・暴力から逃れて1年 今も変わらないロヒンギャ難民の窮状(国境なき医師団)

(2018年08月23日 国境なき医師団ニュース)

多くのロヒンギャが暮らす難民キャンプで水を運ぶ少女 「もう働けるだけの体力もなく、そうできる状況にもありません。いつも将来への不安でいっぱいです」

8人の子の父親であるアブー・アハメドさんが漏らした。イスラム系少数民族「ロヒンギャ」のアブーさ ん。元々生活していたミャンマーから、バングラデシュに避難した一人だ。

 「頭に浮かぶのは食べ物、衣類、安全、私たちの苦難…。こんな場所に10年もいれば…。いえ1ヵ月だけでも、きっとあなた方にもこの苦しみを理解してもらえるのではないかと思います」アブーさんのように、ここでは多くの人が将来に大きな不安を抱えている。

1年前の2017年8月25日、ミャンマー軍がロヒンギャの人びとを狙って「掃討作戦」を展開。暴力と破壊が広がった。70万人を超えるロヒンギャの人びとがやむなく隣国バングラデシュへ脱出。それ以前からバングラデシュに逃れていた約20万人を加えると、コックスバザール県に身を寄せるロヒンギャ難民は91万9000人 を超えた。

 バングラデシュは、ロヒンギャの人びとを難民として受け入れ、寛容な対応をしてきた。だが、避難から1年たった今も、ロヒンギャの人びとは将来に不安を抱えたままだ。難民であり、ミャンマーに国籍をはく奪された人びとだという事実があるにも関わらず、周辺地域の各受入国は公的・法的身分を一切認めていない。

 ミャンマー政府に対して影響力を持つ各国政府も、しかるべきリーダーシップを発揮せず、ロヒンギャ迫害を終わらせる圧力をかけてこなかった。その結果、こうした国外脱出につながった。

バングラデシュで活動する国境なき医師団(MSF)の活動責任者パヴロ・コロヴォスは、「現状ではロヒンギャの人びとを『ロヒンギャ難民』と呼ぶことすらままならなりません。関係国政府や関係機関は、難民としての法的権利やその他の法的身分を認めていません。ロヒンギャの人びとを大変な窮状に押し込めています」と話す。

一方で国境なき医師団(MSF)は、ロヒンギャ難民に対する医療援助活動を続けてきた。この1年の間に、計19の医療施設などで実施した診療件数は5万6200件にのぼる。

また2017年12月には、バングラデシュ国内の難民キャンプで実施した死亡率の調査で、同年8~9月の1ヵ月間に、ミャンマー西部ラカイン州で少なくとも9000人のロヒンギャが亡くなったと推定した。判明した死亡例では、全体の約7割が暴力によるもので、少なくとも730人を超える子どもを含む6700人が殺害されたとみられる。

 水の入ったバケツを手にテントに戻る少女。雨が降るといつも周囲は水浸しになる。

 診察を始めた当初、治療した患者の症状は、過半数が暴力によるケガだった。しかし日が経つにつれて、難民キャンプの不衛生な環境による健康問題や症状を訴えるようになった。

「下痢症が深刻な症状のひとつ。見過ごせないです」とコロヴォス。「キャンプでは滞在者の最低限度の生活を守るインフラ整備すら整っていません。安心して生活はできません」

難民キャンプでは、最低限度の生活も営めない。いまだに、ビニールシートと竹でできた仮設住宅での生活が続く。これは、ロヒンギャの人びとがキャンプに来た当初に建てたものだ。人びとは、「いずれミャンマーに帰還することになっている」との口実で、長期的かつ充実した援助を得ることができなかった。大半の人びとが、清潔な水、教育や就業の機会、医療に手が届かない。しかも、キャンプに閉じ込められたままだ。

難民キャンプの様子 「この地域はサイクロンとモンスーンがよく来ます。でもロヒンギャの人びとに、丈夫な住まいはありません。安全性の確保が難しいです」とコロヴォスは話す。

