・ドイツ司教協議会の新会長-既婚司祭と女性司祭叙階に前向き(Crux)

(2020.6.16  Crux  SENIOR CORRESPONDENT Elise Ann Allen

 ローマ発=ドイツ司教協議会の新会長に今年3月に就任したゲオルク・ベッツィング司教(リンブルグ教区)は、世界のカトリック教会で賛否のある既婚司祭と女性の司祭叙階について肯定的な見方を示すとともに、聖職者による性的虐待問題の根本原因について前教皇ベネディクト16世が昨年公表した長文のエッセイに批判的な立場を明らかにした。

 イタリアの有力紙La Repubblicに掲載された司教とのインタビュー記事で語ったもの。

*女性司祭叙階の拒否は、もはや多くの信徒に支持されない

 まず司教は、同紙の「女性の司祭叙階についての議論が消えたように見えるのはなぜか」との問いに対して、カトリック教会の最近の歴史の中で、「様々な教皇が『司祭職への女性の登用の問題は教会でな決められない』と説明し、強調してきました。そして、教皇フランシスコも例外ではない」としたうえで、「カトリック教会においては、 cum Petro et sub Petro(ペトロと共に、ペトロの下に)の教導権(注:カトリック教会において権威をもって信徒たちを教え導く権能。教導権を持っているのはペトロの後継者であるローマ司教と結ばれた司教たち、とされている)が決定的なもの。女性の司祭叙階の問題が、教会自身によって提起された問題だからです」と語り、教会が女性の司祭叙階を拒否する理由は、大部分の信徒にとって「もはや受け入れられないもの、となっています」と言明した。

 そして、ドイツにおける二年間にわたる司教と信徒代表たちとの”協働的”協議が進んでおり、女性問題についての決意と司祭職の役割も含めた協議の結論を、今後、バチカンに通知することになる、と述べ、「司教の協議によって表明されるものが必ず、明確にされ、バチカンの担当部署の答えではなく、司教の協議の結果の答えが出ることを信じています。そう確信しています… これが、教皇フランシスと共に、力を得た新しさ、なのです」と強調した。

*前会長・マルクス枢機卿は教会改革に積極的だったが…

 ベツィングは、今年3月に、長年その座にあり、教皇フランシスコの顧問格でもあった”重量級”のラインハルト・マルクス枢機卿に代わって、ドイツ司教協議会の会長に就任した。

 ドイツのカトリック教会では、2018年9月に、過去60年にわたる聖職者による性的虐待に関する何千もの案件を詳細にまとめた報告書が発表されたのを受けて、信頼回復に努めることに全力を挙げ、その一環として、2019年11月から二年にわたる協議を、強力な権限を持つ全独カトリック信徒の中央委員会と司教団が進めている。協議の主要テーマとして、聖職者の性的虐待の危機への抜本的対応、教会における女性の役割、神権、性的道徳などが話し合われている。

 前任者のマルクス枢機卿は、これらの重要テーマについて、全体として進歩的な取り組みをし、2016年に教皇フランシスコが発出した使徒的勧告「(家庭における)愛の喜び」の内容をさらに前向きに解釈し、配偶者の一方がカトリックの洗礼を受けていない夫婦のあり方を支持し、同性愛者の交際に対しても寛容な姿勢を明確にしていた。聖職者の独身制の問題も積極的に取り上げ、この問題の扱いが聖職者の性的虐待の危機に影響を与える可能性がある、と指摘。2018年の大晦日ミサでの説教で「2019年はドイツ教会にとって、多方面で前進への圧力を受ける『動揺と対立』の年となるでしょう」述べ、「新しい思考が必要 」と訴えていた。

 枢機卿が「ドイツ司教協議会の会長に再選されることは望まない」とし、後進に道を譲ることを表明したことは、多くの人を驚かせ、彼の首尾一貫した進歩的姿勢が”後部座席”に座ることを余儀なくさせたのではないか、との観測も出た。

