・中国共産党がプロパガンダでモンゴル人のアイデンティティを消そうとしている―南モンゴル出身のジャーナリストのサイトが明らかに(Bitter Winter)

(2026.4.8 Bitter Winter 

 南モンゴル出身のジャーナリスト、ソヨンボ・ボルジン氏の『PropagandaScope』=https://propagandascope.org/は、中国共産党による抹消の仕組みを捉えるための、効果的かつ新たな視点を提供している。

 時折、中国共産党のプロパガンダ体制に対する我々の理解を一新させるプロジェクトが登場する。南モンゴル(中国では「内モンゴル」と呼ばれる)出身で、現在はニューヨーク市在住のジャーナリスト、ボルジン氏によって創設された『PropagandaScope』は、昨年『Bitter Winter』が報じた彼の経歴からもわかるように、ユニークなツールとして際立っている。

 『PropagandaScope』のコンセプトはシンプルだが、その実行力は極めて高い。20の省党機関紙から収集した40万件以上の記事を収録したデータベースを備え、毎日更新され、キーワード検索が可能で、「政治用語が北京から各省へとどのように拡散していくか」を追跡できる。

 これはプロパガンダを観察する顕微鏡のような役割を果たし、これまで断片的にしか見えなかったパターンを明らかにする。さらに深いレベルでは、中国共産党が何に名前を付け、何を消し去ろうとするかの記録としての役割も果たしている。

 ボルジン氏によるこのプロジェクトの紹介は、彼自身の体験に基づいている。2020年、彼は政治再教育クラスへの参加を強制され、そこでモンゴル語は「後進的」な言語であり、科学や現代生活には不向きだと告げられた。彼は、モンゴル人のアイデンティティが単に否定されているだけでなく、その正当性そのものが否定されていることを理解した。5年後、PropagandaScopeは、かつては直感でしか捉えられなかったものを定量化する能力を彼に与えてくれた。彼がデータベースで「モンゴル人」を検索したところ、40万件以上の記事の中で言及はたった1件しか見つからなかった。それも会議のタイトルの中でのことだった。この用語は体系的に削除されていたのだ。

 それに取って代わったのは、無害化された地理的ラベル「北方辺境文化」だった。中国共産党の用語法において、モンゴル人はもはや民族ではなく、単なる場所となったのである。

(ソヨンボ・ボルジン。Xより)A Southern Mongolian journalist spent years studying Chinese propaganda online—and uncovered how it targeted Mongolian identity. AI-generated.

 PropagandaScopeはまた、党のイデオロギーキャンペーンが、国家政策となるはるか以前から少数民族地域に浸透している実態も示している。「中華民族の強い共同体意識を醸成する」というフレーズは、現在では中国の民族政策の礎となっているが、新疆の公式新聞では『人民日報』の17倍の頻度で登場していた。

 チベットと寧夏もそれに続いていた。全国人民代表大会がこのフレーズを正式に法律として採択した時点で、プロパガンダの土台はすでに築かれていた。法律はキャンペーンを開始したのではなく、既存のキャンペーンを承認したに過ぎない。

 このプロジェクトの技術的開発過程は、それ自体が物語っている。ボルジンがアリババクラウドの境界データを用いて中国地図を作成した際、九段線と台湾をとして表示しない限り、地図はレンダリングされなかった。データソースのロジックにおいて、これらの主張を含まない中国は存在しなかった。

 プロパガンダを分析するために設計されたツールでさえ、デフォルトではプロパガンダの上に構築されていたのである。中立的なパブリックドメインのソースデータに置き換えて初めて、正確な地図を描くことができた。この些細な詳細は、中国共産党の情報構造の深さを浮き彫りにしている。党の世界観は単に主張されているだけでなく、組み込まれているのだ。

 PropagandaScope は現在公開中=https://propagandascope.org/=であり、その可能性は計り知れない。研究者は政治スローガンの拡散を追跡し、イデオロギー的焦点の変化を監視し、アイデンティティのカテゴリー全体が消滅していく過程を記録できる。

 活動家は、文化的抹殺の仕組みを暴くためにこれを利用できる。ジャーナリストは、これを見れば、そうでなければ見過ごされてしまうようなパターンを検証できる。そして一般の読者は、中国共産党がどのように合意形成を行っているかを直接目にすることができる。

 このプロジェクトは、中国における真実を求める闘いが、証言だけでなくデータに、勇気だけでなくコードに、ますます依存していることを改めて示している。また、弾圧を生き抜き、沈黙ではなく記録によって応答することを選んだ人々の不屈の精神の証しでもある。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

*Bitter Winter(https://jp.bitterwinter.org )は、中国における信教の自由 と人権 について報道するオンライン・メディアとして2018年5月に創刊。イタリアのトリノを拠点とする新興宗教研究センター(CESNUR)が、毎日4か国語でニュースを発信中。世界各国の研究者、ジャーナリスト、人権活動家が連携し、中国における、あらゆる宗教に対する迫害に関するニュース、公的文書、証言を公表し、弱者の声を伝えている。中国全土の数百人の記者ネットワークにより生の声を届け, 中国の現状や、宗教の状況を毎日報告しており、多くの場合、他では目にしないような写真や動画も送信している。中国で迫害を受けている宗教的マイノリティや宗教団体から直接報告を受けることもある。「カトリック・あい」はBitterWinterの承認を受けて記事を転載している。

 

2026年4月10日

・中国における「ゼロコロナ」政策の突然の終結による死者数は推定200万人ー研究チームが国際調査研究誌に発表(Bitter Winter)

(2026.4.9  Bitter Winter    )

 (COVIDへの「勝利」を祝う医師や救急隊員。Weiboより)Doctors and paramedics celebrating “victory” over COVID. From Weibo.

 2022年12月、習近平はウイルスに対する勝利を宣言し、前例のない抗議活動を恐れて、一夜にして制限的な政策を終了させた。それは大惨事を招いた。

 それまでの3年間、中国は自らが招いた巨大な健康危機の中で機能していた。「ゼロコロナ」政策には、大規模な検査、デジタル監視、マンション一棟全体に影響を及ぼす隔離措置、そして世界の他の地域の規制を穏やかに見せるほどの広範なロックダウンが含まれていた。このアプローチは、規律と国家の力の成功として提示された。

 一時は、その戦略は機能した。他国が感染の波に何度も見舞われる中、中国は厳格な措置によってウイルスの侵入を防いでいた。咳一つで、近隣一帯が封鎖されるほどだった。

 しかし、2022年後半になると、その計画は破綻し始めた。ロックダウンを些細な障害としか見なさない変異株「オミクロン」が、体制の網をすり抜けてきたのだ。数か月にわたり、ますます奇妙な制限が課される中、中国国民は1989年以来見られなかったほどの抗議行動に爆発した。人々はロックダウンの終了を求め、中には習近平の辞任を敢えて要求する者さえいた。

 数日後、政府は近年の公衆衛生史上でも類を見ないほど迅速な政策転換を行った。2022年12月7日、「ゼロコロナ」は終了した。習はウイルスに対する勝利を宣言した。

 しかし、その後待っていたのは、勝利ではなかった。感染が爆発的に拡大し、薬局の解熱剤は数時間で品切れとなり、病院は患者であふれかえり、抗ウイルス薬は入手困難になった。

 3年間にわたり無症状の症例一つひとつを綿密に追跡してきた政府は、突然、死者数の集計を停止した。2023年5月初旬までに報告されたCOVID-19による死者はわずか12万1000人だった。この数字はあまりにも不自然で、政府の最も熱心な統計担当者でさえ躊躇したに違いない。

・・・・・・

 この空白を埋めるように現れたのが、研究者チーム―何国軍、李碩、全玉成―である。彼らは『Journal of Population Economics』(人口経済学のあらゆる分野における独創的な理論研究および応用研究を掲載する国際的な季刊誌)に研究論文を発表した=https://link.springer.com/article/10.1007/s00148-025-01122-2

 この論文はスタンフォード大学中国経済・制度センターによって取り上げられ、中国のネットユーザーの間で大きな注目を集めている。研究者たちのアプローチは巧妙かつ単純だった。「もし国家が一般市民の死者数を公表しなくても、エリート層の死者を隠すことはできないかもしれない」というのだ。中国の学者、党の高官、そして最高政治機関のメンバーは、ひっそりとこの世を去ることはない。彼らの訃報は公にされ、儀礼的なものであり、隠蔽するのは難しい。

 研究者たちは、65歳以上のエリート1万705人に関するデータセットを作成し、2017年から2023年3月までの死亡状況を追跡した。通常は「最高の医療体制」で守られているこのグループの死亡状況は、「ゼロコロナ」政策が突然終了した際に何が起きたかを示す、不吉な指標となった。

 政策転換後の2週間、エリート層の死亡率は正常な水準を維持していた。これはまさに、感染が拡大し、症状が現れ、重症例が悪化するのに必要な期間に相当し、この期間を過ぎた後、死亡率は急上昇した。2022年の最終週、エリート層の死亡数は新型コロナ大感染前の基準値の10倍以上に達した。週間死亡率は通常値の1030%増でピークに達し、翌週には680%増に低下し、2月になってようやく基準値に戻った。

 この惨事は5週間も続かなかったが、年間死亡率への影響は明らかだった。2022年は19%、2023年は24%の増加となった。

 新型コロナ感染では常にそうであるように、年齢が極めて重要だった。85歳以上の男性では死亡率が61%増加し、ピーク時には16倍に急増した。エリート層の間でも、社会的地位は重要だった。最高位の要人――国家指導者やトップクラスの学者――の死亡率が最も高かったのは、医療へのアクセスが不足していたからではなく、高齢であり、新型コロナが付け入る隙となる慢性疾患を発症するほど、長く生きてきたためである。世界的な傾向と同様に、男性の方が女性よりも予後が悪かった。

 エリート層がこれほど深刻な結果に直面したのなら、一般の人々には何が起きたのか。研究者たちは、年齢別・性別ごとの死亡率を一般人口に外挿した。一般市民は、医療へのアクセスが良好な人々と同程度、あるいはそれ以上に脆弱であると合理的に仮定したのだ。

 その結果、65歳以上の推定過剰死亡数は、下限で144万人、上限で256万人となった。これらの数値は、他の研究者による独立した推計とも一致しており、いずれも公式の集計数をはるかに上回っている。

(エリート層の死亡とCOVIDに関する研究者の一人、何国軍(He Guojun)。Xより)

He Guojun, one of the authors of the study on elite deaths and COVID. From X.

 2020年から2023年までの中国の新型コロナ大感染による総死者数は、依然として同規模・同所得の国々と比較して”良好な水準にある。莫大な人的・社会的コストを伴ったものの、「ゼロコロナ」政策は、致死率が高かったオミクロン株以前の波において、大量死を確かに防いだ。だが、健康データではなく、「政治的恐怖」によって促されたこの急激な転換は、救えたはずの命を奪った。

 抗ウイルス薬は不足し、ICUのベッドは足りず、ブースター接種キャンペーンは不完全で、各家庭は不意を突かれた。制限が解除されればウイルスが広がるのは必然だったが、オミクロン株と準備不足の医療体制との衝突が被害を拡大させた。

 悲劇は、中国が封鎖を解除したことではない。問題は、まるでスイッチを切り替えるかのように唐突に解除し、「3年間封じ込められていたウイルスが、体制が追いつくまで待ってくれる」と期待していた点にある。

 習近平は勝利を宣言したが、死亡者欄は別の物語を語っていた。スローガンではなく、名前と日付、そして喪失という静かな現実を通じて。

 結局、エリート層は、研究者たちが描く「観察者」となった。無視するにはあまりにも目立ち、式典なしに葬り去るにはあまりにも重要であり、見過ごすにはあまりにも数が多い集団だ。彼らの死は、政府が隠そうとした真実を暴いた。「ゼロコロナ」が終わった時、ウイルスは単に「戻ってきた」だけではない。一気に猛威を振るい、犠牲者を出したのだ。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

*Bitter Winter(https://jp.bitterwinter.org )は、中国における信教の自由 と人権 について報道するオンライン・メディアとして2018年5月に創刊。イタリアのトリノを拠点とする新興宗教研究センター(CESNUR)が、毎日4か国語でニュースを発信中。世界各国の研究者、ジャーナリスト、人権活動家が連携し、中国における、あらゆる宗教に対する迫害に関するニュース、公的文書、証言を公表し、弱者の声を伝えている。中国全土の数百人の記者ネットワークにより生の声を届け, 中国の現状や、宗教の状況を毎日報告しており、多くの場合、他では目にしないような写真や動画も送信している。中国で迫害を受けている宗教的マイノリティや宗教団体から直接報告を受けることもある。「カトリック・あい」はBitterWinterの承認を受けて記事を転載している。

