・教皇の旧ラテン・ミサ典礼規制強化の自発教令に早くも賛否’の反響

ローマ発ー教皇フランシスコの第二バチカン公会議前のラテン語ミサを制限する自発教令は、前任者ベネディクト16世の下で与えられたより広範な同ミサの許可を事実上、帳消しにするものだ。予想通り、世界中のカトリック教徒から「預言的な動き」と讃える声の一方で、「フランシスコの経歴に汚点をを残す」と批判する声など、賛否両論が湧き起っている。

*賛成ー歴史的で大胆、預言的な行為だ

 教皇伝記作家のオースティン・イヴェレイ氏は教皇の決断を高く評価し、ツイッターに「歴史的な日。大胆な動き。預言的な行為」だとして、次のように書き込んだ。「ベネディクト16世は、2007年に出したラテン語典礼の自由化を認める自発教令で『問題が起きたら、見直す』としていました。フランシスコは世界の司教たちの意見と聞き、彼らは問題が起きている、と答えました。一致を促すことを意図した措置が、分裂と第二バチカン公会議の成果否定の種を蒔くのに使われたからです」としている。

*反対ーラテン語ミサ支持派への”宣戦布告”

 これとは正反対に、典礼の専門家で新典礼運動のブログの編集長、グレゴリー・ディピッポ氏は、この決定を聞いて「教皇がとても多くの信徒たちを酷く虐げることになる、と思い、情けなく、落胆しました」と批判。ラテン語ミサの熱烈な愛好家に対する「宣戦布告であり、教皇のイデオロギー的ビジョンに合わない人たちを追い出す意図をもった声明… これまで、ラテン語のミサを愛好するカトリック信徒たちは『教会の中で歓迎されない、求められない存在』というあからさまなレッテルを貼られてきました。そして今回、教皇が正式に、こうした信徒たちの司牧についての考えを全て否定することになる」と強く批判。「それでも、彼らは、とてもよく教理教育を受けており、教会が、このような形で信徒たちを虐げる資格を教皇に与える”個人的な遊び道具”でないこと知っています」と念を押した。

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*ラテン語ミサの”自由化は分裂を生むのに利用された

 今回の自発教令は、教皇自身の権威にもとずくもので、この内容は教会法に盛り込まれることを意味する。教令のタイトルは「伝統の守護者」を意味する「Traditionis Custodes」。第二バチカン公会議以前の世界のカトリック教会で行われてきたラテン語ミサは、「世界に開かれた教会」の一環としての「世界各国、各地域の言語によるミサ」を定めた公会議の決定により、”原則禁止”とされていたが、前教皇のベネディクト16世が、小教区主任司祭を含む司祭の判断で行えるように”自由化”されていた。
 今回の自発教令は、ラテン語ミサは司祭判断で行うことが禁じられ、可否の判断は各教区の責任者である司教が行う、とした。許可する場合の場所と日時の判断も司教が行う。すでにラテン語ミサを行っている司祭は、改めて司教から許可を取らねば、継続できなくなり、教令が出されて以降に叙階された司祭は、司教に正式の申請を出さねばならない。また小教区でのラテン語ミサは認められず、ラテン語ミサのために新しく小教区を設けることも、新しい集団を作ることもできない。司教は許可する場合、事前にバチカンと協議せねばならない。

 自発教令と同時に出された世界の司教たちへの書簡の中で、教皇は、前任者ベネディクト16世が教会の一致を促すためにラテン語ミサを容易に行えるようにして13年経ったが、その措置が「分裂を生み出すために”活用”された… 聖ヨハネパウロ2世とベネディクト16世によってもたらされた多様な典礼の感性を備えた教会共同体の一致を目指すチャンスは、亀裂を広げ、違いを際立たせ、意見の不一致を助長するのに利用されてしまった。教会を傷つけ、進むべき道を妨げ、分裂の危険にさらしている」と”自由化”のもたらした弊害を説明した。

 

*反対ー制限が教会一致に利する、とは言えず、”外”に追いやるもの

 これに対し、ディピッポ氏は「ラテン語ミサを制限するのは、一致を促進するため」という考えは受け入れられない「あからさまな嘘」とし、今回のフランシスコの決定は「間違いなく、信徒たちをさらに分裂させる。伝統的な典礼やそれに類する典礼に特に愛着を感じない人の多くも、この変更が示す司牧的な慈愛の欠如に不快感を覚える、と思います」とあくまで批判の姿勢だ。

