・「公会議の改革で生まれた現在のローマ典礼を『唯一の典礼』とすべきだ」ー枢機卿会議での典礼秘跡省長官の発言予定原稿が明らかに

(2026.1.17 カトリック・あい)

 米National Catholic Register(14日付け)やCollege of Cardinals Report(15日付け)が、先の臨時枢機卿会議で「典礼」に関する討議用として用意されながら時間的制約から発表されなかったバチカン典礼秘跡省のアーサー・ローチ長官・枢機卿の発言予定原稿を明らかにした。この文書は、バチカン・ジャーナリストのDiane Montagnaが入手し、自身の13日付けのブログで全文を公開していたもの。

 それによると、ローチ長官は、教皇フランシスコが2021年に発布した、公会議以前の伝統的典礼を制限する教令『Traditionis Custodes 』(伝統の守護者)を引用する形で、「典礼における正当な進歩がなければ、伝統は『死んだものの集まり』に貶められ、必ずしも健全とは限らなくなる」と主張。

 教会史から様々な例を挙げ、典礼は「それ自体が時代や場所によって変化する文化的要素によって特徴づけられる」ものであり、その歴史は「有機的発展の過程における継続的な改革」である、と述べ、論拠として、同枢機卿は2006年の一般謁見におけるベネディクト16世の言葉、「伝統とは死んだ事物の集合体の伝承ではなく、起源へと繋がる生ける川、すなわち起源が常に存在する生ける川である」と引用した。

 そのうえで、「第二バチカン公会議が求めた典礼は、伝統の真の意味と完全に調和しているだけでなく、伝統に奉仕する特異な方法そのものを構成している」とし、教会は常に「確固たる伝統を維持する」ことと「正当な進歩への道を開く」という「動的なビジョン」を持っており、これらは「分離可能な二つの行為」として理解されるべきではない、と主張。

 「教会の第一の善は、分裂を凍結することで達成されるのではなく、共有せざるを得ないものの共有の中に自らを見出すことによって達成される」と述べ、教皇フランシスコの文書『 Desiderio Desideravi(神の民の典礼的形成について)』から引用して、 「公会議の父たちが、聖ペトロと共に、聖ペトロの下で、改革の必要性を感じた以前の儀式形式に戻ることはできない。彼らは聖霊の導きのもと、牧者としての良心に従い、改革を生み出した原則を承認したのだ」と言明した。

 さらに、教皇フランシスコの言葉を引用し、「一致はローマ典礼の単一形式、すなわち第二バチカン公会議から生まれた形式によってのみ達成される」と強調。パウロ六世とヨハネ・パウロ二世の在位中に改革前の典礼を認めたのは、単なる「譲歩」であって、推進を意図したものではない、と指摘し、『(公会議によって)改革された典礼がローマ典礼の「唯一の表現」となるべきだ』という教皇フランシスコの願いを改めて強調した。

 発言予定文書の最後に、長官は、教皇フランシスコが『 Desiderio Desideravi』で語られた言葉を再び引用しながら、典礼をめぐる問題は「主に教会論的」であり、教皇は、公会議の正当性を認めながら、公会議から「生まれた」典礼改革を受け入れない人がいることに驚いておられた、と述べている。

 昨年秋の世界代表司教会議総会でバチカンのシノドス事務局の協力者だったカトリック評論家オースティン・アイヴリー氏によれば、教皇レオ14世は、ロッシュ枢機卿にこの原稿の準備を依頼したといい、「彼は、教皇が臨時枢機卿会議で話し合うべきテーマとして選んだ四つのについて基調報告の資料を準備するよう依頼された四人の枢機卿の一人だった」と自身のXに書いている。

 典礼問題は6月末に予定する次回枢機卿会議で議論される見込みだ。

ロッシュ枢機卿への反論

 米National Catholic Registerによると、典礼学者ジョン・ズールスドルフ神父は長官の主張に反論。「枢機卿は、改革された典礼が『有機的発展』を表している」と誤った主張をしている。ヨゼフ・ラッツィンガー枢機卿(後の教皇ベネディクト16世)は典礼改革を『作り物、その場の安っぽい産物』と評した」と述べ、公会議によって生み出された現在の典礼は、「歴史や司牧的必要性への訴えによって事後的に正当化された儀式だ。このような過程は、典礼の伝統が『作り出されたものではなく受け継がれたもの』という教会の従来の理解と容易に整合しない」と主張。

