教皇フランシスコが新たに選任された21人の枢機卿の叙任式が12月7日にバチカンの聖ペトロ大聖堂で行われる。国際カリタス総裁、アジアカトリック司教協議会連盟事務局長、日本カトリック司教協議会会長、そして、カトリック東京大司教区長。これだけ多くの役職を務める菊地大司教を、教皇が新任の21人の枢機卿の一人にお選びになったのは、「これまでの実績」を評価したため、と言うよりも、「これからの実績」を期待してのこと、と思われる。
菊地大司教は、2017年10月、ペトロ岡田大司教の引退に伴い、教皇フランシスコより、新潟司教から、9代目の東京大司教に任命され12月に着座。2022年2月14日、日本カトリック司教協議会会長、2025年2月再任予定。2023年5月13日、第22回国際カリタス総会で、ルイス・アントニオ・タグレ枢機卿の後任として国際カリタス総裁に選出された。だが、失礼ながら、どのポストも実績と言えるようなものはまだ、見えてこない。
*東京大司教就任から8年目に入ろうとする中で・・・
東京大司教に就任して8年目に入ろうとしているが、”実績”と言えるのは、既に存在するカリタス・ジャパンに加えて東京カリタスを作ったこと、カテキスタ制度を作り養成を始めたことの二つだが、小教区信徒の目からは、前者は具体的な活動が見えない、後者は、教区司祭、信徒の幅広いコンセンサスが不十分なまま始めたものの、2025年度に向けて養成希望者が足らず、カテキスタの新規養成は”終了“となった。
小教区レベルからの要請を受けて宣教司牧方針で約束した”共に歩む“教会のための小教区運営規約のモデル提示、岡田体制で司祭減少・高齢化に対処する小教区再編成を狙いとしたものの3年で事実上破綻した宣教協力体制度の見直しは、6年経過した今も、原案の提示さえ、されていない。
*国際カリタス総裁、アジア司教協議会連盟事務局長の課題
国際カリタスは2022年、突然、理由も明らかにされないまま、教皇が総裁以下の幹部を更迭、一年の空白を経て、菊地新総裁の就任となったが、関係方面に大きな動揺を与え、カリタスに対する信頼を揺るがせたにもかかわらず、いまだに総括も、それにもとずく信頼回復の再建方針も提示されたとは聞かない。
アジア司教協議会連盟も、”シノドスの道”の歩みで役割が認識され、公的な団体としてバチカンの承認を得たうえで、事務局機能も整備強化する必要があるが、その具体的な取り組みは見えない。
*日本の司教教会のシノダル(共働的)な具体的取り組みは見えず
日本の司教協議会も、30年以上前に第二バチカン公会議の精神を受けて始まった福音宣教推進全国会議(NICE)が破綻して以降、全司教が協力した具体的な福音宣教の取り組みも見えないまま。日本の教会に共通する緊急の課題である司祭、修道者など聖職者の高齢化、減少への対応に、共に知恵を出し合い、司祭や信徒のアイデアや力も借りて具体的な対処策についての、全日本レベルでのシノダル(共働的)取り組みも見られない。
*聖職者性的虐待問題への具体的対応も真剣さが見えない
世界中で教会への信頼を揺るがし続ける聖職者の性的虐待問題への対処も、教皇の強い意向を受け止めることなく、形ばかりの窓口を教区ごとに設置したリ、担当司祭を決め、おざなりのアンケート調査をする程度で、共働して真剣に対処するには程遠い。
*シノドス総会、そして最終文書への司教団としての反応は・・・
象徴的なのが、教皇フランシスコの呼びかけで2021年10月に始まった“シノダル(共働的)”な教会を目指すシノドスの道の重要な節目となる昨年、今年と2期にわたる世界代表司教会議総会、その結果としての最終文書への、日本の司教団の極めて消極的な対応だ。
教皇フランシスコは10月26日夜、世界代表司教会議(シノドス)第16回通常総会の第2会期の最後の講話で、シノドスの最終文書を「三重の贈り物」として紹介された。10月2日に始まったシノダリティに関するシノドス総会の第2回会期の討議で、傾聴と対話のプロセスを経て書かれた最終文書が「3年以上にわたる神の民の声に耳を傾けた成果」であることを強調しておられる。
*教皇は「最終文書をもとに創造的な実践と、交わり、参加、宣教への新たな取り組み」を求めている
