「危機は深刻化している」”信教の自由”報告書(CRUX)


 (2016.11.28 Crux バチカン特派員 イネス・サン・マーチン)

  ローマ発―「なぜ、自分たちのことを話さないのですか?ヨーロッパ人ではないからですか?」。

 昨年、ニューヨークで開かれたキリスト教徒に対する迫害をテーマにした集会で、中東で活動しているアルゼンチン生まれのシスター、グアダルペ・ロドリゴが発した厳しい問いだ。「パリで起きたテロを覚えていますか?人々の反応はものすごかった。メディア、ソーシャル・ネットワーク・・テロは金曜日に起き、土曜日に、さらに日曜日にも起きた。それに対する反応を考えてみてください」「でも、シリアでは同じことが毎日、起きているのですよ」。

  近年、中東に住むキリスト教徒や他の少数派の人々は誘拐され、縛り首や磔けにされ、処刑にされ、性的奴隷にされるなど、さまざま暴力や迫害だけでなく、見捨てられている、とシスター・ロドリゴは訴えた。「西欧は私たちに背を向けています」と、中東で20年間に渡って奉仕活動を続けてきた彼女は語る。このような状況はシリアだけで起きているのではない。UNICEFによると、50万人にのぼる子供たちが捉えられており、人道援助や基本的なサービスから完全に遮断されている。

   バングラディシュでも、11月26日、ダッカ近郊のマスバリにあるカトリック教会が、ナイフで武装した強盗団に襲われた。イスラム教徒、仏教徒、キリスト教徒が平和的に共生する見本とされることの多い国で、3500人の小さなカトリックの共同体が三年間に八回も襲撃されているのだ。マスバリの主任司祭、ビンセント・ビマル・ロザリオ神父は、襲撃を受けた時に縛られ、さるぐつわを噛まされた。「警察は保護の強化を約束していますが、惨事が繰り返されている。安全が保証されないのです」としている。2014年には地方にある修道院が襲われ、二人の修道女が暴行され、レイプされた。キリスト教徒を含む、このような、宗教的な理由による暴力、迫害、処刑は、決して特異なものではない。増え続けている惨事の一つの過ぎないのだ。

   「Papal charity Aid to the Church in Need(ACN・助けが必要な教会に対する教皇の慈善援助)」が先週、英国で、世界の信教の自由に関する報告書を発表した。

 報告書は、ジャーナリスト、学者、評論家などが協力してまとめたもので、”イスラム超過激主義”の動きの深刻化など、世界中で宗教的な理由による暴力と迫害の連鎖が増大している。2014年6月から2016年6月までの間に、世界の国々の5か国に1か国の割合で、少なくとも一回、イスラム過激派の襲撃が起きている。アフリカの17の国、オーストリアからスエーデンにいたる欧州諸国でだ。

  強調すべきなのは、超過激派の特徴の一つが、自分たちと考え方が合わない人々、穏健で異なる伝統を持つイスラム教徒も含めて、すべてを抹殺、あるいは排除しようとする組織的な動きであることだ、という。英国のグラスゴーで商店を営んでいたアサド・シャーは、彼のフェイスブックに「ご復活おめでとう」を書いたという理由で、他のイスラム教徒に殺された。

  報告書によると、シリア、イラクを含む中東諸国、アフリカ、アジア諸国など、調査した世界196か国で、超過激派が、あらゆる形の宗教の多様性を排除し、多元的な共存を単独の宗教文化に変えようと活動している。しかも、こうした宗教的な不寛容はイスラム教に関係するものとは限らない。欧州では、反ユダヤ主義者によるテロが増えている。パリでは2015年1月、レストランや週刊新聞「シャルリーエブド」本社が襲撃されるなど、イスラム過激派テロで計17人が犠牲になった。オーストラリアのユダヤ人協会は、2014年から2015年の18か月間に190件の反ユダヤの事件が起きたとしている。

また欧州ではアフガニスタンやソマリア、シリアからの難民流入が、右翼や大衆迎合主義者たちの活動を活発にし、少数の信徒集団に対する差別や暴力、社会的な結束の後退などに影響を与えている。

アジアでも、ミャンマーの僧侶が反イスラム運動を主導し、民族主義の草の根集団を通して反イスラム感情を煽っている。同国は国民の9割が仏教徒だが、イスラム教徒が国内で急激に増えており、危険な状態に置かれつつある、と主張している。こうした状況に関連して、カトリック教会のチャールス・マウン・ボー枢機卿は2016年3月、、国連の人権委員会で、国際社会がミャンマーに宗教的な自由を尊重するように強く求めるように訴えた。ミャンマー政府は、個人が改宗したり異民族や異宗教の相手と結婚する権利を制限する「人種、信教の保護に関する法律」を作っている。米フォーチュン誌によれば、国連の高官の一人は、ミャンマー当局が同国西部、ロヒンギアのイスラム少数民族の浄化作戦を進めていると批判している。

そして、政府が率先して宗教的な迫害をしている国は、ミャンマーだけではない。何十年もの間、北朝鮮はキリスト教徒にとって世界で最も危険な国であり続けている。中国では、東シナ海に面する浙江省と周辺地域で、2000以上の教会が、中国共産党の方針に従わない、という理由で、十字架を破壊された。報告書によれば、調査した28のアジア諸国の半分以上で、信教の自由が高度に、あるいは中程度に侵害されており、自由が侵されていないのは21パーセントのみだ。

中東では、状況はさらにひどくなっている。調査した16の国で信教の自由が欠落している。中程度ないし高度の迫害が行われている国が87パーセントを占めている。

欧州では、英国、フランス、ノルウエー、デンマーク、ドイツで信教の自由に懸念を抱く理由がある。キプロスとギリシャでは状況はさらに懸念される。国民の三人に一人に信教の自由がなく、キリスト教徒の六人のうち一人が迫害されている。

全体としてみると、2012年から2014年にかけて「信教の自由」が改善した国は6か国程度、逆に悪化している国は調査した23の国のうち11か国。教皇フランシスコが「細かく刻まれた戦争」とよぶ、あるいはバラバラの第三次大戦とも言える暴力のスパイラルが加速している。世界で起きている暴力ゆえに宗教的な信念を咎めようとすれば、宗教的に動機づけられた嫌悪の犠牲になった人々は異議を唱えるだろう。

「私たちの世界を呑み込むような脅威を与える暴力の連鎖を絶ちたいなら、平和を戦争にとってか代わらせる必要があります」とシリア・カトリックのジャック・ムラー神父は、この報告書の前文で書いている。彼は、自分が何を話しているか知っている。彼は2015年にイスラム国に誘拐され、84日後に脱出に成功するまで、一人の助祭とともに狭いバスルームに閉じ込められるという辛い体験をした。そして訴えている。「今の時代は、従来以上に、宗教的な嫌悪と個人的関心を捨てて、信仰の求めるままに他者を愛することを学ぶ必要があるのです」と。

(翻訳・南條俊二)

*CRUXは、カトリック専門のニュース発信、分析、評論を行う米国のインターネットメディアです。2014年秋に米国の主要日刊紙、Boston Globe(欧米を中心としたカトリック聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけになった世界的スクープで知られる。最近、このスクープに至る苦労が映画化され、日本でも全国上映されました。現在は、米国のカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受け、独立系カトリックメディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」はCRUXが発信するニュース、分析、評論の日本語訳、転載について、了解を得て、ご紹介しています)

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2016年12月3日