・「第18回東京-北京フォーラム」平和秩序分科会ー「日中両国は、国連憲章の理念実現へ”外交で勝つ”で切磋琢磨を」

(2022.12.8 言論NPOニュース)

12月7日に開幕した「第18回東京―北京フォーラム」。初日午後には、平和秩序分科会特別セッション「国連憲章の今日的意味と世界の平和秩序の再建」が行われました。日本側司会は言論NPO代表の工藤泰志が、中国側司会は楊伯江氏(中国社会科学院日本研究所所長、中華日本学会常務副会長)が務めました。

まず前半では、「ロシアのウクライナ侵攻と世界の平和秩序の今後」をテーマに議論が行われました。

*「国連中心の集団安全保障体制」「米国の抑止力」「世界の相互依存関係」で維持されてきた平和が壊れ始めている

 

tanaka.jpg 日本側から最初の問題提起を行ったのは田中均氏(日本総研国際戦略研究所特別顧問(前理事長)、元外務審議官)です。田中氏は現状分析として、これまでの世界は「1. 国連中心の集団安全保障体制」、「2. 米国の抑止力」、「3. 世界の相互依存関係」の三点によって平和が維持されてきたとしつつ、「それが壊れ始めている」と指摘。

1に関しては国連憲章を無視したロシアの侵略に対して拒否権を発動できない国連の無力さによってより露になり、仮に中国がロシアに与するようなことがあれば「完全に終わりだ」と強く懸念。

2については中東で間違いを犯した米国の弱体化を指摘し、3については各国による経済制裁の多発が大きな要因との見方を示しました。その上で田中氏は、これら三点の見直しが急務であると主張しました。

*日中関係50年の教訓を欧州で活かすべき

 

徐歩.jpg 中国側から最初の問題提起を行った徐歩氏(中国国際問題研究院院長、国連秘書長ハイレベル諮問委員会メンバー)はまず米国に対する批判を展開。地政学的な大国間競争が起き始めている要因として、国家安全保障戦略やインド太平洋の展開において中国をターゲットとしたり、貿易のみならずイデオロギーをも武器化している米国の行動を、平和秩序を乱すものとして強く批判しました。

徐歩氏は欧州の現状については、政治的・安全保障的な安定のための構造が出来なかったことを問題視するとともに、ここでは日中関係50年の教訓を生かせると提案。特に「歴史を鏡とする」姿勢によって、「ロシアとNATOの歴史をよく考えるべき」と提言。併せて周辺国家とともに共同発展を実現するという習近平主席の国際秩序についての考え方も大いに参考になるだろうと語りました。

日本が安保理非常任理事国になる今後2年間は日中協力のチャンス

神余.jpg 日本側二人目の問題提起を行った神余隆博氏(関西学院大学教授、元国連大使、元駐ドイツ大使)は、「ウクライナ戦争は国連憲章と国際法が禁じる典型的な侵略戦争」と切り出した上で、「中国はロシア非難決議には安保理でも総会決議でも賛成せず棄権している。侵略についての中国の立場は極めて曖昧だ」と苦言を呈しました。

また、北朝鮮のミサイル・核開発の問題に関しても、頻繁なミサイル発射をめぐる北朝鮮非難決議に対して中国とロシアは新たな拒否権を行使して成立を阻止しているとしつつ、「多くの国から見ればなぜ中国が拒否権を行使するのか理解できないと思う。中国はこの問題で北朝鮮に対して影響力を行使しているようには見えない」と批判しました。

続いて神余氏は、日本が来年1月から2年間、非常任理事国として中国と共に安保理の意思決定に加わることを踏まえ、日中協力についても問題提起。自身が国連大使を務めていた2006年から2007年も日本は安保理非常任理事国でしたが、「日中両国は北朝鮮の核・ミサイル開発等の問題で緊密に協力することができた」と振り返りつつ、「来年からの2年間はウクライナ戦争の停戦の実現と北朝鮮や台湾をめぐる情勢が緊張しないように防ぐ上で極めて重要な時期になる。今回も日中は国連安保理において東アジアと世界の平和のために協力すべきである」と主張。

具体的な紛争の平和的な解決や核軍縮、安保理改革といった点に加え、「法の支配」(ルール・オヴ・ロー)「合意は守らなければならない」(パクタ・スント・セルヴァンダ)という国際法の基本中の基本原則が守られていない事態への対処でも協力すべきと語りました。

大国間関係の安定化や国連を補完する仕組みづくりも必要

 

