シスター・クレアのいる場所から千キロ以上離れた香港教区の信徒、60歳のカトリック活動家アニーも、「近年の劇的な変化」を感じている一人だ。 30年間、カテキズムを教えてきた熱心な信徒である彼女は、「”竹のカーテン”の向こうで起きていることを何も知らなかった1970年代後半の状況に、今、ほとんど戻ってしまったのです。 中国の司祭、修道女、信徒の中に、電話や電子メール、さらには暗号化されたメッセージでコミュニケーションをとる人はほとんどいません。危険すぎるのです」と語る。
本土の教会の状況について得られる情報はとても乏しく、訪問することは危険だ。 「もはや私には、本土の教区を訪問する勇気はありません」と香港出身のカトリックジャーナリスト、チャンは告白した。「 本土の教区に出向けば、私自身ばかりか、出会う司祭や信徒たちを危険にさらすことになるでしょう。 監視は強化され、教会の前には監視カメラが設置されている。
*「共産党とは対話ではなく、対決するしかない」
「長年の知人と会っても、彼らは何も話さないし、2018年の合意については、なおさら話しません」とアニーは語った。「1990年代から2000年代には、毛沢東主義によって引き裂かれた中国の教会が再び団結するのを期待していましたが、2012年に習近平が権力の座に就いて以来… 習近平は教会を”中国化”し、共産主義イデオロギーに服従させようとしている」とし、教皇フランシスコは、中国側に一定の譲歩をすることで対話を続けようとしているが、「それは幻想に見えます… 中国での数十年の自分の経験を踏まえれが、共産党とは”対話”するのではなく、”対決”するのです」と結論づけた。
「教会、信者をめぐる状況は、それぞれの省や県の当局との関係や、司教がバチカンの承認を受けているかいないか、などで異なるとしても、全体的な雰囲気は暗いと断言できます」と中国の四川省出身で現在は米国に住むカトリック教徒のマリーは語る。
*「教皇は、中国の現状を理解していない」との嘆き
マリーは、2世紀前にパリ外国宣教会の宣教師たちが四川省で布教を始めた時に受洗して以来、10世代にわたるカトリック教徒の家庭に生まれた。今も中国にいる親類、家族と連絡を取り合っているが、多くのカトリック教徒の家族と同じように、”公式教会”に所属するか、”地下教会”に所属するかで分裂している、という。
バチカンは数十年にわたって、分裂を解消したい、と考えてきたが、「中国共産党はこれまでも、常にすべての中国人の生活を管理したい、と考えてきた。しかし、習近平が政権を握って、それが劇的に激しさを帯びてきました」とマリーは説明した。”公式教会”の 多くの司教や司祭が「素晴らしい仕事」をしていることを認めつつ、彼女の家族の多くを含む”地下教会”の信者を擁護する立場だ。
そして、2018年になされた中国国内の司教の任命に関する暫定合意は「大惨事」だ、と言う。 「すべてを破壊する党の支配下に中国の教会を放置すべきではない。現教皇は、中国政府・共産党との妥協が可能だと想像する『左翼のアルゼンチン人イエズス会士』です。 彼は中国を理解していません」。
*「すべてがバラ色ではないが、黒というわけでもない」との見方も
このような見方の一方で、福建省で数日間滞在したシンガポール国立大学のアジアにおける宗教の専門家、ミシェル・シャンボン氏は、2018年の協定の影響について、慎重な見方をしている。
「すべてがバラ色ではないが、すべてが黒というわけでもありません… 私は、暫定合意に従って福建省の邵武教区長に今年一月、任命されたWu Yeshun司教に会って、話をしましたが、信心深い人で、信徒たちに寄り添い、霊的な意識を尊重していました」と述べ、さらに、「私が訪問した福建省の地域では、”公式教会”と”地下教会”の状況は改善しつつあります。合併することなく平和的に共存している。最近、隣接する教区では統合が達成されました」と説明。
そして、福建省の「”公式教会”と”地下教会”の司祭は一緒に祈っています。 これは注目に値する進歩であり、2018年の合意が間違いなくそれに貢献したと言えます」とし、福建省の省都、福州の教区が依然として大きく分裂していることを認めつつ、「地下祭司と公式司祭が一緒に祈っている。これは注目に値する進歩です」と述べ、「交流を育てるのには時間がかかります。バチカンは一歩ずつ進んでいる。中国カトリック教徒の自由を目指す長い行進はまだ終わっていません」と指摘している。