MSFのインタビューに応じたある難民も、「雨の時は、仮設住宅に家族全員で座り込むのです。そうすれば、家を吹き飛ばされずに済みますから…」と、つぶやく。

国連が主導している、バングラデシュに対する人道支援のための資金もあるが、これまでに目標額全体の31.7%しか達成できていない。そのうち保健資金はわずか16.9%で、十分に医療援助ができない状況だ。

またロヒンギャの人びとは、予防接種率がとても低い。ミャンマーで長年にわたり、医療を受ける機会から排除されてきたためだ。そのためMSFでは、予防接種も実施しており、コレラやはしかなどの流行の予防、ジフテリアの拡大抑止に貢献している。

ロヒンギャの人びとに対する心のケアも必要だ。ミャンマーでは、難民の多くが凄まじい暴力の現場に直面した。心の問題を抱える人も少なくない。また、性暴力や人権侵害、人種差別などの性別およびジェンダーに基づく暴力(SGBV)による傷のケアも足りない。

さらにロヒンギャの人びとには、法的身分がない。治療が受けづらいだけでなく、司法や法の規定を正式に主張したり、暴力を受けたことによる補償を求めたりすることもできない。

「こうした抑圧は、援助の質を落とし、援助の規模を狭めてしまいます。それだけではなく、ロヒンギャの人びとは、援助に頼りきりになってしまう。ロヒンギャの人びとの、自らの力で尊厳ある未来を作る機会を奪うことにつながります」とコロヴォスは指摘する。

長期化が懸念される避難生活に対応するため、より持続的な解決策を講じなければならない。

「実際、数十年前から、バングラデシュやその他の土地で避難生活を送ってきたロヒンギャの人びとも何十万人といるのです。安全にミャンマーに帰国できるのは、さらに何十年も先のことになるかもしれません。ロヒンギャの人びとの苦難に対応するには、これまでよりも手厚い対策が求められます」とコロヴォス。

最後に、「それと並行して、ミャンマー政府に対し、ロヒンギャの人びとに対する掃討作戦の中止を呼びかけていくことも必要です」 と強調した。

【ロヒンギャ難民緊急援助にご協力を!】

寄付をする ※【支援対象】から「ロヒンギャ難民緊急援助」を選択してください。※国境なき医師団への寄付は税制優遇措置(寄付金控除)の対象となります。

 

バングラデシュにたどり着いても、なお過酷な状況にさらされる子どもたち

(UNICEF協会ニュース)

  2017年8月以降にバングラデシュに逃れた人々のうち54%が18歳未満の子どもで、60%が女性(そのうち3%が妊婦、7%が授乳中の女性です)だとされています。急激な難民流入に加えて、以前から避難していたロヒンギャ難民や受け入れ地域の住民など、70万人以上の子どもを含む130万人が今すぐの人道支援を必要としています。

多くの人々が何日もかけて悪路を歩きつづけ、粗末な筏(いかだ)やボートなどで国境を渡ってきています。バングラデシュにたどり着いても彼らの戦いは終わったわけではなく、十分な住居スペースがなく雨風にさらされる人もいれば、トラウマや忘れられない傷を抱えた人、疲弊していたり、病気や飢えに苦しんだり、と多くの人たちがケアを必要としています。

水もトイレも不足する難民キャンプや仮設居住区では、子どもの8割以上が栄養不足の状態にあり、最大で4割の子どもが下痢性疾患に、6割の子どもが呼吸器感染症にかかっています。さらに、3月からはサイクロンによる降雨量が増え、斜面の多いキャンプでの土砂崩れや汚水の氾濫が懸念されています。劣悪な衛生環境のもと、コレラなどの感染症が広がれば、数千人の命が脅かされる恐れがあります 。

