・「核軍縮と核兵器廃絶に向け具体的な合意形成を」G7首脳たちに日米の4司教が要望-問われる主催国日本の司教団の姿勢

(2023.5.20 カトリック・あい)

 19日から21日まで開かれる広島G7サミットに向けて、被爆地の広島、長崎、そして米国のサンタフェ、シアトルの4人の司教がG7首脳たちあてに、「世界の平和、とくに核軍縮と核兵器廃絶に向けて具体的な合意形成が図られること」を願う共同宣言文を出した。

 疑問に思われるのは、共同宣言を出したという発表、宣言の内容の公表は20日現在、日本ではカトリック広島、長崎両教区のホームページでしかなされていないことだ。日本のカトリック中央協議会のホームページには皆無。しかも、司教の教区司祭、信徒に対するメッセージを共同宣言と合わせて載せているのは広島の白浜司教のみ。長崎教区は「米日の4つの教区が共同宣言文を発表しましたのでお知らせします」という教区事務局長の他人事のような”前文”が共同宣言の前に載せられているだけだ。

 被爆地広島で初めて開かれた民主主義の価値を共有する世界の主要7か国と欧州連合の代表が参加したG7、ロシアや中国、北朝鮮による核の脅威が高まる中でのG7へのメッセージであれば、常識的に言って、広島G7の主催国・日本の代表である岸田首相に対するのは日本司教協議会会長である菊地・大司教であり、今回の宣言文の代表者も菊地・大司教であるのが筋であり、適切であったと思われる。

 日本の司教団としてではなく、被爆地の二つの教区長のみの署名にとどまり、しかも長崎教区は司教のメッセージさえもない、という腰の引けた日本の司教団の姿勢は、内外の司祭、信徒たちの目にどのように映るのだろうか。

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 サミット開催地広島の白浜司教の教区の司祭、信徒あてのメッセージと、共同宣言の全文以下の通り。

広島教区の兄弟姉妹の皆さん

 いよいよ5月19日から21日まで、広島でG7サミットが開催されます。広島でかつ保有国を含むG7サミットが開かれるこの機会に合わせて、世界の平和、とくに核軍縮と核兵器廃絶に向けて具体的な合意形成が図られることを願い、米国で核兵器の開発製造が行われている研究所が所在する地域を管轄するサンタフェ大司教、米国で最も戦略核兵器を配備している地域を管轄するシアトル大司教、そして戦争被爆地を含む地域を管轄する長崎大司教と共同で、カトリックの霊的指導者として、G7広島サミットの首脳宛に共同宣言文を出しました。その英文と日本語訳を共有したいと思います。
なお、サンタフェのウェスター大司教、シアトルのエチエンヌ大司教が、8月4日から7日に広島その後、8月7日から9日に長崎を訪問され、平和行事に参加してくださる予定です。
教区内では、5月13日~31日までを、「世界の平和とシノドスのための祈りの期間」に設定して、キリストの「平和の使徒」となる使命のために、皆さんの霊的なご支援を、どうかよろしくお願いいたします。

2023年5月18日 広島教区 司教 アレキシオ 白浜 満


2023年5月 15日

米国大統領  ジョー・バイデン  日本国内閣総理大臣  岸田文雄  フランス大統領  エマニュエル・マクロン  イタリア首相 ジョルジャ・メローニ  ドイツ首相 オラフ・ショルツ  英国首相  リシ・スナク  カナダ首相 ジャスティン・トルドー

 G7首脳の皆様へ

  私たちカトリック教会の霊的指導者は、来る主要7カ国首脳会議(G7)を機会に、地球規模の検証可能な核軍縮に向けた具体的な措置を講じることを強く求めます。

  岸田文雄首相が、核戦争の最初の被災地である広島市をサミットの開催地に選んだことを私たちは高く評価します。それだけで強力なメッセージとなるでしょう。私たちは、核戦争の長期にわたる惨禍を認識するための一歩として、G7首脳と広島・長崎の原爆被爆者との会談を熱烈に歓迎します。

  私たちは、米国で核兵器に最も資金を費やしている教区であるサンタフェ、米国で最も戦略核兵器を配備している教区であるシアトル、そして世界で唯一の戦争被爆教区である広島と長崎のカトリックの霊的指導者として、摂理によって突き動かされて声を上げます。

  岸田首相は、今回のサミットは、「核兵器のない世界の実現に向けた強いメッセージを発信するために議論を深め」、また、「核兵器による威嚇やその使用を絶対に拒否するという確固たる決意を示す」またとない機会となると述べられました。

  私たちはこの意見に強く同意します。私たちは、サミットを通じて、G7首脳である皆様が、核軍縮・管理の重要性に国際的な関心を向け、核不拡散の努力に対する世界的なコミットメントを示すことを強く求めます。ウクライナ戦争を核軍縮の実質的な進展のための圧倒的な障害とみなすのではなく、核軍縮の絶対的な必要性を明確に示すものとしてとらえます。

  具体的には、G7首脳に以下のことを要請します。

  • 広島と長崎の原爆投下が被爆者に与えた途方もなく大きく、また、長期的な苦痛を認識すること。

  • 世界中で行われた核実験がその風下の住民たちに与えた途方もなく大きく、また、長期的な苦痛を認識すること。

  • 核戦争に勝者はおらず、決して戦ってはならない戦争であることを繰り返し強調し、また、2022年11月にG20が合意したように、核兵器の使用や使用の威嚇は 「許されない 」ことを強調すること。