 

2026年4月10日

(評論)「中国の掃除ロボットを買うと、自宅が”北京”に監視される!?」(Bitter Winter)

(2026.4.6  Bitter Winter    )

 ある事件が、中国製のロボット掃除機が定期的にデータを収集し、本国に送信している可能性があることを示した。

 以前は、「家庭における最大の脅威」といえば、ソファの下に溜まったホコリの塊くらいだった。”単純な時代”だった。

 しかし今や、グローバルな製造網と中国共産党の創意工夫のおかげで、これまで家庭において控えめな役割をしていた掃除ロボットが、野心的な存在へと変貌を遂げている。家電製品に偽装した、Wi-Fi対応でカメラを装備した、「家中を徘徊する偵察ドローン」になったのだ。

 最新の”事件”は先月、あるスペインの最新技術オタクが、中国製ロボット掃除機で”実験”を試みたことから始まった。日本のソニーのプレイステーションのコントローラーを使って、まるで小型戦車のように、その掃除機を操縦することに成功した。

 これは面白い試みだったが、その後、彼は、そうとは知らずに、世界中の何千台もの同様の中国製ロボット掃除機のデバイスへのアクセスを解除してしまった。突然、その掃除機で自分のリビングをきれいにしているだけでなく、24か国に住む見知らぬ人々の家の間取りを”探索”することになったのだ。

 つまり、このロボット掃除機は床を掃除するだけでなく、データも収集していたことが判明したのだ。ライブカメラ映像、屋内マップ、デバイスID、バッテリー残量、そしてどの諜報機関も喜ぶほどのメタデータだ。掃除機の利用者がそれとは知らず、まるで「どうぞお入りください。私たちはスパイされています」と書かれたネオンサインを掲げて玄関のドアを開け放っているようなものだ。

 製造元である中国の企業DJI(深圳大疆創新科技有限公司)—中国軍向けのドローンを製造する防衛関連企業でもある—は、「すべてが誤解だ」と主張し、すぐに問題箇所を”修正”した。当然のことだ。一般市民を安心させるために、軍とつながりのある企業が、「本来知られてはならないバックドアは、おそらくもう閉じている」と発表することほど効果的なものはない。

 だが、この”事件”は、1台の「問題のある」掃除機で終わるわけではない。中国は、世界で最も有名な掃除ロボット「ルンバ」のメーカー「iRobot」を買収した。「ルンバ」は、世界中の600万世帯以上で利用されている。その、長年にわたり欧米の家庭の”地図”を作成してきた「ルンバ」のメーカーが、今や中国の支配下にあるのだ。

 もし北京当局が、あなたの家にカーペットがいくつあるか知ろうと思ったら、そのデータはおそらくすでにクラウドに保存されているだろう。その影響は衝撃的だ。あなたの掃除機が自分の家の間取りを知っているだけでなく、あなたの顔、ペット、家具、そして「先週から放置されている恥ずかしい洗濯物の山」まで認識してしまう未来を想像してみてほしい。

 高解像度のカメラがあれば、掃除機は机のそばを通り過ぎるときに、さりげなくあなたの作業中のパソコン画面を覗き見ることができるだろう。マイクがあれば、「ゴミ出しの当番を巡る口論」を盗み聞きすることもできる。3Dスキャン機能があれば、リビングルームの建築用設計図を作成することさえ可能だ。そして、これらすべてのデータは、”親切”にも、そして黙って、中国のサーバーにアップロードされてしまうのだ。

 このような”未来像”を「偏執的な妄想」と一蹴する人もいる。一方で「無制限の戦争」と呼ぶ者もいる。現実には、現代の家庭は、すでに「監視の楽園」になっている。スマートスピーカーは耳を澄ませ、スマートテレビは監視し、スマート冷蔵庫は食習慣を評価する。北京に監視情報を報告するスマート掃除機が加わることは、家庭内の恥ずかしい光景を覗かれるのは、単に次に進むための論理的な段階に過ぎない。

 多くの西側諸国は、これらのデバイスを両手を広げて歓迎し、セキュリティ対策の施されていないWi-Fiネットワークを提供してきた。その結果、何百万もの家庭が、知らず知らずのうちに世界最大のインテリアデザイン情報アーカイブの作成に”協力”している可能性がある。どこかのデータセンターでは、アルゴリズムがあなたの下着を十分に頻繁に洗っているかどうかを評価しているかもしれない。

 私たちがプライバシーを失うのは、劇的なサイバー攻撃やハリウッド映画のようなハッキングシーンに描かれているようなものではない。人々が指一本動かさずに床をきれいにしたいと願うところから、始まる。中国共産党は政府や企業に潜入する必要がない。必要なのは、掃除機を売ることだけだったのだ。

 今夜、あなたのロボットが部屋の中を無邪気に「ブーン」と音を立てて動き回る時、思い出してほしい。それは吸い取るべきホコリを探しているのではなく、秘密を探しているのかもしれない。あるいはもっと悪いことに、あなたの見栄えの悪い”角度”を探しているのかもしれない…

 安らかにお眠りなさい。掃除機が見ていますよ。

 ・・・・・・・・・・

    *筆者のマッシモ・イントロヴィーネ(1955年6月14日、ローマ生まれ)は、教皇庁立グレゴリアン大学で学んだ著名なイタリアの宗教社会学者。新興宗教運動を研究する学者たちの国際ネットワークである「新興宗教研究センター(CESNUR)」の創設者兼代表を務め、宗教社会学の分野で約70冊の著書と100本以上の論文を執筆している。『イタリアの宗教百科事典』の主要な執筆者。『Interdisciplinary Journal of Research on Religion』の編集委員およびカリフォルニア大学出版局の『Nova Religio』の運営委員を務めている。 2011年1月5日から12月31日まで、彼は欧州安全保障協力機構(OSCE)の「人種差別、外国人排斥、および差別(特にキリスト教徒や他宗教の信徒に対する差別)との闘い」の代表。イタリア外務省が世界規模での宗教の自由に関する問題を監視するために設置した「宗教の自由観測所」の議長も2012年から2015年まで務めた。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

*Bitter Winter(https://jp.bitterwinter.org )は、中国における信教の自由 と人権 について報道するオンライン・メディアとして2018年5月に創刊。イタリアのトリノを拠点とする新興宗教研究センター(CESNUR)が、毎日4か国語でニュースを発信中。世界各国の研究者、ジャーナリスト、人権活動家が連携し、中国における、あらゆる宗教に対する迫害に関するニュース、公的文書、証言を公表し、弱者の声を伝えている。中国全土の数百人の記者ネットワークにより生の声を届け, 中国の現状や、宗教の状況を毎日報告しており、多くの場合、他では目にしないような写真や動画も送信している。中国で迫害を受けている宗教的マイノリティや宗教団体から直接報告を受けることもある。「カトリック・あい」はBitterWinterの承認を受けて記事を転載している。

 

2026年4月7日

・チベットで新たな”医療ミステリー”-若く健康な僧侶が逮捕、拘禁、そして遺体となって寺院に返還(Bitter Winter)

(2026.3.25  Bitter Winter 

  サムテンという名の若いチベット人僧侶の死は、チベットの宗教生活を支配する暴力的な勢力を再び浮き彫りにした。

 12月初旬、彼の遺体は僧院に返還されたが、その際、お決まりの説明が添えられていた―「突然病に倒れ、緊急治療を施したものの、助けることはできなかった」。病気の詳細、病院、あるいは拘束時の状況については、何も明かされず、代わりに、僧侶たちに「起きたことについて口外しないように」との警告が出された。

 チベットにおいて、「黙っているように」は単なる要請ではない。それは命令である。だが、4か月が経ち、3月になって、誰かが語り始めている。

 サムテンは25歳前後だった。彼は、アムド地方北部のパルンにある四大寺院の一つ、「ディツァ・ゲデン・タシ・チョーディン・リン」に所属していた。初代ジェ・シャマル・パンディタによって創建されたこの寺院は、長きにわたりチベット語教育と僧院学問の中心地となってきた。約400人の僧侶が在籍しており、その多くはすでに国家による監視の締め付けを肌で感じている。

 「ディツァ・ゲデン・タシ・チョーディン・リン」は、チベット語の保存で知られている。同寺の僧侶たちは、現代のチベット語教科書用の初期の木版印刷の作成を支援し、言語保存活動にも参加した。当局の目には、この事実だけでも同寺院が政治的に疑わしい存在として映る。チベットにおいて、文化そのものが脅威と見なされているのだ。

 2021年、警察当局はディツァ寺および近隣のジャクユン寺から数十人の未成年僧侶を追放した。僧院共同体を弱体化させ、若い世代への宗教教育の継承を妨害するという、より広範な取り組みの一環だった。

 その同じ年、サムテンは初めて拘束された。彼の罪は一般的な基準では軽微だが、中国の規則の下では重大なものだった。彼はWeChat上で、海外在住のチベット人によって結成された選出された亡命政府である「チベット中央行政機関」の選挙に関する画像や情報を共有していたのだ。

 彼は監視下に置かれた。地元の治安要員が彼を厳重に監視し、寺院そのものも絶え間ない監視の対象となった。チベットでは、ダライ・ラマや亡命コミュニティとのつながりを示す些細な兆候でさえ、政治犯罪と見なされる。

 二度目の逮捕は状況が異なっていた。サムテンは生きて戻ってこなかったのだ。

 寺院内部の情報筋によると、彼は「取り調べ中に激しく殴打された末に死亡した」という。当然ながら、警察はこれを認めなかった。彼らは公式の説明書と共に遺体を返還し、僧侶たちに沈黙を守るよう命じた。彼の家族の行方は不明だ。家族に通知があったのか、圧力をかけられたのか、あるいは口封じされたのか、確認するのは難しい。チベットでは、被拘禁者の家族もまた、被害者を包むのと同じ威圧の雲の中に消え去ってしまうことがよくある。Dhitsa Geden Tashi Chöding Ling monastery.

(右の写真は、ディツァ・ゲデン・タシ・チョーディン・リン寺院)

 サムテンの死は、ダライ・ラマ法王の90歳の誕生日を控えたここ数ヶ月で顕著になってきた傾向を反映している。寺院への家宅捜索が行われ、ダライ・ラマ14世の肖像画が没収され、高位の僧侶が失踪し、国家による政治教育セッションが強化されている。

 ある事例では、尊敬されていた学者が、学生たちの前でダライ・ラマ14世を非難するよう強制された後、自ら命を絶った。この弾圧キャンペーンは組織的かつイデオロギー的であり、容赦がない。その目的は、チベット仏教を統制するだけでなく、それを原型を留めないもの、すなわち自らの伝統ではなく中国共産党に忠実な何かに変貌させることにある。

 サムテンの死の経緯は、不気味なほど見慣れたものだ。政治的または宗教的な理由で拘束されたチベット人は、しばしば拘置中に死亡し、遺体は曖昧な説明と「質問してはならない」という厳命と共に返還される。このパターンはあまりにも一貫しているため、もはや陰惨な儀式と化している。逮捕、沈黙、死、否定、そして強制的な忘却。当局は、関係者に恐怖を与えることで、物語がそこで終わるようにしようとしている。

 だが、政府がそう命じたからといって、物語が終わるわけではない。物語は、ささやきの中に、記憶の中に、そして「仲間の修行者が跡形もなく消え去ることを許さない僧侶たちの静かな決意」の中に生き続ける。物語が消え去らないのは、「サムテンに起きたことが自分たちにも起こり得る」とチベット人が知っているからだ。物語が耐え抜くのは、たとえ埋もれていても、真実はいずれ再び明るみに出るものだからだ。

 サムテンの死は、チベットにおける弾圧の高まりに対する警告である。国家の統制への執着は、メッセージアプリで情報を共有する若い僧侶でさえも、安全保障上の脅威と見なされるほどにエスカレートしている。これは、チベット仏教に対する弾圧が、肉体—若く、非武装の、生きたまま警察の拘置所に入り、死体となって出てくる肉体—を犠牲にして行われていることを思い起こさせる。

 当局は、「サムテンが急病で亡くなった」と主張するかもしれない。彼について語る者たちを脅すかもしれない。恐怖によって起きた出来事が消え去ることを望むかもしれない。しかし、「ディツァ・ゲデン・タシ・チョーディン・リン」の僧侶たちは真実を知っている。そしてチベットにおいて、真実を伝える者がいなくなっても、真実そのものは生き残る道を見出すものだ。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

