(2024.12.21 La Croix Cécile Lemoine In Bethlehem)
毎年、クリスマスが近づくと、エルサレムの教会は信者たちに、喜びと希望をもって主の誕生を迎えるよう呼びかける。しかし、その誕生の地、ベツレヘムでは、経済的に息が詰まり、先行きが不透明な状況の中で、将来への不安が人々の心に重くのしかかっている。(写真はベツレヘムのキリスト降誕広場、クリスマスの飾りつけは皆無だ=CC BY-SA 4.0/adriatikus)
今年のベツレヘムには、イルミネーションも飾りもない。代わりに、ヨルダン川西岸地区唯一の大学であるベツレヘム大学に、ガザ地区で命を落とした子供たちを追悼して、パレスチナの伝統色で彩られ、木製の天使とたくさんの名前が付けられたクリスマスツリーが飾られているだけだ。
「クリスマス? どんなクリスマス?」と、キリスト生誕の地に漂う重苦しい雰囲気を反映した人工のツリーを見つめながら、同大学の芸術学部長を務めるパレスチナ人キリスト教徒のハナディ・ユナン教授は言った。「喜ぶことなど不可能だわ」。
この私立カトリック大学には、キリスト教徒とイスラム教徒の学生約3600人が学んでいるが、クリスマスに向けた準備は、パレスチナ人の悲しみと不安を反映した簡素なものとなっている。大学の共同ホールには、学生たちに毎週の質問に答えるよう促す「自由表現テーブル」が置かれている。12日は、「あなたは何を待っていますか?」という質問が書かれていた。 これに対する答えは様々だ。「戦争の終結」、「別の国籍」、「平和な場所を見つけること」、「結婚式、母親、叔母、祖母になること」、「お金」など。 パレスチナの若者たちが直面
する恐怖や課題を端的に表す骸骨の絵もあった。
「学生生活における通常のストレスは、軍事占領下での生活の重みによってさらに増幅され、その上に、頻繁な移動制限が加わっています」と、イエズス会士でソーシャルワーカーでもある米人のギャレット・ガンドラック神父は説明する。神父は「オアシス」と呼ばれるコミュニティスペースを管理している。「人々は疲れ果てています」。
ベツレヘムの馬小屋が置かれた広場には、昨年同様、クリスマスのイルミネーションやクリスマスツリー、お祭り市場などは設けられない。 待降節の初め、エルサレムの教会の長老や指導者たちは、キリスト教徒たちに「キリストの到来と誕生を祝うために、キリスト教徒の『希望』を象徴するものを公に示そう」と呼びかけた。
昨年、彼らの装飾を控えるよう求める呼びかけは、一部の人々によって「クリスマスの取り消し」と解釈された。「『闇の中に輝く光』についての私たちの証しは弱められてしまった」と、教会指導者たちは共同声明で嘆いた。今年は、ガザ地区でのクリスマス停戦を呼びかけながら、「戦争を認識すること」と「希望を育むこと」の微妙なバランスを取ることに努めている。困難にもかかわらず、クリスマスには「喜び」と「希望」という、本来のメッセージを伝えねばならない、という信念を、彼らは持ち続けている。
だが、人口3万人のベツレヘムには、経済的な絶望感が蔓延している。観光業に大きく依存していたこの町は、現在は観光収入は皆無であり、働いて収入を得ようにも、住民の就労許可は昨年10月7日の攻撃を受けてイスラエル政府によって取り消されたままだ。「学費を払えなくなった学生もいて、授業も半分しか出ていない。パートタイムの仕事もほとんどない」と、過去5年間に学術水準が低下しているのを目の当たりにしてきたハナディ教授は嘆く。
町には、貧困の兆候がますます顕著になっている。「最も困窮している人々を支援するための予算を3倍に増やしました」と、匿名希望の宗教団体関係者は語る。「12月のとある日曜日、9家族が食料を求めてやって来ました。こんなことは初めてでした。その日の終わりには、食料庫は空っぽになっていました」。
ジョージ(仮名)は、11月に兄が米国に移住するのを見送り、今度はスペインへの移住の準備をしている。「ここには将来がない。チャンス
もない。八方ふさがりです」と言う。昨年10月のテロ事件が起こったとき、ユースホステルを開業する予定だった。「ただ、戦争前の生活に戻ってほしいだけなのに」と深くため息をついた。
(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)
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