・「兄弟姉妹殺しは止めて!」ロシア正教会の司祭たちウクライナ侵攻の即時中止求める署名活動(Crux)

(2022.3.6 Crux  Senior Correspondent   Elise Ann Allen)

 ローマ発–ロシア正教会の司祭のグループが、平和を求める非暴力的な抗議を抑える動きを批判し、ウクライナとの戦争の即時停戦を求める請願書への署名運動を始めた。

*すでに300人以上が請願書に署名

 司祭と主教たちによるその請願書は、各個人として、「ウクライナでなされている兄弟姉妹殺しの戦争の中止を判断する立場にある全ての人」に対し、和解と戦闘の即時停止を求める、としている。

 関係者によると、請願書に署名を求める活動は、四旬節が始まる前の、ロシア正教では「赦罪の主日」とされている3月6日の一週間前から始められ、すでに300人以上が署名に応じている。

 ロシア正教会は、これまで、特に指導的地位にある高位聖職者を”クレムリンの信頼できる同盟者”だと長い間受け止められてきた。そうした中での請願の動きが注目されているが、これまでのところ、署名者の中には、ロシア正教会の最上位の人々の名前は見られない。

*「”母親たちの呪い”を負って、最後の審判に立ってはならない」

 請願書の中で、司祭たちは、「最後の審判はすべての人が受ける。地上の権威者も、博士たちも、護衛も、審判から身を待ることはない」とし、「自分がロシア正教会の子と考える全ての人の救いを思う時、私たちは、母親たちの呪いの重荷を負って、審判に立つことを望まない… 主日のミサで残忍な命令を下す者たちが拝領するイエスの体と血は、命ではなく、永遠の責め苦となるだろう」と警告。

 さらに、「私たちは、ウクライナの兄弟姉妹が受けている不当な試練を悲しんでいる」と述べ、「命は、値段をつけることのできない、他の者とは比べることができない賜物」としたうえで、ロシア人とウクライナ人のすべての兵士たちを彼らの家、家族もとに、安全に帰還させるよう求めた。

*「ウクライナの将来は、ウクライナ国民が自ら決めるべき」

 そして、「ロシアとウクライナの子供たち、孫たちが、再び友となり、互いを尊敬し、愛し合うために克服しなければならない深い亀裂」を嘆くとともに、神から人類に与えられた権利としての自由の価値を強調し、ウクライナは「西側や東側から圧力を受けることなく、銃を突きつけられることなく、自らの将来を決定できなければならない」と強調した。

 また請願書で司祭たちは、創世記に書かれた、カインが嫉妬から弟のアベルを殺した後、主がカインに語られた言葉ー「何ということをしたのか。あなたの弟の血が土の中から私に向かって叫んでいる。今や、あなたは呪われている。あなたの手からあなたの弟の血を受け取るため、その口を開けた土よりもなお呪われている」(4章-11節)を引用し、「これらの言葉が、自分に向けられたものものだと気付いた人たちは、悲惨だ」と述べた。

 そのうえで、ロシア軍によるウクライナ侵攻に平和的に抗議する人々を弾圧し、逮捕していることを批判し、「非暴力的な平和の呼びかけ、戦闘の中止を求める声が力を持って抑圧され、法律違反と見なされるべきではない。神は『平和を築く者は幸い』と言っておられる」としたうえで、暴力ではなく、関係者全員による有意義な対話を行うよう呼びかけ、「他者の声を聞くことだけが、私たちの国が投げ込まれた深淵から抜け出す希望を与えることができる。信仰、希望、愛に立ち戻り、戦争を止めて」と重ねて訴えた。

*ロシア正教総主教はプーチン大統領への働き掛けを求める声に反応せず

 ロシアがウクライナに軍事侵略を始めて以来、ロシア正教会以外の、世界中の多くのギリシャ正教会、カトリック教会をはじめ、キリスト教各派の指導者たちが、戦闘行為の即時中止を求める声を上げている。だが、ロシア正教会の最高指導者で、プーチン大統領にも影響力をもつとされるキリル総主教は、こうした動きに足並みをそろえていない。

 ロシア軍がウクライナ侵攻を始めた3日後の2月27日、キリル総主教は、モスクワでの聖体祭儀の中で、「私たちは、諸国民間の平和を維持すると同時に、絆を破壊する可能性のあるすべての外部の行動から私たちの祖国を守るためにあらゆることをせねばならない」と述べている。

 世界教会協議会(WCC)の総幹事を務めるルーマニア正教会のイオアン・サウカ神父を含め、何人かのカトリック教会とウクライナ正教会を含む正教会の指導者たちは、キリル総主教に対して、プーチン大統領に戦闘停止を求めるよう要請しているが、キリル総主教は、明確な対応をしていない。

 ただし、総主教は3月3日にモスクワ総主教館で、バチカンの駐ロシア大使のジョバンニ・ダグネロ大司教と会談。総主教区によると、総主教は大使に、教皇フランシスコが人類の平和と正義の創造に重要な貢献をしていることを讃え、「多くの国際問題に関するバチカンの『穏健で賢明な立場』はロシア正教会の立場と一致している。私たちの教会を含むキリスト教の教会が、自発的または非自発的に、あるいは無意識的に、今日の世界の課題に存在する『複雑で矛盾した傾向の参加者』にならないことが非常に重要だ」と述べた。

 さらに総主教は、「私たちは、紛争に対して、平和を作る立場をとろうとしている。教会は紛争に加わることができず、平和を作る力になることしかできない」と言明したという。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2022年3月7日