トランプの対中東・アフリカ7か国入国拒否‐あるシリア人カトリック青年の場合(CRUX)

 (2017.1.28 CRUX エディター ジョン・L・アレンJr.)

 難民に紛れ込んで潜在的なテロリストが入って来ないようにする必要があるという理由で、トランプ米大統領がシリア難民を含む中東・アフリカのイスラム7か国からの入国許可を停止する命令を発した時、私は同僚とエジプトにいた2015年6月のことが頭に浮かんだ。

 当時、私たちは世界中で起きている反キリスト教徒の迫害に関する連載の取材で、その国にいた。それまでに、コロンビア、エル・サルバドル、インド、ナイジェリアを回っていたが、カイロで「ステファノ」と言う名の30歳前後と思われるシリア人キリスト教徒の青年と出会った。彼は妻と二人で米国に入国する許可を希望していた。「ステファノ」というのは、もちろん、本名ではないが、入国が認められやすくなるのではないか、という期待を込めて、そう呼ばれるようにしていたのだ。

 ある晩の夕食の席で、彼は自分のことを話してくれた。彼は、シリアのイスラム教徒の家庭に生まれたが、鋭い霊的な感覚に恵まれ、「発見の旅」を続けるうちにキリスト教に目覚め、カトリック教会に通うようになった。家族から、そんなことをしたら殺される、という反対を受けながら、洗礼を受けたのだという。

 彼はとても鋭い感覚の持ち主で、信仰を授かるだけでは満足せず、ほとんど独学でカトリックの知的な伝統について学び始め、その中で特に、前教皇ベネディクト16世の支持を得ていたスイス人神学者ハンス・ウルス・フォン・バルサザールの著書に心酔した。バルサザールの著作をアラビア語に翻訳するのを人生の仕事にしたいと望み、彼の神学に関する著作類が、因習を打破し、イスラム文化を福音化する強力な手段になると確信していた。その段階で、彼はアラビア語に加えて英独伊の三か国語も使えるようになっており、海外で暮らすに十分な語学力を蓄えていた。仮に彼が、潜在的なテロリストだったとしたら、そういうことは全く意味をなさなかったろう。

 ステファノはほどなく結婚し、妻もキリスト教を信じた。家族からさらに強い反対を受け、シリアに留まることに危険を感じて、友人の車のトランクに隠れて国を出た。まずレバノンに行き、それからカイロに向かった。国連難民高等弁務官事務所に難民申請を出した。我々と会った時、彼は米国籍をとり、米国でカトリック信者と話ができることを期待していたが、彼のシリア政府発行の旅券は失効しかけており、エジプトからシリアに強制送還され、死刑になることを恐れてもいた。

 彼はついていた。後援してくれる金持ちのエジプト人のカトリック信者を紹介され、我々とカイロの高級ホテルのイタリアン・レストランでワインとパスタを楽しむことさえできた。だが、私は、米国で難民再定住プログラムで働く友人たちに、手を貸してくれるように連絡をとったところ、実際に友人たちと連絡をとってみると、法的に解決せねばならないハードルがいくつもあるという返事があり、ステファノも次第にいらだつようになった。そして、結局、彼は失望して、我々に連絡してこなくなり、現在彼がどうしているのか分からなくなった。

 彼がオーストリアのカトリック教会の幹部と連絡を取れるようにし、その幹部はもし米国が助けてくれないのなら、ウイーン大司教のシェーンボルン枢機卿の支援のもとオーストラリア政府が力になってくれる、と手紙をくれていたのだが。その後、どうなったのか何も情報がない。ステファノが妻ともども元気で、彼が希望していた翻訳を進め、カトリックとイスラムの関係の専門家になる道を歩んでいることを祈りたい。さらに、米国がステファノのような人物を見分け、入国を拒むことのないように、そして彼のようなキリスト教徒だけでなく、テロの恐怖を逃れ、保護を求めているシリア人イスラム教徒たちの入国を認めるようになることを祈る。

 トランプ大統領は、27日の Christian Broadcasting Networkとのインタビューで、宗教的迫害を受けているシリア人キリスト教徒の難民申請を優先的に受け付けることになることを示唆する姿勢を見せたようだ。彼は、オバマ政権下での対応に関連して、「もしキリスト教徒だったら、米国に入るのが不可能、そうでなくともとても困難だ、と思うかね」と発言した。「イスラム教徒だったら、入国できるが、キリスト教徒だったら、ほとんど不可能というのが不公正というなら、皆が公正に迫害されるのがいいのか。首をはねられる者が、キリスト教徒の方が多いのはどうなのか。そういうことは全くもって不公正だ。だから、我々は彼らを助けようとするのだ」と語った。オバマ政権下ではシリア人イスラム教徒の入国が容易だった、という認識は少々歪められたものだが、迫害を受けている少数者を特別に優遇する、という考え方は評価するに値する。

 トランプのこの言葉が「言葉のあや」以上のものであること、ステファノのような勤勉で、思いやりと品格を備えながら、宗教的な迫害を受けている人々に対する意味のある助けに結びつくをことを望みたい。(翻訳・南條俊二)

 

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2017年1月30日