【2026年2月の巻頭言】2月9日、3月11日に“神言会裁判”、その間に3月6日の「祈りと償いの日」、聖職者の性的虐待絶滅を願う教皇の声は届くのか

*教皇が年頭の枢機卿会議で「性的虐待の危機」を警告

 

 世界の教会の信頼を大きく損なう聖職者による信徒などへの性的虐待問題は未だに続いている。昨年後半から今年初めにかけて見ただけでも、「少年への性的虐待で調査中のスペインの司教が教皇に辞表を出して受理」「3億ドルの性的虐待被害補償基金の活用が初仕事となるニューヨーク大司教の新任」「数十人の女性から告発されたブラジルの元司祭、まず、3歳児への強姦罪で有罪判決」などを挙げられる。

 

 いっこうに収束の気配が見えない、この問題に深く心を痛めておられるレオ14世教皇は昨秋、聖職者による虐待被害者支援の国際団体代表とも会われ、「性的虐待被害者支援の責任を果たせなかった者への対応方法にできる限りのことを行う」と約束された。

 そして、新年早々に召集された臨時枢機卿会議の閉幕の挨拶で、「今日でも多くの場所で、教会の活動において真に傷跡となっている『性的虐待による危機』について触れておきたい」とされたうえで、「虐待そのものは、おそらく一生続く深い傷跡を残します…多くの場合、教会におけるスキャンダルは、『扉が閉ざされ、被害者が受け入れられず、真の牧者たちの親身な支援を受けられなかったこと』が原因です… 被害者の痛みは、受け入れられ、耳を傾けてもらえなかったことによって、さらに強くなっています」と警告された。

 

  

*バチカンの「未成年・弱者保護委員会」は日本の司教団に17項目の改善勧告・要請を出したが…

 

 バチカン教理省の未成年・弱者保護委員会は昨年10月の第二次報告で、日本の司教団に性的虐待対応について、「聖職者および司牧者に対する明文化した行動規範が欠如している…聖職者たちが『Vos estis lux mundi』(虐待の通告義務とそのための制度整備を促す教皇フランシスコの自発教令)をどこまで認識・理解しているのかについて疑問を投げかけるものである」「修道会の会員による虐待疑惑を巡る司教と修道会の間の効果的な協力の欠如について懸念を表明する」などとしたうえで、17項目にわたる改善勧告・要請をしている。  

  だが、それから3か月を過ぎた今も、司教団の公式ホームページや、教会の広報紙などには、この報告の内容や勧告・要請への対応はおろか、受け取ったこと自体が報じられていない。昨年末に司教団が「2024年度日本の教区における性虐待に関する監査報告」を公表したが、内容は、教区から提出された確認書による2023年4月からの一年間の性虐待の申し立ては2教区、3件、司祭・修道者の研修実施は7教区、性虐待防止の行事・研修会実施は6教区…性虐待の申し立てのあった教区には監査役の所見を通知、ガイドラインに基づいて更なる対応を求めた―とあるのみ。具体的な説明は皆無。数字だけの”義務的”な報告でしかない。バチカンの委員会の報告を読んだ気配すら感じられない。

 

 

 

*3月6日の「祈りと償いの日」をはさんで2月9日、3月11日に“神言会裁判”がある

 

 日本の教会では、3月6日が「性的虐待被害者のための祈りと償いの日」だ。その日をはさむように、2月9日と3月11日に、告解を”利用“して女性信徒を繰り返し性的暴行した司祭(当時)が所属していた神言会の損害賠償責任を問う東京地方裁判所での裁判が予定されている。

 すでに12回も行われているこの裁判には、原告・被害者の女性は強い心理的な苦痛を抱えながら毎回出廷しているのに対して、被告の神言会の代表は一度も出廷せず、代理人弁護士に任せたまま。被告側は当初は、加害者とされる元司祭が「どこにいるか知らない」とし、その主張が通らないとみるや、「原告の主張は虚偽だ」と言い換え、それも通りにくいと見たのか、今度は、「彼の行為は、読書や散歩のように”業務外”の行為で、会はあずかり知らぬこと」と”新“解釈を持ち出した。あくまで会の責任を回避することに専念し、被害者に対する思いやりどころか、全く誠意を欠いているとしか言いようがない。

 

 

 

 

*裁判を傍聴、被害者の支援を続ける信徒、司祭、シスターに、被告の不誠実に怒りと悲しみ

 

 裁判後に毎回行われている原告弁護士の説明と被害者支援の会には、毎回、一般信徒だけでなく司祭,シスター合わせて30人以上が参加している。それぞれの持ち場で真剣に福音宣教に従事し、中には自身も性的虐待を受けた痛みを抱える方もいるが、このような不誠実な対応に、強い怒りと悲しみを訴える声が、会を重ねるごとに強くなっている。

 

 

 

 

*ほかにも原告・被害者を深く傷つける複数の教区の対応、表に出ないものも

 

 教皇が言われる「被害を訴える人たちへの傾聴」どころか、思いやりも、誠意ある対応を欠いている教区レベルの事案は、確認されただけでも、裁判所の和解勧告を受けてわずかばかりの賠償金を払っただけで、性的虐待被害者への心身のケアや教会に改めて迎え入れる配慮などはしないままの長崎、仙台教区、外国人男性から修道会司祭による性的虐待の訴えを修道会に”取り次いだが、パリの本部から明確な対応を得ないままの札幌教区などがある。表ざたになっていないが、「カトリック・あい」に直接、間接に届いた性的虐待の訴えは他にいくつもある。

 一修道会だけの問題ではなくなっている日本の教会全体の信頼を損なう事態に、関係の高位聖職者も、司教団も真剣に向き合おうとしているとは、とても思えない。1月の臨時枢機卿会議での教皇の言葉を真剣に受け止め、この裁判にとどまらず、聖職者による性的虐待問題について、誠意ある具体的な対応を求められている。

 

 

 

 

*神言会裁判に”不干渉“の高位聖職者の対応は適切と言えるのか?

