・オロリッシュEU司教協議会委員長、”新型コロナ後”の欧州と教会を語る(CRUX)

(2020.9.4 Crux  SENIOR CORRESPONDENT Elise Ann Allen

Cardinal predicts Church, Europe will be ‘weaker’ after pandemic

     オロリッシュ枢機卿 (Credit: Felix Kindermann/courtesy COMECE via CNS.)

*このままでは、カトリック教会も欧州も”新型コロナ後”に弱体化する

 ローマ発ー欧州連合の司教協議会委員長に今春就任したジャン=クロード・オロリッシュ枢機卿(ルクセンブルグ教区長)は、バチカンの機関紙L’Osservatore Romanoとのインタビューで、新型コロナウイルスの大感染の影響について述べ、「大感染の結果、カトリック教会も欧州も、ともに弱体化するでしょう」と警告。

 さらに、「欧州は、アフリカの資源を搾取することで、豊かになった。それゆえ、西欧諸国はアフリカに借りを負っており、新型コロナ感染で苦闘している彼らを助けねばなりません」と強調した。

 このインタビューで、枢機卿は、新型コロナ大感染の結果、公的ミサが何か月も中止になり、オンライン・ミサで代替され、教会が閉鎖され、教理の学習が中断され、そのほかの秘跡も制限されるなど、教会と信徒たちは多くの損失を受けた、とし、大感染が終息した後、「教会に行く人の数は減るでしょう」と述べた。

 自分の国、ルクセンブルグにおいても、「カトリックを実践する人の数は減るでしょう。なぜなら、ミサに来ない人たち、”文化”として教会に来ていた人たち、左右両派の”文化的カトリック信徒”は、もう教会に来なるからです」と指摘。

 そして、「そういう人たちは、人生はとても快適なものだと思っていました。教会に行かなくても十分に満たされた生活ができる。初聖体、児童の教理学習なども、確実に参加者が減るでしょう… でも、それをとがめだてするつもりはありません。世俗主義の急速な拡大は、新型コロナ大感染よりずっと以前から、そのような傾向が起きてきたことを示しているからです」。

 

*新型コロナ大感染がもたらした危機をチャンスに、新たな福音宣教の形を

 新型コロナの大感染が起きなかったら、こうした事態になるのが10年遅れたかもしれないが、多少の遅いか早いかはあっても、結果は同じこと。「カトリック教会が信徒の減少に直面している以上、司祭も信徒も教会をもっとよくするために働かねばなりません… そうしないと、キリスト教信仰の文化は、長続きできず、単なる”文化的カトリック主義”になってしまいます」警告。新型コロナ大感染は、見方を変えれば、「素晴らしいチャンス。危機の本質を理解し、新たな福音宣教の形を作る為に、行動する必要がある」と訴えた。

 さらに、まず、行動と慈善活動を通して、そして言葉を通して、欧州における福音宣教を刷新する必要がある、と強調し、教会は「真に質素で、経済的にも貧しい、もっとキリスト的な存在にならねばならない。欧州において私たちは、もはや今の生活を続けられないような”消費者主義”に浸りきっているからです」と述べ、「欧州に住む私たちは、自分を窒息させるようになっている… 深く進む福音宣教が求められています。私たちは変わらねばなりません。根底から変わるように、と呼びかけておられるキリストの声を聴かねばなりません」と、欧州の司教、司祭、信徒たちに求めた。

 枢機卿は、新型コロナ大感染の結果、「西欧-米国と欧州-が、これまでよりも弱体化する一方で、新型コロナによって加速された現象が、西欧以外の国々や地域を成長させるでしょう」と予想し、「私たちはそれを現実として受け入れる必要がある。私たちの心にある『欧州中心主義』を捨て、謙虚な心で、人類の未来のために他の地域の国々と協力し、より大きな正義を得ることを学ばねばなりません」と欧州の人々皆に呼び掛けた。

 また、新型コロナ大感染に対する欧州のこれまでの対応について、「私が一番がっかりしたのは、欧州連合諸国の最初の反応ー加盟国が”国家主義的反応”を示し、まるで、連帯組織としての、欧州連合が存在しないかのように、振る舞ったことでした」と指摘。

