・中国における「ゼロコロナ」政策の突然の終結による死者数は推定200万人ー研究チームが国際調査研究誌に発表(Bitter Winter)

(2026.4.9  Bitter Winter    )

 (COVIDへの「勝利」を祝う医師や救急隊員。Weiboより)Doctors and paramedics celebrating “victory” over COVID. From Weibo.

 2022年12月、習近平はウイルスに対する勝利を宣言し、前例のない抗議活動を恐れて、一夜にして制限的な政策を終了させた。それは大惨事を招いた。

 それまでの3年間、中国は自らが招いた巨大な健康危機の中で機能していた。「ゼロコロナ」政策には、大規模な検査、デジタル監視、マンション一棟全体に影響を及ぼす隔離措置、そして世界の他の地域の規制を穏やかに見せるほどの広範なロックダウンが含まれていた。このアプローチは、規律と国家の力の成功として提示された。

 一時は、その戦略は機能した。他国が感染の波に何度も見舞われる中、中国は厳格な措置によってウイルスの侵入を防いでいた。咳一つで、近隣一帯が封鎖されるほどだった。

 しかし、2022年後半になると、その計画は破綻し始めた。ロックダウンを些細な障害としか見なさない変異株「オミクロン」が、体制の網をすり抜けてきたのだ。数か月にわたり、ますます奇妙な制限が課される中、中国国民は1989年以来見られなかったほどの抗議行動に爆発した。人々はロックダウンの終了を求め、中には習近平の辞任を敢えて要求する者さえいた。

 数日後、政府は近年の公衆衛生史上でも類を見ないほど迅速な政策転換を行った。2022年12月7日、「ゼロコロナ」は終了した。習はウイルスに対する勝利を宣言した。

 しかし、その後待っていたのは、勝利ではなかった。感染が爆発的に拡大し、薬局の解熱剤は数時間で品切れとなり、病院は患者であふれかえり、抗ウイルス薬は入手困難になった。

 3年間にわたり無症状の症例一つひとつを綿密に追跡してきた政府は、突然、死者数の集計を停止した。2023年5月初旬までに報告されたCOVID-19による死者はわずか12万1000人だった。この数字はあまりにも不自然で、政府の最も熱心な統計担当者でさえ躊躇したに違いない。

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 この空白を埋めるように現れたのが、研究者チーム―何国軍、李碩、全玉成―である。彼らは『Journal of Population Economics』(人口経済学のあらゆる分野における独創的な理論研究および応用研究を掲載する国際的な季刊誌)に研究論文を発表した=https://link.springer.com/article/10.1007/s00148-025-01122-2

 この論文はスタンフォード大学中国経済・制度センターによって取り上げられ、中国のネットユーザーの間で大きな注目を集めている。研究者たちのアプローチは巧妙かつ単純だった。「もし国家が一般市民の死者数を公表しなくても、エリート層の死者を隠すことはできないかもしれない」というのだ。中国の学者、党の高官、そして最高政治機関のメンバーは、ひっそりとこの世を去ることはない。彼らの訃報は公にされ、儀礼的なものであり、隠蔽するのは難しい。

 研究者たちは、65歳以上のエリート1万705人に関するデータセットを作成し、2017年から2023年3月までの死亡状況を追跡した。通常は「最高の医療体制」で守られているこのグループの死亡状況は、「ゼロコロナ」政策が突然終了した際に何が起きたかを示す、不吉な指標となった。

 政策転換後の2週間、エリート層の死亡率は正常な水準を維持していた。これはまさに、感染が拡大し、症状が現れ、重症例が悪化するのに必要な期間に相当し、この期間を過ぎた後、死亡率は急上昇した。2022年の最終週、エリート層の死亡数は新型コロナ大感染前の基準値の10倍以上に達した。週間死亡率は通常値の1030%増でピークに達し、翌週には680%増に低下し、2月になってようやく基準値に戻った。

 この惨事は5週間も続かなかったが、年間死亡率への影響は明らかだった。2022年は19%、2023年は24%の増加となった。

 新型コロナ感染では常にそうであるように、年齢が極めて重要だった。85歳以上の男性では死亡率が61%増加し、ピーク時には16倍に急増した。エリート層の間でも、社会的地位は重要だった。最高位の要人――国家指導者やトップクラスの学者――の死亡率が最も高かったのは、医療へのアクセスが不足していたからではなく、高齢であり、新型コロナが付け入る隙となる慢性疾患を発症するほど、長く生きてきたためである。世界的な傾向と同様に、男性の方が女性よりも予後が悪かった。

 エリート層がこれほど深刻な結果に直面したのなら、一般の人々には何が起きたのか。研究者たちは、年齢別・性別ごとの死亡率を一般人口に外挿した。一般市民は、医療へのアクセスが良好な人々と同程度、あるいはそれ以上に脆弱であると合理的に仮定したのだ。

 その結果、65歳以上の推定過剰死亡数は、下限で144万人、上限で256万人となった。これらの数値は、他の研究者による独立した推計とも一致しており、いずれも公式の集計数をはるかに上回っている。

(エリート層の死亡とCOVIDに関する研究者の一人、何国軍(He Guojun)。Xより)

He Guojun, one of the authors of the study on elite deaths and COVID. From X.

 2020年から2023年までの中国の新型コロナ大感染による総死者数は、依然として同規模・同所得の国々と比較して”良好な水準にある。莫大な人的・社会的コストを伴ったものの、「ゼロコロナ」政策は、致死率が高かったオミクロン株以前の波において、大量死を確かに防いだ。だが、健康データではなく、「政治的恐怖」によって促されたこの急激な転換は、救えたはずの命を奪った。

 抗ウイルス薬は不足し、ICUのベッドは足りず、ブースター接種キャンペーンは不完全で、各家庭は不意を突かれた。制限が解除されればウイルスが広がるのは必然だったが、オミクロン株と準備不足の医療体制との衝突が被害を拡大させた。

 悲劇は、中国が封鎖を解除したことではない。問題は、まるでスイッチを切り替えるかのように唐突に解除し、「3年間封じ込められていたウイルスが、体制が追いつくまで待ってくれる」と期待していた点にある。

 習近平は勝利を宣言したが、死亡者欄は別の物語を語っていた。スローガンではなく、名前と日付、そして喪失という静かな現実を通じて。

 結局、エリート層は、研究者たちが描く「観察者」となった。無視するにはあまりにも目立ち、式典なしに葬り去るにはあまりにも重要であり、見過ごすにはあまりにも数が多い集団だ。彼らの死は、政府が隠そうとした真実を暴いた。「ゼロコロナ」が終わった時、ウイルスは単に「戻ってきた」だけではない。一気に猛威を振るい、犠牲者を出したのだ。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

*Bitter Winter(https://jp.bitterwinter.org )は、中国における信教の自由 と人権 について報道するオンライン・メディアとして2018年5月に創刊。イタリアのトリノを拠点とする新興宗教研究センター(CESNUR)が、毎日4か国語でニュースを発信中。世界各国の研究者、ジャーナリスト、人権活動家が連携し、中国における、あらゆる宗教に対する迫害に関するニュース、公的文書、証言を公表し、弱者の声を伝えている。中国全土の数百人の記者ネットワークにより生の声を届け, 中国の現状や、宗教の状況を毎日報告しており、多くの場合、他では目にしないような写真や動画も送信している。中国で迫害を受けている宗教的マイノリティや宗教団体から直接報告を受けることもある。「カトリック・あい」はBitterWinterの承認を受けて記事を転載している。

 

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2026年4月10日