(2025.9.25 Bitter Winter Editor
The Mercator Institute for China Studies (MERICS)* の新たな報告書は、中国共産党がマルクス主義とハイテクを組み合わせて日常生活のあらゆる側面を統制する仕組みを明らかにしている。
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MERICSがこのほど報告書「人民を統制することで人民に奉仕:いかに党が日常生活に改めて入り込んでいるか」を発表。中国で進化する「社会統治モデル」について、明快に語っている。「強制収容所」や「大粛清」についてではなく、抑圧だけでなく、市民生活のゆっくりとした、細やかな再構築、つまり、存在、説得、監視という”ミクロの統治”についてである。
この報告書は、民間企業から住宅団地、学校のカリキュラムからボランティアネットワークに至るまで、中国共産党が社会の毛細血管に自らを埋め込もうとする最新の取り組みを分析している。その目的は、単に「監視」するのではなく、「形成」すること、異論を弾圧するだけでなく、思考や行動の条件そのものを形作ることによってそれを未然に防ぐことにある。
浮かび上がるのは、親密でありながら広範な統治のビジョンだ。毛沢東時代の人民の動員とデジタル時代のデータ化が融合した姿である。かつては上から誘導するだけで満足していた党は、今やあらゆる場所に存在しようとしている。職場にも、子供の教室にも、WeChatのフィードにも、地域の紛争解決委員会にも。スローガン「党はすべてを指導する」は、もはや”修辞的な誇張”ではない。それは”運用における教義”なのだ。
習近平主席の三期目が、決定的な突破口となった。権力を集中させ、巨大ハイテク企業の統制に成功した党は、今や視線を下に向ける。
報告書はこの転換を、分断の危機—改革開放の数十年間で生じた社会的分散、多元化、潜在的な亀裂—への認識に起因している、分析する。解決策は?「人民の 日常の中に、党を再挿入すること」だ。
ここに2023年に設立された中国共産党・中央社会工作部(SWD)が登場する。その権限は広範だ。中小企業における党組織構築、ボランティア調整、市民請願の監督…
これは官僚的なタコのような存在で、ギグ経済(インターネットやアプリを介して、個人がフリーランスとして単発・短期の仕事を受注・請け負う働き方、およびそれによって成り立つ経済)、住宅所有者協会、青年組織など、党の支配が緩んだ領域に手を伸ばすよう設計されている。
2024年2月までに、全ての省が社会工作部を設置した。この展開は緊急性と野心の両方を示している。SWDは単独ではない。報告書は、統一戦線工作部から中央規律検査委員会に至るまで、イデオロギー的覇権維持を担う中央機関の密なネットワークを明らかにしている。これらの機関はあらゆる行政レベルに”複製”され、全国を覆う影響力の網を形成している。
この微細な政治構造の中核にあるのが「グリッド管理」システムだ。2004年に試験導入され、新型コロナの大感染中に拡大されたこの制度は、今やほぼ全ての居
住区をカバーしている。各グリッド(管理の微小区域)には、目まぐるしいほどの多様な任務を遂行する職員が配置されている。地域パトロール、紛争調停、免許証確認、不審行動の通報、イデオロギー教育キャンペーンの組織化などだ。
グリッド職員は、ソーシャルワーカーであり、情報提供者であり、党の伝道師でもある。COVID-19の期間中、450万人以上のグリッド職員が隔離規則を執行した。今日、彼らはパトロールカー、カメラ、通信機器を装備した中国の監視国家の最前線だ。彼らの給与は西洋の基準では控えめだが、巨額の財政負担となっている。北京の順義区だけで、2024年のグリッド職員の給与総額は1億7200万元(2000万ユーロ以上)を超えた。
このグリッド管理を補完するのが、毛沢東時代の”草の根統治モデル”「鳳橋経験」の復活だ。そのスローガン「小さな問題は村を出さず、大きな問題は県を出さない」は、地域解決の精神を凝縮している。しかしこれは古風な共同体調和への回帰ではない。鳳橋式警察活動は深くイデオロギー的であり、習慣的な服従と党規範への反射的承認を植え付けるよう設計されている。
MERICS報告書が説得力を持つと同時に読む者を不安にさせるのは、”人間による監視インフラ”に焦点を当てている点だ。監視は技術的だけでなく、身体化されたものだ。党員、グリッド担当者、ボランティア、愛国的な起業家が順応の担い手として動員される。彼らは規範を伝達し、データを収集し、規律を強制する。多くの場合、正式な権限はないが、暗黙の力を有している。