  • 核兵器のない未来の世界を作るという目標を再確認すること。

  • 新たな軍拡競争を防止し、核兵器の使用を警戒し、核軍縮を進めるための具体的な措置を発表し、約束すること。

  • 新戦略兵器削減条約の完全実施と後続条約の交渉のために、米国とロシアの間で真剣な協議を再開すべきであることを改めて表明すること。

  • 最後に、今から半世紀以上前、1970年の核不拡散条約で約束された、核軍縮につながる真剣な多国間交渉に入るという国際的な使命を尊重すること。

 長年にわたり、世界の指導者たちは、核兵器の脅威を取り除き、新たな核軍拡競争を防止し、文明を終わらせる可能性のある核戦争という究極の破局を回避する必要性について語ってきました。ミハイル・ゴルバチョフ、ロナルド・レーガン、そして私たちの教皇フランシスコなど、多くの著名な指導者たちによって、このような呼びかけがなされてきました。しかし、今こそ、言葉を実際の行動に移す時です。

 複数の核保有国が存在し、新しいサイバー兵器や極超音速兵器、人工知能が出現している今日、新たな核軍拡競争は最初の軍拡競争よりも危険であると私たちは考えています。ロバート・マクナマラ米国防長官は、人類がキューバ危機を乗り越えたのは運が良かったからにすぎないと断言しました。人類の継続的な生存を保証するためには、運だけでは十分ではありません。

 私たちは、G7サミットで世界の指導者たちが、核兵器国と非核兵器国の両方と協力し、核戦争の恐怖に苦しむ国や都市が二度とないようにする準備ができており、その意思があり、またその能力があることを示すことを強く求めます。

 地球上の恒久的な平和の願いとともに。

サンタフェ大司教 ジョン・C・ウェスター  シアトル大司教 ポール・エチエンヌ  長崎大司教 ペトロ中村倫明  広島司教 アレキシオ白浜満


May 15, 2023

President of the United States Joe Biden
Prime Minister of Japan Fumio Kishida
Prime Minister of France Emmanuel Macron
Prime Minister of Italy Giorgia Meloni
Chancellor of Germany Olaf Scholz
Prime Minister of the United Kingdom Rishi Sunak
Prime Minister of Canada Justin Trudeau

 Dear G7 Leaders,

 We, the undersigned spiritual leaders of the Roman Catholic Church, urge you to use the upcoming summit of the International Group of Seven to undertake concrete steps toward global, verifiable nuclear disarmament.

We commend Prime Minister Fumio Kishida for choosing the City of Hiroshima, the first victim of nuclear war, as the summit venue. That alone is a powerful message. We enthusiastically welcome the meeting between G7 leaders and the hibakusha – the survivors of the atomic bombings of Hiroshima and Nagasaki – as a step toward recognizing the long-lasting horrors of nuclear warfare.

As the Roman Catholic spiritual leaders of the diocese with the most spending on nuclear weapons in the United States (Santa Fe), the diocese with the most deployed strategic nuclear weapons in the United States (Seattle), and the only two dioceses in the world to have suffered atomic attacks (Hiroshima and Nagasaki), we are compelled by providence to speak out.

As Prime Minister Kishida observed, the summit presents a unique opportunity “to deepen discussions so that we can release a strong message toward realizing a world free of nuclear weapons” and to “demonstrate a firm commitment to absolutely reject the threat or use of nuclear weapons.”

We strongly agree. We therefore urge you to use the summit to center international attention on the importance of nuclear arms control and disarmament and to demonstrate a global commitment to nonproliferation efforts. Rather than viewing the war in Ukraine as an overwhelming impediment toward making substantial progress, we view it instead as clear demonstration of the absolute need to do so.

Specifically, we encourage G7 leaders to:

  • Acknowledge the tremendous, long-lasting human suffering that the Hiroshima and Nagasaki atomic bombings inflicted upon the hibakusha;
  • Acknowledge the tremendous, long-lasting human suffering that nuclear weapons testing caused to downwinders around the world;
  • Reiterate that a nuclear war cannot be won and must never be fought, as well as emphasize that, as the G-20 agreed to in November 2022, the use and the threat of use of nuclear weapons are “inadmissible;”
  • Reaffirm the goal of a future world free of nuclear weapons;
  • Announce and commit to concrete steps to prevent a new arms race, guard against nuclear weapons use, and advance nuclear disarmament;
  • Reiterate that serious talks should be restored between the United States and Russia to renew full implementation of the New Strategic Arms Reduction Treaty and to negotiate a follow-on treaty; and finally
  • Honor the international mandate to enter into serious multilateral negotiations leading to nuclear disarmament, pledged to more than a half-century ago in the 1970 NonProliferation Treaty.

Throughout the years, world leaders have spoken about the need to eliminate the threat of nuclear weapons, prevent a new nuclear arms race, and avoid the ultimate catastrophe, that is potentially civilization-ending nuclear war. These calls have long been echoed by many notable world leaders, such as Mikhail Gorbachev, Ronald Reagan and our own Pope Francis. But it is now time to actually translate rhetoric into action.

We believe that today’s new nuclear arms race is more dangerous than the first arms race, given multiple nuclear actors and the advent of new cyber and hypersonic weapons and artificial intelligence. U.S. Defense Secretary Robert McNamara asserted that humanity survived the Cuban Missile Crisis only by luck. Luck is not sufficient to ensure the continuing survival of the human race.

We strongly urge world leaders at the G7 summit to show by example how international leadership is ready, willing and able to work with both nuclear weapons and non-nuclear weapons states to ensure that no country or city suffers the horrors of nuclear war ever again.

Yours in the hopes of humanity for lasting peace on earth,

The Most Reverend John C. Wester Archbishop of Santa Fe

The Most Reverend Paul Etienne Archbishop of Seattle

The Most Reverend Peter Michiaki Nakamura Archbishop of Nagasaki

The Most Reverend Alexis Mitsuru Shirahama Bishop of Hiroshima

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2023年5月20日