・米国務長官、信教の自由を侵す中国に強い態度をとるようバチカンに促す(Crux)

(2020.9.21 Crux 

   米国のポンペオ国務長官が、このほど発行された米国の宗教雑誌First Thingsに掲載された記事の中で、「中国国内の司教任命に関するバチカンと中国の暫定合意はカトリック信徒たちを困惑させている」と批判、バチカンに対して、中国による基本的人権を守るよう強く主張することを、バチカンに求めた。

 記事の中で国務長官は「聖座には、人権侵害、特に中国政府のような全体主義政権が犯した人権侵害に、世界の注意を向ける能力と義務があります」とし、20世紀において、「道徳的に証しする力」によって中東欧全域で共産主義を終結させ、中南米と東アジアの両方で「独裁的で権威主義的」な政治体制を改めさせるうえで、大きな役割を果たした”カトリック教会の実績”に言及した。

 そして、「今日、中国共産党に関しても、同じ道徳的に証しする力が行使されるべきだ」と述べ、第二バチカン公会議とヨハネ・パウロ二世、ベネディクト16世、フランシスコの歴代の教皇が皆、宗教の自由を「人としての権利の第一にくるもの」とする立場を堅持してきた、としたうえで、「すべての信仰共同体を党の意思と全体主義的なプログラムに屈従させようとする、中国共産党の容赦ない圧力に直面している今、教会が宗教の自由と連帯について世界に教えていることを、今こそ、バチカンによって力強く、粘り強く伝えるべきだ」と訴えた。

 国務長官は、中国政府・共産党が新疆ウイグル自治区のウイグル人イスラム教徒に対して行っている不妊手術や妊娠中絶の強制、”再教育キャンプ”への拘留など、数々の虐待について具体的に言及。さらに、カトリックの司祭や信徒の恣意的な拘留や自宅軟禁、キリスト教会の閉鎖などの迫害行為について強く批判した。

 2018年秋になされた中国国内の司教任命に関する暫定合意の内容は「公開されたことは一度もない」が、教皇は中国政府が指名した候補者の中から最終的に叙階すべき司教を決定することができる、とされている。バチカンは、この合意が中国のカトリック教徒の状況を改善することを期待していたが、国務長官は合意から二年経った今、「この暫定合意が、共産党の迫害からカトリック教徒を守らず、共産党によるキリスト教徒、チベット仏教徒、法輪功学習者、その他の宗教を信じる人たちの恐るべき扱いに沈黙していることが明らかになった」と指摘。

 さらに、この暫定合意は「教皇への忠誠心が不明確なまま(注:中国政府・共産党の管理・統制下にある)司祭と司教を正当化する一方で、これまで教皇に忠誠を誓ってきたカトリック教徒を当惑させている」と述べ、多くの信徒はなおも、政府・共産党が認めた礼拝所を避けているが、それは「他の宗教の信者たちが、攻撃的な無神論の姿勢を強める政府・党当局によって苦しめられているのと同じ苦痛を味わわされる」のを恐れているから、とした。

 今月末に期限を迎える暫定合意について、バチカンと中国の責任者はともに、更新の見通しを示しているが、国務長官はこの時期、月末にバチカンとイタリアを訪問予定で、イタリアの通信社AGIによると、ローマには9月30日に滞在し、その間に教皇とイタリア政府当局者と会見する。

  国務長官はFirst Thingsの記事で、中国政府が6月末に香港に導入した国家安全維持法で、「テロ行為」「転覆を意図した行為」「外国勢力による内政干渉」と一方的に定義する行為を禁止したことに、香港市民が抗議の声を上げていること、同法導入後、著名なカトリック教徒と民主主義を守ろうとする指導者たちが逮捕されたことに言及。

 「私は彼らをよく知っており、その信条と誠実さを証明できる… 米国を含む多くの国が、中国政府・共産党の『人権侵害の加速』に『強い嫌悪』を示している、とし、「歴史が教えるのは、全体主義の体制は暗黒と沈黙の中でのみ、生き残り、彼らの犯罪と残忍さは、気づかれず、語られることがない、ということだ」と警告した。

 中国共産党がカトリック教会と他の信仰共同体を従属させようと必死になれば、「人権を軽視する政権は大胆な行為に出るだろう… そして、今日の独裁者よりも神に敬意を払う勇気ある宗教者たちにとって、暴政に抵抗するために払わねばならない犠牲は高いものとなるだろう」と予想し、「私は祈ります。中国共産党との交渉において、聖座と、一人一人の命に力を与える神のひらめきを信じる人々が、聖ヨハネの福音書にあるイエスの言葉ー真実はあなた方を自由にするーを心に留めることができますように」と記事を締めくくっている。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2020年9月22日