*Bitter Winter(https://jp.bitterwinter.org )は、中国における信教の自由 と人権 について報道するオンライン・メディアとして2018年5月に創刊。イタリアのトリノを拠点とする新興宗教研究センター(CESNUR)が、毎日4か国語でニュースを発信中。世界各国の研究者、ジャーナリスト、人権活動家が連携し、中国における、あらゆる宗教に対する迫害に関するニュース、公的文書、証言を公表し、弱者の声を伝えている。中国全土の数百人の記者ネットワークにより生の声を届け, 中国の現状や、宗教の状況を毎日報告しており、多くの場合、他では目にしないような写真や動画も送信している。中国で迫害を受けている宗教的マイノリティや宗教団体から直接報告を受けることもある。編集長のマッシモ・イントロヴィーニャ(Massimo Introvigne)は教皇庁立グレゴリアン大学で学んだ宗教研究で著名な学者。ー「カトリック・あい」はBitterWinterの承認を受けて記事を転載します。

2026年3月26日

・少数民族の血筋を断ち、ルーツを断つ―中国が「民族団結進歩促進法」施行へ(Bitter Winter)

(2026.3.16  Bitter Winter  )

 中国・全国人民代表大会(全人代)は12日、民族の「団結」を促進するためとする大掛かりな「民族団結進歩促進法」を承認した。この法律は、少数民族やその言語・文化に対する中国共産党の厳しい姿勢を制度化したもので、少数民族の権利をさらに損なうとの批判も出ている。

 「中国語を学び、文明人になれ」。2020年に中国がオボル・モンゴル(南モンゴル、または内モンゴル)で展開した中国化キャンペーンで用いられたこのスローガンは、「民族団結」を強化するための包括的な取り組みの一環として、標準中国語の優位性を強固にしようとする中央政府の決意を示していた。

 テレビ画面から公共の掲示、教室に至るまで、南モンゴルの人々に向けられたメッセージは明確だった。同化せよ、そして早急に。政府のプロパガンダ担当者は、「すべての民族間の相互交流、相互交換、相互同化を促進し、中国の国民的共通アイデンティティを確固たるものにする」よう呼びかけた。

 地方レベルの幹部たちは、「中国の国民的共通アイデンティティを浸透させるための特別研修」を受けた。公共の看板には「ご協力のお願い――公共の場では北京語を話そう」とXi visiting the Chifeng Museum in Chifeng City, Inner Mongolia. Source: The State Council of the People’s Republic of China.記されていた。

 学童たちは「モンゴル文化」という言葉を使うことを控えるよう促され、代わりに「中国の草原文化」と呼ばれるものを重視するよう求められた。モンゴルの旧正月であるツァガーン・サールのテレビ中継では、伝統的なツァム舞踊やモリン・フールの演奏ではなく、京劇の公演や中国の簫(シュオナ)の演奏が取り上げられるようになった。

 政府はこうした、その程度は様々だが巧妙な手法を通じて、「強い中国国民としての共通のアイデンティティ」を植え付けようとした。しかし、南モンゴル人権情報センターの所長エンゲバトゥ・トゴチョグによれば、このイデオロギー教育キャンペーンの真の目的は、「モンゴルの言語、文化、アイデンティティを完全に根絶すること」にあった。

 これがいわゆる中国共産党の「文明化使命」であり、おそらくは「血筋を断ち、根を断ち、つながりを断ち、起源を断つ」という別の不吉なスローガンに最もよく要約されている。それらの血筋、根、つながり、起源、言語、そして慣習こそが、中国の少数民族グループが「文明化」するのを妨げているとされているのだ。モンゴル語を話したり、フドゥム・モンゴル文字(縦書き)で書いたりするコミュニティは、ウイグル語、チベット語、カザフ語、チワン語、イ族語、その他の普通話(標準中国語)以外の言語を話す人々と同様に、中国の文明基準に達していないとされる。

 これは、「優れた徳(徳)と仁(仁)に満ちた中央国家(中国)が、王権(王化)と高等教育(教化)を用いて、野蛮人を文明の傘下(帰化)に組み入れる」という概念に基づく、中国帝国の文明と野蛮の観念を想起させずにはいられない。野蛮人自身は「生(生)」と「熟(熟)」のカテゴリーに分けられていた――この二項対立は人類学者を際限なく魅了してきたが――皇帝の文明化の担い手たちは、いわば文化の料理人としての役割を果たしていたのである。

 この奇妙な料理的象徴は、意図せずして本質を露呈している。それは、「生の」文化が、腐敗して滅びるのを防ぐために、おそらく中国化を通じて、収穫され、加工され、解体され、調理され、消化され、吸収されるのをただ待っているに過ぎない、と示唆しているからだ。

 真の文明状態に達するためには中国語を学ばなければならないというのは、オーストラリアの中国学者ジェームズ・ライボールドが「中国人であることの意味に関する、漢民族男性による北京中心主義的な定義」と呼んだものの、その一部である。

 表向きは科学的社会主義と国際的プロレタリア革命に基づく体制が、これほど民族主義的で民族中心主義的な見解を採用するのは奇妙に思えるかもしれないが、レーニンでさえ「共産主義者の皮を剥げば、大ロシアの排外主義者が現れる」と警告していたことを忘れてはならない。

 この状況は現代の中国においても依然として関連性を持っている。さらに、ライボールドが指摘したこの態度は、今や法律に明文化されつつある。2026年3月12日、中国全国人民代表大会(全人代)は中華人民共和国民族団結進歩促進法を可決し、習近平総書記の「民族工作の改善・強化に関する重要思想」を法制化した。

 同法は冒頭で、中国を「血縁、共通の信念、文化的類似性、経済的相互依存、そして密接な感情的絆によって結ばれた運命共同体」と長々と述べる前文から始まり、続いて「共有の精神的故郷の構築」、「交流・相互理解・融合の促進」、「共通の繁栄と発展の推進」といった様々な目標を掲げている。同法の目的は、「中国の文化的シンボルと中華民族のイメージ」を中心とした愛国教育や「優れた中華伝統文化」の振興を通じて、「偉大なる祖国、中華民族、中国文化、中国共産党、および中国の特色ある社会主義」への帰属意識を育むことにあるとされる。

 第4章「共同の繁栄と発展の促進」では、「市民的・道徳的発展」の必要性が強調されており、これは「旧来の慣習や伝統を改革」し、「文明と進歩の新たな文化を促進」することによってのみ達成できるとされる。こうして我々は、生と火を通したもの、未開と文明、旧態と現代、後退と進歩という、またしても偽りの区別に直面する。「狭隘な民族感情」を抱いていると非難されてきた少数民族は、中国化され、「中国文化園」(内モンゴルテレビのニュース番組のタイトル)に組み込まれることになる。

 少数民族の言語や文献は博物館の展示物のように扱われ、同法第2章第15条第5項は少数民族言語の標準化、デジタル化、保存を認めているが、それは「生きた人々による継続的かつ日常的な使用を守るためではなく、言語が完全に忘れ去られるのを防ぐため」に過ぎない。研究者ジェシー・セグラとフィルカ・セクロヴァは、「抵抗の形態としての内モンゴルの詩と歌」に関する調査の中で、「モンゴル文化の抹消と博物館化」を警告していたが、ここには政府の文化的最終目的が、ほとんど隠すことなく露呈している。

 中国の新たな「民族団結・発展促進法」は、基本的に勧告的な性格が強く、一般的な政策声明に重点が置かれており、驚くほど実質的な内容が薄い。しかし、第5章と第6章では執行メカニズムが扱われている。中国市民は「民族団結と発展を損なう」活動を報告するよう促され、文化分野における行為が国益を損なうと認められた場合、国家検察院は公益訴訟を提起する権限を与えられている。とはいえ、実際の法の適用は、大部分において既存の刑法規定によって行われることになる。

 興味深いことに、同法第63条は、「中華人民共和国を標的とし、民族の団結と進歩を損なう、あるいは民族の分裂を招く行為」を行ったとみなされる外国の組織や個人に対する管轄権を規定しており、これは将来、国際的な人権活動家の活動に影響を及ぼす可能性がある。

内モンゴル自治区チフン市のチフン博物館を視察する習近平氏。出典:中華人民共和国国務院。

 この新法の重要性は、その条文や執行メカニズムではなく、そのイデオロギー的要素にある。同法は、漢民族中心の「中華文化」を中国の「幹」とし、その他55の少数民族を「枝葉」として、早急な剪定を必要とするとする習近平の民族政策を明文化したものである。南モンゴル、チベット、東トルキスタン、その他の地域において、「公民的・道徳的発展」が何を意味するかは、今や周知の事実である。

 ここ数日、「ビター・ウィンター」のまさにこのページで、カザフ人学者アディル・セメイハヌリが、新疆の刑務所で6年半の刑を言い渡されたという報道を目にした。その罪状は、「(カザフの詩人アバイ・クナンバエフの)教えを否定的に宣伝した」ことや「独自の世論を形成した」という、途方もなく曖昧なものであった。

 『民族団結と進歩の促進に関する法律』は、個人や家族から企業や大衆組織、住民委員会や宗教機関から軍や報道機関に至るまで、中国社会のあらゆる側面を動員し、統合を促進するとともに、「民族憎悪、民族差別、あるいは民族の団結と進歩を損なうその他の内容を含む情報」の拡散を防止することを目的としている。この新法の施行により、「独自の世論を形成した」や「民族の団結と進歩を損なった」として告発され、アディル・セメイハヌリと同様の苦境に立たされる者は、今後さらにどれほど増えるのだろうか。

 南モンゴルにおけるモンゴル語使用弾圧の初期、シリンホトの電気溶接店の壁面に、伝統的なモンゴル文字で書かれた抗議のが掲示されていた。その内容は以下の通りだ。

 生ぬるい生き方より、燃え尽きる死を選ぶ、 なぜ背を曲げて生き続けねばならないのか? なぜ我々は尊厳のない人生を送らねばならないのか? 燃え尽きるなら、弱々しく揺らめくのではなく、自らを焼き尽くそう。 消え去るなら、ゆっくりと蒸発するのではなく、煮え立つように消え去ろう。

 ほぼ同時期に「ハリーン・エジン」というペンネームで書かれた別の詩は、息苦しい言語・文化規制に従わざるを得ない人々に対し、「厳しい選択の前にひざまずいたからといって、自分を責めるな」と促しつつも、次のように宣言していた。

 子供たちに伝えなければならない 同じ過ちを繰り返すな たとえ命を犠牲にしても 自分の言語を忘れるな。

 

 北京当局がこの地域でモンゴル語と伝統文化を根絶しようとする冷酷な試みが行われていることを考えれば、こうした心情は理解できる。その試みは抗議やボイコットの勃発を引き起こし、ひいては激しい弾圧と監視の強化につながり、中央政府による「民族工作の強化」に向けた新たな推進の正当化材料となったのだ。

 今や、中国国内外の活動家たちが同様に結束して、「民族団結・発展促進法」の勢いに抗い、中国の少数民族の言語と文化を守り、政権の明確な意向に反して、彼らの古来の伝統が「生きている人々による日常的な使用」の一部であり続けられるようにしなければならない。

「生ぬるい生き方」は理想とは程遠いかもしれないが、これらのコミュニティは長期戦を強いられている。そこで思い起こされるのが、オーストリアの詩人ライナー・マリア・リルケの言葉だ。彼はこう問いかけ、修辞的な問いを投げかけた。「Wer spricht von Siegen? Überstehen ist alles」——「誰が勝利などと言うのか? 耐え抜くことこそがすべてだ」。

 これらの文化、言語、伝統は何世紀にもわたって続いてきたものであり、どれほど多くの「穏やかな注意」や強引な法律が押し付けられようとも、今後何世紀にもわたって確実に続いていくだろう。とはいえ、政府が「共有の精神的故郷」と呼ぶものを築こうと絶えず努力している現状を考えると、容易なことではないだろう。しかし、中国の少数民族の人々にとっては、それはまさに監獄と映るかもしれない。その礎は、先祖たちの沈黙させられた言葉と埋もれた記憶の上に築かれているのだから。

 

*筆者のマシュー・オモレスキーは、人権弁護士であり、文化遺産保護分野の研究者だ。以前か、スロベニア・リュブリャナのInstitut za Civilizacijo in Kulturo(文明・文化研究所)の客員研究員を務め、現在は英国王立人類学協会のフェロー。The American SpectatorQuadrant誌に頻繁に寄稿している。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

2026年3月17日

・台湾制作の演劇上演中止を要求する”ストラスブールの戦い”で中国が敗北、だが海外での文化圧力は続く(Bitter Winter)

 (2026.3.13  Bitter Winter  )

(写真下:演劇『Ceci n’est pas une ambassade』の一場面=出典:台湾国立劇場)

A scene from the play “Ceci n’est pas une ambassade.” Source: Taiwan’s National Theater.

