イラクの司教が会見「虐殺の危機続くキリスト教徒など少数派にも目を向けて」(Crux)

Iraq prelate backs preference for minority refugees fleeing genocide

(2017.2.2 Crux スタッフ記者)イラク・エルビルのバシャール・ワルダ・カトリック大司教がCruxのインタビューに応じ、米大統領選でのトランプの勝利をイラクに住むキリスト教徒は「米国の我々に対する無関心の終わりを示すもの」と理解して歓迎した、とし、トランプの大統領令がキリスト教徒にとどまらず、イスラム国(ISIS)の犠牲となっているすべての人々に特別の配慮を払う限りにおいて、助けになるものだ、と語った。大司教はこれまでも、中東におけるキリスト教徒の声を代表する人物とされてきた。一問一答は次の通り。(「カトリック・あい」抄訳)

 CRUX:トランプ大統領の中東・アフリカ7か国からの入国停止命令が出て、あなたの米国出張は取り消されてしまいましたね。

Warda:米国出張の 主目的は連邦議会での聴取に応えることでしたが、延期されました。イラクのキリスト教徒のために、すみやかに聴取が行われることを希望します。

C:米国の新たな難民政策が安全保障上の理由によるものだ、ということに同意しますか?

W:新政策と懸念国と懸念国からの難民と安全保障上のリスクの関係を、大統領が分かっているのか、私には分かりません。私に分かっているのは二つです。まず一つは、テロと隣り合わせに暮らすのは恐ろしいことだということです。イラクでは、人々は日々、テロとともに暮らしていますが、仮に米国が厳しい入国審査のプロセスを導入したいというのであれば、理解できるし、評価できる。世界の皆さんは、欧州が難民の受け入れを抑制しようとしたことを早くも忘れているようです。欧州連合はトルコに難民をとどまらせるのに全力を挙げ、そのためのコストを負担するということをしました。欧米などテロが起きている国々では、人々が自分の国に誰が入ってくるのか心配するし、理解できます。

 もう一つは、カトリック教会は基本的に、信じる宗教や出自に関係なく移民たちの側に立っている。残虐な世界において複雑な場面に遭遇することがある。本当の問いは、残虐な扱いを受けているすべての罪のない人々に対する、米国だけでなく、国際社会全体の義務は何か、ということだ。教会として、とくにここイラクで、私たちは移動を余儀なくされている人、そうでない人を含めて、何の罪もない人々に対しての羊飼いなのです。あらゆるメディアは今、国を出ようとしている人々にだけ焦点を合わせて報道し、母国にとどまって必死に生きようとしている人々を忘れている。メディアだけではない。米国政府も、イラクのキリスト教徒や他の少数者を無視してきました。トランプ大統領の就任で、彼のやり方が乱暴かどうかはともかく、私たちがここにいて、苦しみあえいでいる少数派の人々を助けたいと努力しているのを知ってくれれば、ありがたいと思います。

C:トランプ大統領の難民に対する対応について、どう考えますか?

W:誰もが対応の内容をもっと明確すべきだと考えているようです。大統領令の意図について多くの混乱があり、多くの人が大騒ぎしています。イラクにいる私から見ると、大統領に抗議している人々がなぜ、ISISがキリスト教徒やクルド人など少数派を殺害しにやってきた時に批判の声をあげなかったのが不思議に思います。2014年以来、故郷を追われた何万人ものキリスト教徒が助けを求めているのに、米国政府からも国連からも財政支援を受けることができないことも、批判していません。シリア人キリスト教徒人口の20分の1以下しか米国への入国が認められなかったときにも、批判の声はあがらなかったのです。

 恐ろしい虐殺に直面している多くの少数派の共同体が何らかの形で優先順位を与えられようとしていることに、米国民の中になぜ大騒ぎする人がいるのが、理解できません。大統領令を「イスラム教徒排除だ」と叫んでいる人たちは皆、自分たちがそうすることで、私たちキリスト教徒を傷つけ、危険にさらすのだ、ということを理解すべきです。大統領令はイスラム教徒だけでなく、キリスト教徒、クルド人、その他の少数派に影響を与えるのです。イラクにいる私たちは西側メディアのように無神経な言葉を投げることはできません。私たちの間の分裂をあおるようなメディアの人々に、そのことを分かってもらいたい。騒ぎ立てることが、私たちにとって現実の危機をなるのです。

