北朝鮮核危機ーヨハネス23世がキューバ危機回避に果たした役割を思い返す(Crux)

St. Pope John XXIII. (Credit: Stock image.)

  北朝鮮によるグアムに向けた四発の核ミサイル発射の脅しとトランプ米大統領の厳しい反応を米ソ間で争われた1962年10月のキューバ危機になぞらえるのは、多くの点でまだ気が早いかもしれない。

 キューバ危機は、米本土とそれに接した島で起こり、米国とソ連のキューバをめぐる全面核戦争に発展すれば、この地球全体が存亡の危機に瀕する恐れがあった。今日、グアムは極めて深刻な状況に置かれているが、冷静を保っている。エディー・カルボ知事は「自分たちの島は、北朝鮮のミサイルを打ち落とすのが目的のTHAADミサイル防衛システムを含めて、よく守られている」と言明している。

 それに、グアムの島民たちは北朝鮮の大げさな物言いに慣れっこになっていて、これまでのところ、ひどく緊張しているようにも見えない。それでも、カトリック信徒が9割を占めるこの島の司祭たちは、霊的な安らぎを彼らに与えようと努め、9日には首都アガナの大司教区が信徒向けに声明を出し、「現在の困難に際して、神に眼差しを向けるように」と呼びかけている。

 だがもし、事態が急速に悪化、エスカレートする可能性があるとしたら、半世紀前のキューバ危機の際に、カトリック教会、特に、“Good Pope John.”として知られた当時の教皇、聖ヨハネス23世がどう行動したかを思い返すのは意味のあることだ。

 1962年10月なかばに危機が起こった時、ヨハネス23世はケネディ米大統領(訳注・カトリック教徒だった)から裏ルートで連絡を受け、意見を述べるように強く求められた。このことは、その時点では秘密とされた。教会史家でイエズス会士のノーマン・タナー師が2012年にバチカン放送とのインタビューで明らかにしたところによると、「大統領は、初のカトリック信徒の米大統領であることで、バチカンから強い影響を受けている、という印象を内外に与えるのを好まなかった。だが、彼が教皇と連絡を取ったことは、後の記録から明らかだ」という。

 同年10月22日、ケネディ大統領は米国のテレビ演説で「キューバからのミサイル発射は、ソ連に対する全面的な反撃を招くだろう。すでに米国は、ソ連の艦船の海上封鎖に踏み切りつつある」とソ連に対して強く警告を発し、2日後の24日、フルシチョフ首相は「そのような米国のあからさまな海賊行為は、戦争を招くだろう」と反論した。

 核戦争勃発の瀬戸際の中で、ヨハネス23世は25日、バチカン放送で、当時、世界共通の外交用語だった(訳注・英語でもロシア語でもない)フランス語で、熱烈な平和アピールを発表し、「私たちは世界のすべての国の政府に、現在の人類の危機に対してだんまりを決め込まないようにお願いします。平和を守るために、すべての力を動員し、誰もが予想できないような恐ろしい戦争から世界を救うように。話し合いを続けることを求めます」「すべての人の良心の証人として、そして歴史の前に、誠実で引かれた振る舞いが大きな価値を持つのですから」「あらゆるレベルで、いかなる時も、対話を進め、支持し、受け入れることは知恵と忍耐の鉄則です。それが天と地の祝福を引き寄せるのです」と訴えた。

 この声明は翌朝のソ連共産党機関紙プラウダも含めて、世界中の新聞の一面に掲載された。そして、二日後、フルシチョフ首相は「ソ連の(核ミサイルを積載してキューバに向かっていた)艦船をキューバに向かわせるのを止め、ソ連に回航させる」と発表。危機は去ったのだった。

  タナー師は、ヨハネス23世のとった行為の効果を誇張すべきではない、としたうえで、その行為を「重大な介入」ではなく、危機回避の「一つの要因」となったと評価している。さらに、「ソ連側が、教皇がバチカン放送でアピールを流す前に、教皇と連絡を取ったことは分かっている」とし、「フルシチョフ首相が、窮地を脱し、キューバへのソ連核ミサイル配備を取りやめる理由を与えてくれたことを、ヨハネス23世に感謝し、恩に着ていると公けに述べていることが、後に明らかになっている」と語っている。

 ヨハネス23世は平和アピールを発表した時に、すでに自分の命が間もなく尽きることを知っていた。そして、危機回避の二か月後、核戦争の可能性がなおも続く中で、最後の回勅「地上の平和」を、世界に対するご自分の遺書として、平和の重要さを訴えたのだった。

  この回勅が、歴代教皇の社会教説の大きな転機となった、とタナー師は言う。「ヨハネス23世は世界のすべての国、国民に訴え、全世界の次元に新たな力点を置いた。それ以前の歴代の教皇は、正義を平和を語る場合、カトリック教国、カトリックの国民の自身を守る権利に大きな力点を置いていた。だが、ヨハネス23世は、カトリック教会の目先の関心を超越し、人間性、人権、そしてすべての人々にとっての平和の重要性に直接、言及したのです」。この回勅は、教会の高位聖職者、司祭、信徒だけでなく「すべての善意の人々」に対して語られたのだ。

 ヨハネス23世の遺志を継ぐ形で、現教皇、フランシスコも平和を求めるアピールを何回か発表している。4月には北朝鮮の頑なな姿勢が核戦争の引き金を引き、「人類、文化、そしてすべての良きもの」を破壊しかねない、と警告している。教皇はこれからも、危機が続く限り、警告を続けるに違いない。

 ヨハネス23世の遺産は「平和を求めるアピールは魔法の杖ではない。だが、尊敬され、説得力のある教皇―聖ヨハネ・パウロ2世について人々がいつも言うように『どのように振る舞うべきかを知っている教皇』―によって、絶妙のタイミングで出されるなら、当時も今も、世界を変えることができる」ということを、今この時に、私たちに思い出させる。

(翻訳・「カトリック・あい」南條俊二)

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2017年8月13日