 今回は、北京が敗北した。しかし、神韻(シェンユン)の事例を含め、他のケースでは劇場側が中国の圧力に屈している…

 フランスと台湾のメディアによると、現地の中国総領事館は2月初旬、仏ストラスブール市の劇場「ル・マイヨン」の主要出資者である同市当局に対し、劇場が予定していた演劇『Ceci n’est pas une ambassade(これは大使館ではない)』の上演の中止を要求する書簡を送った。ジャンヌ・バルセギアン市長は、「このような他国の介入は、極めて重大な問題。芸術の自由はフランスの国法で保護されている」と要求を拒否。国の地域文化局に報告した。

 台湾の文化機関、香港の活動家、ウイグル系団体、あるいは法輪功の信者など、中国が「好ましくない」とレッテルを貼った集団を沈黙させたり疎外したりしようとする中国の試みは、国境を越えて広がっており、深刻な人権上の懸念を引き起こしている。こうした行動は、検閲を輸出しようとし、表現の自由を制限し、民主主義社会における公的な言説を形作ろうとするものだ。

 ”ストラスブールの戦い”は、文化外交がいかにして政治的影響力の争いの場となり得るかを示しており、民主主義機関が警戒を怠らないことの必要性を浮き彫りにしている。

・・・・・・・

 ストラスブールで上演されるドキュメンタリー形式の作品は、2000年に独フランクフルトで結成された演劇家集団 Rimini Protokollと台湾国立劇場・コンサートホールが共同制作したもの。台湾大使館の開館を模し、台湾の不明確な国際的地位を探求する内容で、民主的統治への脅威に焦点を当てたフェスティバル「Démocraties en jeu」の開幕イベントとして選ばれていた。

 劇場のディレクターが中国領事館からの連絡に応じなかったため、副総領事は問題をエスカレートさせ、劇場の主要な資金提供者であるストラスブール市に直接書簡を送り、「この公演は、中仏関係に悪影響を及ぼす」として中止を要求した。

 今回の市長の中止要求拒否に対して、中国総領事館は、メディアの取材に応えず、駐仏中国大使館や中国外務省も同様だった。中国の国営メディアも沈黙している。

(写真右*ストラスブール市長のジャンヌ・バルセギアン)Strasbourg’s mayor, Jeanne Barseghian. Credits.

 台湾メディアはこのニュースを取り上げ、「自由時報」は駐仏の台湾代表処の声明を掲載し、政治的圧力に屈しなかったストラスブール市当局を称賛するとともに、「台湾の声が沈黙させられてはならない」と強調。「SETニュース」は、パリの台湾文化センターに、公演が予定通り行われることを確認し、「現地での支持も強い」と報じた。

 「リンガ・シニカ」の報道によると、出演者のクオ・チアヨ氏はソーシャルメディア上で、民主主義をテーマとしたフェスティバルでの公演を領事館が抑圧しようとしたことは、「反民主主義の側が誰であるか」を浮き彫りにしたに過ぎない、と指摘した。

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ストラスブールでの中国領事館による演劇上演の中止要求は、中国の外交公館が外国政府、文化機関、大学、民間会場に対し、北京の政治的ナラティブに反するコンテンツを検閲するよう圧力をかけるという、より大きな傾向の一環だ。こうした動きは、台湾のアイデンティティの表現、ウイグル人やチベットへの言及、そして中国政府が好ましくないと見なす集団への言及などを標的とすることが多い。

 最も明白な例の一つが、法輪功と関連する舞台芸術団体「神韻(Shen Yun)」に対する、現在も続く圧力キャンペーンだ。中国の大使館や総領事館は、世界中の劇場に対し、神韻公演の中止を繰り返し求めており、その際、ストラスブールでの主張と同様の論理―公演の開催は二国間関係を損なう―を用いることが多い。また、「神韻が”カルト”を宣伝している」と主張している。いくつかの国では、現地メディアが北京の主張を鵜呑みにし、中国政府による法輪功や神韻へのレッテル貼り、あるいは反カルト団体から提供された情報を繰り返している。こうした海外メディアの報道と中国政府のプロパガンダとの一致は、文化的な検閲を正当化することを容易にしている。

(写真左*ローマでの「神韻」の公演)A Shen Yun show in Rome.

 ストラスブールでの出来事が重要なのは、中国の政治的圧力が各国政府にとどまらず、地方自治体、文化機関、そして個々のフェスティバル主催者にまで及んでいることを示しているからだ。これは、北京が外交問題だけでなく、欧州の文化プログラムにも直接影響を及ぼそうとしていることを示している。

 また、公的資金に依存し、物議を避けるよう圧力を感じる可能性のある芸術機関の脆弱性も浮き彫りにしている。さらに、表現の自由に対する法的保護が強力な民主主義社会においてさえ、台湾に関する物語を支配しようとする中国の試みが激化していることを明らかにしている。

 そうした中での、ストラスブールの市長と文化当局の対応は注目に値する。芸術の自由はフランス法の下で保護されていると表明し、公演の中止を拒否したことで、彼らは外国の政治的干渉に抵抗する先例を作った。

 彼らの立場は、権威主義的な影響力に対する欧州全体の懸念と一致しており、地方当局が法的保護を堅持し、外部からの圧力を拒絶することで、抵抗が可能であることを示している。しかし、神韻(Shen Yun)の場合のように「カルト」というカードが切られた場合、結果は異なるかもしれない。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

*Bitter Winter(https://jp.bitterwinter.org )は、中国における信教の自由 と人権 について報道するオンライン・メディアとして2018年5月に創刊。イタリアのトリノを拠点とする新興宗教研究センター(CESNUR)が、毎日4か国語でニュースを発信中。世界各国の研究者、ジャーナリスト、人権活動家が連携し、中国における、あらゆる宗教に対する迫害に関するニュース、公的文書、証言を公表し、弱者の声を伝えている。中国全土の数百人の記者ネットワークにより生の声を届け, 中国の現状や、宗教の状況を毎日報告しており、多くの場合、他では目にしないような写真や動画も送信している。中国で迫害を受けている宗教的マイノリティや宗教団体から直接報告を受けることもある。編集長のマッシモ・イントロヴィーニャ(Massimo Introvigne)は教皇庁立グレゴリアン大学で学んだ宗教研究で著名な学者。ー「カトリック・あい」はBitterWinterの承認を受けて記事を転載します。

2026年3月14日

・宗教花火禁止令に中国広東省の陸豊市で反旗、スクーターで花火、スマホによる動画拡散など市民が集団抵抗(Bitter Winter)

(2026.3.12 Bitter Winter     News China

 中国では花火は政治的道具だ。政府は、党の記念日や国家式典で華やかな花火を使って自らを称える。だが、その同じ当局が宗教行事や地方の伝統行事では頻繁に花火を制限あるいは禁止する。

 この矛盾は、広く嫌われており、3月上旬、広東省の県級都市、陸豊市で、予期せぬ反乱を引き起こした。数千人の住民が警察と対峙し、最も強力な道具であるスマホを使った。彼らはあらゆる対立を録画し、弾圧を国内外に暴露すると脅した。爆竹禁止から始まった事態は、稀な集団抵抗へと発展した。

Protesters launch fireworks, defying the ban.

(Photo:Protesters launch fireworks, defying the ban.)

 陸豊の「遊神」祭りは、この地で最も重要な民俗行事だ。旧正月には村人たちが訪れる神々を、山積みの爆竹と花火で迎える。街は煙と騒音、祈り、共同体の結束感に包まれる。地元住民はこの儀式を「祝福の戦場」と表現し、繁栄と豊穣を祈る。

 しかし今年は、当局が祭の期間中における爆竹の全面禁止を強行。住民からの強い反対を無視した措置だった。住民は禁止令を自らのアイデンティティへの攻撃と捉え、国家の”選択的寛容”の典型例とみなした。「党のためなら花火を、神々のためなら沈黙を」という姿勢だ。花火こそが遊神祭の核心だ。花火なしに祭りは成り立たない。

 最初の火花が散ったのは3月5日。禁止令を受け入れぬ若者たちが電動スクーターで街を駆け抜け、公然と花火を打ち上げた。数名が拘束されたが、逮捕は怒りに拍車をかけるだけだった。拘束の様子を捉えた動画は瞬く間に拡散し、明確なメッセージを伝えた―当局が武力を行使すれば、全国民がその姿を目撃するだろうと。

 祭りの大団円を控えた6日夜、政府は、さらなる抵抗を阻止すべく数百人の警察官を市の中心部に投入した。だが、その人数を上回る多くの若者が城隍廟のある東海街道に集結。リュックや籠に花火を詰め込み、スクーターで路地を縫うように移動した。警察車両を追いかけ、挑発的に車両の後方で爆竹を鳴らす者もいた。警察は追加逮捕を行ったが、群衆は道路封鎖やバリケード設置で応じ、警察車両を包囲して被拘束者の連行を阻止した。

 7日未明、緊張は頂点に達した。警察が群衆を扇動する男を拘束しようとした際、住民が押し返した。他の地域では、市民を拘束しようとした警官が数百人に取り囲まれる事態となった。圧倒され、数で劣った警察は市街地から撤退した。

 その後、市内全域で自発的な爆発が起きた。住民たちは隠していた花火の備蓄を取り出した。何時間も空は色と音で照らされた。路地や屋上からは爆竹の音が響き渡った。魯豊は一つの連続した反抗の波へと変貌した。花火は午前8時まで続き、祭りのクライマックスを迎えた。城隍廟から城隍神が運び出された轟音のBGMに包まれながら、神は厳かな行列で街を進んだ。

 活動家や政治団体が陸豊の反乱を主導しThe weapon of choice: smartphones.たわけではないのではないか。「魯豊の反乱」はさらに広範な疑問を投げかける。これは孤立した火花なのか、それとも中国による地域伝統への厳格な統制が限界に達しつつある最初の兆候なのか?いずれにしても、当局は、祭りを止められなかった。市民たちは自らの「勝利」を祝った。

Protesters confront the police.Protesters confront the police.

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

*Bitter Winter(https://jp.bitterwinter.org )は、中国における信教の自由 と人権 について報道するオンライン・メディアとして2018年5月に創刊。イタリアのトリノを拠点とする新興宗教研究センター(CESNUR)が、毎日4か国語でニュースを発信中。世界各国の研究者、ジャーナリスト、人権活動家が連携し、中国における、あらゆる宗教に対する迫害に関するニュース、公的文書、証言を公表し、弱者の声を伝えている。中国全土の数百人の記者ネットワークにより生の声を届け, 中国の現状や、宗教の状況を毎日報告しており、多くの場合、他では目にしないような写真や動画も送信している。中国で迫害を受けている宗教的マイノリティや宗教団体から直接報告を受けることもある。編集長のマッシモ・イントロヴィーニャ(Massimo Introvigne)は教皇庁立グレゴリアン大学で学んだ宗教研究で著名な学者。ー「カトリック・あい」はBitterWinterの承認を受けて記事を転載します。

2026年3月13日

・国連の人権関係の専門家たちが中国におけるウイグル族、チベット族その他の少数民族への強制労働に懸念表明

 (2026.1.28 カトリック・あい)

 国連人権高等弁務官事務所がホームページで明らかにしたところによると、 国連の人権などに関する専門家たちが22日付けで声明を発表。中国の新疆ウイグル自治区及びその他の地域におけるウイグル族、カザフ族、キルギス族の少数民族グループならびにチベット人に対する強制労働の持続的な申し立てについて深い懸念を表明した。同ホームページによる内容は次の通り。

 声明で専門家たちは「中国の複数省にわたり、少数民族を対象とした国家による強制労働の申し立てが、持続的なパターンとして存在する」とし、「多くの事例において、強制的な要素が極めて深刻であり、人道に対する罪としての強制移送及び/または奴隷状態に相当する可能性がある」と指摘した。

 専門家たちによれば、中国における強制労働は、国家が義務付けた「労働移転による貧困削減」プログラムを通じて可能、とされている。このプログラムは、ウイグル族及びその他の少数民族を新疆及びその他の地域での労働に強制的に従事させるものだ。彼らは体系的な監視・監視・搾取に晒され、処罰や恣意的拘禁への恐怖が蔓延しているため、仕事を拒否したり変更したりする選択肢がないとされる。新疆の5カ年計画(2021~2025年)では1375万件の労働移転を想定しているが、実際の数は過去最高に達している。

