「宗教、人権その他の口実」に基づいて”民族団結”に反対する者を脅威にさらす。

 第19条は、オンラインプラットフォームを含む全てのメディアに対し、”民族の団結と進歩”を促進する義務を課す。

 第31条は、AIやビッグデータなどの現代技術を活用し、党が承認した物語を拡散するよう奨励する。

 第56条は、”民族団結”を損なう個人に対する罰則を導入し、これには「デマ」の拡散や異議表明も含まれる。

 第61条は、”民族団結”への干渉とみなされる外国人及び外国組織の起訴を認める。

Museification of ethnic minorities: a religious book of the Ersu minority on display at the Museum of Ethnic Cultures, Minzu University, Beijing. Credits.

(写真左は、少数民族の博物館化:北京民族大学民族文化博物館に展示されたエルス族の宗教書)

 国際人権団体のHuman Rights Watchは、この法律が「少数民族に対するイデオロギー的統制を強化し、平和的な表現や文化的自律性を犯罪化する危険性がある」と警告。法律の曖昧な表現が異論を封じ、少数派の声を罰するために利用されるおそれがある、と警告している。

チベットの人々の人権問題を扱うInternational Campaign for Tibet は過去に、チベット自治区における類似規制が「既にチベットの文化的・宗教的アイデンティティを侵食している」と指摘していた。

この法案の特徴は、その”包括的な野心”にあり、個人から国家への垂直統合と、分野横断的な水平浸透によって、多元主義の余地をほとんど残さないイデオロギー強制の網を構築を狙っていることだ。

「精神的な故郷の共有」や「共通の運命」への強調は、多様性が単一の物語に適合する場合にのみ許容されるという、ナショナリズム的神話構築の言語を想起させる。

家族生活(第20条)や就学前教育(第15条)への法の介入は、「疑問を持つ前に心を形成する」という”予防的戦略”を示している。民族統一を監視・促進するための現代的監視ツール(第31条)の使用は、デジタル権威主義への警鐘を鳴らす。AIが行動を追跡し、信念を強制する世界だ。

中国の「民族統一と進歩促進法」草案は、イデオロギー操作の青写真となる政策文書である。調和を謳いながらも、その仕組みは均質化を示唆している。統一の名のもとに、保護すると主張する多様性そのものを消し去る危険性をはらんでいる。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

*Bitter Winter(https://jp.bitterwinter.org )は、中国における信教の自由 と人権 について報道するオンライン・メディアとして2018年5月に創刊。イタリアのトリノを拠点とする新興宗教研究センター(CESNUR)が、毎日4か国語でニュースを発信中。世界各国の研究者、ジャーナリスト、人権活動家が連携し、中国における、あらゆる宗教に対する迫害に関するニュース、公的文書、証言を公表し、弱者の声を伝えている。中国全土の数百人の記者ネットワークにより生の声を届け, 中国の現状や、宗教の状況を毎日報告しており、多くの場合、他では目にしないような写真や動画も送信している。中国で迫害を受けている宗教的マイノリティや宗教団体から直接報告を受けることもある。編集長のマッシモ・イントロヴィーニャ(Massimo Introvigne)は教皇庁立グレゴリアン大学で学んだ宗教研究で著名な学者。ー「カトリック・あい」はBitterWinterの承認を受けて記事を転載します。
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2025年10月9日