*「ホスピスや緩和ケアの患者の命を守る権利が損なわれる」と英カトリック教会、”自殺ほう助合法化”法案に警告(Crux)

(2025.6.19 Crux  Managing Editor  Charles Collins)

 英国で、終末期の成人の「死を選ぶ権利」が認められる見通しになったが、同国のカトリック教会は「ケアホームやホスピスの患者の生命を守る権利を損われる」と警告している。

 労働党のキム・リードビーター議員が提出した法案は正式には「終末期の成人(終生)法案」といい、英国議会下院で20日行われた採決で、賛成314、反対291で通過した。上院で覆される可能性は低く、2029年までに、合法的に自ら命を絶つことができるようになる、という。

 安楽死と自殺幇助について英国では現在、イングランド、ウェールズ、北アイルランドの法律では違法であり、過失致死または殺人とみなされている。スコットランドでは、特別な法律はないが、殺人罪に問われる可能性がある。下院を通過した法案は、18歳以上の終末期の成人に、医療幇助による自殺を要請する権利を認めるものだ。

 イングランド・ウェールズ・カトリック司教協議会が19日発表した声明では、「法案が可決された場合、カトリックのホスピスやケアホームが何らかのメカニズムで自殺幇助に関わることを要求される可能性が高い。この法案はそのようなカトリック施設の将来を脅かすものである」と強く非難している。

 声明では、ホスピスやケアホームが自殺幇助に協力せざるを得なくなる可能性のある具体的なケースには、以下のようなものがあるとしている。

1. 政府の所管大臣は、自殺幇助の利用可能性を確保するための規制を作る権限を与えられる。これらの規制が議会で議論される可能性は低い。ホスピスやケアホームに要件を課す可能性がある。他の同様の分野では、「サービス」へのアクセスの平等は、ほとんど例外なく、制度の自由よりも優先される。

2. 自殺幇助の提供は、政府によるホスピスへの資金援助、地方自治体によるケアホーム入居者への資金援助、あるいは地方自治体の医療機関との契約に縛られる可能性がある。これはカナダで経験されている。

 リーズにある聖ジェームス・ホスピスは、法案委員会への証拠の中で次のように述べている— 「もし死への幇助の規定を遵守することが、政府による補助金提供の条件となれば、我々のような施設は、完全に運営を停止せざるを得なくなる恐れがある。
また、ホスピスUK(自殺幇助には基本的に反対していない)のCEOはこう述べている— 「ホスピスへの影響を過小評価したり、軽視してはならない。答えのない大きな問題がある」。

 イースト・ロンドンのハックニーにある聖ジョセフ・ホスピスは、2024年10月に次のように述べている— 「カトリックのホスピスとして私たちの立場は、『死への援助』は私たちの専門的な緩和ケアの実践に関係なく、私たちの理念や価値観に合致するものではない、ということだ。私たちは死を早めることも先延ばしすることもしない。私たちは生を大切にするが、自然な死が訪れることも受け入れる」。

3. 雇用主は、自殺幇助を選択した従業者に対して行動を起こすことができなくなる。ある国会議員は、ケアハウスやホスピスの不参加を認める修正案に反対した際、「ケアハウスやホスピスが、そのような施設の顧客が自殺するのを助けるために、職員が良心の権利行使を妨げることを認めるのは間違っている」と明言した。

 法案提出者は、施設の職員や入所者の「権利」は、施設の自由よりも優先されねばならない、と考えていることを明らかにしている。もし職員、特に上級職員が、自殺幇助を希望する入所者のために手配をしたり、医師の場合は直接援助を提供したりすれば、カトリックのホスピスやケアハウスは運営不可能な立場に追い込まれるかもしれない。

4. 人権や平等法への異議申し立ては、重篤な病気で快適に移動することができない人が、介護を受けている施設が施設内での自殺幇助の提供を支援しなければ、その人権が損なわれたり、平等法の不利益を受けることになる、ということを立証する可能性がある。この法案の実施を担当する所管大臣は、国会で、「自殺幇助を促進しない介護施設に対する人権侵害は、成功する可能性が高い」と指摘している。

 以上の指摘から、声明は、「この法案が成立すれば、カトリックのホスピスやケアハウスがサービスを中止せざるを得なくなる恐れがある。英国における他の同様の法律分野や、国際的な自殺幇助法の経験が、こうした懸念を高めている」と述べ、「多くのカトリック系ホスピスは、都市の大部分の地域でサービスを提供している。緩和ケアの提供への投資と強化が必要な時期に、この部門からの撤退は、緩和ケアの提供に甚大な問題を引き起こす可能性がある」と警告している。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2025年6月21日