・大司教の性的虐待隠ぺいがもたらした教会の信頼危機、ケルンの信徒たちの動揺深刻(Crux)

Crisis of confidence over cardinal shakes Cologne Catholics

(2022.12.10 Crux   Associated Press

ケルン、ドイツ — 前例のない信頼危機が、ドイツのカトリックの歴史的中心、ケルン大司教区を揺るがしている。 多くのカトリック信者は、彼らと深く断絶した大司教、ライナー・ヴェルキ枢機卿に、聖職者の性的虐待を隠蔽した可能性をめぐって抗議し、教会離れが続出している。

 

*ドイツ最大の歴史ある大司教区の危機は、ドイツ教会の縮図

 枢機卿の出処進退は教皇フランシスコの手に委ねられているが、ケルン大司教区が約180万人の信徒を抱える同国で最大の教区であり、司教座聖堂のケルン大聖堂は欧州でも有数の古い歴史を持ち、最も重要な巡礼地の 1 つであることもあって、波紋は国内を越えて広がっている。

 そして、すでに何千人ものカトリック信者が教会を離れている”ケルンの危機”は、ある意味で、聖職者による性的虐待に対する信者の強い批判に端を発し、大きな物議を醸している改革プロセスの中で起きているドイツのカトリック教会全体の問題の縮図ともいえるようだ。

 

*「モラルの衰退に耐え切れない信徒も」

 

 教会は卓越した道徳の模範であることが期待されており、「社会のあらゆる種類の人々のための最高の道徳基準を設定している。だが、もはや司教には当てはまらないのだろうか?」とケルン大司教区の評議会議長、ティム・クルツバッハ氏はAP通信と問いかけた。大司教区にあるゾーリンゲン市長でもあるクルツバッハ氏は、ケルン大司教区の「モラルの衰退に耐えきれずに教会を去る信徒を何人か知っている」とも語った。

 ケルン大司教区の信頼の危機は 2020 年に始まった。ヴェルキ枢機卿は、聖職者が性的虐待で訴えを受けた際、それぞれの小教区関係者がどのように対応したかに関する報告書を、自身が依頼したものであるにもかかわらず、法的な問題になることを懸念して公表せず、秘密にしていた。 そのことで、多くの信徒たちの反発を買い、信頼を大きく損なった。

 そして、2021 年 3 月に公表された新たな報告書では、高位聖職者が、適正な対応を怠った事例が 75 件明らかになり、ケルン大司教区のトップであるヴェルキ枢機卿が、性的虐待の被害者に関する法的な義務を怠ったことも明白になった。枢機卿は、その後、聖職者の性的虐待の訴えなどに関する扱いで過去に間違いを犯したことを認める一方、辞任によって責任を取ることを拒否し、さらに信徒たちの反発を大きくした。

*枢機卿の出した辞表を教皇はいまだ受理せず

 

 数か月後、2 人の教皇特使がケルンに派遣され、高位聖職者による対応の過ちの可能性について取り調べを行い、その結果の報告を受けた教皇フランシスコは、ヴェルキ枢機卿に重大な意思疎通を図る上での過ちがあった、と判断され、枢機卿に対し、数か月の”精神的なタイムアウト”を申し渡した。タイムアウトの期間を終えた後、枢機卿は教皇に辞意を申し出たが、これまでのところ教皇はそれを受理していない。

 クルツバッハ議長は、「ケルン教区の信徒たちがどれほど苦しんでいるのか、バチカンにそれが伝わっている、とか思わない。枢機卿の問題に関するバチカンの決定がなければ、私たちは危機から抜け出すことができない。 問題は最終的な解決を見る必要があります」と述べた。

 この問題は、ドイツの司教団が11月にバチカンを訪問し、教皇と会見した際に、取り上げられた。 ドイツ司教協議会会長のゲオルク・ベッツィング司教は記者会見で、「ヴェルキ枢機卿にとっても、ケルン大司教区の状況がますます耐え難いものになっていることが、非常に明確になった。 教皇の決定を待つことは、ドイツのカトリック信者にとっても重荷になっている」と述べた。

