:聖職者による性的虐待サミットから一年ー被害者団体が教皇の"つまみ食い"改革を批判(Crux)

(2020.2.18 Crux Elise Ann Allen)

   ローマ発ー教皇フランシスコが招集した未成年者保護に関する画期的なサミットー全世界司教協議会会長会議ーから間もなく1年。だが、「教皇は積極的にこの問題に取り組んでいるものの、問題への対処で一貫性を欠いている」と、聖職者から性的虐待を受けた被害者たちは訴えている。

    被害者たちは、バチカンがテオドール・マカリック元枢機卿の性的虐待に関して長い間調べてきた結果の公表がいまだになされないことに強い不満を表明。「司教に説明責任を求める会」の共同事務局長を務めるアン・バレット・ドイル女史は記者団に対して、教皇が昨年、約束した「ゼロトレランス(性的虐待を犯した聖職者に容赦ない措置をとる)]という言葉は「教皇の辞書から消えてしまった」と嘆いた。

 「ゼロトレランスは、教皇がしないために選んだ約束だと思う。彼は教会でしたいと思う変化を取り上げ、選択し、そして、それを追い求めないことを選んだのだ、と思います…いずれにせよ、約束通り行うことに熱心だったとは思えない」と失望をあらわにし、それでも、近い将来、状況が変わるとことに希望をつなぐ。「なぜなら、数百万人の子供を世話する世界的な組織が、性犯罪者を条件付きで元の司祭の仕事に戻すのを容認するのは、馬鹿げていますから」。

   ドイルは今、ローマで、「司教に説明責任を求める会」や「聖職者の性的虐待を終らせる会」など他の団体の人々と共に、未成年者保護に関する全世界司教協議会会長会議開催の一周年記念行事の準備に取り組んでいる。

     2019年2月の21日から24日にかけて、フランシスコはバチカンに世界中の司教協議会の会長を集めて会議を開き、「未成年への性的虐待は西洋の問題に過ぎない」という考えを排除し、被害者の話を聞く必要を強調した。(会議で、何人かの専門家は「ゼロトレランス」という言葉の使い方が不明確であり、異なる文脈で異なる意味をもっていると批判したのは注目に値する。)

   いくつかの具体的な行動の柱が立てられ、そのいくつかは教皇が追求した。しかし、17日のシンポジウムでドイルと仲間のパネリストは、この一年の間にいくつかの前向きな動きが見られたものの、透明性と教会法に関しては、埋めるべき大きな穴がなお存在している、と指摘した。そして教皇のいくつかの行動には失望しているが、それでも教皇が開いた昨年の会議は「途方もない量の」業績をのこし、ことをしたと言い、しばしばタブーと見なされるテーマについて世界的な議論に火を付けたことを評価した。

     だが、ドイル女史は「多くの被害者が表に出て声を上げるようになった」とする一方で、「被害者たちが速やかに塞がれるのを望んでいる大きな穴は、元司祭で元枢機卿のセオドア・マカリックについての、「性的な不正行為のうわさが公けになっていたにもかかわらず、どうして枢機卿に昇進したのか」という問題の解明を含めたバチカンの調査報告書だ。

    一昨年の10月6日、バチカンは"マカリック事件"の完全な調査を約束し、その結果を"適当な時"に公表する、としていた。ドイル女史は「公表が、なぜ遅れているのか。透明性がどうの、というような問題ではありません」と言い、遅れの原因は、数々の資料と司教たち、さらには歴代の教皇を含めた「徹底的」かつ「包括的」な報告をまとめようとしたから、という希望的観測をしてもいる。

   そして、「危機的な状況を本当に脱し、問題解決を正しい方向に導くためには透明性と謙虚さが必要でしょう」と言い、そのような時がすぐに来ることを望んでいると述べた。

    性的虐待の被害者で「司教の説明責任を求める会」の会員でもあるフィル・サビアーノ氏は、性的虐待に関する教皇機密の解除を教皇が昨年末に決めたことや、昨年5月の Vos estis lux mundiの発出など、教皇が取ったいくつかの措置に満足している、と述べた。虐待事件の取り扱いに関する新しいバチカンのガイドラインは、すべての聖職者と修道者が教会における性的虐待の事例を、聖職者としての地位に関係なく、教会当局に報告することを義務付けた。

   サビアーノ氏は、このガイドラインで、司祭、司教、枢機卿が正直に報告するための「言い訳のできないシステム」が確立し、前向きに対応する人々に「敬意が払われ、脅迫や報復がされない」ことが保証される、と評価した。しかし、その中身がなお不十分であり、規制を実施する方法が欠けている問題も指摘している。

  「もしも​​司教が自分自身の都合で握りつぶしたら… どうやってその案件を見つけ、その司教を処罰するのでしょう?国に報告を義務付ける法律が無かったらどうなりますか?透明性はどこまで確保されますか?教区の信徒が聖職者の虐待を訴えた場合、教会はそれを公開しますか? …聖職者が有罪と判断された場合、どのような罰則が適用されるのでしょう?」「虐待や隠蔽の罪が明らかになった者に対する罰則の内容も曖昧。教会法見直す必要もある」と具体的な対応を求めた。

    同じ様に、ドイル女史も、「一定の進展はあるものの、各国の司教区や修道会の管区レベルで、一年前の会議の内容と教皇が出した新しいガイドライン混じり合って受け止められている」と問題を指摘している。また、ヨーロッパ、アフリカ、アジア、米国の7か国からの統計をもとに「改善の兆しがある」とする一方、    「イタリア、フィリピン、コンゴ民主共和国などの多くの所で、状況は以前と変わらない」と言う。そして「1年前と同じように、司教が意図的に問題司祭に小教区などでの司牧を続けさせたり、教会法と関係なく司牧の務めに戻すことが、今でも全く可能なのです。Vos estis lux mundiでこの問題は解決できていない」と付け加えた。

    ドイツの聖職者による性的虐待被害者保護の団体、Eckiger Tischの創設者で、自身も被害者のマティアス.カッシュ氏は「これまでに取られた対策は少なく、遅すぎ、不十分だ」と語る。「私たちは何年も前から意見を述べています…   虐待被害者の中には回想録を書いている人もいる。被害者の努力で、事態は徐々に、しかし着実に改善してはいる」ととしたうえで、「各国で、被害者が声を上げ、それに耳を傾ける人々が必要です」と強調した。

   ドイル女史は「 過去12か月になされた措置は、大胆な改革を避けています。真の改革を行うには、教会法の抜本的な改正が必要です。正義を第一の目標にせねばならない。今の教会法は『司祭保護システム』であり、『正義に対する妨害』であり、教会の外から来る変化が必要とされています」と訴えている。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。

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2020年2月19日