・”性的虐待”など非公式議題にウエイトがかかる「若者シノドス」(Crux評論)

(2018.10.1 Crux Rome Bureau Chief   Inés San Martín)

 ローマ発―教皇が世界中から司教の代表たちをローマに集めて行う「シノドス」と呼ばれるサミットでは、いつも、公式の議題と非公式の議題の対比が話題になる。だが、「若者たち、信仰、そして召命の識別」をテーマに3日から28日にかけて開かれる今回のシノドスほど、その対比が際立つであろう会議はまれだ。

 公式の議題はその事前のテーマ通りの「若者たち、信仰、そして召命の識別」だ。しかし、ローマに集まる多くの司教たちにとって、特に聖職者による性的虐待のスキャンダルで大きな打撃を受けている国々から来る司教たちにとって、これまで「見てみぬふりをしてきた問題」について語らずに、シノドスの3週間を過ごすことは考えられないだろう。

 まして、教皇フランシスコが来年2月に性的虐待と未成年者保護についての各国司教協議会のトップを集めた会議を開くことを考えれば、今回のシノドスを、その問題についての協議開始の場にしたい、と多くの出席者が思わないとは、想像しがたい。

 イエズス会士のトム・リーズ神父がCruxに語っているように、最も控えに見ても、「今回のシノドスは、(聖職者による性的虐待と隠ぺいが引き起こしている)危機のさなかにある司教たちにとって『同じ過ちをしないように。手遅れになる前に今、家を掃除しなさい』と(まだ危機に遭っていない)仲間の司教たちに忠告する機会」になるだろう。

 米国やチリ、ポーランド(聖ヨハネ・パウロ2世を生んだこの国で最近までタブー視されていたこのスキャンダルが、ようやく公けに話されるようになった)など、危機の絶頂にある国々からくる司教たちにとって、ローマへの旅は聖座にいくつかの問いの答えをもらう唯一の機会になるかもしれない。

 米国からくる高位聖職者たちは、未成年者と神学生に対する性的虐待で更迭された前枢機卿セオドール・マカリックの問題を(更迭のずっと前に)誰が知っていたのか、答えを聞き出したいだろう。

 チリの代表者たちは、首都サンチャゴの大司教、リカルド・エザッティ枢機卿が性的虐待隠ぺいの疑いで検事局から召喚された8人のうちの1人に入るなど”壊滅的”な状態にある自国の教会をどうすべきかについて、教皇の考えを聞きたいだろう。

*「現実の世界」への適合を迫られる重要課題は

 非公式の議題は当然のことながら、公式議題と関係の無いものではない-召命の問題と同様に、若者にとって、司教たちに対する現実の挑戦となる問題だからだ。

 ブラジルの信徒、フィリペ・ドミンゲスは会議の特別秘書団の協力者としてシノドスへの参加を求められた一人だが、Cruxのインタビューに、シノドスに期待するのは「若い人々の声を聴く作業を続けること」であり、それを「カトリック教会の恒久的な作業」とすることだ、と語った。

 「それは、若者たちが希望することを何でも教会にさせるということでも、これまでずっと教えてきたことを全部変えることでもありません。シノドスの批評家が言うように『現実の世界に適合させる』ことなのです」「『シノドス』と言う言葉が意味するように、共に歩むことです。若者たちについて考えることは、教会全体について考えることなのです。なぜなら、若者たちは年上の人たちが残していくものを財産として受け継ぐでしょうから。そして、どのような財産もうまく引き継がれ、管理されなければ、失われてしまいます」。

 ドミンゲスは、3月にローマで開かれた世界の若者たちによる”プレ・シノドス”に参加し、現在は、教皇庁立グレゴリアン大学で博士論文の仕上げに入っている。論文のテーマは、特に若者に影響を与えるソーシャル・メディアの道徳的側面の研究だ。彼は、若者がしばしば「教会は自分たちの生きている現実から、かけ離れている、あるいは、教会に属する人々は好ましい模範ではない」と感じている、と言う。