 専門家によれば、チベット人も「訓練・労働移転行動計画」といった類似の制度を通じて強制労働を強いられており、「農村余剰労働力」の体系的な訓練と移転が求められている。「これらの政策は軍事式職業訓練といった強制的手法を正当化するものである。2024年に労働移転の影響を受けるチベット人の数は約65万人に達すると推定される。

 チベット人はまた、「全村移転」プログラムを通じて強制的に移住させられている、と報告されている。このプログラムでは、繰り返し家庭訪問を行う、暗に処罰をほのめかす、批判を禁止する、あるいは生活に不可欠なサービスを停止すると脅すなど、同意を強制的に作り出す手段が用いられている。

 「2000年から2025年にかけて、”遊牧民の定住化”を目的とした家屋再建を義務付ける政府プログラムにより、約336万人のチベット人が影響を受けた。公式統計によれば、村単位移転または個別世帯移転を通じて約93万人の農村チベット人が移住させられている」と専門家たちは述べた。

 「労働移転は、貧困対策という名目でウイグル族やその他の少数民族、チベット人の文化的アイデンティティを強制的に再構築する政府政策の一環だ」と警告している。

 また声明は、「労働と土地の移転は、彼らを賃金労働を余儀なくされる場所へ強制移住させることで、農業や遊牧を基盤とする伝統的な生業を強制的に変えてしまう」とし、「結果として、彼らの言語、選択した共同体、生活様式、そして文化的・宗教的慣行が侵食され、取り返しのつかない損害と損失をもたらしている」と批判した。

 専門家たちはまた、強制労働によって生産された商品が第三国を経由して間接的にグローバルサプライチェーンに流入することに対し深刻な懸念を表明し、現在行われているサプライチェーン規制における対象を絞った中国に対する貿易制限や人権デューデリジェンス(企業が自社の事業やサプライチェーン―取引先・原材料調達先など―において、強制労働、児童労働、ハラスメントなどの人権侵害リスクを特定・評価し、その負の影響を防止・軽減、是正し、結果を外部に情報開示する一連の継続的プロセス)の全体的な有効性について広範な疑問を提起。

 そのうえで、専門家たちは、中国で事業を展開し調達を行っている投資家や企業に対し、国連ビジネスと人権に関する指導原則(2011年に国連人権理事会で全会一致で支持された企業活動における人権尊重の国際的規範。「人権を保護する国家の義務」「人権を尊重する企業の責任」「救済へのアクセス」の3つの柱から成る)に沿った人権デュー・ディリジェン実施し、サプライチェーン関連のリスクを考慮するよう要請。「企業は自らの事業活動とバリューチェーンが強制労働によって汚されていないことを保証しなければならない」とし、独立した国連人権メカニズムの中国への自由なアクセスを改めて求めている。

 今回の声明をまとめた専門家は小保方 智也(現代の奴隷制(その原因と結果を含む)に関する特別報告者)、アレクサンドラ・ザンサキ( 文化的権利分野の特別報告者)、アシュウィニ・K・P( 現代の人種差別、人種的差別、外国人嫌悪及び関連する不寛容に関する特別報告者)、シボーン・マラリー( 人身取引(特に女性及び児童)に関する特別報告者)、ビジネスと人権に関する作業部会のダミローラ・オラウィ議長、ロバート・マッコーコデール副議)、部会メンバーのフェルナンダ・ホーペンハイム、ライラ・ヤクレーヴィチェンエ、ピチャモン・ヨープアントン。

 特別報告者/独立専門家/作業部会は、国連人権理事会によって任命された独立した人権専門家。これらの専門家は総称して、人権理事会の特別手続の専門家と呼ばれる。特別手続の専門家はボランティアとして活動しており、国連職員ではなく、その活動に対して給与は支給されない。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が特別手続の事務局を務めるが、専門家は個人資格で活動し、OHCHRや国連を含むいかなる政府や組織からも独立している。表明される見解や意見は、あくまで発表者個人のものであり、必ずしも国連やOHCHRの見解を代表するものではない。

 特別手続、条約機関、普遍的定期的審査(UPR)を含む国連人権メカニズムによる国別観察・勧告は、ユニバーサル・ヒューマン・ライツ・インデックスで閲覧可能である。https://uhri.ohchr.org/en/

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

2026年1月28日

・世界で迫害されているキリスト教徒は前年比800万人増の3億8800万人で過去最高にーOpen Doorsが2026年版「世界監視リスト」を発表

2026年1月16日

・新年早々、中国で影響力のあるプロテスタント教会が弾圧を受け、牧師や長老が逮捕

(2026.1.10  カトリック・あい) 英国の国営放送BBCが8日付けで伝えたところによると、  中国で共産党・政府による支配を拒む地下教会運動に対する弾圧が強化されていると見られる中、影響力のあるプロテスタント教会が声明を出し、牧師や長老など有力指導者が逮捕されたことを明らかにした。

 

*BBCの報道は以下の通り。

 「早雨契約教会」によると、火曜日に警察が中国四川省の省都、成都にある自宅と教会事務所を家宅捜索し、9人が拘束された。水曜日までに5人が釈放された。

宗教迫害を監視する非営利団体China Aidが入手した映像によると、1000マイル以上離れた温州では、当局が屹陽教会の建物の解体を開始した。

(右の写真は、雅陽教会の一部が撤去される様子と思われる映像)

  キリスト教団体によれば、昨年にも同様の逮捕が相次いだが、今回の新たな逮捕の波は、共産党が自らのイデオロギーに合致しない教会を根絶しようとする決意を示している、という。

 BBCは中国大使館にコメントを求めたが、当局は逮捕や温州での建物取り壊しについて何の声明も出していない。

 中国は無神論を推進し、宗教を統制している。政府は2018年、国内に4400万人のキリスト教徒がいると発表したが、この数字に多くの地下教会に通う信徒が含まれているかは不明だ。

 共産党は長年、キリスト教徒に対し、政府が認可した牧師が率いる国家公認の教会のみに加入するよう圧力をかけてきた。

 しかしキリスト教団体によれば、取り締まりは明らかに強化され、逮捕がより頻繁かつ迅速に行われるようになっているという。

 中国国内の教会指導者少なくとも2名がBBCに対し、当局が認可されていない教会指導者を迅速に逮捕していると伝えた。過去には、こうした個人にはまず警告が与えられ、次に罰金が科され、それでも命令に従わない場合にようやく拘束されるという手順が取られていた。

 

 

*習近平政権下で、中国は宗教の自由に対する締め付けを強化している

 

 つい数週間前、早雨契約教会の現指導者である李英強は「嵐が迫っているのを感じる」と述べ、「間もなく…またも大規模な弾圧が行われる見通しだ」と指摘していた。「どうか私たちの家族が二度とこのような嵐に遭わずに済みますように」と彼は11月に教会メンバー宛ての手紙に記した。「しかし主によってあなたがたの中に立つように任命された長老として… 嵐が再び訪れる前に備えるよう皆に呼びかけるのが私の責務だ」とも。

 李氏と妻の張新悦氏は、現在も拘束されている4名のうちの一人だ。同教会は今回の逮捕を「組織的な作戦」と表現したが、逮捕の根拠や被拘束者への起訴の有無は依然不明だと述べた。さらに他の2名の信徒と連絡が取れなくなったと付け加えたが、拘束されたとは明言しなかった。「状況は進行中であり、具体的な詳細はまだ完全に確認されていない」と、早雨契約教会(ERCC)は会員と支援者への声明で述べた。また、会員の安全とキリスト教信仰における忍耐のための祈りを求めた。

 温州市では、今週初め、地元当局がブルドーザー、クレーン、重機を動員し、動画で見られるように、雅陽教会建物の一部解体を開始した。ChinaAidによれば、複数の情報源から、数百人の武装警察と特殊警察が建物の外で警戒に当たっていると伝えられた。

 「中国のエルサレム」とも呼ばれる温州は、国内で最も多くのキリスト教徒を抱える都市だ。ChinaAidによれば、雅陽教会の近隣住民は「追い出され」、同地域で働く者には写真や動画の撮影を禁じる指示が出されている。

 中国援助協会創設者のボブ・フー氏は「二大独立教会ネットワークに対する大規模な動員は、教会が党のイデオロギーに完全に同化しない限り、中央政府がキリスト教教会を根絶しようとしていることを示している」と述べた。

 

 

地方当局は屹陽教会建物の一部解体を開始した

 

 昨年12月、温州の屹陽教会の信徒約100名が5日間にわたり当局に拘束された。ヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、少なくとも24名が現在も勾留中である。

 また昨年10月には、中国最大級の地下教会であるシオン教会の指導者30名が7都市で一斉に拘束された。創設者のエズラ・ジンは現在も勾留中だ。

 中国政府は2008年に設立された「早雨契約教会」も長年標的にしてきた。2018年には当局が教会を急襲し、創設牧師の王毅と妻の江蓉を逮捕した。少なくとも100人の信徒がその後数日間で拘束され、これは過去10年間で中国最大規模の教会弾圧の一つとなった。

 中国共産党の宗教政策を公然と批判してきた王牧師は「国家権力転覆扇動罪」と「不法営業罪」で有罪判決を受け、2027年の釈放予定となっている。

 同教会はオンラインでの集会を継続し、時折王牧師の説教録音を信徒に流している。ヒューマン・ライツ・ウォッチの中国調査員ヤルクン・ウルヨルは、中国の首相を指して「習近平政権はイデオロギー統制を強化し、中国共産党以外の忠誠心に対する不寛容さを強めている」と述べた。「世界中の関係各国政府と宗教指導者は、中国政府に対し、拘束された信者を解放し、中国における宗教の自由を尊重するよう圧力をかけるべきだ」

 習近平政権下で、中国は宗教の自由に対する統制を強化している。2015年以降、彼は「宗教の中国化」を呼びかけており、これは宗教の教義や実践が中国の文化や価値観に適合することを要求するものである。

 昨年、当局は政府が承認したプラットフォーム上で行われる場合を除き、あらゆる宗教の聖職者がソーシャルメディアで生配信による説教を行うこと、子供向けのオンライン活動を組織すること、オンラインで資金調達を行うことを禁止した。

 

2026年1月11日

・「中国で人権侵害と宗教弾圧が広範、多岐にわたり進んでいる」-米議会上下両院合同委員会が年次報告書発表

(2026.1.5  Bitter Winter   editor   )

 米議会上下両院合同の行政中国委員会(CECC)がこのほど、2025年年次報告書を発表。中国における人権侵害と宗教弾圧が広範、多岐にわたり、深刻であることを確認した。

 報告書には、Bitter Winterが『信頼できる情報源」として、随所の引用され、宗教迫害に関する報道だけでなく、一人っ子政策の長期的な人口動態的影響を含む広範な社会問題に関する報道においても、その高い信頼を得ている。報告書は中国における人権と統治に関して17の章に分けて詳述しているが、以下では、特に第3章「信教の自由」に焦点を当てて要約する。

・・・・・・・・・・・・・・

 報告書は、結論として、中国共産党・政府が、個人や集団が自由に宗教的信念を形成し実践する能力を制限し続け、党と国家への忠誠を軸に宗教生活を構築している、と指摘。具体例として、共産党統一戦線工作部主導による全国的な組織的キャンペーンを記述している。

 これは「宗教の厳格な統治」と称される概念に基づく”聖職者訓練”であり、根底には習近平主席が2015年に提唱した宗教の「中国化」があり、公式に認められた全ての宗教組織における”宗教教育”が、将来の宗教指導者の政治的信頼性を確保するため再構築されている。

 2025年4月に施行された新規制は、中国国内における外国人の宗教活動をこれまで以上に厳しく規制し、礼拝場所、儀式主宰者、中国人信者との交流方法を制限している。国際カトリックメディアが取材した聖職者たちによると、これらの規則が非国家管理コミュニティにとって危険な環境を生み出し、中国人信者と外部世界とのつながりを事実上断絶させている、という。

 報告書は、仏教、道教、民間信仰を、「愛国教育ツアー、政治学習会、宗教的アイデンティティと党イデオロギーの融合を図る文化イベント」を通じて取り込もうとする継続的な努力を記述。その一方で、当局が、雲南省の回族ムスリムを含むイスラム教徒コミュニティへの弾圧を強化し、モスクの”整理”、クルアーン講座の閉鎖、人気イマーム・馬友偉の拘束がなされいる、としている。中国イスラム教協会はロゴからイスラム教の象徴を削除した。これはイスラム教のアイデンティティを示す目に見える印を消し去る広範な運動の一環だ、と指摘している。