 さらに、この発言予定文書は、「改革、伝統、一致、正当性といった重要用語を、結果を予め決定づける形で再定義している」と批判。「改革の範囲、方法、前提条件」をまず検討しなければならず、さもなければ権威や一致への訴えは、交わりの手段となるどころか議論を閉ざす結果となる」と述べた。

 カトリック評論家ギャビン・アシェンデン氏も、この文書は、「真剣な神学的分析の痕跡ではなく、むしろプロパガンダの痕跡を帯びている… 真実の一側面を提示しようとする党派的な文書」であり、歴史的文脈に位置づけ、「公会議後の改革に関する修正主義的な歴史観を提示することで、枢機卿たちを伝統的典礼へのさらなる制限へと導こうとする試みだ」と結論づけた。

 

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他の枢機卿の臨時枢機卿会議での発言

 

 今回の臨時枢機卿会議での議論は全て非公開とされていたが、イタリア人ジャーナリスト、ニコ・スプンティーニが Il Giornale紙で報じた関係枢機卿の基調発言は、ウェブサイト Messa in Latinoに全文掲載された。要旨は以下のとおり。

 

・バチカン教理省長官のフェルナンデス枢機卿の発言

 教理省長官のビクトル・フェルナンデス枢機卿は、枢密会議で議論された二つのテーマのうちの一つ、すなわち教皇フランシスコの2013年の使徒的勧告『福音の喜び』について発言。「この文書が教会のためのプログラム的文書であり、前教皇の在位期間で”期限切れ”になることはない、と言明。その理由として、「単なる教義や道徳規範の羅列ではなく、神の救いの愛を美しく魅力的なものとして宣言することに焦点を当てていること』を挙げた。

 「私たちはしばしば、同じ教義的・道徳的・生命倫理的・政治的問題について語り続ける。こうした議論にはリスクが伴う」と指摘。福音のメッセージが「響かなくなる」か、あるいは「教会の精神的・社会的教えという広い文脈から切り離され、特定のテーマだけが前面に出される」危険性がある、と警告した。

 フェルナンデス枢機卿は、教皇フランシスコのこの文書から教会への二つの具体的な要求-第一に、神の無限の愛の真理が最優先されるよう、説教の継続的な改革と浄化を続けること。第二に、特に教会の道徳的教えにおいて、「兄弟愛という第一の戒めを生きる呼びかけ」が何よりも響き渡ること―を強調した。

 

・シノドス事務局長のマリオ・グレック枢機卿の発言

  第二のテーマ「シノドス(世界代表司教会議)とシノダリティ(共働性)」について発言したシノドス事務局長のマリオ・グレック枢機卿は、「シノダル(共働的)なプロセスが、教皇の首位権を制限したり相対化したりすることなく、ペトロの務めにおける識別を助ける効果的な手段として、よりシノダルな教会生活の様式が如何に役立つかを示した」と述べ、「シノダリティは首位権に対する対抗手段ではなく、神の民の預言的機能と司教団の識別が融合し、教皇が教会全体のための決定を行う際に、より確かな助けを提供する様式だ」と主張した。

*人間総合開発省次官のファビオ・バッジョ枢機卿の発言予定

 時間制約から実際に発言されることはなかったが、メディアで報じられた4番目の発言予定文書は、人間総合開発省次官のファビオ・バッジョ枢機卿によるもの。このテーマは、バチカン改革に関する教皇フランシスコの2021年の文書『Praedicate Evangelium福音宣教の促進についてで、次官は「福音宣教を教会統治の中心に据えることの重要性、一部の意思決定をローマから地方司教へ分散させた点、そして聴取と識別を重視することで教皇庁をより共同体的なものにした点」を強調している。

 

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2026年1月17日