これは近接性による統治だ。党は”戸を叩く”必要はない。”建物内に既に潜んでいる”のだ。言論を検閲する必要もない。報告書は、幼稚園から大学に至るまで、教育が愛国的内容・国家安全保障意識・習近平思想で浸透している実態を詳述している。生物学の教科書でさえ今やイデオロギー的枠組みを含んでいるのだ。目的は単なる”服従”ではなく、”内面化”だ。国民は党の目標を積極的に声高に支持することが求められる。理想的な国民は、”従順”であるだけでなく”熱狂的”であることだ。
報告書は党の民間経済への浸透に重点を置いて分析している。「愛国的な起業」という概念がその中心にある。企業は国家目標への整合、技術的自立への貢献、党細胞の設置が求められる。2021年の規制では、従業員50名以上の企業は党員の多少に関係なく党細胞を設けることが義務付けられ、党細胞は党政策の普及、結束の醸成、企業と地方政府の連携を担う。
ギグワーカーも対象だ。配達ドライバーは党細胞の結成と地域監視に協力するよう促されている。これは単なる労働権の問題ではない。イデオロギー的統合が目的だ。党は労働者の自主的な組織化を未然に防げ、不満を国家公認のメカニズムへ誘導しようとしている。
習近平主席の中国において、イデオロギーは統治の”付属物”ではなく、”基盤”そのものだ。党の近代化構想は、認識論的権威の主張と不可分である。習近平思想は単なるスローガンの集合体ではない。それは社会現実の設計図である。このビジョンは漢民族中心主義的であり、反西洋的であり、歴史的宿命論に浸っている。党は自らを中国復興の唯一の正当な管理者と見なし、そのモデルを自由民主主義より優越したものと位置づける。報告書は「全過程民主主義」の台頭を指摘する。この概念は「機能不全になっている」と見なす西欧型民主主義と、中国の体制を対比させるものだ。
一方で、報告書は、こうした中国の共産党による国民統制の脆弱性も指摘している。「グリッド管理」は高コストだ。民間部門での党組織構築には労力がかかる。イデオロギーの飽和は倦怠感を招く。党の遍在性は絶え間ない動員を必要とし、経済減速は地方予算を圧迫する。
正当性の問題もある。党が国民に求めるのは「受動的な服従」ではなく、「受容」だ。だが、「幻滅」が特に都市部の若者や民間起業家の間で広まっている。政府・党にとっての課題は、露骨な抑圧に頼らず忠誠を維持することだ。現時点での解決策はマイクロポリティクス—無数の小さな影響力の手綱、無数の接点の展開である。
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報告書は国際的な利害関係者への警告で締めくくっている。中国のマイクロポリティクスは国内だけのものではない。それは企業統治を形作り、グローバルな規範に影響を与え、リベラリズムの前提に挑戦するのだ。党のモデル—強靭で適応力があり、イデオロギー的に一貫した体制—は、発展途上国向けの代替案として位置付けられつつある。
これは1990年代の中国ではない。グローバルシステムへの統合を熱望していたあの中国ではない。今や中国は、それらを自身で形作ろうとしている。統治 のマイクロポリティクスは、より広範な地政学的主張戦略の一部だ。党は単に中国を統治したいのではない。統治そのものを定義したいのだ。
報告書は、冷徹な読み物だ。そこには、「ケアと強制が融合し、監視が日常化し、イデオロギーが空気のように存在する社会」が浮かび上がる。「目に見えずに遍在し、問わずに説得し、統治せずに統治する術を学んだ政治システム」の肖像である。
自由民主主義国の読者にとって、この報告書は鏡であり挑戦だ。それは我々に問いかける。「統治とは何か」「正当性とは何か」「データ万能と幻滅の時代に、権力はいかに機能するのか」を。
習近平の中国において、党は”宮殿”に留まらない。居間にも、教室にも、配達車にも存在する。ただ監視しているだけではない。形作っているのだ。そして報告書タイトルが示す通り、奉仕と統制によってそれを実行している。
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*The Mercator Institute for China Studies (MERICS)は、ドイツと欧州における中国に関する知識と議論を強化するため、2013年にメルカトル財団によって設立された。ベルリンに本拠を置く。欧州、米国、オーストラリア出身の常勤国際研究者約20名を擁し、現代中国とその欧州・世界との関係分析に特化した欧州最大の研究機関。世界の多数の研究機関と連携し、中国に関する最先端研究のための共同プラットフォームを提供する。MERICSフェローシッププログラムでは、欧州・中国・その他地域の第一線専門家、政策アドバイザー、ジャーナリストがMERICSの研究・普及活動に貢献し、その成果を活用できる。MERICS欧州中国人材育成プログラムは若手専門家を集め、現代中国に対する欧州の視座を深化・拡大させている。
(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