 

 

【カトリック教会-バチカンとの暫定合意を無視し、地方政府が二人の司教を”選出”、地下教会の司教たちを拘束

 

 カトリックに関しては、バチカンとの司教任命に関する暫定合意が更新されているにもかかわらず、中国共産党がカトリック教会に対する「最終的な権威」を主張し続けていると指摘。具体的に、フランシスコ なくなり教皇職が空位となり、司教任命に関する教皇の承認を得ることが不可能となった期間に、地方政府が二人の司教の”選出”を工作した。

 また、(中国政府・共産党の支配を拒む)”地下教会”の聖職者に対する圧力も続いており、例えば浙江省・温州のショウ・ジュミン司教は、2025年3月に違法とみなされた聖年ミサを執り行った後、拘束された。司教は以前にも、当局から罰金を科され、建物の取り壊しを命られたが、これを拒否したため、拘束されている。

国家公認のカトリック団体、中国天主愛国協会に属する聖職者でさえ当局の干渉を免れず、温州では、金孟秀神父がミサを捧げるのを阻止され、強制捜査を受けた。福建省では郭希進・司教が自宅軟禁状態に置かれ、礼拝堂は封鎖された。

 

 

【プロテスタント教会-牧師や説教者、長老が各地で拘束、オンライン検閲も強化】

 

 プロテスタント共同体も同様に広範な強制措置に直面した。報告書によると、2024年から2025年にかけて北京シオン教会への繰り返し行われた強制捜査では、ジン・ミンリ牧師、周思瑞伝道師、蔡静・呉瓊両長老、秦国良長老を含む約30名の牧師・協力者が拘束された。四川省の省都・成都の早雨契約教会では、複数の長老と説教者が「団体の名において違法な活動を行った」として拘束された。安徽省では、登録済みの信義教会の牧師と信徒3名が、地方当局の指示に従わなかったことを理由に刑事拘留された。裁判所は「詐欺」や「違法営業」の罪状を適用し、教会付属学校の運営や献金収集を含む通常の宗教活動を刑事事件として扱った。

 安徽省の蕪湖ではカルメル山教会の信徒3名が付属学校運営で実刑判決を受け、臨汾では黄金燭台教会の信徒10名が最長9年2ヶ月の刑を宣告された。臨汾契約教会の李傑牧師と韓暁東牧師は3年8ヶ月の刑を宣告された。牧師への嫌がらせとして出国禁止令が出される例もある。オンライン検閲も強化され、キリスト教アプリ開発者の拘束、賛美歌動画の強制削除、市民にオンライン宗教活動を通報するよう促す報奨金告知の発行などが行われた。

 

 

【法輪功などへの弾圧、外国人も拘束】

 

 共産党は、法輪功運動への弾圧に多大な資源を投入し続けている。河北省の左洪涛を含む拘禁中の死亡事例や、食品検査官の高暁英がネット活動で科された7年の長期刑などを、報告書は挙げている。健康状態が深刻なにもかかわらず3年半の刑を宣告された80代の女性、趙英の事例は、弾圧の厳しさを示す例として強調されている。

 報告書は「邪教」と分類された団体について詳細に論じている。

 この用語はしばしば「カルト」と訳されるが、実際には「異端の教えを広める集団」を意味する。報告書は、中国共産党が22の宗教団体を「邪教」と指定し、迫害を継続している、と指摘。中でも全能神教会(CAG)は主要な標的であり続けている。

 報告書は、2024年に中国政府・共産党によって開始された3年間の「厳しい戦い」キャンペーンを含む、長期かつ全国的な弾圧を記述している。このキャンペーンは、以前の「総力戦」に続くものだ。キャンペーン初年度における逮捕件数は50%以上増加した。調査結果は、全能神教会への弾圧が中央で調整され、持続的かつエスカレートしていることを裏付けている。

 報告書は外国人が関与した事例も挙げている。広東省では警察が一元道集会を急襲し、台湾人3名を含む複数の参加者を拘束した。厦門では、統一教会のルー・ジアチェンとその夫チャン・ピシアンが自宅で礼拝を行っていたところを当局に拘束された。夫婦は「邪教を組織・利用して法執行を妨害した」容疑で刑事拘留され、厦門公安局拘置所に収容された。チャンは2025年2月に保釈されたが、ルーは依然として拘束中である。これらの事例は、中国の反邪教政策が国境を越えて及ぼす影響と、外国人信者に対するリスクを浮き彫りにしている。

 

 

【新疆ウイグル自治区での”ジェノサイド”も続いている】

 

 報告書の15章、「新疆ウイグル自治区」では、ジェノサイド及び人道に対する罪を構成する全ての政策が継続中だ、と結論付けている。

 報告書は、50万人以上のトルコ系ムスリムが依然として、正式または司法外の手続きで拘束されている可能性が高いこと、文化伝承を断絶することを明確な目的として寄宿学校が拡大を続けていることを示す研究を引用。

 強制不妊手術や強制的な人口管理措置は継続されいるが、公式データはますます不透明になっている。強制労働プログラムは2024年と2025年にかけて拡大し、土地の強制譲渡も伴っている。ラマダン期間中の制限の実施や、断食時間中の強制労働や、断食していないことを証明するために住民が食事の様子を撮影するよう要求される事例が含まれている。

 独立したハッジ巡礼(イスラム教の聖地旬ライ)は依然として禁止されている。禁を破った歴史家トゥルスンジャン・ヘジムへの終身刑や実業家エリジャン・イスマイルへの18年の刑期など、長期刑の事例が多数示され、また、カンボジアからのアブドゥレキップ・ラフマンの強制送還や海外活動家の親族への判決など、継続的な越境弾圧についても記述されている。

 

 

【チベット自治区-チベット仏教の僧侶と尼僧の集団追放、信徒の逮捕、チベット文化の抹殺の動き】

 

 チベット自治区では、(チベット仏教ゲルク派の最高指導者である)ダライ・ラマとの交渉に向けた進展がなく、転生プロセスに対する国家統制が続いていると報告している。国家宗教事務局は寺院に対する政治的要件を強化する改正措置を発表した。

 (チベット仏教の聖地の一つ)ラルン・ガルでは集団追放が続き、2024年末には約1000人の僧侶と尼僧が強制退去させられた。チベット人はダライ・ラマの教えを所持・共有したとして拘束された。僧侶ジャンパ・チョーペルは、微信(WeChat)で法王の演説を共有した罪で1年6か月の判決を受けた。(チベット仏教の高僧)フンカル・ドルジェ・リンポチェのベトナムでの不審な失踪と死亡が発生したが、その後この事件に関する公的な議論が制限された。

 チベット語教育は深刻な後退を余儀なくされている。数百人の見習い僧が僧院学校から排除され、国営寄宿学校へ移送された。青海省のラギャ・ガンジョン・シェリグ・ノルブリン学校は30年の運営を経て閉鎖された。

 学校閉鎖に関する情報共有、チベット語コンテンツのライブ配信、言語権利団体への参加を理由にチベット人が拘束された事例。これには拷問による死亡が疑われるチベット族自治州ポンコー村のゴンポ・ナムギャル村長の事例も含まれる。チベット自治区へのアクセスは依然として厳しく制限され、米国政府関係者は入域を拒否され、自治区外のチベット族が住む地域でも、外国人訪問者が監視対象となっている。2025年1月のディンリ地震後、当局は移動を制限し、救援物資を没収し、死傷者情報を共有した個人を処罰した。砂採掘による被害を暴露した環境告発者ツォンゴン・ツェリンの投獄と判決についても詳述されている。

 

*年次報告書の全文は→https://www.cecc.gov/publications/annual-reports/2025-annual-report

 

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

*Bitter Winter(https://jp.bitterwinter.org )は、中国における信教の自由 と人権 について報道するオンライン・メディアとして2018年5月に創刊。イタリアのトリノを拠点とする新興宗教研究センター(CESNUR)が、毎日4か国語でニュースを発信中。世界各国の研究者、ジャーナリスト、人権活動家が連携し、中国における、あらゆる宗教に対する迫害に関するニュース、公的文書、証言を公表し、弱者の声を伝えている。中国全土の数百人の記者ネットワークにより生の声を届け, 中国の現状や、宗教の状況を毎日報告しており、多くの場合、他では目にしないような写真や動画も送信している。中国で迫害を受けている宗教的マイノリティや宗教団体から直接報告を受けることもある。編集長のマッシモ・イントロヴィーニャ(Massimo Introvigne)は教皇庁立グレゴリアン大学で学んだ宗教研究で著名な学者。ー「カトリック・あい」はBitterWinterの承認を受けて記事を転載しています。

 

2026年1月6日

・中国の広西チワン族自治区で、警察が刺激性ガスで抗議の女性たちを排除、寺院を破壊(Bitter Winter)

(2026.1.2 Bitter Winter   Liang Changpu)

The police demolish Longfu Temple. Screenshot.

  2024年に合法的に再建された賀州市の龍福寺が、地元村民の抗議と抵抗にもかかわらず破壊された。(写真右:警察が龍福寺を破壊した)

 12月23日、広西チワン族自治区賀州市中山興隆寨で、中国共産党は再び「宗教管理」に対する独自の解釈を示した—「存在すれば破壊し、村民が抵抗すれば催涙ガスを放ち、撮影者がいれば逮捕する」だ。

 今回の標的は龍福寺だった。この質素な民間信仰の祠は、数十年にわたる放置の後、村民が自らの貯金で再建したものだ。寺は代々この地に建ち、地元住民でさえいつ建立されたか覚えていないほど古い。しかし現代中国では、「長寿こそが災い」となる。

 村民の報告によれば、地方政府は警察、消防、医療スタッフを含む100人以上の要員を派遣し、「強制撤去作戦」を実行した。これほどの規模の部隊が地震被災者の救助や化学物質漏洩の封じ込めに動員されたと誤解するかもしれない。しかし実際には、高齢の農民たちが数百元ずつ寄付して再建した村の寺を破壊するために動員されたのだ。

 龍福寺は崩壊状態にあった2024年、村民が貯金を出し合って再建に着手し、2025年4月に完成させた。当時、政府は異議を唱えなかった。警告も通知もなく、役所の”雷雲が垂れ込める”気配すらなかった。

 ところが突然、当局は寺院を「違法建築」と宣言し、「環状道路に近すぎる」と主張した。再建工事中はずっと「問題なし」とされていたというその環状道路にだ。

 村人たちは呆然とした。ある高齢の住民はネットでこう綴った。「寺は、子供の頃からここにあった。今や私は老い、ようやく昨年再建できた。皆が可能な限りの寄付をしたのだ」。だが中国では、懐古の情は取り壊し命令の盾にはならない。

 解体班が到着した時、村人たちは中国共産党員が軍事パレードで示すような戦術的明晰さで組織化された。男たちは寺院の外で第一防衛線を形成した。女たちは内部にバリケードを築き、入口を守った。それは民話から抜け出したような光景だった―ただし英雄は無防備な村民であり、悪役は防御盾を携えていた。

 衝突はほぼ即座に発生した。警棒と盾を振るう警察隊が前進し、村民は地面に叩きつけられた。少なくとも4人の村民が逮捕された。動画には警察の打撃で倒れる人影が映っている。中国で「安定維持」がしばしば一般市民の生活を不安定化させることを痛烈に物語る光景だ。

The women barricaded inside the temple are attacked with irritant gas. Screenshots.

 寺院内部では女性たちが、警察が繰り返し押し破ろうとする扉を必死に支えた。暴力で突破できないと、警官たちは人質事件で使う戦術に訴えた。正体不明の刺激性ガスを寺院内に放ったのだ。

(写真左:寺院内に立てこもった女性たちが刺激性ガスで攻撃された)

 白い煙が堂内を満たした。女性たちはむせび、よろめいて後退した。扉は崩れ落ちた。寺は崩れ落ちた。そしてそれと共に、中国の民俗遺産がまた一つ消え去った。

 数時間のうちに龍福寺は瓦礫と化した。破壊を見守る村民が苦々しく叫んだ。「建てた時は何の問題もなかった。今になって違法だと言う。苦労して再建した寺が、一瞬で消えた」。

 公式の説明―環状道路に近すぎる―は、悲劇的でなければ滑稽に思える。中国には龍福寺よりはるかに道路に近い建物が数多く存在する。だがそれらの建物は開発業者の所有物であって、神々のものではない。

 真の理由はイデオロギーにある。中国では大規模な抵抗事件が相次いでおり、2025年12月だけで30件以上の衝突が記録されている。中国共産党は神経を尖らせている。経済モデルは躓き、失業率は上昇し、民衆の怒りは沸騰寸前だ。

 こうした状況下では、村民が再建した小さな寺院さえ脅威となる。道路を塞ぐからではなく、党が制御できないものを象徴しているからだ。「信仰、共同体、記憶」である。

 民間信仰は特に危険視される。分散型で深く根付き、プロパガンダだけでは根絶できないからだ。寺院はブルドーザーで壊せても、人々の心に生きる物語や儀式、祖先の記憶は壊せないのだ。だから党は、理解できないものに直面すると常に取る行動を取る。破壊するのだ。

龍福寺の解体は孤立した事件ではない。教会、モスク、祠堂、民間寺院を標的とした全国的な運動の一環だ。その論理は単純だ。「人を集めるものは管理すべきであり、管理できないものは排除すべきだ」という。

 広西、海南、広東をはじめ、各地で寺院が次々と破壊されている。手段は様々だ—法的理由、行政命令、ブルドーザー、催涙ガス—だが目的は同じだ。「党自身の信仰」と競合するいかなる信仰も許さない、だだ。

Police confront angry villagers while the demolition proceeds. Screenshot.

