(解説)教皇庁改革、枢機卿の新任、問題国への司牧訪問-2020年は教皇在位中の最重要年に(LaCroix)

 バチカン改革、新任の枢機卿たち、そして予想外の地への司牧訪問が今年の教皇を形作ることに

(2020.1. LaCroix Robert Mickens, Rome Vatican City)

(Photo: Evandro Inetti/ZUMA Wire/MaxPPP)

*2020年を展望する

 教皇フランシスコの回顧が書かれる時が来たら、西暦2020年が在位中の最も重要な年として記録される可能性が十分にある。それが彼にとって最後の重要な年となるかどうか疑問を持つ者もいるだろうが。

 教皇は先に、15年にわたって主席枢機卿のポストに就き続けたイタリア人有力者アンジェロ・ソダノ師を同ポストから「引退」させ、フィリピンのルイス・アントニオ・タグレ枢機卿を最も強力なバチカンの役所である福音宣教省の長官に任命した。この二つの決定は、自身の後継者を選ぶ教皇選挙のに着手したもの、と関係者の間で理解されている。

 先に83歳となったイエズス会出身の教皇は2020年に、2つの主要な文準備書を含むいくつかの文書を公布する発行する予定だ。また、世界各地への司牧訪問を続け、おそらく前任者が訪問を希望しながら入国を拒まれた地域にも赴くことになろう。

 そして、先日の任命に続く、次の教皇候補となる新枢機卿たちを任命するのは、間違いない。

 このような内容を頭に入れて新しい年を展望すれば、それが極めて重要な年になることが分かるだろう。

*近く発表予定の二つの重要文書は

 教皇は2020年の初めの何週間かの間に、少なくとも2つの非常に重要な文書を公表することになるだろう。

 まず、昨年10月のアマゾン地域シノドス(代表司教会議)を受けた使徒的勧告。この会議で参加者たちが提案した司牧慣行の変更のいくつかについては、それを支持する(勧告に載せる)ことを教皇は示唆している。

 変更の一つは、既に終身助祭となっている既婚男性の司祭叙階、もう一つは、女性の助祭や司牧上の役割について可能性を検討する委員会の設置。そして、三つ目に、アマゾン地域の先住民特有の文化的要素を取り入れた新しい典礼の検討だ。こうした使徒的勧告の内容は、司牧に関係する他の改革の道を開くことになる可能性があり、その重要性を過小評価すべきではない。

 以前述べたように、バチカンでアマゾン地域シノドスは、第二バチカン公会議(1962〜65年)の教えと理想の完全な実現への障害であり続ける”トリエント公会議(特に聖職者主義)の残滓”から抜け出すのに苦労している中で、真にグローバルな教会の勃興の転機となった。観測筋は、この使徒的勧告は1月中旬から下旬に公表される可能性がある、とみている。

Praedicate Evangelium(福音宣教の基礎)ー教皇庁改革-の発出

 公表が見込まれる二つ目の重要文書は、教皇庁の改革や教会における信徒の役割強化などをテーマとする使徒憲章「Praedicate Evangelium」だ。最終草案は現在、司教協議会など教会指導者、神学者たちから出された提案をもとに取りまとめ中だが、教皇の枢機卿顧問会議がバチカンの幹部と協議してまとめた内容以外も含まれる可能性がある。

 教皇庁の改革が教皇フランシスコにとっての主要課題の一つだということは、衆目の一致するところだ。これまで教皇はゆっくりと忍耐強く改革の手順を踏んできた。そして、クリスマスの直前の重要な演説で、バチカンの幹部たちに次のように言明した。

 「(教皇ヨハネ・パウロ2世の)使徒憲章depositum fideiと教会の伝統を踏まえた変更を議論する中で、今日、私は教皇庁の改革の実施についてもう一度、皆さんにお話しし、この改革が、あたかもそれに勝るものはないかのように差し出がましく行われるものでないことを確認したいと思います」。 

 「実際、教皇庁の複雑な経歴に由来する優れた点をさらに良いものにする努力がされました… 堅固なルーツをもち、実りを証明できる未来を築くためには、歴史に敬意を払う必要があります」。

 「記憶に訴えることは、自己保存にとどまること同義ではなく、進行中のプロセスの生気と活力を呼び起こすことです… 記憶は静的ではなく、動的です。その性質から、動きを意味します」。

 「伝統も静的ではありません。偉大な人物、グスタフ・マーラー(19世紀から20世紀初頭にかけ、主にオーストリアウィーンで活躍した作曲家指揮者交響曲歌曲の大家)-ジャン・レオン・ジョレス(19世紀から20世紀初頭フランス社会主義者政治家修正主義を主張し、教条主義派とは対立。圧倒的な大衆の人気を誇る雄弁家として知られ、第一次世界大戦に反対したが、狂信的な国家主義者に暗殺された)が使った暗喩を取り入れたーが、よく言っていたように、伝統は未来の保証であり、”灰落とし”ではないのです」。

 バチカンウォッチャーの中には、使徒憲章「Praedicate Evangelium」が2月22日の聖ペトロの使徒座の祝日に公表されるとの見方もあが、いつ公表されようと、教皇庁のこの新しい”憲法”は、これまでで最も重要な統治に関する法となるだろう。

 

*教皇庁と世界の教会に新たな指導者を任命

 この使徒憲章は、最終的には、教皇庁の日常業務に関する新しい法規と合わせて公表されることになる。そして、最も顕著なのは、それが、指導権の大規模かつ広範な変革によって特徴付けられることだろう。

