*暴力の連鎖深刻化する聖地のキリスト教会指導者たち復活祭を前に和平訴え(Crux)

ナタニヤフ政権の司法制度改革に抗議する行列(4月1日、首都テルアビブで (Credit: AP Photo/Ohad Zwigenberg.)

Christian leaders in Holy Land make Easter appeal for peace amid spiral of violence

(2023.4.3  Crux  Senior CorrespondentElise Ann Allen) 

 ローマ発 – イースター休暇が近づくにつれてイスラエルの緊張が高まる中、同国のキリスト教会指導者たちが3月31日に声明を発表、暴力の激化に強い懸念を示すとともに、国の指導者たちに対して、協力し、差別に終止符を打つよう訴えている。

 声明は、イエス・キリストの復活を通して「私たちを新たに生まれさせ、生ける希望を与えてくださった」と聖ペトロが語る第一の手紙(1章3節)を引用し、「この希望は、使徒たちと初期のキリスト教徒に、喜び、尊厳、そして恩寵をもって、多くの試練と苦難に耐える力を与え、彼らを支えたのです」と述べた。

 そして、「このような喜びの中で、たとえほんのしばらく様々な試練を受けるとしても、私たちの信仰の真正さが…イエス・キリストが真の姿を現される時、賛美と栄光、栄誉の中に見出されるでしょう。そして、私たち自身の信仰が試され続けている今の激動の時代に、私たちを励まし、力づけてくれます」と強調している。

 また、ここ数か月の間に「聖地をのみ込んだ暴力のエスカレーション」を取り上げ、特に現地のキリスト教徒は「聖ペトロが書いているような逆境に、ますます苦しめられています」とし、「この 1 年間、私たちの教会、葬儀の行列、公共の集まりの場所のいくつかが、攻撃の標的になりました。 私たちの聖地や墓地のいくつかは冒とくされ、枝の主日の行列や聖なる火の儀式など、私たちの伝統的な典礼のいくつかは、何千人もの信徒の参加が排除されています」と訴えた。

 さらに、国際社会と地元住民に対し、「聖地のキリスト教共同体と、世界から聖地を訪れる何百万人もの巡礼者の安全、移動、信教の自由を確保するために、イスラエル政府に要請するのに協力して欲しい」と求めた。

 過去数か月、イスラエル人とパレスチナ人の間で武力衝突が増えており、昨秋にネタニヤフ首相が率いる極右民族主義連合が形成されたことで、多くのキリスト教徒やその他の少数派の間で、宗教的な差別が強化される不安が強まっている。とくに最近数週間では、いくつかの死傷者が出るような小競り合いに加えて、政府の司法制度改革を、クーデターと民主主義の抑圧が狙いとするものとして批判する反ネタニヤフ政権派の人々で騒動が起き、2日、政府がベン・グビル国家安全保障相が指揮する国家警備隊の設立を決めたことで、緊張はさらに高まっている。

 ベン・グビルは、極右政党「オツマ・イェフディット(ユダヤ人の力)」党首で、過去にキリスト教徒に対する暴力を主導し、「キリスト教徒を全員、国外追放すべきだ」と主張したと言われる急進的な反同化勢力「レハバ」のリーダー、ベンツィ・ゴプスタインを擁護している。また、2015 年にガリラヤ湖の北西岸沿い、タブハにあるカトリック教会の「パンと魚」の聖堂に放火し、有罪判決を受けた男の弁護も引き受けた。

 そのベン・グビルが率いる国家警備隊にどのような権限を与えるかは、政府機関の専門家たちで構成する委員会によって決定される予定だが、国家警備隊の新設が警察や総保安庁、さらには国防軍の権力を弱体化させ、これら治安に関する機関が競合する事態となるのを懸念する声もある。

 またネタニヤフ首相は、先に国家警備隊の新設だけでなく、最高裁判所の権限を縮小し、裁判官の選任に政治家が関与することなどを盛り込んだ司法改革案を国会に提出しており、これらを「イスラエルの民主主義の危機」ととらえて反対する国民の抗議活動が3カ月以上にわたって続いている。米国政府筋からの指摘も受け、首相が、法案成立に向けた動きを一時停止している。

 イスラエルのメディアによると、これまでに 17 万人以上が首都テルアビブでの反政府抗議行動に参加し、全国で 45 万人以上がデモに参加したといわれるが、2日に国家警備隊の創設が決まったことで、緊張はさらに高まっている。

 警察幹部OBを含む一部の反対派は、「ベン・グビルがクーデターを起こすために国家警備隊を利用する恐れがある」と警告。多くの公民権団体や野党政治家も、警察活動を政治化し、法における平等の原則を弱体化させる可能性がある、とし、国家警備隊をベン・グビル国家安全保障相の指揮に任せることに反対している。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2023年4月3日