 ISISに襲われながら私たち少数派が生きるということはどのようなことなのか、米国民のほとんどは考えたことがない。人々は故郷を捨てるか、ISISの仲間になるか、殺されるか、選ぶしかない。そして多くが、考えられる限りの残酷なやり方で殺されているのです。イラクのキリスト教徒など少数派は自分たちの信仰の故に何もかも失い、信仰の故に残虐行為の標的にされています。信仰の故に迫害されているのに、米国などで抗議をしている人々は「宗教は関係ない」と言う。宗教を理由にした迫害が国連憲章にもとづく難民の条件とされているにも関わらすです。

 これは、まったく、信じられないことです。宗教は米国の政策の要素とされず、その結果、イラクで苦しめられているキリスト教徒や少数派は米国や国連の援助プログラムから見過ごされている。その間にも、絶えることのない迫害で私たちの小さな共同体が消え去ろうとしているのです。私たちを助けようとする人がいても、声高に抗議を繰り返す人々は、宗教を理由にISISの迫害の標的にされているにもかかわらず、難民認定に宗教は関係がないと言う。そのような声を代弁するような政策は正しくない。カトリックの信仰と教えに明確に反しています。私が理解しているような政策ではありません。私がとても理解できないのは、どうして西側で安泰な暮らしをしている人々が虐殺の危機に直面して命を守ろうと苦闘している人々と絶滅の危機に彼らの共同体に特別の配慮をしない、ということです。いったい誰が私たちのために抗議の声をあげるのでしょうか。

 

C:イラクのあなた方キリスト教徒は、何を米国政府に求めていますか?

W:イラクのキリスト教徒たちは米国の人道援助を必死になって求めています。そして、援助が途中で消えることなく、本当に私たちに届くようにしてくれることです。私の大司教区は2014年以来、故郷を奪われたキリスト教徒のイラクで最大のコミュニティの世話―衣食住から教育、医療まで―すべてをしていますが、米国政府、国連からは一銭の援助もない。活動資金は私的なキリスト教徒の慈善グループなどからいただくなど、自分で手に入れる努力をしているのです。

 繰り返し言いますが、私たちはキリスト教徒だけのために支援をしているのではない。クルド人の家族も対象ですし、私たちが運営する診療所もたくさんのイスラム教徒の治療をしています。しかし、その運営費も尽きかけています。数少ない医療スタッフが日夜を問わず働き、資金を得ようともしていますが、これまで三年間続けてきて、支援者の多くも援助の限界に達しつつあるのです。米国はイラク国内の人道援助にかなりの額の支援をしていますが、私たちのところにはほとんど回ってきません。「あなた方は教会だから資金を渡せないのだ」と言う人がいました。そこれ、言いたいことが二つあります。

 まず第一に、私たちは米国議会の方々から「米国の法律は教会組織が人道援助資金を受けることを禁じていない。自分の宗教に改宗させる目的のために使われるのを禁じているだけだ」と説明されている。私たちは、さきに申し上げた通り、クルド人やイスラム教徒の世話もしており、彼らに尊敬をもって接しています。カトリック教徒して、私たちはいつも他の信仰を持つ人々に尊敬の心を持っているのです。

 二つ目に、私たちの支援活動は、他の公的な援助機関の支援よりもはるかに効果的に行われています。私たちの教会のスタッフ―宣教師やボランティアは、そうするように〝呼ばれて″いるから、活動しているのです。ところが、これまでの米国政府や国連は、国内少数派を支援する教会の活動は援助をしない、という硬直的な姿勢を取り続けてきました。国連は「教会は援助がなくても活動している」という勝手な解釈で助けようとしない。

 考えてもみてください。こうした無理解に、私たちがどれほど腹立たしい思いをしているか。トランプ氏が米大統領選に勝利した時、イラクのキリスト教徒は、「これで、米国政府は、私たちを無視してきた政策をようやく変えてくれる」と期待して、喜びました。どうして米国人は虐殺から生き延びている少数派が援助を受けるのを妨げるために「宗教的なテスト」だけをするのでしょう。理解できません。

 イラクのキリスト教徒など少数派は今なお、故郷を追われ、これから何か月も、何年もそうされ続けるでしょうし、そうした中で生き延びるために援助が必要なのです。自分たちの家や村が繰り返しISISに破壊され、立て直しのための米国からの資金援助を強く求めています。たしかに安全保障の面からの難しい問題があり、実質的に安全を確保する背策が必要でしょう。そのうえで、イラクの少数派は、米国政府がイラクの他の人々と同じ権利を自分たちが得られるように主張してほしいのです。(抄訳・「カトリック・あい」南條俊二)

  (写真はワルダ大司教・Credit: Daniel Ibanez/CNA.)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」(欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。最近、映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、紹介しています。

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2017年2月6日