(解説)教皇の「国連は無力」発言の真意はー安保理事会など主要機関の改革(VN)

Pope Francis addressing the UN, 25 September 2015Pope Francis addressing the UN, 25 September 2015 

    教皇フランシスコが6日の水曜恒例の一般謁見で、「ウクライナにおける今の戦争で、私たちは、国連の諸組織の無力さを目の当たりにしています」と言明され、大きな反響を呼んでいる。

 教皇は、これまでも国連総会へのメッセージや回勅「Fratelli tutti(兄弟の皆さん)」の中で、”世界家族”の具体化を図るための国連改革を提唱し、多国間主義に向けた努力を強く求めてきたが、それらに劣らず、重い意味をもつ。

 この言葉は、次のような厳しい見方が前提となっているー「第二次世界大戦の後、平和の時代の基礎を築く試みがなされました。だが、残念ながら、私たちは(大戦の悲劇から)学ぶことが全くなかったのですね?大国間の競争という”古い話”が続いたのです」と。

 教皇は「国連の役割」と「多国間主義の価値」を固く信じている。「人類共存への新たな地平を模索する中に、私たちが生きている」という確信が、現在の「時代の変化」の中でさらに強められている。彼の前の教皇たち、特に聖パウロ6世、聖ヨハネパウロ2世、ベネディクト16世を受けて、教皇フランシスコは、国連を支持する姿勢や言葉を繰り返し行い、国連の諸機関の無力に苦しめられている国々、人々によって求められている改革を奨励してきた。

 2015年9月25日の国連総会で、教皇は「時の変化に合わせた改革と適応は、国連の究極の目的を追求する中で、欠かすことができません。その目的とは、すべての加盟国に、例外なく、平等の政策決定への参加を実現することです」と訴えた。教皇は就任当初から、特に安全保障理事会、国際通貨基金や世界銀行などの金融機関と各種のグループ、あるいは世界的な経済危機に対処するために作られたメカニズムなど、重要な執行能力を備えた機関における加盟国の公平性の確保を強く求めている。

 そして、教皇は、国連総会へのこのメッセージを、このように締めくくった。 「称賛に値する国連機関の法的枠組みは、将来の世代のための安全で幸せな未来の誓約となり得ます。そして、加盟国の代表たちが、党派的、イデオロギー的な利害にとらわれず、共通善への奉仕へ誠実に努力するなら、その可能性は現実のものとなるでしょう」。私たちの「共通の家」の世話、人々を中心に置いた国際紛争の平和的解決と経済発展において、教皇とバチカンは、多様な問題と関心を取りまとめるために、国連が最もふさわしい場であると判断している。

 2019年12月、教皇とグチエレス国連事務総長は共同のビデオメッセージで、「個人間および国家間の対話、多国間主義、国際的な諸機関の役割、そして、相互評価と理解の手段としての外交に対する信頼は、平和な世界の構築に欠かすことができない」と強調した。

 その数か月後に、新型コロナウイルスの世界的大感染が始まり、人類すべてが”同じ船”に乗っていることを、世界の人々が実感し、多国間主義に力を入れることが一層、重要になった。彼は、2020年9月25日の国連総会の第75回会合のビデオメッセージで、「新型コロナウイルスの世界的大感染は、私たちが互いの存在なしでは生きていけないことを改めて認識するとともに、悪いことに、互いが対立する関係にあることを明らかにしました。国連は、国々を結びつけ、人々の間の架け橋となるために作られています」と述べ、さらに、「紛争に苦しむ私たちの世界は、平和実現へ効果的な国連を必要としています。安全保障理事会の理事国、特に常任理事国は、これまで以上に強い団結と決意を持って行動しなければならない」と訴えている。

 国連改革の主張は、教皇が一昨年に出された回勅「兄弟の皆さん」にも見られる。この回勅で、教皇フランシスコは、特にこのために一項(173項)を設け、国連改革は「世界家族の概念が実際のものとなるために欠かすことができない」とし、「法の支配と、交渉、調停、仲裁による紛争解決」を確実にする必要がある、と強調している。

 6日の一般謁見での発言と同様のトーンで教皇はまた、「国連の組織の問題と欠点は、共同で対処し解決することが可能であり、この組織が”非合法化”されないようにする必要がある」と警告している。このような表現で、「国々が相互理解の道を勇気をもって追求することで一致しないなら、国連は存在価値がない」と教皇は示唆しているようだ。ロシアによるウクライナ侵略の終結、ワクチンの専売特許、あるいは地球温暖化への戦いで、皆が“得る”ことができるように、それぞれが少しばかり”失う”ことを進んで受け入ればならないのか否か。最も重要な課題ー人類の未来ーが危機の瀬戸際にある。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2022年4月8日