 

 神言会裁判について続けよう。日本の司教協議会会長の菊地・枢機卿は、東京教区長であり、この修道会においては世界で二人しかいない枢機卿の一人だが、この裁判について、昨年、米国の独立系カトリック・ニュース評論サイトCRUXのインタビューにこう答えている。「修道会の司祭が起こした問題なので、修道会本部が判断すること。こちらからは対処できない」と。本当にそうだろうか。

 

 

 

*バチカンの専門家は「修道会の教区の管轄権からの免除は、内的統治と規律に関して与えられるもの」

 

 教皇庁立ウルバノ大学法学部教授でバチカンの福音宣教省顧問、使徒座最高裁判所署名院の裁判官などを歴任してイージ・サバレーゼ師は「解説・教会法」(田中昇訳、フリープレス刊)でこう説明している。

 「すべての修道会は自治権を有しており、聖座法による会は、地区裁治権者の管轄権からの免除を享受しています」とする一方、「しかしその免除は、本来的に内的統治と規律に関して与えられるのであって、信者の司牧、神への公的礼拝の実施やその他の使徒職の活動に関するものには与えられません。これらの諸活動においては、全ての修道者は、司教の権限の下に置かれます」と明言している。つまり、修道者、修道会も信徒への性的虐待問題の判断は司教が行う、と判断できるのではないか。

 

 

 

*司教団の性的虐待問題への取り組みは”後退“している?

 

 こうした神言会裁判とそれへの対応の影響を受けたのか、性的虐待問題への取り組みに”後退”とも見られる動きが昨年出てきている。

  司教協議会の下に置かれ、性的虐待問題に具体的に対応していたはずの「子供と女性の権利擁護のためのデスク」の活動報告は、カトリック中央協議会会報2025 年 7 月号に、同年5月の「未成年者と弱い立場におかれている成人の保護のためのガイドライン」運用促進部門と「子どもと女性の権利擁護のためのデスク」(CWD)合同オンライン会議の簡単な報告以後、姿を消してしまった。

 

 

 

*司教協議会の「子供と女性の権利擁護のためのデスク」は社会司教委員会が新設の委員会に吸収

 

 そして、カトリック中央協議会会報2025年12月号に、同年7月に開いた「再編成した社会司教委員会」の司教・事務担当者会議の決定事項として①社会司教委員会のメンバーとして修道会管区長会からの派遣を依頼しない②社会司教委員会の下に「いのち・人権・平和委員会」を置き、啓発活動推進について、社会的課題の共有と理解の促進(福音的価値観の深化)を教区、活動団体とともに推進する。現難民移住移動者委員会、部落差別人権委員会、HIV/AIDS 部門、子どもと女性の権利擁護部門のイシューのほかに、現代社会の中でいのちや人権を脅かされている人々の状況や社会的課題に向き合うーなどとある。

 ここから推測するに、「子供と・・・デスク」は、この「いのち・・・委員会」に、他の委員会と共に”吸収“されてしまったようだ。性的虐待問題を誰が責任をもって対応するのか、教区の窓口との連携はどうなるのか、「未成年者・・・の保護のためのガイドライン運用促進部門」はどうなったのか、など全く見えて来ないし、司祭や一般信徒に理解できるような説明もない。

 

 

 

*教区の性的虐待窓口も機能を十分果たしているのか、実績報告もない

 

 そもそも、教会の窓口そのものが、長崎教区では教区事務局の担当者が司祭からパワハラをうけてPTSDを発症して退職、一時窓口が閉鎖になり、東京教区では担当司祭が問題を起こして、更迭・謹慎措置を受けるなど、大きく信頼を損ねる問題が起き、その後始末がきちんとなされたという話もない。機能が十分に果たせているとは言い難い状態だ。

 

 

 

*社会司教委員会のメンバーに「修道会管区長会からの派遣を依頼しない」で「緊密な連携」ができるのか

 

 また、2025年12月のカトリック中央協議会会報には、「子どもと女性の権利擁護のためのデスク」が”吸収”されることになったと解釈される新設の「いのち・人権・平和委員会」の上部組織、「社会司教委員会」のメンバーとして「修道会管区長会からの派遣を依頼しない」と昨年7月の会議で決定した、とある。

 バチカン教理省の未成年・弱者保護委員会は昨年10月の報告で、日本の司教団に「修道会の会員による虐待疑惑を巡る司教と修道会の間の効果的な協力の欠如について懸念を表明する」とのべ、「司教協議会は、修道会の上級責任者と緊密に連携し、(教会が性的虐待の被害者にとって安全な避難所となれるように支援する活動である)『Memorare initiative』を日本において採用し、保護対策における「一つの教会」アプローチのための協力を促進する」と勧告・要請している。これについても、司教団の誠意ある具体的対応が求められている。

 

(「カトリック・あい」代表・南條俊二)

 

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2026年1月31日