「Amoris Laetitia(家庭における)愛の喜び」公布から二年、なお続く論争(Crux)

 Feb 1, 2018(2018.2.1 Crux 

   ローマ発―「家庭」をテーマとした二度のシノドス(全世界司教会議)、全世界の教会、信徒からの意見聴取など3年にわたる議論をもとに、教皇フランシスコが2016年3月に使徒的勧告 「Amoris Laetitia(家庭における)愛の喜び」を公布して、間もなく2年になるが、勧告をめぐる波風がいまだに立ち続けている。

 当初から議論を呼んでいた「離婚・再婚者に対する聖体拝領の容認」を中心に、勧告をもとにしたガイドラインを発表する司教団が増え続ける一方で、勧告の意図を具体的に明確にするよう求める動きが続いているのだ。

ブエノスアイレスの司教たちがまとめたガイドランを教皇が承認

    勧告をめぐる論議は、ブエノスアイレスの司教たちがまとめたガイドランについて、教皇が2016年9月5日付けで彼らに書簡を送り、同時にバチカンのウエブサイトとバチカンの使徒座公報に掲載するよう指示したことで終息したように、当時は思われた。書簡の内容は、離婚した後、民法上の再婚をした人たちに、司祭による識別を経たうえで聖体拝領を認める司教たちのガイドラインを事実上承認したものだった。

  この教皇の書簡と司教たちがまとめたガイドラインは、彼の”正当な教導権”によるものと理解されている。教皇は書簡の中で、司教たちが作成したガイドラインは「Amoris Laetititaの第8章で述べたことの意味を正確に説明しています。これ以外の解釈はありません」としている。

 ブエノスアイレスの司教たちが作成したこのガイドラインは、教皇が提案された識別の道は「必ずしも(聖体拝領などの)秘跡に終わるものではない」が、まず第一に、カップルに、彼らの置かれた立場を認識し、結婚が永続すべきものとする教会の教えを理解し、キリスト教徒としてよりふさわしい人生に向けた歩みを始めるのを助ける必要がある、という解釈を示している。さらに、「可能であれば」、離婚して民法上の再婚をした二人に秘跡を受けることを認める一方で、性的関係を控えるよう勧奨すべだ、としている。また、「 様々な秘跡を制限なく受けられる」ことはない、としつつ、 一定の条件のもとで、秘跡としての結婚の失敗について識別の過程と個々の過失の検証を受けたうえで、教皇の勧告は秘跡を受ける「可能性に開かれている」と述べている。

離婚・再婚者に対する聖体拝領に反対する声なおも

 昨年12月31日、カザフスタンの3人の司教が「結婚の秘跡に関する不変の真理の宣言」と題する声明を出した。これはいくつかのニュース・サイトで報じられ、イタリアの2人の高位聖職者、カルロ・ヴィガーノ大司教(前駐米バチカン大使)とルイジ・ネグリ名誉大司教がこの内容を支持した。声明で3人は次のように述べていた。「いわゆる"離婚し再婚”した者に聖体拝領を認める秘跡の規律を通して、直接あるいは間接の離婚と継続性のある婚外性的関係を正当化し、同意し、合法化することは、正当ではない。このような規律は、カトリックと使徒的信仰の完全なる伝統とかけ離れたものだ」。

 また、オランダ・ユトレヒトの ビム・エイク枢機卿は今月、教皇に対して、結婚は「一つであり、壊すことのできないもの」であることを確認し、「人々が困惑しているのは好ましいことではない」ので、教皇は離婚して再婚したカトリック信徒が聖体拝領をできるのか、できないのかを明確にする内容の文書を出すように求めた。オランダの新聞とのインタビューで枢機卿は、「教皇が教会の教えに反するようなことを決して言っていないとしても、『Amoris Laetitia』は疑問の種を撒いた」と述べ、この使徒的勧告を説明する多くのガイドラインが存在していること、その中には、相矛盾する内容のものもあると指摘。「Aの場所では真理とされるものが、Bの場所に行くと突然、誤りにはなれません」「混乱しないように、明確にしてもらいたい」としている。