そして教皇は、「この文書は、言葉だけでなく、あらゆる行為と交流を通じて福音を体現する『シノダル(共働的)教会』への共通の道を示しています」とされ、「この文書には世界のそれぞれの大陸と状況における教会の使命の指針となり得る非常に具体的な指示が含まれています。文書で示された共通の経験が、神の民に奉仕する具体的な行動を促すことを確信しています」と述べられ、さらに、11月25日、最終文書に添える覚書を発表され、同文書を世界の教会、司教たちに「創造的な実践と、交わり、参加、宣教への新たな取り組みするようにに」と呼びかけられた。11月29日には、教皇庁立神学委員会の総会に出席して神学者たちと会見され、「キリストを中心としたシノダリティ(共働性)の神学を発展」させるよう促しておられる。
*最終文書の全容さえいまだに公式説明がない中で、「カトリック・あい」の全訳に強い関心
日本の教会、司教団の対応はどうか。中央協議会のHpでシノドス関連を探すと、最終文書の全文翻訳どころか、概要の公式説明もいまだにない。掲載されているのは、今総会開会前に総会参加者を対象にバチカンで行われた黙想会の4回にわたるティモシー・ラドクリフ神父(ドミニコ会)による講話全文訳と、10月のシノドス総会に参加したシスターによる11月6日の難民移動者委員会定例委員会での報告が11月27日付けで掲載されているのみのようだ。(12月1日現在)当然というべきか、上記に述べた教皇の最終文書の重要性を強調される発言など、まったく伝えていない。
「カトリック・あい」は、このような現状から、最終文書に関する教皇のメッセージ、そして最終文書の全容を一刻も早く日本の信徒、司祭、教会に伝えたいと、まず、今シノドス総会閉幕直後から概要と関連の解説を掲載し、最終文書全文も、バチカンからイタリア語版公式文書が出された直後から試訳を始め、バチカンから英語公式訳が出たのと前後して11月21日に試訳を終え、掲載している。
シノドス総会とその最終文書が、日本の聖職者や信徒の間で強い関心がもたれているのは、「カトリック・あい」の11月の月間閲覧件数を見れば明らかだ。最終文書の全文閲覧は、日本語試訳を主体に英語公式訳も併せると400件に迫り、記事別閲覧件数で群を抜いている。
付け加えると、個別記事の閲覧2位が2025聖年関係、3位は東京地裁での神言会司祭の性的虐待裁判で、第一回公判からずっと多数の読者が続いている。「『カトリック・あい』の記事を見て」と27日の第6回口頭弁論傍聴、支援の会参加者も二人おられ、他にも、バチカンで聖職者の性的虐待問題を担当する「未成年と弱者保護委員会」の委員長談話や教皇メッセージ、虐待を隠ぺいしたと報道された聖公会の世界の指導者、カンタベリー大主教の引責辞任なども、多く閲覧件数になっている。
*まず必要なのは、日本の司教団の実質のある連帯、シノダリティ(共働性)の回復
このように「カトリック・あい」の閲覧状況などからも見て取れる、シノドス総会最終文書をはじめとする諸課題に対する日本の司祭、信徒の高い関心とは対照的な、日本の司教団の対応の鈍さ、拙劣さの原因の一つに、先にご説明した30年以上前のNICEの破綻を契機とする司教団の連帯喪失がある、と考える。その背景には、司教のみならず、司祭、信徒の連帯に欠かせない情報の共有の手段の劣化がある。「カトリック生活」はじめ定期刊行物の廃刊、そして来春のカトリック新聞の廃刊等、日本の教会全体を対象とした“紙”による在来型のコミュニケーション手段の消滅が相次ぐ一方で、SNSなどの効果的活用の努力もなされているとは言い難い。
とすれば、枢機卿として、まず日本の福音宣教の立場から教皇の取り組みを補佐することになった菊地大司教に求められるのは、”シノドス“の道の歩みの中で日本の司教団の実質のある連帯の回復、教皇の求める今シノドス総会の最終文書で示された歩みの全司教、そして全司祭、全信徒がシノダリティ(共働性)をもって諸課題解決の計画立案、そして実践の先頭に立つことだ。
NICEが破綻して以来、30年もの長き空白で惰性に陥っているように見える現状の中で、それが困難なのは十分承知している。しかし、今、このタイミングでその取り組みを始めない限り、日本の教会の将来はない、と言ってもいい。教会暦で新たな年が始まり、”希望の巡礼“も始まる中で、日本の教会のリーダーとしての奮起を望みたい。
7日の枢機卿叙任式を前に、菊地大司教は自身のホームページで「私自身が先頭に立ち、『主の道を真っすぐにせよ』と叫ぶ覚悟を持たねば」と決意を語っているが、「叫ぶ」だけでは足りない。「決断」と「行動」が必要なことはご自身も十分に自覚されているだろうし、そう願いたい。
(「カトリック・あい」代表・南條俊二)