・中国、「新植民地主義」に反論-アフリカ投資に慎重姿勢もバラマキ外交継続(産経、NW)

 【北京=西見由章】経済支援をテコにアフリカで影響力を強める中国に対し、欧米メディアでは「新植民地主義」と批判する動きが広がっている。習近平指導部もこうした国際世論を警戒しており、北京で開催された今回の「中国アフリカ協力フォーラム」では中国側の反論が目立った。

 「アフリカで植民統治をしてきた国が、厚顔無恥にも中国を悪くいっている」。ボツワナのマシシ大統領は3日放送された中国国営中央テレビ(CCTV)の単独インタビューで、中国側のいらだちを代弁してみせた。

念頭にあるのは、償還が困難な負債を抱えた途上国が中国の政治・軍事的な要求に応じざるを得なくなる「債務のわな」との批判だ。

中国の巨大経済圏構想「一帯一路」事業をめぐっては、大型インフラを整備したアジア・アフリカなどの発展途上国が過剰債務を抱える問題が顕在化している。中国主導で全長480キロの鉄道を建設したケニアは、全債務のうち7割を中国が占めるとされる。

中国マネーに依存させ、事実上の植民地化を進めているとの批判に対し、習氏は開幕式の演説で、アフリカへの支援について「いかなる政治条件もつけない」「政治的私利を図ることはない」とことさら強調。「中国とアフリカの協力の善しあしは、その人民に発言権がある」と牽制した。

ただアフリカなどの一部の途上国で政府債務が顕著に膨らんでいる事態は中国にとっても無視できないリスク要因だ。習氏は演説で新たな600億ドル(約6兆6千億円)の支援に加えて、「最貧国」などの一部債務を免除する姿勢も示した。2013年にピークの34億ドルだったアフリカへの直接投資は昨年31億ドルと高水準を維持しながらも鈍化傾向をみせており、中国側の慎重な姿勢もうかがわせる。

中国アフリカ協力フォーラムで世界制覇を狙う──後押ししたのはトランプの一言

2018年9月4日(ニューズウイーク電子版) 遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)
 9月3~4日、アフリカ53カ国が出席して北京で中国アフリカ協力フォーラムが開催された。まるで「新国連」を形成したような勢いである。結束力を高めたのはトランプの一言だ。日本がどんなに拠出額で対抗しても勝てない。

まるで「新国連」を立ち上げたような勢い

9月3日に北京で開幕した中国アフリカ協力フォーラムは、まるで習近平国家主席が宗主国となって、中国が頂点に立つ異形の「新国連」を設立したような勢いだった。中国と国交を結んでいない唯一の国、エスワティニ(旧称:スワジランド)を除いたアフリカ53ヵ国の首脳らが人民大会堂を埋め尽くしたその姿は、「圧巻」という印象を参加者に与えたにちがいない。

すっかり中国に取り込まれている国連のグテーレス事務総長が習近平を絶賛する形でアフリカ53ヵ国に呼びかける演出も、「異形の新国連」を彷彿とさせた。

特に体型的に堂々たる巨漢ぞろいのアフリカ諸国の首脳たちが座る座席は、中国で毎年開催される全人代(全国人民代表大会)の時の着座間隔と違い、3人に1人くらいの幅を持たせている。前後にも何割増しかの奥行きがある。ふんぞり返るのに十分だ。さながら王座に座っているような感を与える。

「いま新しい世界が開けた」と習近平は挨拶で述べたが、それは絵空事ではないという危機感を覚えた。習近平はアメリカの「一国主義」に対抗して「多国間の自由な貿易」を呼びかけている。アフリカ53カ国が中国側に付けば、国際社会における発言権も違い、世界制覇も夢ではない。

アフリカへの拠出資金も今年は600億米ドル(約6兆6000億円)。この数値を習近平が口にした時には、すべての列席者の目が輝き、どよめきが起きた。拍手が最も大きかったのは、習近平が「中国アフリカの団結を誰も破壊できない!中国アフリカは運命共同体だ!」と叫んだ時だった。

トランプの一言「くそったれ国家!」がアフリカ諸国の背中を押した

トランプ大統領は今年1月11日、ホワイトハウスで移民制度について議員らと協議した際「くそったれ国家(shithole countries)から、なぜ多くの人がここに来るのか」などと侮辱する言葉を使い、アフリカ諸国やカリブ海の島国ハイチから来る移民の多さに不満を示した。アメリカのメディアが出席者の話として伝えた。

トランプは翌日、「これは私が使った言葉ではない」とツイッターで否定したが、しかし一方では、「アフリカなどではなく、ノルウェーのような国からもっと人を招くべきだ」と指摘したとされ、明らかに「白人は歓迎するが、黒人は歓迎しない」と明言したことは否めない。

