(2019.8.15 Crux
ロサリオ(アルゼンチン)-聖職者の性的虐待と隠ぺいによる教会の信頼失墜がこれ以上ひどくなるまいと思われていたチリで、また新たな性的虐待と隠ぺいが明るみに出された。チリでもっとも敬愛されていた司祭の1人による犯罪行為が当初の予想を超えたものだということも、明確になった。
教皇フランシスコは昨年、チリで明るみになった聖職者による性的虐待についてそれまでの容疑者の司祭や司教団をかばう立場を180度改め、厳正な捜査にもとづいて、何人かの司教の辞任を認めていた。そして現地の教会に、”誤った情報”をもとに犯した過ちを謝罪し、チリで最も影響力のある二人の司祭、フェルナンド・カラディマとクリスチャン・プレチトの司祭としての資格をはく奪した。
この二人は、その犯罪行為が明確になった際に、性的虐待で訴えられ、名誉を失っていた。カラディマは2011年に、司祭としての公けの活動をバチカンから禁止され、プレチトは、理由を説明されることなく、当時のサンチャゴ大司教のリカルド・エザッテイ枢機卿から5年間の司祭としての活動停止を言い渡されたものの、新たな疑惑が表面化するまで、活動が認められていた。カラディマは、チリのエリートたちと親密な関係を持つ、卓越した霊的指導者とされ、プレチトはチリの軍事政権の時代に人権を守る運動の活動家だった。
ところが、最近になって、首都サンチャゴの近代史において最も影響力をもった三人目のカトリック司祭が、名誉ある地位から滑り落ちたーイエズス会のレナト・ポブレテ神父である。彼は2010年に亡くなり、最も貧しい人々とともに働いた人物とされ、同じイエズス会士の聖アルベルト・ウルタード(チリの社会運動家)の後継者と多くの人から見なされていた。
ポブレテは現在、22人の女性に性的虐待を働き、そのうちの少なくとも一人は妊娠させられ、何度も堕胎を強要されたとして訴えられている。女性たちのうち4人は未成年で、うち一人は、性的虐待をされていた女性の娘で、3歳の時から虐待されていた。
こうした情報はイエズス会のチリ管区の命令で行われた捜査の報告書の中身としてもたらされたもので、今月初めに、訴えを受けて捜査をしていたワルド・ボウン弁護士が集めた資料の一部として明るみになった。
チリの日刊紙La Tercera がその報告書のコピーを入手し、イエズス会自身がまだ公表していない多くの重要な点を報道し、同修道会の情報公開への熱意について、多くの一般信徒たちが疑問を抱くようになっている。報道によると、問題の報告書は「少なくとも15人のイエズス会士がポブレテの性的虐待行為を知っていた」と指摘している。
ボウン弁護士も「イエズス会の”文化”-”誇り”と”組織決定に関する強力な階層的服従”を含めた-が、問題の底にある」ことが分かった、と語る。「彼らにとって不快な情報は、組織に対する脅威であり、ポブレテに関するニュースとうわさに関しては、自分たちの組織の評判を守り、自分たちの尊厳が崩されないように、無視しようとした」と彼は報告書の中で述べている。
ポブレテによる性的虐待行為は、彼が司祭に叙階された直後の1956年から始まり、最後に行為が確認されたのは、2008年、82歳の時のものだという。最年少の犠牲者は3歳、最年長は44歳で、子を持つ母親も、その娘を犠牲になっている。同じ家族の姉妹たちにも手を出し、少なくとも一人の修道女も性的虐待をされた。犠牲者全員が、十分な教育を受けていないか、経済的に恵まれない女性たちだった。うち6人は長期間にわたって虐待をされ続け、他の26人-うち何人かは既に亡くなっており、生存していても証言を拒む人もいた-は被害を受けた可能性がある女性として確認された
La Terceraの報道によると、ボウン弁護士は、ポブレテに大衆が抱くイメージは”建物の外観のようだという-この人物が普段は、「予想できないような乱暴な性的な接し方」で犠牲者を襲う際の暴力の激しさを覆い隠していたからだ。