 こうした破壊の背景には深い不安が潜んでいる。中国共産党は自らのイデオロギー的物語がもはや、誰をも説得できないことを知っている—それを繰り返すために金をもらっている者たちでさえもだ。体制が自らの物語への自信を失う時、どんなに小さな異論であれ、あらゆる反論を恐れ始める。

 退職者たちが再建した村の祠が脅威となる。郷土の神がライバルとなる。儀式が反乱となる。だから党は、わずかな村民を潰すために百人の兵を送る。女性たちが守る寺に催涙ガスを放つ。人々が愛するものを破壊しておきながら、「なぜ抵抗されるのか」と不思議がる。

 龍福寺は消えた。だがその破壊の物語は中山をはるかに超えて広がるだろう。それは中国共産党と宗教の関係を定義づける不正の記録—恐怖、暴力、そして文化的な記憶の執拗な抹消—の膨れ上がるアーカイブに加わるのだ。興隆寨の村民たちは一度、寺を再建した。再び建てるかもしれない。たとえそれが叶わなくとも、今やその寺は別の場所に生きている—インターネット上で、証言の中で、崩壊を目撃した人々の怒りの内に。

 中国共産党は建物を破壊できる。だが人間が意味を求める欲求を破壊することはできない。

 

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

*Bitter Winter(https://jp.bitterwinter.org )は、中国における信教の自由 と人権 について報道するオンライン・メディアとして2018年5月に創刊。イタリアのトリノを拠点とする新興宗教研究センター(CESNUR)が、毎日4か国語でニュースを発信中。世界各国の研究者、ジャーナリスト、人権活動家が連携し、中国における、あらゆる宗教に対する迫害に関するニュース、公的文書、証言を公表し、弱者の声を伝えている。中国全土の数百人の記者ネットワークにより生の声を届け, 中国の現状や、宗教の状況を毎日報告しており、多くの場合、他では目にしないような写真や動画も送信している。中国で迫害を受けている宗教的マイノリティや宗教団体から直接報告を受けることもある。編集長のマッシモ・イントロヴィーニャ(Massimo Introvigne)は教皇庁立グレゴリアン大学で学んだ宗教研究で著名な学者。ー「カトリック・あい」はBitterWinterの承認を受けて記事を転載します。

 

2026年1月3日

・降誕祭直前に、中国・浙江省温州で警官を大量動員しキリスト教徒を標的にした”作戦”、100人以上拘束(Bitter Winter)

(2025.12.22 Bitter Winter  

 家庭教会と宗教的象徴の撤去に抵抗した者たちに対する新たな大規模な弾圧だ。

(警察が婁陽鎮に入る様子=12月13日、現地のキリスト教徒が撮影)

 12月13日から18日にかけて、浙江省温州市の泰順県婁陽鎮で、キリスト教徒のコPolice entering Yayáng Town on 13 December. Photo by local Christians.ミュニティを標的とした大規模な警察作戦が行われた。

 以下に、住民の証言、オンライン上の報告、公開された通知から、異例の警察の大量動員、集団拘束、組織的な広報活動を含む一連の出来事を再構成した。

 住民によれば、杭州や平陽など複数都市から警察部隊が13日に瀾陽に進入した。目撃者は、入口の検問所、主要道路の巡回、住宅地での捜索が行われた、と証言。

 最初の2日間で100人以上のキリスト教徒が自宅や職場から連行され、16日と17日にも追加拘束が行われ、拘束された人は延べ100人を大きく超えた。この作戦に関する情報は厳しく制限され、住民によればオンラインでの情報共有の試みは即座に削除されている。

12月15日夜の予期せぬ花火大会がなければ、警察行動の規模はこの地域外ではほとんど知られなかったかもしれない。午後8時頃、雅陽政府庁舎前の広場から大規模な花火ショーが打ち上げられた。このイベントは複数の角度から撮影され、公式メッセージを宣伝するアカウントによってオンラインで拡散された。

祭事や公休日とは無関係だったため、即座に注目を浴びた。動画に添えられたキャプションは地方自治を称賛し、当局への忠誠を促す内容だった。視聴者が花火の目的を疑問視する中、住民たちは前数日間に起きた警察の活動を説明し始めた。祝賀の意図で打ち上げられた花火は、意図せず継続中の拘束を広く知らしめる結果となった。

(12月15日の”花火大会”=地元キリスト教徒による撮影)

The fireworks show of December 15. Photo by local Christians.

この期間中に当局は、地元のキリスト教徒コミュニティで著名な58歳の林恩昭(リン・エンジャオ)氏と54歳の林恩慈(リン・エンツィ)氏の両名の指名手配書を掲示した

手配書は二人を「犯罪グループの主犯格」と断定し、情報提供への報奨金を提示したが、具体的な容疑は明記されなかった。別の公告では住民に対し、「不正行為の証拠を提供するように」呼びかけている。

現地事情に詳しいとする人は、オンライン上で「この2人は長年家庭教会で活動し、教会資産をめぐる対立や宗教的シンボルの撤去への抵抗など、以前から当局との紛争に関わってきた」と説明している。

現地取材とネット上の証言によれば、12月の”作戦”は国家宗教政策の実施を巡り、地元キリスト教徒と当局の間に数か月続いた緊張状態に端を発したもの。

住民たちは、「教会への国家シンボル設置や、政治教育キャンペーン実施を巡る対立」と説明した。複数の関係者が2025年6月の事件-地元当局者が早朝にキリスト教集会場所に侵入し、旗竿を設置したこと—で、不信感が強まったと伝えられている。

こうした対立は、より広範な紛争を背景に発生している。過去10年間、Yayangの町のキリスト教徒の団体は教会建物からの十字架撤去運動を巡り幾度も衝突しており、関係者は、「彼らの集団的組織化が、今回の警察の行動の一因になっている」と指摘している。

 12月18日、大半の拘束が実施された後、地元当局は「犯罪活動に対する動員集会」と称する”公開会議”を開いた。武装警察が立ち会い、当局者は「公共の安全」を強調する演説を行った。拘束された個人や告発を裏付ける証拠に関する詳細な情報は提供されなかった。この”会議”は、宗教団体に対する標的型の行動ではなく、より広範なキャンペーンの一環として作戦を位置付ける意図があったように受け取られている。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

*Bitter Winter(https://jp.bitterwinter.org )は、中国における信教の自由 と人権 について報道するオンライン・メディアとして2018年5月に創刊。イタリアのトリノを拠点とする新興宗教研究センター(CESNUR)が、毎日4か国語でニュースを発信中。世界各国の研究者、ジャーナリスト、人権活動家が連携し、中国における、あらゆる宗教に対する迫害に関するニュース、公的文書、証言を公表し、弱者の声を伝えている。中国全土の数百人の記者ネットワークにより生の声を届け, 中国の現状や、宗教の状況を毎日報告しており、多くの場合、他では目にしないような写真や動画も送信している。中国で迫害を受けている宗教的マイノリティや宗教団体から直接報告を受けることもある。編集長のマッシモ・イントロヴィーニャ(Massimo Introvigne)は教皇庁立グレゴリアン大学で学んだ宗教研究で著名な学者。ー「カトリック・あい」はBitterWinterの承認を受けて記事を転載します。

 

2025年12月23日

改・カトリック教徒の香港民主派メディア王に、国家安全維持法違反の有罪判決、教会からはコメントなし

(2025.12.15  Crux   Kanis LeungAssociated Press)

 ジミー・ライ氏の”香港国家安全維持法裁判”の判決を待つ人々(2025.12.15、香港・西九龍裁判所前で=写真提供:チャ・ロンヘイ/AP)Former Hong Kong pro-democracy media mogul Jimmy Lai, a Catholic, convicted in landmark national security trial

 香港発—中国政府への批判を続けた元香港メディアの大物で民主派のジミー・ライ氏が15日、香港・西九龍裁判所から香港国家安全維持法違反で有罪判決を受けた。量刑はこれから決められるが終身刑となる可能性もある。

 判決を聞いたライ氏は唇を噛み締め、家族に向かってうなずいた後、警備員に法廷から連れ出された。ライ氏の妻と息子、そして香港カトリック教会の元教区長、陳日君(ジョセフ・ゼン)枢機卿が傍聴席から見守ったが、”現役”の香港教区長、スティーブン周枢機卿らの姿はなかった。

(「カトリック・あい」追加=国際人権団体は今回の判決を強く非難、米英の首脳も重大な関心を示している。17日付けの読売新聞朝刊によると、トランプ米大統領は「非常に残念だ」と述べ、習・中国主席に釈放を要請していたことを明らかにし、ルビオ国務長官も声明で「言論の自由を守ろうとする人々を沈黙させるために法律を使っている」と強く非難、「人道的見地から触法を強く求める」と述べた。だが、教区開設80周年を祝う行事を続けている香港のカトリック教会からは何のコメントも出されていない。)

 今回の判決は、中国政府・共産党の外交関係にとっても試練となる。ドナルド・トランプ米大統領は、この件について中国に対して問題提起したことを明らかにし、キア・スターマー英首相は、「英国籍のライ氏の釈放を確実にすることを英政府の優先課題としている」と述べた。

 15日の判決で、香港政府が選任した3人の裁判官は、78歳のカトリック信者であるライ氏に対し、「外国勢力と結託して国家安全を脅かし、反逆的な記事の出版を謀議するという、香港国家安全維持法違反行為をした」として、検察側の主張を全面的に認め、有罪を言い渡した。ライ氏は、検察側の主張する全ての罪状について無罪を主張していた。

 ライ氏は2020年8月、2019年の大規模な反政府デモを受けて中国政府が制定した香港国家安全維持法に違反したとして逮捕された。5年間の拘禁期間の大半を独房で過ごしたライ氏は、既に複数の軽微な罪で有罪判決を受けており、15日、出廷した際、衰弱し痩せ細った様子が見られた。

 陪審員なしで行われたライ氏の裁判は、1997年に中国に返還された旧英国植民地における報道の自由と司法の独立のバロメーターとして、米国、英国、欧州連合(EU)、政治オブザーバーらから注視されていた。

裁判長はライ氏が「長年、北京に対する陰謀を企てていた」と述べた

 855ページに及ぶ判決文を読み上げたトー・エスター裁判官は、ライ氏が「香港市民を支援する」という口実で、中国政府打倒を米国に「絶えず要請」していた、と指摘した。

 ライ氏の弁護団は裁判で、香港国家安全維持法施行前には(外国の関係者たちに)制裁を求めたが、法順守のため要求を取り下げている(ので法違反には当たらない)、と主張していたが、裁判長は、ライ氏が中国共産党政権を不安定化させる意図を「より控えめな形で継続した」と、これを退けた。

 さらに、ライ氏が「陰謀の首謀者であること、また本人の証言が時に矛盾し信頼性に欠けること」を認定したとし、「証拠から合理的に推測できる唯一の結論は、国家安全維持法施行の前後を問わず、本人の唯一の意図は、中国と香港の人々を犠牲にしてでも、与党である共産党の転覆を図ることだった…これが陰謀と分離主義的な出版物の究極の目的だった」と断定した。

ライ氏は終身刑の可能性も

 現在は廃刊となった民主化支持紙「アップル・デイリー」の創業者であるライ氏の量刑は、後日、言い渡されるとされているが、共謀罪の最高刑は終身刑だ。ライ氏の減刑を求める公判は、新年の来月12日に開始かれる予定とされている。香港政府と中国政府を厳しく批判していた「アップル・デイリー」は、警察が編集部を捜索し、上級記者らを逮捕、当局が資産を凍結したため、2021年に閉鎖、廃刊を余儀なくされた。