さらに二つの司教団が「Amoris Laetitia」にならうガイドライン

  イタリア北西部ピエモンテ州の司教団は1月29日に「この問題を慎重に扱う」としたガイドラインを公表したが、エイク枢機卿はこれにも言及した。

 「主は悲嘆にくれる者のそばにおられる。寄り添い、識別し、統合する」と題するこのガイドラインは、ブエノスアイレスの司教たちの勧告を基礎に置き、寄り添い、識別し、統合する、という三つの具体的な原則を「Amoris Laetitia」からとっている。そして、「この表題の見地」から、「結婚の愛の秘跡を完全に実現していない」状況で暮らしている信徒に慎重に焦点を合わせ、ガイドラインはすべての家庭に寄り添い、注意を払うように促し、「暮らしの多様な状況に寄り添う主の御顔」を明らかにする、としている。

 さらに、どの教区も、一つ一つの状況を評価できるような「歓迎の場」を作らねばならない、とし、どの司祭も、このような状況に置かれた男女に識別を通して面倒を見るように、民法上の結婚をしている者と同棲している者を分け、結婚の秘跡に向けて面倒を見るように求めている。

 離婚して民法上の再婚をしたケースについて、このガイドラインは「Amoris Laetitia」を引用し、そうした人たちの状況が『福音が示す理想的な姿』でないことを明確にする必要」があり、「『あまりに硬直的なやり方で仕分けたり、締め出したりしない』ようにしながら、様々な状況の中で『十分に見分け』をしたうえで、受け入れをせねばならない、としている。

 このガイドラインは、ピエモンテ州の司教たちの使徒的勧告の受け止め方を代表するものだが、署名は同州の州都トリノのチェーザレ・ノシグリア大司教がしている。

  ポルトガル北西部、ブラガ教区も2017年末に、広範な内容のガイドラインを出し、「10月から11月の教会歴の初めから復活節、”おそらく聖木曜日”まで」を「聖体拝領を受けるために識別を受ける人々にとって適当な日」とするなど、識別の日程まで示す一方、識別の進め方は個人によって異なり、異なる時を選ぶこともできる、と付則をつけている。

 またこのガイドラインは、時として、カップルの努力にもかかわらず、ともにいることができないケースを認め、「彼女がいつも完全になるように努力し、神の意向に十分に応えることを求めている場合は、教会は彼女に注意をもって寄り添い、傷つき、愛情の問題を抱えている弱い子供たちを、希望と自信を取り戻せるようにケアする必要がある」としている。

 ブラガ教区はさらに、関係する情報を提供し、最初の結婚が正当なものであるかどうかの判断を助けるための事務局の開設を提案。これらの勧告は、最初の結婚を無効にできないが、「神と教会と親しい関係をもって、キリスト教の信仰を持ち続ける」ことを現在も希望している人々に対してだけ適用される。「責任のある個人的、司牧的な識別」の道が適用されるのは、こうした人々に対してであり、その狙いは、教会生活により深くかかわっていくのを助けることにある。

 またこのガイドラインによれば、霊的指導者はカップルが秘跡にあずかれるかどうかの判断をするのではなく、判断のための識別が適切に行われるのを保証し、人々の良心の果たす役割を確認する必要がある。「なぜなら、私たちは『良心を持ち、それを失わないように求められている』からだ」と「Amoris Laetitia」を引用して述べている。

 このガイドラインは、識別をいかに行うべきかについて実践的な提案をしている。例えば、読み、祈り、霊的な導きを含めた「理性的な過程」の後で、その人々が秘跡にあずかるのが適当かどうか判断するための〇✖のリストを作成すること、としているが、その際に”量”と”ウエイト付け”は重要ではない、とも言っている。そして、〇✖のリストを完成したうえで、「神のみ前に正直な心と完全な自由意志」をもって、「秘跡にあずかることができるか、あずかれないか、あるいは、果たすべき条件が残っている、または識別をさらに続けなばならないので、まだあずかれないのか」-神の意志にできる限り近い判断を行う、としている。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載します。

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2018年2月6日