・ウクライナ正教の大主教、「ロシアによる”冒涜的”な戦争は正当化できない」-ウクライナ人捕虜6人射殺のビデオで

(2025.1.30 Crux Managing Editor   Charles Collins)

   ウクライナ東方カトリック教会の首座司教、シェフチュク大司教は30日、ロシア兵が非武装のウクライナ人捕虜6人を処刑する様子を収めたビデオについて、「衝撃的」と強く非難した。

 1月23日以降、ソーシャルメディアで広く拡散されているこのビデオには、ロシア兵が交代で非武装のウクライナ人捕虜の背中を銃撃する様子が収められている。動画の終わりに、ロシア兵の一人が「一人は俺のものだ」と言い、7人目の兵士が地面に倒れている様子が映し出されているが、彼に何が起きたのかは不明だ。

 ウクライナの検察当局は1月23日の声明で「初報によると、ドネツク地方におけるウクライナ軍の陣地への攻撃の際、占領軍がウクライナ国防軍の兵士6人を捕虜とし、その後、彼らを射殺した」とし、「捕虜の処刑は、捕虜の待遇に関するジュネーブ条約の重大な違反であり、重大な国際犯罪だ。現在、犯罪の全容と実行犯の特定に向けた捜査が進められている」と述べた。

 ロシアは2014年にクリミアを違法に併合し、2022年2月にウクライナへの全面侵攻を開始した。ロシア軍はウクライナで徐々に前進しているが、ウクライナ人と同様に、ロシア人も甚大な犠牲を被っている。

 シェフチュク大司教はビデオメッセージで、「ロシアはどんな犠牲を払ってでも、軍事力によって政治的目標を達成しようとしており、毎日何千人もの兵士を”野蛮”な攻撃で犠牲にしている… これは大虐殺だ」と批判したうえで、「先週、私たちは6人のウクライナ人捕虜に対する残虐な処刑の映像と、処刑したロシア人が、自分の胸に『無原罪の御宿り』のイコンのステッカーを貼っていたのを見て、最も大きな衝撃を受けた。それは本当に恐ろしい光景だ… キリスト教徒の良心はこれを許容することはできない」と言明した。

 そして、「神を冒涜する戦争は正当化できない。無防備な犠牲者が、神の名のもとに虐殺されてはならない。教皇は、現在の状況を明確に定義している。これはもはや『戦争』ではない。軍隊の慣習や規則、国際人道法を尊重していないからだ。これは暴挙だ」と付け加えた。

 シェフチュク大司教の「冒涜的な戦争」という発言は、ロシアによるウクライナ侵攻が、ロシア正教会のキリル総主教によって強く支持されていることを浮き彫りにしている。キリル総主教は、1月7日の正教会のクリスマスにロシア国営テレビで放送されたインタビューで、「ロシアは、”病んだ西洋”と”聖書的な戦い”を繰り広げている、若く、非常に強い文明だ」と述べたのだ。

 またシェフチュク司教は、ウクライナの都市や村が毎晩ロシア軍の砲撃を受けている事実も指摘。「私たちが受け入れることも、慣れることもできない残虐な現実を、ウクライナ国民の声を、世界の人々にもう一度聞いてもらいたい。ウクライナは立ち上がる!ウクライナは戦う!ウクライナは祈る!」と訴えた。

 最近の調査では、ウクライナ人の大半が、敗北を受け入れるのでない限り、ロシアとの和平協議に賛成していることが明らかになっている。だが、ロシアのプーチン大統領は今週、国営テレビで、2022年の侵攻開始以来、ウクライナでは選挙が実施されていないことを理由に、「ゼレンスキー大統領には正当性がないため、話すことはできない」と述べた。

 大司教は、「ウクライナ領土防衛部隊の隊員が2022年の侵攻以来、行方不明になったり、ロシア軍に捕虜として連れ去られたりした人々の親戚や友人である女性や母親たちの話を聞いた。その中で最も心を打たれたのは、捕虜として投獄されている人々が祈りを捧げることさえ許されていない、という話だった。ロシア軍は彼らを動物のように扱い、『動物は祈りを捧げない』と言っているという。捕虜は十字架や聖書で祈ることを含む宗教的な行為をすべて否定されています」とロシア軍の非人道性を訴えている。

 

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2025年2月3日