 イングランド・ウェールズ・ラテン語ミサ協会のジョセフ・ショー会長は16日に出した声明で、フランシスコの新しい教令は「我々を深く失望させるものであり、厳密に実施されれば、自分たちの司教や教皇と共に伝統ミサに参加することだけを希望する多くのカトリック信徒を、教会外の祭儀、とく聖ピオ十世会の人々の祭儀への参加に駆り立てることになるだろう」と批判。

 我々カトリック信徒は、特に2007年以来、教会の一致のために長年にわたる努力を続けてきた。教会の一致は、第二バチカン公会議が宣言したように、典礼の統一ではなく、教皇の下での信仰の一致によって成し遂げられるものだ」と主張した。 また、ラテン語ミサが小教区で捧げられるのを禁止することは「実行不可能」であり、「”例外的な形のミサ”とそれに参加する共同体を全て否定する判断は、まったくの見当違い。この判断の擁護者に対して、”例外的なミサ”が教会の一致を損なっている、という主張を立証する証拠を、東方典礼、あるいは新求道共同体のような独自の典礼を行なっているものと比べてどうなのか、も含めて提示するよう求めたい」としている。

*賛成ー旧典礼ミサの是非判断を司教に委ねるのは正解

 米国の司教協議会・典礼委員会のジェームス・モロ二ー前事務局長は、Cruxに対して、教皇フランシスコが書簡で述べておられるように、前任者ベネディクト16世の下でのラテン語ミサの”自由化”が、それが目指していた教会の一致と逆の効果をもたらした、例えば、インターネットに「”例外的な形のミサを捧げないなら、司祭はローマ典礼に倣うことにならない」、あるいは「通常の形のミサを独占的に捧げる”不可侵の権利”が司祭にはある」「第二バチカン公会議と公会議を受けた典礼改革には欠陥があったと、多くの人が考えている」といった具合に、「勝手な書き込みが増えるようになった」と分析した。

 そして、「例外的に声の大きい人々の中には、新旧のミサを競わせようとする傾向があります」とし、教会問題の“解説者”の一人が最近、「公会議後の改革は若者たちの心をつかむ力を決定的に失っている」と指摘。

 「教皇がなさろうとしていることは、ご自分の声を、公会議後の改革のための組織的取り組みが対立的になり、公会議の教父たちによって呼びかけられた同じ典礼改革の必要性の認識にほとんど失敗していることを残念に思う多くの司教たちの声と合わせること」と強調した。

*賛成ー典礼を信徒たちの一致の源、頂点と見なす人は教皇に応える

 教皇ヨハネ・パウロ2世とベネディクト16世によって典礼秘跡省の顧問に任命された経験を持つモロニーは、「ラテン・ミサ典礼をどのように規制するかの判断は、実務的には、司教たちに委ねられました。どちらの典礼の形式を選ぶかについて、司祭たちの間には大きな違いがあるためです。それが、世界の司教たちからの『例外的な形の祭儀を規制するための権限が与えられていないために、教会一致のため、あまりにもしばしば妥協してきた』との報告に、単に教皇がお答えになった、ということです」と述べた。

 そして、教皇の今回の決定によってラテン・ミサ典礼の実行を強く制限することで、教皇が希望される教会の一致が育つと思うか、の問いには、「神聖な典礼を私たちの一致の源であり頂点と見なす人々は、教皇の呼び掛けに応えるでしょう… だが、典礼問題を”政治的な球蹴り”のように使いたいと思う人々は、応えないと思います」と答えた。 司牧的なレベルで、フランシスコの規制措置を悲しみ、失望しているラテン語ミサの信奉者たちに助言するとすれば、「深呼吸して、謙遜の心をもって、教皇と司教たちが求めていることに耳を傾けなさい」ということだ、と述べた。

 さらに、「現在の消費文化の中で、すべての体験を自己の欲求に合わせて整形できる”産出物”と見なすことが、私たちにはよくあります… 自分が認識したニーズに合うように典礼を恣意的に整形した人々が、これまで数十年、厳しく批判されたように、すべてのカトリック信徒は、『聖なる典礼は、私たちが教会から分不相応にいただくものだ』ということを認識せねばなりません」とし、「私たち一人一人は、素晴らしい業に値するものではありません。私たちは、神を賛美する大きな犠牲を捧げる中で、自分の声を、教会の声に謙虚に合わせねばならないのです」と強調している。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2021年7月18日