⇒教皇が昨年10月に発出された自発教令による教会法の一部改正の日本語公式訳が3月27日、カトリック中央協議会から発表されましたが、その内容の重要性にもかかわらず、これでは一般信徒はじめ多くの方にはよく理解できないと思われます。以下にCruxの昨年10月22日のニュース・解説を再掲し、ご理解の助けとしたいと思います。(「カトリック・あい」)
教皇フランシスコが異例の措置として、バチカンの典礼秘跡省長官、ロバート・サラ枢機卿に書簡を送り、先月発出した自発教令「マニュム・プリンチピウム(重要な原則)」が「典礼書の翻訳に関する権限のバチカンから現地の司教協議会への重要な移行」を明確に意味すると伝えたことが22日、明らかにされた。教皇は、サラ枢機卿がいくつかのカトリックのニュース・サイトに、この自発教令に関する批判的な論評を載せたことも書簡で取り上げ、枢機卿に対して、この書簡の内容を同じニュース・サイトに送ること、世界のすべての司教協議会と典礼秘跡省の助言者たちにも転送することを指示した。
枢機卿に対する書簡で教皇は「次のことを明確にするのは重要なことです。すなわち、典礼書の翻訳に当たって『ラテン語の原典に忠実であること』と『必要な変更』は典礼秘跡省に権限があるが、その一方で、自発教令が示した規範は、原典からの翻訳において様々な言葉の良さと一貫性を判断する能力を現地の司教協議会がもつことを、聖座との協議を前提として容認するものです」と言明。さらに、「関連文書の翻訳を進めるにあたって、典礼秘跡省が行う翻訳文を現地の司教協議会に強制してはなりません。なぜなら、それが教会法で認めた司教の権利を侵すからです」と翻訳における典礼秘跡省の関与の行き過ぎを強く戒めている。
この自発教令は、典礼式文の翻訳とその承認に関する規則を定める『カトリック新教会法典』838条を改訂するもので、具体的には、教会の祈祷文原文を各国語に翻訳する権限を事実上、バチカン、具体的には教皇庁の典礼秘跡省ではなく、現地の司教に大幅に委ねる、という内容になっている。これに対して、‶バチカン中心主義〟の保守派から、前々教皇の聖ヨハネ・パウロ二世、前教皇のベネディクト十六世の下で翻訳権限をバチカン、特に典礼秘跡省へ集中させことに反するもの、と抵抗する声も出ている。
だが、1962年から1965年にかけて開かれた第二バチカン公会議の直後に、ミサと他の教会の典礼の翻訳について第一波が起こり、現地の司教協議会や同じ言語を使用する地域の司教協議会の連合体によって翻訳作業が行われ、翻訳文が認可されるという‶地方分権〟の動きが世界に広がった。1990年代初めに翻訳の第二波が起きたが、ラテン語原典に忠実に翻訳がされているか否かについて、世界のカトリック教会の祈りの一致ともからんで、問題にする声が高まり、ヨハネ・パウロ二世とベネディクト十六世が、バチカンに翻訳に関する権限を大幅に委ねる方向に舵を切った。
今回の教皇フランシスコの自発教令について、評論家たちは、二人の教皇たちがとった方向は教会の一極集中を改めようとする第二バチカン公会議の理念に背くものであり、フランシスコはその理念を取り戻した、として歓迎している。
教会典礼に従来から保守的な立場をとってきたサラ枢機卿は、複数のカトリックのサイトに掲載した論評で、自発教令の影響力は限られている、とし、その言葉の下においても、典礼書の翻訳についてのバチカンの承認は「決して形式的なものではなく、翻訳案の速やかな検討後に与えられる、ある種の承認だ」とし、「バチカンは翻訳作業に当初から関与することはないし、修正箇所を送り返すような古いやり方は廃止されたが、特定の用語や文章の翻訳については、承認の条件としてバチカンが責任を負っている、と主張した。
教皇の枢機卿に対する書簡は10月15日付けで出され、自身の判断の意味について「どのような誤解も招かない」ことを希望する、として枢機卿の自発協定に関する論評に応えたもの。特に、教皇は枢機卿が二つの点について明確に認識するように求めている。
第一に、教皇が強調したのは、現地の司教協議会による翻訳案をバチカンが厳しく見直すやり方は、完全に改められた、ということだ。
これまで、現地の司教協議会はバチカンから承認を得ることを求められ、承認を得る前に詳細な点検を受け、いくつもの修正を求められる可能性があった。それが今回の自発教令によって、求められるのは「confirmatio 確認」を受けることだけで、一字一句、詳細に点検されることはない」ことになった。これに対してサラ枢機卿は自発教令に対する論評の中で、その「確認」もバチカンの実戦的役割を想定したもので、事実上、「recognitio 承認」と同じ意味だ、との判断を示していたが、教皇は「この二つの擁護には『厳格な相違』がある」と彼の解釈の誤りを厳しく指摘し、「 recognitioと confirmatio を『厳密に言って同義だ』とか、『聖座の責任の程度は(司教協議会と)取り替えられない』と言うことはできない」とサラ枢機卿あての書簡に書いている。
第二に、教皇はまた、ヨハネ・パウロ二世の下で2001年に出された翻訳に関する指針Liturgiam Authenticam―多くの評論家はバチカン中央集権の極みと見ていたが―は、今回の自発教令によって、そのいくつかの条文は廃止され、十分な有効性をもたなくなった、という認識を明確に持つように、サラ枢機卿に求めた。「自発教令は、典礼書の翻訳が、2001年の指針にすべての点で従わねばならない、という立場を取らない」と書いている。
翻訳に求められる三つの「忠実さ」
2001年の指針は(翻訳原案を)評価するにあたって重視すべきものとして「ラテン語原典に忠実であること」を強調していたが、教皇は「忠実であること」には三つの形がある、とし、「ラテン語原典に忠実であること」「文書が翻訳される言語に対して忠実であること(「カトリック・あい」注・キリストや使徒たちが本来伝えようとしていたメッセージが、現地語の表現で可能な限り正確に伝えられているか)」「翻訳の受け手となる会衆によって文書が理解されることに忠実であること(同注・キリストや使徒たちが本来伝えようとしていたメッセージが、ミサなどの典礼参加者に可能な限り正確に受け止められているか)」を挙げている。
(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)
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