(解説)3月13日は日本のカトリック教会の「性虐待被害者のための祈りと償いの日」だが…

(2020.3.13 カトリック・あい)

 13日に日本のカトリック教会は「性虐待被害者のための祈りと償いの日」を迎えた。だが、中央協議会のホームページを見ると、1月31日に同協議会子供と女性の権利擁護のためのデスクがまとめ、その後2月28日に修正した国内各教区の行事予定のみ。主催者であるはずの司教団のメッセージもない。

 教皇フランシスコの全世界の司教団に「性虐待被害者のための祈りと償いの日」を設けることを求める通達を受けて、日本の司教団として「四旬節第2金曜日」をこの日と定め、2017年から開始して、今年は4回目だ。新型コロナウイルスの感染拡大で主な教区での公開ミサや大勢が参加する行事は中止を余儀なくされているのはやむを得ないとしても、それに代わる祈りや反省などを呼びかける手だけはいくらもあるはずだ。

 世界の教会のこの問題での取り組みの遅れを強く懸念した教皇フランシスコは昨年2月に、全世界の司教協議会会長による会議を招集、会議の結果をもとに、各司教協議会に対して「聖職者による性的虐待・隠ぺい防止の新規範」の策定・実施を求める自発教令を出さた。

 これを受けて米国など主要国の司教協議会で新規範の決定するなど、新たな具体的取り組みを始めているが、日本の司教団は、ホームページによると「2002年に日本カトリック司教団として、2012年にデスクとして調査を行っております。しかし、それぞれの調査の目的が異なっていたことから、より正確な調査(現状把握)が必要」として、昨年6月から10月にかけ、司教団として、全教区と全修道会、宣教会に対して再調査を実施し、さらに追加調査をしたはずだった。

 だが、教皇訪日を目前にした昨年11月15日付けの司教協議会の説明で、「教皇訪日に際して、公表の予定はあるかというお問合せが寄せられています。上記のとおり、現在調査を継続しているところですので、教皇訪日に際しての発表は予定しておりません」とわざわざ断ったうえで、「報告できる段階になり次第、カトリック中央協議会のウェブサイトで公表する予定です」としていた。しかし、それから4か月を経過した今も、報告の絶好のタイミングであるはずの13日の「性虐待被害者のための祈りと償いの日」を迎えた段階でも、何の音さたもない。

 この時の説明では「現在では、全ての教区に対応委員会が設置され、複数の教区にて、相談窓口などのホットラインが設置されています。日本カトリック司教協議会は、今後も様々な課題に対して、一つずつ丁寧に審議を重ね、対応を推進していく所存です」とも述べていたが、本当に「一つずつ丁寧に審議を重ね、対応を推進」しているのか、全く見えてこない。

 そもそも、調査は、昨年5月の司教協議会の定例常任委員会で「児童性虐待に対応するために過去の事例と現在の状況についてのアンケート」として、各教区司教に送付し、昨年6月30日までに回答をもらうことを決めていたものだ。それが、”再調査”が10月まで、さらに追加調査… というわけだ。

 昨年2月の全世界司教協議会会長会議に日本の代表として出席した高見三明・司教協議会会長(長崎大司教)は、帰国2か月後の昨年4月に東京で開かれた「施設内虐待を許さない会」主催の「カトリック神父の子どもへの性虐待! 日本でも」と題する集会に参加。その席で、有力月刊誌「文芸春秋」の昨年3月号の調査報道記事「カトリック神父『小児性的虐待』を実名告発する “バチカンの悪夢”が日本でもあった!」で実名を明らかにしていた性的虐待被害者の男性に面前で謝罪するとともに、国内の実態調査を全国16の司教区で開始することを決めたことを明らかにしていた。

 高見会長は当時、「世界で起きているさまざまな性的虐待に教会は本来立ち向かっていかなければいけない。世論を高め、専門的な知識を結集して、改善に取り組みたい」とも語っていたが、それから一年近く経った今も、国内の一般信徒を含む関係者に、そのような決意を示し、協力を求めるようなメッセージは届いていない。

