TABLET/世界評論:トランプの失楽園的悪夢が大衆にもたらす冷かな慰め

(2017.1.27 ミシェル・ショーン・ウインタース)

 トランプの描く米国の理想のもとで、柔和な人は地を受け継ぎ(マタイ5章5節)損ねる

 TABLETオンライン版では、世界が現在抱える重要課題について現地特派員が深層から分析・評論するシリーズを始めます。その第一回として、米国のトランプ新大統領を取り上げます。

 米国の行政のトップとして、新大統領は就任式で国民に一致と希望を高揚させ、目的意識に満ちた演説をするのが常となってきた。だが、トランプ大統領はそうではなく、暗い、失楽園的でさえある国のビジョンを掲げた選挙戦からの大衆迎合的テーマの混合物だった。

  「スラムで貧困の中にいる母親と子供たち、国中に広がった墓石のようになった錆びついた工場群、金にまみれた教育システムは若い素晴らしい学生たちを知識が奪われたままにする。そして、犯罪、ギャング、麻薬が沢山の命を盗み取り、我々の国の潜在的な可能性を奪っている」と、トランプは国民に語った。「このようなアメリカの”carnage(大虐殺)”はここで止まる。まさに今、止まるのだ」。”carnage”は歴代の大統領がかつて使ったのない言葉だった。

    2009年の就任演説で、オバマ大統領が米国のありさまについて暗いビジョンを描いて見せることはできたろう。当時、米国では毎月80万人の雇用が失われていたのだ。だが実際には、オバマは”change”を希望と結びつけた。だが、トランプは民間部門が記録を取り始めて最長、75か月連続の雇用増加を記録している時に、政権に就いたのだ。

  リンカーン大統領は1865年、南北戦争が耐え難い苦しみに満ちた結末を迎え、戦いで62万人もの命が失われ、米国民の傷が癒える可能性に悲観的な見方が広がる中で、全国民に「互いの恨みを捨て、すべての人に慈しみを」と訴えた。

   これとは対照的に、トランプは「人々に負担をかけながら、政府の報酬を手に入れている我々の首都にいる小さな集団」を強く非難した。

   トランプの就任演説は米国の同盟国にも安らぎを与えるものではなかった。「この、たった今から、アメリカ・ファースト、それだけになる」。彼は、1930年代のアメリカ・ファースト運動が第二次大戦に巻き込まれるのに反対しただけではなかったことを、知らないようだ。あの運動は、ファシストに強く共鳴したものだった。そして、彼には、指摘した問題のどれにも単純な解決策がある―自分自身だ。

  就任 演説の前に、キリスト教会の牧師が、新約聖書のキリストによる「山上の説教」の「幸い」に関する箇所を朗読した。皮肉である。大統領就任式の日、少なくとも「柔和な人は地を受け継ぐ」(マタイ福音書5章5節)ことはなかったのだ。

 

*Tabletは、イギリスのイエズス会が発行する世界的に権威のあるカトリック週刊誌です。「カトリック・あい」は発行者から許可を得て、日本語に翻訳、転載しています。

 “The Tablet: The International Catholic News Weekly. Reproduced with permission of the Publisher” and that you quote our website address http://www.thetablet.co.uk

 

 

 

 

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2017年2月2日