・新回勅‐自分自身と世界を救うために兄弟姉妹として他者を見る(Vatican News 解説)

(2020.10.4 Vatican News  Editorial Director   Andrea Tornielli)

 教皇フランシスコの新しい社会回勅のメッセージはー誰も一人で救われることはないーだ。そして友愛の社会を提案している。社会が戦争、憎しみ、暴力、無関心、そして新しい諸々の壁に圧倒されないように。

 私たちは「閉じられた世界を覆う暗雲」に取り巻かれている。だが、暗闇に屈服せず、夢と希望を抱き、兄弟愛と社会的友愛を築くことに専念することで手を汚し続ける人もいる。Child refugees

 小規模にばらばらに起きている第三次世界大戦、利益本意の市場原理は、一見、健全な政治に根ざしているようでもあり、「使い捨て文化」が普及しているように見え、飢えた人々のうめき声は聞こえない。だが、これとは異なる、もっと思いやりのある世界を作るための、はっきりとした道を示す人もいるのだ。

 5年前、教皇は、環境危機、社会危機、戦争、移住、貧困の間に存在するつながりを明確に描写した環境回勅「Laudato si」を発出し、達成すべき目標を示したー今よりも、もっと公正な経済、社会システム、被造物を大切にし、人間を、至高の〝神”に祭り上げたお金よりも、母なる地球の守り手として、中心に置くことーだ。

 4日発表された社会的回勅「 Fratelli tutti,」、教皇は、その目標を達成するための具体的な道を示している。その方法とは、自分たちを兄弟姉妹として認識すること。なぜなら私たちは子供たちであり、互いに養育係であり、皆同じ船に乗っているからだ。そのことは、現在の新型ウイルスの世界的大感染の中で一段と明らかになっている。

 言い方を変えれば、homo homini lupus(他者に対して狼のように振る舞う人)となる誘惑、新たな壁を作り、孤立する誘惑に屈するのを避け、「善きサマリア人」という画期的な福音宣教の模範を掲げて進め、ということだ。

 教皇フランシスコが示す道は、他の人を”よそ者”とする見方を壊されたイエスのメッセージを基礎に置いている。そして、すべてのキリスト教徒に、次のことを求めているーそれぞれの人の中におられるキリストを見い出し、私たちの世界で捨てられ、忘れられ、苦悩する人々の中に「十字架につけられたキリスト」を、再び歩けるようになった兄弟姉妹1人ひとりの中に「復活されたキリストを見る」ことだ。兄弟愛のメッセージは、他の宗教を信じる男性と女性、そして宗教を信じない多くの女性と男性によって受け入れられ、理解され、思いを共有されることのできるものだ。

 新回勅は、教皇の社会教説の要約として示されています。それは彼が教皇に就任にされてから、これまで7年間になさった説教、講話や質疑応答で示された要点を体系的にまとめたものになっている。その発想の元になっているものの1つは、間違いなく昨年2月に訪問先のアブダビで、アルアズハルのグランド・イマームのアフマド・アル・タイーブ師と合意、署名された「世界の平和と共に生きるための人間の友愛に関する文書」だ。教皇は、宗教間の対話にとって歴史的な出来事となったこの共有宣言をもとに、「対話が道であり、共通した協力がmodus operandi(方法)であり、相互理解が方法であり基準だ」ということを強調されている。

 だが、新回勅の意義を宗教間対話の領域にのみにとどめることはできない。回勅のメッセージは、私たち皆に関係している。社会的、政治的分野でも啓蒙的な内容が含まれている。”荒れ野に叫ぶ声”である教皇が、金銭的利益と市場の神話ー管理監督がされなくても全ての人に幸せがもたらされるという”神話”ーをあまりにも長い間、信頼してきた後で、健全で特定の役割を担うことを可能にする政治、を支持するプロジェクトに再び手を付けるのは、逆説的に思えるかもしれない。

 新回勅は、一つの章全体を「奉仕の観点から、慈善の証人として、偉大な理想によって育まれた政治」にあてている。目先の利益ではなく、共通善について考えることで将来のために、そして特に若い世代を念頭に置いた計画を考えている。そして、多くの国々が互いに密接に関係し合っている現在、教皇は、改めて国際的な諸機関への信頼を喪失しないように、改革の必要を強く訴えている。

 また、新回勅が最も力を入れたもののひとつは、戦争を断罪し、死刑を否定することだ。教皇はまず、教皇ヨハネ23世の「Pacem in terris(世界の平和)」の主旨に沿い、過去何十年かの間に起きた数多くの紛争が何百万人という罪もない人々の生活を踏みにじるという破壊的な結果についての、現実的な評価から始めて、回勅の最も強力なページの中には、戦争の非難と死刑の拒否に捧げられたページがあります。教皇ヨハネ23世の領土内のペースに沿って、過去数十年間に非常に多くの紛争が何百万人もの罪のない人々の生活に影響を与えた壊滅的な結果の現実的な評価をした。そして、”正義の戦争”があるという考え方を支持する、過去何世紀にもわたって醸成された合理的基準を維持することが、今や極めて難しくなった、との判断を示された。

 また、死刑に頼ることは、正当化することができず、容認することもできない、として、世界全域で廃止されねばならない、としている。

 教皇が指摘しているように、「今日の世界では、私たちが一つの人間家族に属している、という感覚は薄れつつあり、正義と平和のために協力する世界、という夢は、時代遅れのユートピアのように見える」。それでも、今、再び夢を見なおし、何よりも、その夢を共に実現する必要があるー手遅れになる前に。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

 

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2020年10月17日