ユニセフ、緊急支援を拡大

  ユニセフは子どもたちとその家族への支援活動を拡大しています。しかしながら、バングラデシュではサイクロンの季節が近づくにつれ、人口過密の難民キャンプや仮設居住区に住む52万人以上のロヒンギャの子どもたちの健康や安全がさらに脅かされる危険が差し迫っています。2018年6月までに、ユニセフは30万人以上に安全な飲み水を提供し、33箇所の外来栄養プログラムを通じて8,000人以上の急性栄養不良の子どもを治療し、879,273人にコレラの予防接種を実施しました。また、137,744人の子どもに心理社会サポートを、難民キャンプの867のラーニングセンターで研修を受けた教師2,762人によって4-14歳の91,000人のロヒンギャの子どもに非正規の教育を提供しました。(2018年8月時点)

ユニセフは、2018年、すべての子どもが守られ、権利を享受できるよう、水と衛生、保健、栄養、教育、子どもの保護や開発のためのコミュニケーション(C4D)などを通じた行動変容や政府との連携に取り組んでいます。

<水と衛生>ユニセフは2018年、600,000人に安全な水と衛生環境を届け、450,000人に重要な衛生メッセージを届けることを目指しています。
<栄養>ユニセフは2018年、急性栄養不良の5歳未満の子ども24,546人に治療を提供し、63,958人の授乳中の女性へのカウンセリング、生後6-59ヶ月の子ども236,252人へのビタミンAサプリメントの提供を目指しています。
<保健>1歳未満の子ども950,000人に経口コレラワクチン、生後11ヶ月までの子ども98,816人に5種混合ワクチンの接種の提供 3,600人の治療が必要な新生児の治療 5,000人の妊産婦へHIV/エイズの検査とカウンセリングの提供
<教育>4-14歳の202,279人に早期教育を含む非正規/正規教育の提供 15-18歳の77,150人にライフスキル教育、収入能力向上のための技術支援を含む非正規/正規教育の提供
<子どもの保護>10,000人の保護者を伴わない子どもの支援、300,000人の子どもに心理社会的ケアを提供 10,000人にジェンダーに基づく暴力へのケアやサービスを提供

ロヒンギャ難民緊急募金にご協力を

 今回の危機以前から、バングラデシュには多くのロヒンギャ難民が身を寄せています。2016年10月には7万4,000人のロヒンギャ難民が国境を越えてバングラデシュに逃れました。

それ以前より難民登録しているロヒンギャ難民は3万2,000人、さらに難民登録されていないミャンマー出身者は30万人から50万人いると推定されており、甚大な人道危機にあります。

ユニセフは危機の発生以来、現地スタッフを大幅に増員し、予防接種や栄養治療、給水支援、トイレの建設、巡回診療など、持てる力のすべてを投じて子どもたちの命を守り続けています。しかし、慢性的な食料不足や不衛生な生活環境は、確実に子どもたちの体力を奪いつつあり、このままでは年内に数万人の乳幼児が重度栄養不良に陥り、感染症などに命を奪われかねません。

ユニセフは、支援を必要とする72万人の子どもを含む130万人へ緊急支援活動を行うための資金として、1億4,978万米ドル(163億2,602万円※1米ドル=109円で計算)を国際社会に要請しています。しかしながら、一刻を争う現地の状況に対し、必要な活動資金は圧倒的に不足しています。最も支援を必要としている子どもたちとその家族に支援を届けるために、ロヒンギャ難民緊急募金にご協力をお願いいたします。

 

ロヒンギア難民の深刻な危機に隣人の助けをもっと

(国連UNHCR(高等弁務官事務所)協会)

 ミャンマーでは軍隊に脅され、家業である農業もできず、移動することも許されなかったモハマド(40歳)は、2017年8月、ミャンマーでの暴力行為から避難するため、15日かけてバングラデシュまで歩いて逃れました。2歳の娘・フォーミナの目は感染症にかかり、ずっと腫れあがったままです。

 ミャンマーのラカイン州北部で起きた暴力行為により、隣国バングラデシュに逃れるロヒンギャ(ミャンマーのイスラム系少数民族)の人々が急増しています。その数は2017年8月25日から推定72万3,000人*にのぼっています。 (* 8月15日現在)また、避難するロヒンギャ難民のうち、55%が18歳未満の子どもです。大半が徒歩でジャングルに隠れながら山や川、海を渡り、人々は水も食糧もなく、体調を崩し弱り切った身体で国境を越えています。水も不足し衛生環境が悪化する中、ジフテリアなど感染症の発生が懸念されています。

