・中国共産党がカトリック教会への対処方針で割れる、合意実行の是非は習国家主席の判断?(CRUX)

(2018.9.22 Crux Senior Correspondent  Elise Harris)

 ローマ発―何か月も続いた憶測に蓋を載せるように、バチカンが22日、中国政府と司教任命について”暫定合意書”に署名し、中国政府が指名した8人の司教を教皇が承認した、と発表した。

 同日夜発表した声明では、暫定合意書の署名は、教皇庁外務局次長アントワン・カミレーリ師と、中華人民共和国の王超・外交部副部長と双方の代表団による同日の朝の協議の中で、行われた。合意の一環として、教皇フランシスコは中国政府統制下にある中国天主教愛国会が教皇の認可を得ずに指名した8人の(従来であれば破門されたはずの)司教たちを、公式に承認した。

 1949年に中国共産党が政権を奪取して以来、同国のカトリック教会は、政府に協力する「公式教会」と政府の規制に反対する「地下教会」に分裂してきた。

 今回の暫定合意に関してバチカンが発表した声明によれば、教皇の強い希望は、これらの司教を承認する決断が「過去のいくつもの傷を克服し、中国のすべてのカトリック信徒が完全に一致するような、新たな取り組みの始まり」となることだ。

 バチカンはまた、合意に合わせて、北京近郊の河北省に「善き牧者イエス教会」を司教座聖堂とする承徳教区を新設した。

 今回の合意を「漸進的で双方的な友好関係の成果」とするバチカンは声明で、「長い交渉」の結果として合意に至った、とし、「合意内容の履行は定期的に見直されることになろう」と述べている。また、合意における約束は、カトリック教会と中国政府の対等な立場でのより大きな協力のための条件を作ることを意味する、とも説明した。

 教皇フランシスコのリトアニア訪問に同行しているバチカンのグレッグ・バーク報道官は、今回の合意は「目標達成へのプロセスの終わりではなく、始まりだ」と強調し、「これは対話に関すること。極めた異なった立場に双方がある場合でさえも、忍耐強く相手の主張を聞くこと」であり、「合意の目的な政治的でなく司牧的なもの-中国の信徒たちが、ローマと親しく交わり、中国当局から認められた司教たちを持てるようにすることーだ」と語った。

 今回の合意を受けて、司教任命がどのように行われることになるのか具体的な内容は発表されていないが、ここ数か月、噂として流れていたのは、バチカンがベトナム政府との間で使っている手法が採用されるのではないか、ということだった。つまり、政府が何人かの司教候補者を提案し、教皇がその中から司教を選ぶ、というやり方だ。

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 香港で発行されている日刊紙「 The South China Morning Post」が暫定合意発表前日の21日付けで報道したところによると、香港名誉司教のジョセフ・ゼン枢機卿は、バチカンの外交政策の責任者であるピエトロ・パロリン国務長官を、中国との合意を取り付けようとして「信じられない裏切り」を働いた、と強く非難し、辞任を求めた。

 これに対して、あるバチカン高官は22日、中国との合意を批判する人々は「声の大きい少数派」と述べた。バチカンの科学アカデミー会長のマルチェロ・サンチェス・ソロンド大司教は21日、「The Global Times」紙に、「(批判する人々は)とても強い立場にある。声も大きい。だが、とても数が多いわけではない」と語った。

 22日の声明で、パロリン国務長官は、合意の署名は、中国のカトリック信徒にとって、バチカンと中国の間の対話継続にとって、「極めて重要な意味」を持つ、とした。彼によれば、教皇の目標は「司牧的なもの。カトリック教会が福音を宣べ伝える使命に自らを捧げ、中国の、一人ひとりの、そして世界全体の幸せと精神的、物質的な繁栄と調和に寄与すること」だという。

 今回の合意がどのようにして中国の全ての司教たちがローマとの初めての完全な一致を達成するか、を語るにあたって、国務長官は、中国とバチカンの関係の前進継続のために、団結、信頼、そして”新たな刺激”が求められている、と述べ、教皇が、中国の全てのカトリック信徒たちに過去と現在の誤解を解く和解へコミットするよう求められた、として、次のように語った。「このようにして、中国のカトリック信徒たちは本当の貢献をすることができ、福音の宣言という教会の責務を果たし、自分たちの国の精神的、物質的な成長と、世界の平和と和解に寄与することができるようになるでしょう」と。

  Asia Newsの責任者で中国問題の専門家であるベルナルド・カベレラ師は、Cruxに対して、今回の合意が中国に与える影響は、まだ分からないが、中国のカトリック信徒たちは合意に対する印象で割れている、として、ある意味で、誰もが合意がもたらすであろうことに希望を抱いているが、『地下教会の信徒たちを忘れている』と嘆く声も聞かれる、と指摘し、「この合意が『暫定』合意であることが重要です。まだ、しっかりとした、全一致の約束になっていないからだ」と語った。

 中国外務省の代表の1人は21日、人民日報系のタブロイド紙「The Chinese Global Times 」に、バチカンの代表団が合意署名のために中国に来たのかどうか分からない、と語っていたが、カベレラ師は「この言葉は極めて重要。なぜなら、中国指導部は署名への賛否で割れているからです」と指摘する。つまり、カトリック教会との関係について今後どうしていくかについて、この合意が、最終判断をする中国共産党内部にこれまで以上の緊張をもたらす可能性があり、公式の合意に進めるか、破棄するかの判断は、最終的に、習近平・国家主席に委ねられることになるだろう、と見ている。

 彼によれば、この合意の前向きの側面は、中国政府の支配下にある「地上教会」とローマに忠誠を誓う「地下教会」の間に「事実上の分裂」がなくなるだろう立場に立っていることだという。だが、これから扱うことになるであろう一つの問題は、中国政府に承認を受けていない37人以上の「地下教会」の司教たちの運命だーつまり、現時点で、彼らは、自身の扱いがどうなるか分からない状態に置かれているのだ。

 カベレラ師は言う-「司教たちの早急な任命はないが、バチカンは徐々に”未承認”の司教たちの承認を進めようとする、と確信している」と。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2018年9月23日