 さらに、教皇フランシスコの訪日前日の11月22日には、時事通信が「長崎大司教区で、女性信徒が性被害訴え。神父処分も公表せず」と伝えた。「長崎県のカトリック信徒の女性が『神父に体を触られるなど猥褻な行為をされた』などと性的被害を訴えていることが関係者への取材で分かった。長崎大司教区は問題の神父の聖職を停止したが、教区の信徒たちに処分を公表せず、不在の理由を『病気療養中』とだけ説明しいる」とし、「女性は心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断され、長期の入院を余儀なくされた。神父は面会した教区幹部に『女性や教会に大変な迷惑を掛けた』と話したが、時事通信の取材には『何も申し上げられない』と答えたという」としていた。”当然”のことながら、この問題への見解、対応もいまだに公にはなされていない。

 昨年秋、「カトリック・あい」で次のように書いた。その時の思いは、残念ながら、今も変わらない。

 教皇が全世界の司教協議会に求めている性的虐待・隠ぺい防止の新規範を日本がまとめるのはいつのことになるのだろうか。

 対応の遅さの背景には、関係者の「事を荒立て、余計な不安と動揺を信徒に与えたくない」という”隠蔽”体質と、「日本社会では欧米のように同性の幼児や少年に対する性的虐待は極めてまれ。教会内部ではほとんどあり得ない」という安易な思いがあるように感じる。

 では、同性の幼児や少年に対する性的虐待でなければ、それ以外の性的な不適切行為には目をつぶってもいいのか。そうではないはずだ。聖職者の独身制は教会法にも規定されており、その「独身制」は単に結婚しなければいい、というものではなく、貞潔を守らねばならないことを意味する、厳しいものだ。そのような”聖職者”が信徒の教会への信頼を損なう例は、日本でも少なくないと思われる。

 実際に筆者が確認している限りでも、そのような”聖職者”が二人いる。そのうちの一人は、神学校に在籍中に不適切行為を繰り返し、何度か警告を受けても辞めることがなかったため、所属の東京教区から絶縁されたものの、他教区の司教から「俺のところに来い。面倒を見てあげる」と言われて(本人から直接筆者が聞いた)その教区に移り、叙階に至ったものの、またしても、不適切行為を繰り返したが、その司教は某大司教に昇格、転出し、後任司教が頭を抱えている、と聞いている。

 教皇の強い思いをしっかりと受け止め、すみやかに真摯な対応を取ることが望まれる。

(「カトリック・あい」南條俊二)

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(参考)2020年度 性虐待被害者のための祈りと償いの日 関連行事  宗教法人カトリック中央協議会 子供と女性の権利擁護のためのデスク

                    (中央協議会ホームページ 投稿日 : 2020年1月31日 

2020年度の「性虐待被害者のための祈りと償いの日」は、2020年3月13日(金)です。それにともない、各教区では以下の行事が開催されます:

■札幌教区 (3月13日以下のミサは中止となりました)
ミサ 3月13日(金)18:30より、北一条教会(札幌教区カテドラル)にて勝谷司教司式によるミサ 特別電話相談 3月10日から15日まで、毎日12:00から20:00の間、電話相談を受け付ける

■仙台教区 3月15日(日) 松木町教会(福島県)にてミサ

■新潟教区 3月13日(金) 各小教区、修道院でのミサ、また祈りの集いを実施

■さいたま教区(3月14日まで公開ミサは中止となりました) 3月13日(金) 各小教区にてミサをささげる 3月15日(日) 主日のミサに共同祈願で祈る

■東京教区(3月14日まで公開ミサは中止となりました)事前に大司教よりのメッセージの発表を行う。3月13日(金) 各小教区にてミサをささげる 3月15日(日)晩の祈り、聖体礼拝(可能ならばミサ)を菊地大司教が行う

■大阪教区 (以下は延期となりました)3月14日(土) 13:00より サクラファミリアにて「性虐待被害者のための祈りとつぐないの日にむけて おはなしとミサ」お話し:竹之下雅代さん(ウィメンズカウンセリング京都)ミサ: 主司式 前田万葉大司教

■広島教区 3月13日(金) 各小教区にてミサをささげる 3月15日(日) 主日のミサに共同祈願で祈る

■長崎教区 3月13日(金) 12:45より 26聖人記念聖堂にて 「性虐待被害者のための祈りと償いの日」の集い in 長崎 ご挨拶:髙見三明大司教  講話ならびにミサ主司式 森 一弘 司教(東京大司教区名誉司教)

■大分教区 (以下は延期となりました)
3月8日(日)15:00より、大分教会(大分教区カテドラル)にて、集いを実施 浜口司教、ウェイン司教(子どもと女性の権利擁護のためのデスク担当司教)による司式。セクシャルハラスメント防止と対応宣言の発表を同時に行う。

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2020年3月13日