 それは「ただ無視されるべき現実ではない。問題は『それについて何ができるか』ということ」であり、「もし私たちが、すべての人に福音を説くことになっているとしたら、こうしたことは極めて重要な課題です」と語る。

 300人以上の若者たちにフェイスブックを使ったオンライン参加も加わった3月の”プレ・シノドス”では、最終文書で、教会内だけでなく社会における重要な決定に積極的な役割を果たすことへの希望、共に歩む歩むことへの希望が示された。「彼らは『自分のことは自分でやれるとか、全部自分でやりたい』とかは決して言わなかった」とドミンゲス。「彼らはリーダーになりたいが、助言も欲しいのです。教会の伝統と財産の良さを分かっているし、年長者たちからそれを学びたいと思っていますが、そうした『手本とすべき人物』に信頼、共感、権威、謙虚、慈しみを求めてもいるのです」。

*避妊、堕胎、同性愛、同棲、結婚、司祭職の在り方ー若者たちは率直が議論を望んでいる

 また、若者たちは、教会の教えを理解し、タブー無しに、率直に話すことができることを希望している。

 関係筋によると、”プレ・シノドス”に参加した若者たちは、使用言語ごとに分かれたどの分科会でも共通した意見だったという。それには、手本にできる人物が、特に女性にとって、教会の内外に必要なことや、多くのところで宗教が、家庭の重要性が副次的なものになっているとの指摘も含まれていた。

 だが激しい争点となる問題での意見の食い違いも、最終文書の少なくとも一か所で明確にされている-「今日特に議論を呼んでいる教会の教えのいくつか-避妊、堕胎、同性愛、同棲、結婚、そして教会での異なる現実の中で司祭職をどのように理解したらいいのか、など-について、教会内でも、幅広い世界でも、若者たちの間で大きな意見の違いがしばしばみられる」と。

 この個所ではさらに、カトリックの若者たちの多くは、こうした問題についての教会の教えをはっきりとは理解してはおらず、理解していていても同意しない者もいる、と指摘。「結果として、彼らが希望しているのは、教会が教えを変えること、あるいは少なくとも、こうした問題にもっと適切な説明と組み立てをすることだと言えます」と関係筋は言い、そのことは彼らが逃げ道が求めているのを意味せず、「内部に議論があるにしても、公式の教会の教えと矛盾する確信を持つ若い信徒たちは、それでも教会に属していたい、と強く望んでいるのです」と彼らの立場を説明している。

 ”プレ・シノドス”の最終文書は、シノドスの準備書面の基本の一つになっており、若者たちの現在の状況についての見方がシノドスでなされる議論の基礎になることを意味している。準備書面は、性、死、腐敗、麻薬取引、ポルノ、ビデオゲーム、移民、戦争、友情、障碍者などについて触れ、「若い人々は、(これらの問題について)教会としっくりいっていないように感じている」「私たちは、彼らの使っている言葉を、したがって彼らの求めていることを、分かっていないように思われる」と指摘している。

 

 *聖職者による性的虐待スキャンダルによる教会の信頼失墜の深刻さを見逃すな

 多くの参加者は、カトリック教会が性や他の問題で信頼を得るために、聖職者による性的虐待スキャンダルでどれほど信頼が損なわれているのか、を見過ごすことがあってはならない、と確信している。

 教皇フランシスコは、先日のバルト三国訪問でこの点を苦し気に認めた。若者たちの集会での講話で、彼は「若い人々は、教会で起きている明確な有罪を宣告されない性的、経済的な数々のスキャンダルに当惑しています。そのようなスキャンダルは、若い人々の生きざまとと感受性を本当に理解する用意ができていなかったことによる、そして単純に受け身的な態度をとったことによるものです。それは、あなた方が問題にしていることのほんのわずかなものでしかありません」と。

 そして、教皇は言明した。「私たちは応えたいと思います。あなた方自身が言われたように、私たちは(教会が)『隠し立てなく、歓迎し、正直で、魅力的で、話がしやすく、近づきやすく、心愉しく、互いに助け合う共同体』となることを希望しているのです」。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2018年10月2日