 

*昨年一年で、ケルン大司教区で4万人超、ドイツの教会全体で36万人弱が教会を離れた

 

 このようにしている間にも、ケルン大司教区では、記録的な数の信徒たちが教会を離れている。ドイツの教会統計によると、ケルン大司教区で教会を離れる信徒の数は、2020 年の 1万7281 人から 2021 年には 4万4772 人に上っている。

 信徒の教会離れは、ケルン大司教区ばかりではない。ドイツ全体で見ても、教会を去るカトリック信徒の数が劇的に増加している。 2020 年に 22万1390 人だったのが、2021 年には 35万9338 人。

 ドイツの総人口8400万人に対してカトリック信徒数は2160万人と、カトリック教会が依然としてドイツ最大の宗教団体であることに変わりはない、とも言えるが、「困難な状況であることは明らかです」と、ケルン大司教区のスポークスマン、ユルゲン・クライカンプ氏は先週、AP通信に語った。

 その一方で、「ヴェルキ枢機卿は、出来る知る限りのことを尽くし、献身的に仕事をしておられます。一部のカトリック教徒は怒って、自分たちの教会関係者と言い争っているが、司教が来ると拍手して歓迎する人もいる」とも述べたが、ケルン大司教区の多くのカトリック教徒は、枢機卿が辞任したとしても、危機がすぐに簡単に解決できる、とは考えていない。

 

*「枢機卿1人がやめて解決する問題ではない、根本的改革が必要」

 ケルン大司教区の司牧支援専門家協会のスポーク・ウーマンのレジーナ・オディガー・スピンラス氏は、今の状態を「信頼と信用の絶対的危機」と呼び、「危機はケルン大司教区の状況を超えている」と考えている。「教会には、女性と LGBTQ の人々の平等を促進するなど、根本的な変化が必要です。教会の指導体制も考え直す必要があります。カトリック教会は今も完全な位階制社会で、『トップダウンで権威主義的だ』と言う人もいる。多くの信徒は、もはやそれに賛成したくない、と考えていると思います」と語った。

 彼女の主張は、世界の教会に先んじてドイツの教会が進めている”Synodal Path(シノドスの道)”における改革プロセスに沿ったものだ。ドイツの教会は、2018年に聖職者による性的虐待に関する調査報告書で1946 年から 2014 年の間に少なくとも 3677 人が聖職者によって虐待されたことが明らかになったのを受けて、有力信徒による カトリック中央委員会と共同で、この問題への具体的対応を中心に、教会改革のための取り組みを続けている。

 ドイツ版”シノドスの道”では、いくつかの取り組みの場で、同性カップルの祝福、既婚司祭や、女性助祭の叙階を認める働きかけをすることを決めているが、バチカンやドイツ教会などの保守的な聖職者から激しい反対も引き起こしている。だが、オディガー・スピンラス氏は「改革実現のために戦う用意があります」と述べている。

 しかし、保守勢力の圧力と遅々として進まない改革に耐え切れなくなった信徒も出てきている。

 「私は教会を去ります」と語るのは、デュッセルドルフの聖マルガレータ教会の信徒、ペーター・バーゼル氏だ。ヴェルキ枢機卿がデュッセルドルフを訪問した際、抗議運動を組織した。何十年にもわたって活発な教会活動を続けてきたバーゼルは、聖マルガレータ教会で司牧したことのある司祭2人に対する性的虐待の訴えに、注意を喚起しようと努めたが、 結局、あきらめた。「教会を去るとき、恋しく思わないことはない。キリスト教の信仰は、他の人々と分かち合うものだからです。しかし、私はもはや今のような教会制度を支援できない」。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。Crux is dedicated to smart, wired and independent reporting on the Vatican and worldwide Catholic Church. That kind of reporting doesn’t come cheap, and we need your support. You can help Crux by giving a small amount monthly, or with a onetime gift. Please remember, Crux is a for-profit organization, so contributions are not tax-deductible.

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2022年12月11日