「思いをはせてください。栄養失調で苦しむ子どもを前に、なすすべもなくただ涙する母親を」UNHCRバングラデシュ事務所 久保眞治 前代表

 難民が続々と到着し、足の踏み場もないような大混乱の中、「今日助けなければ、明日この人は死んでしまう」という状態の人を最優先に救うため、現場の職員は多くの苦渋の決断を迫られました。難民に涙ながらに懇願されても、すぐに物資を手渡すことができない苦しさ、無力感。それでも、「助かる命を何としても救わなければ」と一歩も引かぬ思いで、UNHCRは全力で難民の保護活動にあたってきたのです。
私が難民支援にあたる上で、一つずっとこだわっていることがあります。それは「難民の目となり、耳となり、声となる」ということです。一番大事なことは「難民の声を届ける」ということだと肝に銘じて、どんな厳しい状況でも、それだけは絶対にやり続けようと思ってきました。

 ロヒンギャ難民は、難民というだけではありません。国籍すら持っていないのです。すべての権利を奪われ、暴力や略奪の犠牲となり、家を追われ、私たちの想像を絶する絶望と悲劇を押しつけられてきたのです。どうぞ、思いをはせてください。冷たい風雨の中、壊れたテントで暮らし続ける家族を。栄養失調で苦しむ子どもを前に、なすすべもなくただ涙する母親を。これほどの苦しみの中で、ロヒンギャの人々はバングラデシュにたどり着き、そして生きていこうとしています。

 UNHCRは現地の協力機関とともに、着の身着のままで逃げ出さざるをえなかった人々のため、必要な物資の供給を行っています。
2017年9月から継続的に空輸等で救援物資の供給を行い、12月までに10万939枚の防水用ビニールシート、19万8,985枚の就寝用マットと19万8,831枚の毛布、3万9,683家族分の調理器具セット、7万9,366枚の蚊帳、7万9,937個の水汲み容器等を供給しました。また、16万1,000人の難民が水へのアクセスが可能となっています。

深刻な資金不足 ロヒンギャの人々への影響は?

 2018年1月現在、ロヒンギャの人々の支援に必要な資金は、62%しか集まっていません。このままでは、以下のような影響が及ぶ恐れがあるのです。

 シェルターの補強をするロヒンギャ難民の一家

●シェルターの改修が間に合わなくなる
サイクロンの季節(雨季)が目前に迫っています。より耐久性のあるシェルターへの変更が緊急に必要です。

●栄養失調の子どもたちへの支援が削減される
資金が不足すれば、難民キャンプでは入手困難な生鮮食品や栄養のある食べ物の提供が難しくなります。また、栄養失調の子どもたちを治療しサポートする栄養改善センターで提供する支援も、削減せざるを得なくなってしまいます。

●「今すぐに保護が必要」な人々への支援が行き渡らなくなる
親のない子どもや負傷者、妊産婦など、すぐに支援が必要な人々を決して取り残さないよう、「プロテクションチーム」が難民キャンプや地域をくまなくまわり、緊急のケースに即座に対応するのがUNHCRの強みです。しかし資金不足により人員を削減せざるを得ず、UNHCRの活動の根幹である、「弱い立場の人々への保護」が手薄になる危険性が大きく増します。

 

【ロヒンギャの人々へ、私たちができること】

 私たちの住むアジアの一角で、今まさにこの悲劇が起きています。ロヒンギャの人々を救うため、ぜひご支援をお願いいたします。これほどの苦しみを、これほどの痛みを、懸命に耐えてきたロヒンギャの人々。どうぞ、彼らの命と希望を、私たちと一緒に支えてください。

 当協会は認定NPO法人ですので、ご寄付は税控除(税制上の優遇措置)の対象となります。皆様のご支援は、UNHCRが最も必要性が高いと判断する援助活動に充当させていただきます。

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2018年9月26日