ローマ発 ― バチカンの「世紀の裁判」の上訴審が3日、再開された。教皇側の検察陣が2度の挫折を喫し、この問題を抱えた事件の結果に大きな影響を与えかねない状況だ。
この裁判では、かつてバチカンで権勢を誇ったアンジェロ・ベッチュ枢機卿ら9人が被告となっており、2年にわたる長期の審理の末、2023年に金融犯罪で有罪判決を受けた。だが、バチカンの最高裁判所が最近になって、検察側の控訴を完全に棄却するという控訴院の判断を支持した。
これは、被告たちが、判決が覆されることはなくても、判決内容や刑罰が軽減されることしか期待できないことを意味し、最高裁判決と同じ日、バチカンの首席検察官であるアレッサンドロ・ディディは、下級裁に対する数か月にわたる異議申し立てを取り下げ、突然この事件から手を引いた。
問題となっているのは、ディディ首席検察官が関与した悪名高いWhatsAppチャットだ。このチャット記録は裁判全体の信頼性を揺るがすもので、ベッチュを標的にした数年にわたる裏工作を証明しており、バチカン警察、検察、そして教皇フランシスコ自身による疑わしいとみられる行為が示唆されている。
複数の弁護側は、このチャット記録が「ディディの証拠・証人への対応に公平性が欠け、職務継続が不適格であることを示している」と主張していたが、ディディ本人はこれらの主張を「根拠のないもの」として退け、最高裁判所の枢機卿裁判官らに激しく抗議していた。
彼はこの事件から手を引いた理由を「私に対する憶測や虚偽が、真実の究明と正義の確立という過程を損ない、害する形で利用されるのを防ぐため」としていたが、仮に最高裁がディディの職務不適格を認めていれば、事件全体が無効判決や審理中止に終わっていた可能性がある。実際には、控訴院は「ディディが自らを担当検察官を辞任していも、その検察活動は有効だった」と裁定している。
*ロンドン不動産取引疑惑とその他の問題
ベッチュ枢機卿らを被告とするロンドンの不動産不正取引に関する裁判は2021年に始まり、具体的な争点は、バチカンがロンドンの不動産に3億5000万ユーロ(現在の為替相場で約650億円)を投資した件。検察側は、ブローカーとバチカンの高位聖職者たちが不動産取得に際し、聖座から数千万ユーロの手数料・コミッションを詐取し、その後1500万ユーロ(同約27億円)を脅し取ってその不動産の管理権を譲渡させた、と主張した。
バチカン当局による最初の捜査は、ベッチュ枢機卿をめぐる二つの主要な派生事件を生み出し、ベッチュは横領罪で有罪判決を受け、5年半の懲役刑を言い渡された。裁判所は他の8人の被告についても横領、職権乱用、詐欺などの罪で有罪判決を下したが、他の多くの訴因については無罪とした。
だが、この判決では、「聖座を騙す大規模な共謀」という検察側の主張はほぼ退けられ、被告らを数件の「重大だが二次的な罪」で有罪とする内容だったため、検察側は不服として控訴し、被告側も全員が無罪を主張して控訴。
ディディ首席検察官は控訴を、当初の訴追を再審理する機会と見なしていた。控訴申立書には、単に当初の有罪判決請求書を添付しただけだった。だが、控訴院は、控訴申立書に法的に要求される「具体的性」が欠けているとして、控訴を棄却。最高裁も1月9日の判決でこれを支持したのだった。
*教皇の役割
検察側の控訴を棄却した控訴院は現在、被告側の控訴について審理中で、検察側の調査における当時の教皇フランシスコの役割に焦点を当てている。これまでの裁判で被告側は、「教皇が立法・行政・司法の最高権力を掌握する”絶対君主制”の下では、公正な裁判が不可能」と主張し、教皇フランシスコが調査中にその権力を行使した、と指摘した。
問題となっているのは、調査初期の2019年と2020年に教皇フランシスコが署名した4つの”秘密行政令”だ。これらはバチカン検察官に広範な権限を与え、監視の制限なしの盗聴や既存法からの逸脱権限を含んでいた。これらの法令は裁判の開始直前に明らかになったが、公式に公表されたことは一度もない。監視活動の根拠や期間を示さず、独立した裁判官による盗聴監視の監督も規定していない。本件捜査のために特別に制定されたものだ。
法学者たちは、「法令の秘密性とその場しのぎの性質が、被告側と検察側に対等な立場を求める公正な裁判を受ける権利の基本原則に違反する」と指摘している。本件では、被告側は検察の新たな捜査権限を全く認識していなかった。バチカンの法務関係者でさえ、「教皇フランシスコが法令を公表しなかったことは深刻な問題」と個人的見解として認めている。
ディディ首席検察官は、「教皇フランシスコの法令は、容疑者に対して不特定の『保証』しか提供していない」と主張し、裁判所は当初、「被告人の公正な裁判を受ける基本的権利を侵害している」という弁護側の申し立てを却下した。やや複雑な判断の中で、裁判官は「教皇フランシスコが法令を制定した以上、合法性の原則に違反は生じていない」と裁定した。
教会法によれば、教皇は神以外の誰にも裁かれない。しかし教皇も神の法に反する法律を公布することはできず、もし裁判所が最終的に教皇フランシスコの法令が「被告の基本的権利を侵害した」と判断した場合、潜在的なジレンマが生じる。
バチカンは、「被告全員が公正な裁判を受けた」と主張している。
(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)
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