 現在、教皇庁の主要部署を率いる枢機卿のうち9人は、すでに75歳の通常の定年を超えており、現行ポストに就いて5年を経過した枢機卿の10人に1人は今年7月に定年を迎える。彼らは、使徒憲章が出てほどなく交替させられるだろう。

 退任が見込まれる枢機卿たちは-マルク・ウエレット(司教省長官)、ジュゼッペ・ベルサルディ(教育省長官)、ベニアミノ・ステラ(聖職者省長官)、ルイス・ラダリア(教理省長官)、レオナルド・サンドリ(東方教会省長官)、マウロ・ピアチェンツィア(内赦院長)、ジャンフランコ・ララバージ(文化評議会議長)、アンジェロ・コマストリ(聖ペトロ大聖堂司教)、ジュゼッペ・ベルトロ(バチカン市国知事)、ロバート・サラ(典礼秘跡省長官)だ。

 教皇はまた、世界の主要な教区のいくつかで新たな教区長を任命する。例えば、マニラ(フィリピン)、アトランタ(アメリカ)、カラカス(ベネズエラ)の大司教は現在空席であり、埋める必要がある。

 そして、他の重要な役職を務め、すでに定年を過ぎている人々-うち18人は枢機卿ーの後任。また数週間後には、ウィーン大司教のクリストフ・シェーンボルン枢機卿に始まり、今年中にさらに9人の枢機卿が定年を迎える。このうち何人かにはさらに一年程度の勤続を求めるとみられるが、それ以外は交替が見込まれ、彼らの誕生日の機会をとらえてなされよう。

*新枢機卿たちと次の教皇選挙のルールを定める

 現在、80歳未満の枢機卿は124人おり、次の教皇選挙への参加資格がある。この人数は、パウロ6世が定めた120人の上限よりも4人多く、前教皇ベネディクト16世によって確認されている。彼らの中から亡くなる人が出ない限り、前ワシントン大司教のドナルド・ウェール枢機卿が80歳の誕生日を迎える11月12日まで、選挙人が120人に戻ることは無い。

 2021年3月まで、他の枢機卿が80歳を迎えることは無いという事実(その後、5人は2021年11月までに80歳となる)は、2020年中は枢機卿会議が開かれないことを意味する。しかし、実際には、そうだと断言できるものではない。

 教皇はまだ、聖座が空席となった場合に、新たなローマ司教(教皇)を選出する際に適用する法規を定めていない。教皇辞任の際の規範や手続きについての定めがないことから、それを定める使徒憲章の更新は緊急の課題だ。

 加えて、教皇庁の組織と機能について今後予定されているいくつかの変更も、新たな憲章に含める必要がある。

 その一つは、聖座が空席の際の管理・執行者であるカメルレンゴに関するものだ。教皇にはカメルレンゴ(現在はケビン・ファレル枢機卿)を自由する権限があるが、使徒憲章「Praedicate Evangelium」の草案では、カメルレンゴは「財務評議会の議長である枢機卿が担当する役職」である、とされている。現在その役職に就いているのは、ミュンヘン大司教で教皇の枢機卿顧問会議(6人で構成)メンバーのラインハルト・マルクス枢機卿だ。

 教皇はまた、選挙権を持つ枢機卿の人数を変更する権限をもつ。他の教皇が何世紀にもわたって行ったように、枢機卿団は純粋に人が作ったものであるからだ。問題は、教皇フランシスコが、実際にそうするかどうかだ。だが、たとえ彼がそうしなかったとしても、ヨハネ・パウロ2世が他のいくつかの機会にしたように、彼が再度、選挙人数の上限を超え障害となるものは何もない。

*中国、ロシアへの訪問が実現する年になるか

 前々教皇のヨハネ・パウロ2世は”世界を飛び回る教皇”として知られ、27年近くの治世の間に約129か国に100回を超える司牧訪問を実施した。これに対して、教皇フランシスコはこれまでに32回の海外への司牧訪問をしており、教皇の座に就いて約7年間にほぼ50か国を訪れている。

 フランシスコは 2015年に中央アフリカ共和国を訪れ、紛争中の国に入った最初の教皇となり、2019年にアラブ首長国連邦を訪れ、近代史上、アラビア半島に入った初の教皇となった。

 教皇が訪問を希望し、まだ実現していない国は2つある。そのいずれもヨハネ・パウロ2世は訪問を避けていた-中国とロシアだ。2020年は、おそらく、切望していたこれらの国への訪問が実現する年になることだろう。

*重要な年が始まった

 教皇フランシスコは、彼にまとわりついた女性の手を払うという忍耐を失った行為を謝罪することから、この年を始めた。それはおそらく縁起の良い兆候だ。

 なぜなら、まず第一に、教皇が自らの過ちを公に認め、「ごめんなさい」と謝る謙虚さがあることを示したからだ。だが、第二に、それは一見、無防備とも思われる苛立ちの裏に、彼の切羽詰まった思いと落ち着きのなさがあることも示している。

 これは、教皇がカトリック教会に非常に効果的に持ち込んだ思考と精神の変化と一致した具体的な構造改革への希望を強く抱いている人々にとって、素晴らしい朗報かもしれない。

 誰も未来を読むことはできない。だが、私たちの2020年は、カトリック教会の近年の歴史の中で、決定的に重要な年となるように思われるのだ。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

(注:LaCroix  internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。

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2020年1月3日