 156日間にわたるライ氏の裁判で、検察側は、ライ氏が「アップル・デイリー」の上級幹部らと共謀し、外国勢力に香港や中国に対する制裁や封鎖、その他の敵対的活動を要請した、と非難。さらに、2019年7月の抗議活動最盛期に同氏がマイク・ペンス前米副大統領やマイク・ポンペオ前国務長官と会談した事実を挙げ、ライ氏が実際にこうした要請を行った、と主張した。また、「アップル・デイリー」の記事を含む161点の出版物や、ソーシャルメディアの投稿、テキストメッセージを証拠として法廷に提出した。

 これに対して、ライ氏は52日間にわたり、これに反論する証言を続け、2020年6月に国家安全維持法が施行された後は外国に(香港や中国に対する)制裁を求めていない、したがって同法に違反した事実はない、と主張した。また、ライ氏の弁護団は表現の自由(を侵すような検察側の主張は認められない)と主張した。

長期裁判で懸念される健康状態

 裁判が進むにつれ、ライの健康状態は悪化しているようだ。8月には、ライ氏の弁護団が法廷で、彼が動悸を訴えている、と述べた。15日の判決後、パン・ロバート弁護士は、「弁護団は、判決文の内容を精査しているが、ライ氏の精神状態は良好だ」と説明。判決前、娘のクレア氏はAP通信に対し、「父は衰弱しており、爪や歯が抜け落ちている… 数か月にわたって感染症に苦しみ、慢性的な腰痛、糖尿病、心臓疾患、高血圧にも悩まされています。精神的には頑強ですが、体は衰えている」と訴えた。

 香港政府は、ライ氏が心臓の問題を訴えたのを受けた健康診断で「異常は見つからなかった」と発表。今月に入り、「ライ氏に提供された医療サービスは適切だった」と付け加えた。また、香港警察の国家保安部、リー・スティーブ警視長は、ライ氏の健康悪化に関する情報を否定した。

 判決後、香港政府のリー・ジョン行政長官は、ライ氏が「国家の根本的利益を損なった。その意図は悪質だ」と改めて批判し、スティーブ警視長も「ライ氏の有罪判決は正義が実現した証しだ」と言明。北京では中国外務省の郭家驊報道官が、「特定の国々」による「香港司法への誹謗中傷に中国が断固反対する。香港の法制度を尊重すべきだ」と批判した。

 15日の夜明け前、数十人の住民が法廷席を確保するため裁判所外に列を作った。元アップルデイリー社員の張(タン)氏は「午前5時にここに来ました。ライ氏の健康状態に関する報道を受けてその様子を知りたいと思った」とし、「判決日は、先週金曜日に発表されたばかり。裁判所が手続きが急いでいる、と感じる。少なくともこの事件は、間もなく終結するでしょう」と述べた。

 国際メディア監視団体「国境なき記者団」やアムネスティ・インターナショナルを含む人権団体は、15日の有罪判決を批判。「国境なき記者団」のティボー・ブルタン事務局長は「裁判にかけられたのは個人ではなく、報道の自由そのものだ。この判決によって、それは粉砕された」と強く非難した。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。
 Crux is dedicated to smart, wired and independent reporting on the Vatican and worldwide Catholic Church. That kind of reporting doesn’t come cheap, and we need your support. You can help Crux by giving a small amount monthly, or with a onetime gift. Please remember, Crux is a for-profit organization, so contributions are not tax-deductible.
2025年12月16日

・中国が自国の法律で台湾の国会議員を犯罪者に―民主主義の正当性を否定(Bitter Winter )

(2025.12.11 Bitter Winter    )

 中国当局がこのほど、台湾の立法委員(国会議員)、沈保陽氏に対する捜査を開始したとする発表は、共産党政権が国境を越えて異論を弾圧するため、国内法制度を国際的な”武器”として活用する意思を浮き彫りにしている。実際の捜査は、中央直轄の重慶市公安局によるもので、”台湾独立分離主義者”を対象にした新たな国内規制を域外で適用する初のケースだ。”有罪”となれば、終身刑や死刑に相当する厳しい刑罰が科される。

 中華民国立法院(一院制議会)の現職議員で民主進歩党所属の沈氏は、台湾の非営利市民防衛・安全保障教育団体「クマアカデミー(Kuma Academy)」の共同創設者でもある。同団体は偽情報とハイブリッド戦争への対策として、市民向けに様々なテーマの訓練を提供している。沈氏は、台湾の民主制度—独自の憲法、司法、市民的自由を有する制度—の枠内で活動している。

 にもかかわらず、中国当局は、彼を自国の法律の対象として扱うことで、自らの権限が台湾海峡を越え、自らが統治しない領域にまで及ぶと主張している。これは中国による台湾への政治的戦争を急激にエスカレートさせるものであり、中国政府・共産党への批判や学術活動、市民教育を、拡大解釈した「国家安全保障」の名の下に”犯罪行為”と再定義する動きだ。

 中国による沈氏への追及は、国内法執行と地政学的強制の境界線を曖昧にすることを目的とした法的威嚇のパターンに沿っている。このため、国際人権団体、Human Rights Watchは声明で、この動きを「基本的人権の明白な侵害」と断じている。こうした反応は、中国共産党が海外での言論を監視するために裁判所や警察を利用することに対する、国際世論の懸念の高まりを反映している。

 沈氏の容疑はクマ・アカデミーでの活動に起因しており、この問題は台湾が中国の影響工作にますます脆弱になっている状況と直接結びついている。中国政府・共産党にとって、こうした動きは「台湾島は自国領土の一部だ」とする「一つの中国原則」への思想的反対を意味する。したがって、沈氏の市民活動は「分離主義活動」と再定義され、中国当局はクマ・アカデミーを「台湾独立分離主義組織」と決めつけた。

 こうした捜査手法は、中国政府・共産党が単発的な制裁や威嚇的発言に頼るのではなく、”正式”な司法措置を通じて弾圧を制度化している実態を示す点で重大だ。法的に規定することで、台湾人に対する域外捜査を常態化させ、単発的な政治的報復ではなく国家政策の手段として位置付けようとしている。

 近年、複数の台湾市民が沈氏と同様の容疑で中国本土で厳しい判決を受けている。2024年8月、活動家の楊志遠氏が「分離主義」の罪で懲役9年の判決を受けた。そのわずか数か月後、2025年2月には、台北に拠点を置き中国の政治に関する書籍を出版していた出版社経営者の李彦和氏が「分裂扇動罪」で3年の刑を宣告された。両者とも中国本土を旅行中に拘束されており、台湾人が本土に足を踏み入れる際のリスクを如実に示している。

 この二件と比べて沈氏の事件が特異なのは、中国の国内法が純粋に域外適用された点だ。楊氏や李氏と異なり、沈氏は中国本土に足を踏み入れたことがない。にもかかわらず、中国の検察当局は中華民国国(台湾)における彼の政治的・市民的活動に対して管轄権を主張している。法律専門家によれば、このような行為は、国際規範に違反し、主権的管轄権の境界を侵食するものだ。だが、中国政府・共産党の論理によれば、台湾の政治家、活動家、一般有権者であれ、台湾の民主主義を支持する発言をした者は理論上、中国法に基づく刑事訴追の対象となり得る。

 中国当局が刑事法規を海峡両岸の威嚇手段として用いるのは、法廷戦術(法制度を政治的目的達成に利用する戦略)という広範な戦略の一環だ。独立性を欠くと長年批判されてきた中国共産党の司法機構は、今や国家のプロパガンダと強制の延長として機能している。この文脈において「分離主義」は、「刑事訴追」というより「政治的レッテル」として機能し、体制が異議や国民的アイデンティティを「犯罪行為」と分類することを可能にするものだ。

 中国の最新の司法ガイドラインは象徴的脅威を超えている。資産凍結、家族制裁、渡航禁止を認可し、処罰を「頑固な台湾独立分子」と指定された者の親族や関係者にまで拡大している。申氏の父親の事業は、息子が制裁リストに載った後に標的とされた、と報じられており、報復の集団的性質を浮き彫りにしている。これは連座制による罪が相手に「恐怖」を与えることで、服従を強制する権威主義(専制独裁主義)的慣行を想起させる戦術だ。

 中国共産党の意図は明白である。台湾の合法的な民主的機関への参加さえもが厳しい報復を招きうることを示すことで、中華民国内の政治的多様性を阻害することだ。クマアカデミーのような市民団体への関与を犯罪化することで、台湾のアイデンティティ表現の全てが「自分たちの手の届く範囲にあること」を示している。

 台湾の2300万人の市民にとって、シェン氏への捜査は冷酷な警告だ。北京の「国家統一」概念が、いかなる管轄権・主権・個人の権利の概念をも凌駕することを示唆している。

 いわゆる分離主義者への弾圧は、香港における国家安全保障弾圧と類似している。香港では、広範な法律に基づき、平和的な政治活動を行った地元活動家やジャーナリストが起訴された。かつて特別な地位にあった香港では、包括的な安全保障法の導入―2020年6月30日の国家安全法と2024年3月23日の国家安全保障条例―により、市民社会は事実上解体された。台湾は今、遠隔からの同様の強制モデルに巻き込まれる脅威に直面している。

 中国の法律の適用範囲を中華民国(台湾)の個人にまで拡大することで、北京は実質的に「自治を犯罪化」している。台湾の民主主義システム全体―立法府、政党、市民団体―は、中華民国が中華人民共和国とは別個の存在であるという前提に立っている。その区別を違法扱いすることは、台湾の民主主義そのものを違法と宣言することに他ならない。その影響は法的象徴性を超え、公的生活に携わる者たちに絶え間ない監視と不安の雰囲気を生み出し、北京による台湾への心理戦を強化する。

 非本土市民に対する権限行使は、国際法上の管轄権の越境という重大な問題を提起する。法学者らは、「刑法は通常、国家の領域内または海外の自国民に適用される」とし、こうした戦術が「越境抑圧」という広範なパターンの一部だ、と強調する。独裁国家が批判者を黙らせるため、強制手段を国境を越えて拡大する現象だ。

 共産党政権による域外管轄権の行使は、ウイグル活動家、亡命香港活動家、海外華人反体制派をめぐる事例ですでに非難を浴びている。今回、台湾の政治家がこの枠組みに組み込まれたことは、北京の法的戦争が如何に世界的かつ体系的になったかを浮き彫りにする。さらに、これらの行動の影響は個別の事例をはるかに超える。軍事演習や外交的孤立化キャンペーンで既に緊張している両岸関係を不安定化させる恐れがある。

 台湾の民選代表を中国の法律で犯罪者として扱うことで、中国政府・共産党は事実上、台湾島の民主的政府の正当性を否定している。この姿勢は対立のリスクを高めると同時に、対話の展望を損なっている。プーマ・シェンに対する捜査は単なる国内法問題ではない。台湾の自治そのものを問う権威の政治的宣言だ。「分離主義」法を管轄外の個人に適用することで、台湾の民主主義を単なる政治的ライバルではなく、「自らの支配に対する存亡の脅威」と見なしていることを示している。

 そのメッセージは明白だ。台湾の民主的プロセスへの参加、国民的アイデンティティの表明、市民教育の提唱—これら全てが「中国に対する犯罪」と見なすことができる、ということだ。民主主義国家の市民を追及するために法制度を武器化することで、中国政府・共産党は”越境抑圧戦術”を深化させ、専制独裁主義的支配の限界を再定義している。起訴状一枚一枚が、その証左である。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

*Bitter Winter(https://jp.bitterwinter.org )は、中国における信教の自由 と人権 について報道するオンライン・メディアとして2018年5月に創刊。イタリアのトリノを拠点とする新興宗教研究センター(CESNUR)が、毎日4か国語でニュースを発信中。世界各国の研究者、ジャーナリスト、人権活動家が連携し、中国における、あらゆる宗教に対する迫害に関するニュース、公的文書、証言を公表し、弱者の声を伝えている。中国全土の数百人の記者ネットワークにより生の声を届け, 中国の現状や、宗教の状況を毎日報告しており、多くの場合、他では目にしないような写真や動画も送信している。中国で迫害を受けている宗教的マイノリティや宗教団体から直接報告を受けることもある。編集長のマッシモ・イントロヴィーニャ(Massimo Introvigne)は教皇庁立グレゴリアン大学で学んだ宗教研究で著名な学者。ー「カトリック・あい」はBitterWinterの承認を受けて記事を転載します。

2025年12月13日