 

*新会長も路線継承、既婚司祭を支持

 だが、ベッツィングのインタビューを見る限り、新会長がマルクス枢機卿よりも挑戦的でない、ということはないようだ。

 ドイツにおけるカトリック教会の改革の必要性に関連して、新会長は、司教たちが”協働的なやり方”を始めたは、「自分自身に問いかけ、今、神が私たちに言わねばならぬこと、教会がどのようにしたら人々に、命の奉仕に近づくことができるか、を追求したいからです」としたうえで、「他の国々でも、多くの課題への緊急な取り組みが求められています。私たちの諸問題への省察の結果をバチカンに持って行きます。ドイツが”はぐれ者”にならないように注意しながら、こう主張しますー『特別のドイツ式のやり方はありません。なぜなら、私たちは、バチカンにとって教会の一つ、普遍教会の一部であると理解しているからです。一方が他方を前提とし、その逆もしかりです』と」。

 昨年のアマゾン地域シノドス(代表司教会議)で議論となった「適正と判断された既婚男性の叙階」について、ベツィング会長は、これは決して「司祭の独身制の廃止」の問題ではなく、「(注:司祭は独身でなければならない、という)行き過ぎた単純化」をどうするか、という問題、とした。

 そして、「教皇フランシスコは、司祭の独身制に忠実であり続ける、と明言されています。それには多くの正当な理由があります」と述べ、アマゾン地域シノドスを受けた使徒的勧告「Querida Amazonia」で教皇が「司祭の信徒たちへの奉仕は、彼らの生活の形よりも重要でなければならない」としていることを指摘した。

 ベツィング会長は、司祭の独身制を「神を完全に中心に置いた」生き方として、勧告の内容に同意を表明する一方で、「仮に、既婚の司祭がいたとしても、教会にとって害があるとは、私には思われません… しかし、既婚の司祭だけで、独身制を選ぶ司祭がいないとしたら、それは教会にとって、大きな損失になる」とも語り、既婚が独身かを選ぶのは、司祭本人の判断であり、そうしたことが認められた場合、「その結果を見て行く必要があるでしょう」と述べた。

*前教皇が性的虐待に関するエッセイで被害者に言及無しは「深刻な過ちだ」

 聖職者の未成年性的虐待問題について昨年2月に全世界司教協議会会長会議が開かれた後、前教皇のベネディクト16世が執筆した長文のエッセイが問題になったが、これについて質問されたベッツィング会長は、このエッセイが性的虐待の被害者たちに言及しなかったのは「深刻な過ち」と批判した。

 また、マンハイム、ハイデルベルク、ギーセンの諸大学が、ドイツにおける聖職者による性的虐待に関する報告を一昨年に発表したが、そこでは、「教会がずっと以前から性的虐待で警告レベルにあったことが指摘」されており、ベネディクト16世がエッセイに書いたこの問題に関する広範な分析は、的外れだった、とも指摘。

 「その時点での展望には、現在知られているような内容が考慮に入れられなかったようだ。そのことは正当化の理由にはならない。考慮に入れられねばなりません」とする一方、ヨハネ・パウロ二世、ベネディクト16世、フランシスコの歴代の教皇は「私たちは最優先すべきことは、虐待被害者を癒すこと、私たちの全神経を彼らに向けること」だとはっきりと教えている、とし、「性的虐待の被害者に会った教皇全員が、そのことを非常にはっきりと示しました」と強調した。

 ベツィング会長はまた、教会における「聖職者主義」の問題についても語り、ドイツでは「何十年にもわたって、司祭と平信徒の間には良い関係を続けてきました… ”協働の道”は司教団と信徒の代表によって決定され、良い協力関係があります」と述べ、議論は「論争になることが避けられないが、常に互いに大きな敬意を払いながらなされています」と語った。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。

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2020年6月17日