李東燕.jpg 中国側二人目の問題提起を行った李東燕氏(中国社会科学院世界経済・政治研究所研究員)は、国連の設立実現は「諸国民の平和への願いの結実であり、国際法の勝利だ」とその意義を強調しましたが、その限界についてはロシアのウクライナ侵攻以前からすでに露呈していたと指摘し、国連の機能強化のための改革は不可欠であるとしました。

しかし同時に、「大国間関係が悪化すれば国連以前に秩序は悪化してしまう」として大国間関係の安定化への取り組みを求めるとともに、「地域組織やその他の新しい組織、安全保障メカニズム」をつくることで国連を補完することも必要になってくるとの認識を示しました。

問題提起の後、ディスカッションに入りました。日本側からは国連の役割に対するポジティブな評価や抜本的な改革についての発言が相次ぎました。

akashi.jpg 明石康氏(国立京都国際会館理事長、元国連事務次長)は、国連は機能不全という指摘に対して、確かに当初予定されていた国連軍は1947年時点で早々に実現困難となったものの、それでも1956年のスエズ動乱から始まり、世界の平和維持のために様々な活動を行ってきたとしつつ、「全体としては国連は機能してきたのではないか」と評価。ウクライナ問題に際しても、停戦の実効性を確保するために国連ができることはあるとの見方を示しました。

jimbo.jpg 神保謙氏(慶應義塾大学総合政策学部教授)も、「ウクライナ危機の中でも国連ができたことはある」とした上で、国連総会の緊急特別会合がロシアのウクライナ侵攻への非難決議採択を通じて国際的な規範形成をしたことや、マリウポリから退避するための人道回廊設置では役割を果たしたと評価しました。

神保氏はさらに、常任理事国という特別な地位を得ている中国が国連の役割を軽んじることは、中国自身の国益に合致していないと忠告。特に北朝鮮問題を念頭に、自分が絡んでいる対立を国連の場に持ち込んで機能不全にすべきではないと指摘しました。

yamaguchi.jpg 山口壯氏(衆議院議員、前環境大臣、元外務副大臣)は、一つの拒否権だけで機能不全に陥ることがないようにするための安保理改革について提言。米英仏ロ中5カ国が有する拒否権を剥奪するのではなく、理事国の数を増やして、多数決あるいは絶対多数で問題を処理することによって拒否権を行使したとしても議決可能となるようにする、といった改革を模索すべきと語りました。

一方の中国側からは、世界平和を乱しているのは米国であるといった主張や、ウクライナ問題についてもロシア側の事情や歴史的な背景などを考慮すべきといった意見が相次ぎました。

王文.jpg 王文氏(中国人民大学重陽金融研究院執行院長)は過去20年間、アフガニスタンやリビアなどでの失敗を通じて国連は弱体化を続けてきたが、それらはそもそも米国が起こしたトラブルであり、「米国こそが国連憲章の破壊者だ」と糾弾。

ウクライナ問題についても、ロシアの侵攻には反対としつつ、米国からプレッシャーを受ける中国の姿をロシアに重ね合わせながら、「圧迫を受けているというロシアの気持ちはよくわかる」と一定の理解を示しました。

何亜非.jpg 何亜非氏(元国務院華僑事務弁公室副主任、元中国駐国連ジュネーブ代表団大使、元外交部副部長)も、ウクライナ問題の背景は「歴史を踏まえながら分析すべきであり、どちらが悪いか白黒はっきりさせるのは難しい」と慎重な物言いに終始しました。

また、米国に対しては、積極的な同盟の展開を「時代に潮流に則っているのか」と苦言を呈すと、楊伯江氏も同盟展開自体が国連の精神に反するし、それは米国に追随する日本も同様だと補足しました。

趙啓正氏(元国務院新聞弁公室主任、中国人民政治協商会議第11期全国委員会外事委員会主任)も同様の視点から、国連の外部にNATOやクアッドをはじめとして様々な同盟・連携が存在していることが、国連の権威性を弱めていると指摘。同時に、中国はどことも同盟を結んでいないし、「ロシアとの間にも秘密裏の同盟など存在しない」ことを強調しました。

セッションの後半では、「世界の平和秩序の修復で日中はどう協力すべきか」をテーマとして議論が行われました。

*平和秩序修復での日中協力と同時に様々な分野での協力を積み重ねていくべき

 

中国側から最初の問題提起を行った何亜非氏は、世界の平和秩序が困難に直面し、グローバリゼーションが一部崩壊している今、秩序修復のためには協力しかないと切り出しつつ、日中両国は「地政学的対立を理由に隣国に責任を押し付け合うのではなく、協力発展を目指すべき」と主張。平和秩序修復での日中協力を訴えました。