 4月になっても、欧州の指導者たちが新型コロナで大打撃を受けている国々に対する救済計画について議論を続けているのを見て、「大感染は、欧州連合の終焉の合図になるのではないか」と不安になった。だが、その後、欧州の指導者たちが共通の対応チームを作り、新たな危機に直面した時に、同じことを繰り返すことは決してしない、と自身に言い聞かせていることから、希望を持てるようになった、とも述べた。

 

*欧州は、アフリカから富を得てきた、今はそれを返す時

 また、地理的にも、政治・経済的にも欧州と密接な関係を持つアフリカへの大感染の影響について、「多くの感染者、死者が出ていることもさることながら、アフリカ経済への打撃が深刻」とし、「アフリカの人々は、以前よりも一層、貧しくなっています。貧困救済へ連帯行動をとるために、現在の危機を利用する必要があります… 私たち欧州は現在、豊かであり、アフリカの豊富な資源からから利益を得てきた… だから、私たちは兄弟姉妹として、彼らが新たな経済的均衡を見出すように、欧州に難民を送り出さずに生活できるように助けねばならないのです」と欧州のアフリカに対する義務を強調した。

 枢機卿はこれまで、人々に対する最低所得補償制度の導入や、新型コロナ大感染で打撃を受けた貧困国に対する債務放棄などの提案を支持してきたが、欧州人として、「第二次大戦後に米国が欧州に対して実施した復興援助に倣って、何かしなければなりません… 小規模な支援では十分ではない。アフリカのために広範な開発計画を策定すること」を提唱する一方、「その実施は、大戦後の欧州に対するものよりも困難。それは、欧州は戦後、民主主義の政治制度を回復し、復興援助が生かされる体制があったが、現在のアフリカの国々には、それが生かされない政治制度があるからです」と問題点も指摘した。

 そして、そうした困難を克服するためにも、「カトリック教会だけでなく、アフリカの諸教会、諸宗派が、それぞれの役割を担い、アフリカの人々の生活向上に一致して働くことができれば、素晴らしいことです」と期待を述べ、「神は、アフリカと欧州を同じように愛しておられます。欧州を優先することがないのは、明白です… 欧州優先と考えるのは、”欧州中心主義”であり、キリスト教的な視点から、正しいことではない」とした。

*諸教会、諸宗派と連帯して、”共通善”を追求するように

 欧州のこれからについて、「過去の幾多の困難に打ち勝ってきたように、新型コロナ危機も克服できる、と信じています… 現在の大感染が始まった当初は、新たな世界の秩序が保たれないのではないか、と危惧しましたが、今は、欧州がその秩序を守れるだろうと、見るようになりました」と述べ、「キリスト教の諸教会には、連帯を推進するために他宗教の人々と共に働く特別の責任があります。他の人々と分かち合うために、持っている富を少しばかり犠牲にすることも含めて」と強調した。

 また、教会が大感染後の世界で福音宣教と連帯を進める際、政治に関わったり、一方的な見方をとったりする誘惑に陥らないように気を付ける必要がある、とし、「そのようなことは、私たちの仕事ではない。でも、欧州連合が重要だという事を確認することは、私たちがすべきことです… なぜなら、欧州連合抜きには、最貧国や、イタリア、フランス、スペインのように大感染で強い打撃を受けている国が、今よりももっと貧しくなり、北の地域の国々のように富める国が輸出の原動力になりえないから。私たちは皆、欧州連合を必要としているのです」と訴えた。

 最後に枢機卿は、「私は、”親欧州”ではなく、”共通善”を指向しています。共通善は、欧州よりも大きい」と述べ、「この世界には、キリスト教徒でなくても、より大きな連帯を理解し、それを求める数多くの男女がいる、と思います。ですから、私たちは、より大きな連帯を追求せねばなりません。それは、経済的にも、政治的にも可能なことです」と語った。

(オロリッシュ枢機卿(62歳)はルクセンブルク生まれ。イエズス会に入会後、1985年に来日。上智大学で外国語学部ドイツ語学科長、カトリックセンター長、ヨーロッパ研究所所長、学生総務担当副学長などを務め、日本には訳者を含め多くの知己を持つ。2011年に教皇ベネディクト16世からルクセンブルク大司教に、さらに昨年9月に教皇フランシスコから枢機卿に任命され、欧州のカトリック教会の指導的な立場にある)

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2020年9月5日