 トランプのこの「くそったれ国家」発言に対して全アフリカ諸国54カ国の国連大使が緊急会合を開催して、1月12日、「常軌を逸した人種差別的な発言だ!」と非難し、謝罪を求める共同声明を発表した。また、アフリカ連合(AU)の報道官は「くそったれ国家」発言について、「多くのアフリカ人が奴隷としてアメリカに連れて行かれたという歴史的事実に照らせば、到底受け入れられるものではない」として在米のアフリカ系住民にも抗議活動を呼びかけた。

 全米各地でも抗議デモが起きたが、アメリカとアフリカ以外の国で、これを「チャンス」とばかりに大きく取り上げたのが、ほかならぬ習近平なのである。

だからこそ習近平は9月3日の中国アフリカ協力フォーラムの開会挨拶で、「アフリカ諸国の皆さんは、中国の永遠の友人だ。私は皆さまとの友情を大切にしたい。この熱い団結を誰も破壊することはできない!」と呼びかけたときには、拍手が鳴りやまず、挨拶が終わると、3000人を超える着席者が立ち上がりスタンディング・オベーションが広い会場を揺り動かした。こうして、習近平はアフリカを自らの傘下に収めることに成功したのである。

習近平を始めとした新チャイナ・セブン(中共中央政治局常務委員7人)の全てと王岐山国家副主席が出席したことからも、習近平が如何にこのフォーラムを重視しているかがうかがわれる。

「新植民地主義ではない」と自ら否定した習近平

習近平は開会挨拶の中で、自ら「世間では中国の善意を新植民地主義と非難する声があるのを知っている。しかし中国には決してそのような意図はなく、返済能力に見合った貸付しかしないし、そもそも拠出金600億ドルのうちの150億ドル(約1兆7000憶円)は無償援助と無利子借款である」として、中国による援助で途上国が債務返済に苦しむということはないと主張した。

南アフリカのラマポーザ大統領も「中国を中傷しようとしている者たちが唱えるような新植民地主義がアフリカに広がりつつあるという見方には賛成できない」と挨拶で述べ、国連のグテーレスも「中国がいかに開放的で、開発途上国のために貢献しているか」と絶賛はしたが、果たしてそうだろうか。

新植民地政策であることは、随所で垣間見られるが……。

ジブチにアフリカ最大の国際自由貿易区

たとえば、中国は東アフリカのジブチにアフリカ最大の自由貿易区を創っている。世界屈指の活発な交易ルート上に位置する戦略的要衝という利点を活用し、世界の貿易・物流ハブとなることを目指す。7月5日に落成式を執り行ったが、中央テレビ局CCTVは、毎日のようにジブチと中国の結びつきの重要性をがなり立てるように報道している。

ジブチは「アフリカの角」と呼ばれるように、スエズ運河の南方で紅海の入り口にあり、角のように飛び出している形をした国だ。国際自由貿易区は総面積48平方キロメートルで、アフリカでは最大だ。落成式の時点では、まだ240万平方メートルしか完成していないが、10年後には完成する計画で工事が着々と進んでいる。

中国にとっては「一帯一路」大経済圏を結ぶ要衝となっており、ジブチには中国の海外軍事基地もある。そこには「五星紅旗」が晴れがましく翻っているではないか。

これでも「新植民地主義ではない」と主張する気だろうか。それには無理があろう。

世界制覇を目指す中国にすり寄る日本

ここまでの危機的状況が目前に迫っているというのに、安倍政権はその中国にすり寄ることに熱心だ。まるで習近平に会えることが「勲章」であるかのごとく位置付けている。

トランプの「くそったれ国家」発言で、アフリカ諸国をしっかりと「我が物」にしてしまった習近平は、それを意識してかアフリカ諸国の首脳らの前で、いやに低姿勢を演出している。全人代の時のような傲慢な表情もすっかり影を潜め、終始穏やかな笑みを浮かべるという演技まで絶やさない。

片や日本。安倍首相は「ドナルドと100%共にいる」とトランプ側に立ちながら、2016年にアフリカ諸国に300億ドルを拠出するとした。しかしアフリカ諸国が結束して反対しているトランプ側に立ち、中国の半額しか出さないとなると、どんなに日本国民の血税を注いだところで、アフリカ諸国は日本側を向きはしない。アフリカ諸国は漁夫の利を得てホクホクだろうが、長期的視点に立つならば、日本はここで中国にすり寄るのが賢明な戦略なのか否かを考えなければなるまい。

それよりも、本当に「ドナルドと100%共にいる」のならば、ドナルド・トランプに「日米に不利益を招く発言を控えるよう」アドバイスすべきだし、また対中包囲網を形成して何とか中国の一党支配体制と世界制覇を打ち砕こうとしている「ドナルドと100%共にいるべき」ではないのか。

なぜ、中国の世界制覇に手を貸すような矛盾する行動をとるのだろう。日本には確固たる対中戦略が存在するのか、そして安倍首相は本気で「ドナルドと100%共にいる」気はあるのか、ないのか、なんとも歯痒いのである。

[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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2018年9月7日