チリの市民社会が、性的虐待の広がりを把握しようと懸命になっているのに対して、イエズス会士のホアン・ベイティア神父はCooperativaに「新聞が報告書を手に入れたことは容認できない」とし、検察当局が報告書をリークしたのだと決めつけ、「そのようなことをする人間はイエズス会内部にはいない」と述べたうえ、「イエズス会が検察官に何か言うとすれば、検察当局は市民に対してさらなる保証を与えるべきだ、ということだろう… 検察当局は今日、”スイスチーズ”よりも穴だらけだ」と激しく非難した。
イエズス会士たちがポブレテの犯罪行為を隠蔽した、との指摘に対して、ベイティア神父は「裁判所が判断すべきことだ」とし、肯定も否定もしなかった。
また、チリ南部の湖水地方の港町、モントでは、ある司祭が、性的虐待についての信頼すべき訴えを受けて調査をしている教皇任命の教区管理者を「四件の重大な傷害罪」で告訴した。告訴状で、ルイス・ディオニシオ・アロ神父は「社会的、宗教的、職業的な文脈で、未成年に対する性的虐待と関係のあるスキャンダルがなされ、私の名誉、名前だけでなく、小教区の信徒たちの共同体を深く傷つけている」と訴え、教区管理者であるリカルド・モラーレス・ガリンド神父について懲役3年の実刑と罰金を科すように求めている。
これに対して、モラーレス神父はマスコミあてに声明を出し、「正義が行われねばならない」とし、本人を傷つける意図はなかったと言明。大司教区は、司教協議会が決めた指針-司祭に対する捜査を開始した時には、市民社会に知らせる、という決まりーに従って対応した、と述べた。モラーレス神父は昨年6月、プエルト・モンテ教区長のクリスチャン・カロ大司教が定年で退任した後、教皇から同教区の管理者に任命されていた。カロは長年、聖職者による性的虐待を隠蔽したとして訴えられていた。
モラーレス神父のプエルト・モンテでの教区管理者として仕事は容易でない。彼は、就任早々、8件の性的虐待ないし財務管理の問題で少なくとも5人の教区司祭のついての調査に手を付けていた。教区基金の不正運用と麻薬横流しで二人の神父について調べを始めた直後の昨年12月、モラーレス神父は一般信徒のあるグループに襲撃された。今年2月、調査対象の神父のうちの一人が自殺を図った。
教皇フランシスコは昨年からこれまでにチリの司教のうち9人の辞表を受理しているが、後任の司教として任命したのは一人で、他は教区管理者を当てている。今年初め、首都サンチャゴに二人の補佐司教を任命したが、そのうちの一人は聖職者による性的虐待の被害者と面接した際、不用意な発言をして怒りを買い、叙階前にポストを降りざるを得なかった。
チリのカトリック大学とカラディマの犠牲者で存命中の3人が運営している信用基金は14日、公式の声明を出し、性的虐待の捜査と早期介入のセンター開設を発表した。開設に参加するのは、ホアン・カルロス・クルス、ジェームス・ハミルトン、ホセ・アンドレス・ムリリョで、3人はカラディマの性的虐待の犠牲者。昨年、教皇に謁見している。
ハミルトンはEl Mercurioに、「教会の信用を立て直す必要があります。ただ批判するだけで一生を送ることはできません。完全な不信をもっては、過ちを一般化できない」「大事なのは、堅固で専門分野を超えた知識を持つこと、虐待の7割か8割を占める家庭、そして会社や団体、宗教組織において起きる性的虐待への償いと防止に向けて踏み出すことです」と語っている。また彼は「基金は性的虐待の犠牲者を支援しているが、センターは社会的、政治的な変化を起こすのを助けるようにしたい。なぜなら、権力の乱用と狂信的な態度に『時代遅れの理解』をいまだに持っている人たちがおり、それを改めさせるには、しっかりした科学的な知識が必要だからです」と抱負を語った。
教皇フランシスコは、このセンター開設の発表に、ビデオ・メッセージを送り、「あらゆる種類の、子供の心を打ち砕くような虐待、巧みな操作」を防ぐ努力を続ける彼らに感謝を表明した。
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