・ポーランドで虐待の訴えを隠しバチカンに通告された司教が、大司教を批判(Crux)

(2020.6.17  SPECIAL TO CRUX  Paulina Guzik

 ポーランド司教協議会の児童保護の責任者を務めるヴォイチェフ・ポラック大司教(グニェズノ大司教管区長)が先月、バチカンに対して、児童性的虐待を隠蔽した疑いのある同国の司教を調査するよう要請したが、この司教が、同国の司教たち宛てに、ポラック大司教を非難、攻撃する手紙をばらまき、聖ヨハネ・パウロ二世を生んだ教会の信用を失墜させる、さらなる騒動を巻き起こしている。

 大司教によるバチカンへの調査要請は、子供時代にポーランドの司祭から性的に虐待され、その事実が管轄の司教によって隠蔽されたとする兄弟二人が、それを告発するドキュメンタリー映画を作成、インターネットを通じて放映したのを受けたものだったが、その映画の”主役”が、問題のエドワルド・ヤニアック司教(ポーランド中央部のカリシュ教区長)。司教は、その中で、教区司祭に息子が性的虐待を受けたと訴えに来た家族を、執務室から追い出し、バチカンの担当部署への報告もしなかった。

 ヤニアック司教が、司教たちに出した手紙には問題が二つある。一つは、手紙の宛先にポラック大司教と、彼の支持者と見なされた司教たちが入っていなかったこと、その内容がメディアに漏洩し、しかも事実誤認が多く含まれていたことだ。

 ポーランドの日刊紙Gazeta Wyborczaは、6月15日付けで、漏洩した手紙の内容を伝えたが、それによれば、司教はポーラックを、案件をバチカンに報告することで、「大きな混乱」を引き起こし、「教会のイメージを傷つけた」と決めつけ、映画が公開される前に、制作者と会っていたと非難。「彼らが教会の敵であり、どんな動機でその映画を作ったのか、言うまでもない」と述べた。

 また、ポーランド司教協議会が国内の性的虐待被害者を支援するために設立した聖ヨゼフ基金を、高位聖職者の思惑で作られたもの、とし、「当時の司教たちは基金の設立に反対だった」と述べるとともに、「司教たちが基金構想に反対した秘密投票の後で、その結果が”賛成多数”に変更されたが、そのような経験は24年の司教生活で初めてだった」とも書いている。

 さらに、ヤニアック司教は、司教協議会におけるポラック大司教の児童保護の責任者選出も「大司教の体面を傷つけないために、強制されたものだった」とした。

 この手紙がマスコミで公けにされた15日、ポーランド司教協議会のアルツル・ミジンスキ事務局長は、その内容について、「聖ヨゼフ基金の創設は、2019年の司教協議会総会で大多数の司教によって承認されたもの」で、ヤニアック司教の指摘は正しくないと言明した。

 また、ポラック大司教は16日に発表した声明で「司祭は虐待の事例について信頼できる情報を受け取った場合、教会当局に通知する義務がある」と改めて強調し、自分は司教団の児童保護責任者として、映画で明らかにされた事実について、「沈黙したり、棚上げしたままでいることはできなかった」と述べた。 大司教が責任者を務める児童保護室も、「大司教は、この映画の制作者である兄弟には会っていないが、映画に登場する聖職者による性的虐待被害者とは電話で話をし、被害者の1人には今も必要な治療代を基金から支出している」と説明した。

 ヤニアック司教を巡るこうした問題は、聖職者による性的虐待への対応で信用を落としているポーランドの教会に、さらなる打撃となるものだ。

 「ポーランドの教会は下り坂だ。ポーランド駐在の教皇大使が、このような騒動を起こしているヤニアック司教に何の処分もしようとしないのは、驚きだ」とす」と同国のカトリック専門誌Więźのジビグニュー・ノソウスキ編集長は首をかしげる。編集長は、教会での性的虐待の被害者の支援組織Zranieni wKościele(教会の傷)の共同設立者でもある。彼らの活動を、ヤニアック司教は例の手紙の中で批判し、教区にポスターを置くことで信者を「スキャンダル化」した、としていた。

 また、ヤニアック司教の上司で、問題の事件のバチカンへの報告のための調査をしたスタニスラウ・ガデキ大司教がそのような司教の行為を容認していることにも、編集長は首を傾げつつ、同大司教が現在、ポーランド司教協議会の会長を務めていることから、教会組織の尊厳を取り戻す今後の努力に期待をかけている。

 このドキュメンタリー映画に出演したポーランドのカトリック作家でジャーナリストのトマス・テリコウスキ氏は、「ヤニアック司教の手紙が、性的虐待をはたらいた司祭を描いて2018年に大ヒットした劇場映画「Kler」よりも多くの信徒を教会から離れさせるだろう」と懸念している。

 「なぜだか分かりますか?ドキュメンタリーの方が(注:役者が演じる)映画よりも、はるかに醜悪な現実を知ることになるからです」とFacebookに投稿した。彼は、ヤニアック司教の手紙からは「俺は黙っていないぞ、というマフィアのような脅しが感じられる」とし、司教たちに実際に脅しをかけるような情報があることを示唆している。

 ヤニアックは司教たちへの手紙を出す前、三位一体の主日に自分の教区の全小教区あてに手紙を出していたが、彼はそこで、「特に、私を批判するメディア・キャンペーンがされている今、聖霊の目に見えない力によって、私が聖化されるように、祈ってくれるように」と司祭、信徒たちに求めていた。

 時を同じくして、ヤニアックは、人気の高い保守的なラジオ局で長年、ディレクターを務めているタデウシュ・リュージク神父から援護射撃を受けた。6月5日のカリシュ市の聖ヨゼフ教会でのミサで、神父は「私たちの父、ヤニアック司教のために祈りましょう」と参加者たちに呼びかけた。「ポーランドを愛するなら、教会を害さず、憎しみで攻撃しないように。何が起ころうと、司教を攻撃するのは正しくない… 責めたり、言葉で殺すようなことはしてはいけない。言葉を投げつけることで、あなた方は殺人者になるのです」と。

 ノソウスキ編集長は、”ヤニアック事件”は「ポーランドの教会にとって転機となる可能性がある」とも述べている。ポーランドの教会は、東西冷戦構造の崩壊後も共産党政権下にあった時の思考形態から抜け出せず、外部からの攻撃から自己を守ること優先する傾向を持ち続けてきたが、「ポラック大司教の、この事件への対応は、ポーランドの教会の『司教が同僚の司教の汚れた洗濯物について、決して、公にコメントしない』という”沈黙の時代”を終わらせる象徴的なものとなったのです」と強調。

 だが、その一方で「そうした時代は、象徴的な意味で終わったのだ、ということを私は強調したい。なぜなら、実際は… ポラック大司教はまだ孤独であるように思われるからです」と、今後の展望に慎重な見方も崩していない。

 そうした現状からも、「ポーランドの教会は、信頼回復へ迅速な対応が必要だ」と日刊紙RzeczpospolitaのTomasz Krzyżak記者は語る。そして、「バチカンが現在のポーランドの教会の動きに反応せず、迅速に対応しなければ、ヤニアックのような、心の変化さえ考慮することのない司教たちのメンタリティに何の変化も起きないことが、明確になってしまう」と懸念を示している。彼は今、ポーランドの別の教区、ラドム教区で起きている教会での権力の乱用について報道している。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。

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2020年6月18日