何亜非氏は同時に、これまで世界の中心にあった西側の理念がその限界を露呈しつつある中では、東洋の理念が重要になってくるとも指摘。また、アジアの課題はアジア自身で解決することの重要性を説きつつ、「AIやデジタルでのオープンな技術協力や、経済のデカップリング阻止で日中協力の余地は大きい」とし、こうした様々な協力によるつながりを積み重ねることが結局は平和にもつながっていくとしました。

*大国である日中両国にはウクライナ和平に向けた責任がある

 

日本側から問題提起を行った神保謙氏は、「今我々がこうして議論している最中にもウクライナでは戦闘が続いている」とした上で、大国である日中両国には和平に向けた責任があると指摘。「少なくとも侵攻が始まった2月24日以前の状態に戻すことが望ましいステータスだとロシアに働きかけるべき」としつつ、停戦後の平和維持活動での日中協力が重要と語りました。

神保氏は日中間の課題として他にも、安全保障問題での対立とは別に経済関係の強化は進め、相互依存関係を深めていくことの重要性についても言及しました。

*日本は米国に追随せずに歴史から教訓を汲み取るべき

 

王文氏は、米国に追随し、台湾やウイグルへの干渉を続けたり、中国を軍事的脅威とみなす日本の姿勢に対して「中国国民は当惑している」としつつ、「日本は歴史から教訓を汲み取るべき」と釘を刺した上で、日中関係の今後について提言。未来志向の戦略を共有するとともに、歴史や領土で共通認識を持つべきとしつつ、「中国の姿を冷静に見て、平和的台頭を受け止めてほしい」と注文を付けました。

*カンボジアにおける日中協力をウクライナでの再現に期待

 

明石氏は、国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)代表としてカンボジア和平に携わった際の日中PKO協力を回顧しつつ、ウクライナにおいても「あのような日中協力ができれば」と期待を寄せました。

また明石氏は、ウクライナ和平に向けて米仏はすでに議論を始めているとしつつ、こうしたイニシアティブに加わるだけではなく、「自分たちからも議論をリードしていくことも必要だ。待っているだけでは生産的ではない」とより積極的な行動を求めました。同時に、ノン・ガバメントにも果たすべき役割はあり、有識者の知恵も求められてくると居並ぶ両国のパネリストに語りかけました。

問題提起の後、ディスカッションに入りました。

*まず日中関係再構築。日本は米国だけでなく中国との結びつきも意識すべき

 

cyo.jpg 趙啓正氏は、「まず日中両国間の平和と友好をしっかりと固めること。そこが安定しないとアジアや世界の平和を語っても机上の空論にしかならない」と地道に足元を固めることの重要性を指摘。その上で、北東アジアの平和を実現する上での最大の障害は北朝鮮問題であるとし、ここで日中協力は不可欠との認識を示しました。

趙啓正氏は日米関係に関しても言及。政治・経済・安全保障など多面にわたる強固すぎる関係によって「中国は蚊帳の外に置かれている」としつつ、日本に対しては「中国ともしっかり結びつくべき」と要望し、半導体など技術分野ではそれは十分可能との認識を示しました。

こうした「まず日中関係再構築。そこからアジア、世界」との視点や、技術や貿易など他分野での協力を強固にすべきとの意見は、他のパネリストからも相次ぎました。

*反覇権の考えを広め、外交で勝負する

 

神余氏は、日米関係は「自由、人権、法の支配という価値を共有しているから強固なのだ」と日中関係との違いを強調しましたが同時に、日中両国も価値を越えて協力できることはあると提言。日本と中国が平和条約で合意している「反覇権」の考え方は、「国連憲章にもないユニークかつ重要な原則だ」としつつ、「これを協力して世界に広めることが今後の世界平和の鍵となる」

kudo.jpgと主張。

また、「この反覇権と現状変更のための武力不行使の原則を、すべてのアジア諸国で確認するための国際会議を国連と共に日中が協力して開催できれば世界平和への素晴らしい貢献となる」、「国連憲章の理念を実現するために、日中両国は何事も『戦わずして勝つ』こと、すなわち『外交で勝つ』ことに徹底して、切磋琢磨すべきである」などと語りました。

神保氏もこれを受けて、米中の戦略的な対立とは異なる場面での日中協力は可能とし、「その大元には国連憲章があるべき」と語りました。

議論を受けて最後に工藤は、「まず議論が始まったことが収穫だ」とし、今後さらなる議論の展開に意欲を見せました。

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2022年12月9日